ルイズちゃん奮闘記   作:水泡人形イムス

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イザベラ外伝――ダンシング・デカダンス

 イザベラ――ガリア王国、元王女。

 先王ジョゼフよりガリア北花壇騎士団の団長に任じられ、今は現女王シャルロットのため粉骨砕身する日々である。

 そんなイザベラの前に、奇妙な質感の花が置かれていた。

 オモチャの植木鉢に植えられたオモチャの花で、なぜか擬人化されており、花にはサングラスをかけた顔が、葉っぱは手となって弦楽器を抱えている。

 

 ナニコレ――?

 

 それが率直な感想であったが、シャルロットからの贈り物となれば粗末に扱う訳にもいかない。

 コンプレックスから傍若無人に振るまい、幾度となくシャルロットの命を危険にさらしたというのに、愚かな自分を許してくれたシャルロット……抱いていた敵意はそっくりそのまま好意と忠誠に変わった。

 だから、虚無の魔法で異世界から持ってきたという希少価値の高いコレも大切にしたいんだけど……ナニコレ?

 花のオモチャなんか贈られても、もう子供じゃないんだし、扱いに困る。

 一応自室の窓際に置いてみたが、チープすぎて高級嗜好のイザベラの部屋には酷く不釣合いだ。

 

 時刻はすでに夜。

 責務で疲れた心身をベッドの中で休めてはいるが、月明かりに照らされた花のオモチャがどうにも気にかかってしまう。

 だって顔ついてるんだもん。サングラスで目元を隠すとか暗殺者やスパイを連想させるんだもの。

 イザベラは頭を抱えてため息をつき、軽く背伸びをしてベッドにを転がり、手をベッドの頭にぶつけた。

「イタッ!」

 思わず、そう口にし――。

 

 ウィンウィンウィン。ウィンウィンウィン。

 

 奇怪な物音が、オモチャの花から。

 ぎょっとして振り向けば、月明かりの中で花が踊っていた。

 くねくねと茎を揺らして頭を振って、とても楽しそうに踊っていた。

 なに? マジックアイテム? 夜になると踊り出す人形とか、ガーゴイルの類?

 イザベラの疑問など気にもかけず花はひとしきり踊ると、糸の切れた人形のように動きを止める。

 夜の静けさが帰ってくる。

 

 けれどすっかり眼が冴えてしまったイザベラは、ベッドから降りてフカフカのスリッパを履くと、花のオモチャの前まで行き首を傾げる。

 確かにこれは踊っていた。しかしなぜ急に?

 

「なんなのよこれは」

 

 ぼやくと、また踊り出した。

 ウィンウィンウィン。ウィンウィンウィン。

 まさか声を認識し反応できるガーゴイルなのか?

 

「ちょ、止まりなさい! 聞こえないの? 勝手に踊るな!」

 ウィンウィンウィン。ウィンウィンウィン。

「聞こえて……ない? ガーゴイルにしては、いやでも、なんで急に踊ったり……」

 ウィンウィンウィン。ウィンウィンウィン。

「…………」

 ウィンウィンウィン。…………。

「……? 止まった」

 ウィンウィンウィン。

「動い……」

 ウィンウィンウィン。

「…………」

 …………。

 

 パチンと、イザベラはその場で手を叩き合せた。

 ウィンウィンウィン。

 花は踊る、ぐねぐねと茎を奇怪にくねらせて。

 意地悪をするために磨いたイザベラの聡明な頭脳がひとつの答えを導き出す。

 

「音に反応して踊るオモチャ……?」

 ウィンウィンウィン。

 

 ウィンウィンウィン。

 

 ウィンウィンウィン。

 

 ウィンウィンウィン。

 

 ウィンウィンウィン。

 

 ウィンウィンウィン。

 

 ウィンウィンウィン。

 

 翌朝。メイドが主君を起こしにやってくると、窓辺に座って花のオモチャに拍手を送るイザベラの姿とウィンウィンウィンを発見し、恥ずかしい姿を見られたイザベラは在りし日のシャルロットに対するよう苛烈に怒りまくったという。

 

 

   ◆

 

 

「ということがあった」

 才人のノートパソコンでウィキペディアを読み漁りながらタバサが言うと、勉強机の椅子に腰かけていたルイズは勢いよく立ち上がった。

「ホラみなさい! ガリアのイザベラ殿下だって、ダンシングフラワーに夢中になるのよ!」

「でもルイズ。地球の電気製品に馴染みのあるあなたとイザベラ様を一緒くたにはできないわよ?」

 ベッドに寝そべったままのキュルケが呆れたように言った。

《世界扉》を使って遊びにきた学友キュルケとタバサ……もといシャルロット。

 ダンシングフラワーはもちろん日本で買ったものである。

「だから、ダンシングフラワーに夢中になってデート中のサイトをほったらかしにしたお馬鹿さんは、やっぱりお馬鹿さんってコトよ」

「ぐぬぬ……」

「ついでに言えば、ギーシュはダンシングフラワーに一目惚れして一日中一緒に踊ってたそうよ。ルイズ、あなたってギーシュよりかろうじてマシってレベルなのよ? 自覚なさいな」

「い、いいもん! なんと言われたってフラワーちゃんに罪は無いわ! そうよね?」

 

 カチリ。

 会話の邪魔になるからと電源を切られていたダンシングフラワーが再起動させられ、学習机の上で踊り始めた。

 ルイズの声に反応してウィンウィンウィン。

 その可愛らしさにうっとりルイズ。呆れるキュルケ。ノートパソコンから視線を上げてこっそり見ているタバサであった。

 

 この後、ルイズは姉のエレオノールとカトレアにダンシングフラワーを送りつけ、そのために小遣いを使い切ってしまいキュルケにデート代を借りるハメになったそうな。


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