ワールドトリガー Another story   作:職業病

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お久です。
那須さん、まさかのお嬢様学校だった。


第7話

遊は物心ついたころから外の世界にいた。

 

海洋国家リーベリー。広大で豊かな海をもつ水の世界だ。

 

リーベリーはあまり遠征もせず、なおかつ戦争もしないが、軍事力はそこそこある。他国とは貿易のようなこともしたりしているとか。

遊は生まれたすぐのことはほとんど覚えてない。だがこのリーベリーで生まれたということは父親から聞いていた。

父親、神谷祐介。もともと玄界の生まれであるが、トリオン能力の高さ故にネイバーに狙われ、気づいたらリーベリーにいたらしい。そこで彼はトリガーやネイバーについて知った。そして暫くリーベリーで働くと、リーベリーの当主に頼み込み玄界へと帰ってきた。

 

それからの後処理は大変だったらしいがここでは割愛させてもらう。

 

そしてそのころには既に後にボーダーとなる『旧ボーダー』は既に設立していた。空閑有吾ともそこで出会ったらしい。

旧ボーダーに入り、暫くすると祐介は再びリーベリーへと戻った。そしてそこで愛する人を見つけ、結婚。遊が生まれた。

だが遊の母親は病弱であり、遊が2つの頃に亡くなった。それから祐介は遊が物心つくと、遊を守る為にいろいろな事を叩き込んだ。

 

ーーー

 

波の音が聞こえる。いつものことだ。空も青く澄んでいる。何も変わらない。

 

「遊」

 

呼ばれて振り返ると、そこには見慣れた人物が立っていた。

神谷祐介。父親だ。

 

「親父」

「なにしてんだ?」

「……海を見てた」

「飽きないな〜。なんか見えるのか?」

「いや、別に」

「そうか」

「親父はなんか用?」

「父親に『なんか用?』とは、クソ生意気だなおい。用っていうか今日の稽古、始めんぞ」

「わかった」

 

祐介と遊は互いに木刀を構える。そして同時に飛び、木刀が重なった。

この時、遊は5歳だった。

 

ーーー

 

祐介の振った木刀を防ぎきれず遊は倒れる。

 

「これで853戦853勝だな」

「……大人気ない」

「うるせ。手ェ抜いたらお前が強くなれないだろうが」

「5歳の子供相手になにいってんの……」

「強い相手とやんねーと強くなれないんだよ」

「……」

 

遊は若干不貞腐れている。無理もない。今まで何百と手合わせをしてきても未だに一本も取れてない。3歳の頃からやっていてもやはり経験の差は簡単には埋まらない。

 

「親父」

「ん?」

「なんで俺こんなことしてんの」

「あ?」

「だって、リーベリーは遠征とかほとんどしないし、戦争だって今はしてない。そもそも俺はトリガーまだ与えられてない。なのになんで俺に勉強とか剣術とかやらせてんの?」

「この世界で生きていくには必要だからだ」

「……」

 

わからない、と遊は思う。同年代の友人達は自分のようなことはしていない。最低限トリガーの扱いの指導は受けているが遊ほど入念な指導を受けているのは誰一人いなかった。

 

「遊、これはもう少し伏せとくつもりだったが」

「?」

「……お前が6歳になったら、リーベリーを出る」

「え……なんで……」

「ちょっと探し物を探す為にな。となるとここを出る必要がある。他の国に行くとなるということだ。他の国がここみたいに平和であるとは限らない。そういう国に行ったら必然的に力が必要だ。だからお前を鍛えている」

「……」

「もし俺について行きたくないのならそれでもいい。そこはお前の好きにしろ。だがお前が来ようが来まいが力がどこかで必ず必要になる。お前を生き残らせるために、俺はお前を鍛えているんだ」

 

言い分はわかる。でも、納得はできなかった。

 

 

それからしばらくして、遊が6歳になると祐介は旅の支度を始めた。結局は遊もついていくことに決めた。他に身寄りがいなかったというのが大きいが。

そしていくつかの国を渡りたどり着いた場所は「カルワリア」という国だった。そしてその国にしばらく滞在することに決めた。

 

しばらくすると、空閑親子とレプリカがやってきた。その時遊は8歳、遊真は6歳だった。

年齢が近いということもあり2人はすくに仲良くなった。毎日お互いを高め合うために手合わせし、時折遊が勉強を教えたりいろいろした。そして遊真の父親の有吾にもいろいろなことを教わったりした。旧ボーダーについてはその時父祐介や有吾が教えてくれた。そして過去に自分がそのメンバーにあったことあるということも。

 

「こいつ、この傷があるやつが城戸ってやつでな。すんげー堅物なんだよ。こいつはネイバー嫌いな主義。んでこいつが忍田。こいつは基本素直な後輩だったが、ちとやんちゃなとこもあったなー。そんでこいつが林藤。こいつも俺らの後輩だった。俺はこいつと一番仲よかったな」

「親父みたいな変人にも友達いたんだ」

「クソ生意気な息子だなおい」

「ふむ。ならゆうすけさんと親父は誰と同期だったんだ?」

「俺らは城戸と同期だ。なんだが、あんま城戸とは仲良くなかったなー。あいつ堅物すぎんだもん」

「親父が変人なだけでしょ」

「おいコラ。っと、有吾!やっときたか!酒飲もうぜー」

 

そう言って話の途中なのにも関わらず祐介は酒瓶をもってどこかにいってしまった。

 

「クソ親父」

「ユウの親父さんはおれの親父並みの変人だな」

「否定しないよ」

 

そしてその夜は親の変なところを言い合うという謎の会が開かれていた。

 

 

時は流れ、遊が9歳になった。そして9歳になると同時にカルワリアを出た。理由は、カルワリア周辺の国には父親が探しているものがないことがわかったからだ。

そして再びいくつかの国を渡り、ある国に降り立った。

名前はわからない。だが、その国は戦争中だった。

 

父は敵意がないことを示し、そして話を聞いてもらおうとしたのだが相手は聞く耳を持たずに攻撃してきた。遠征艇に戻ろうにも遠征艇はトリオン切れで動かない。身を隠すしかないと思った父は、遊をつれて国内を逃げ続けた。だが国内を逃げ続けるには限界があり、遊だけ捕まってしまった。

 

 

「ん…」

 

目がさめると、そこは独房だった。両手足はトリオン製の鎖につながれていて動けない。

 

「起きたな」

 

いたのは、恐らく尋問官だろう。その男は坊主頭に顔に二つの細い傷が入っていた。

 

「ここ、は……」

「我が国の独房だ。まぁ、そんなことはどうでもいい。今、我が国は戦時中でな。加えてあまり状況がよくない。だからスパイの貴様を尋問し情報を吐いてもらう」

「す、スパイ、じゃない…」

「黙れ」

 

そういうと尋問官は、遊の目にトリオン製のナイフを突き刺した。

 

「がっあァァァァァァ!」

「安心しろ。貴様には、拷問用のトリガーを使ってもらっている。それはトリオン体だ。生身にはなんら影響はない。ただ、そのトリオン体は特別でな。痛覚が5倍になるようにしてある」

「あ、あァ、あ……」

「貴様のトリオン体が破壊されるまで、この苦しみは続く。まぁ、またトリオン体が生成されれば尋問は始まるのだがな」

 

そう言って次は腕に突き刺す。凄まじい痛みが遊を襲う。

 

「あァァァァァァ‼︎」

「クク、そうだ、もっと踊れ」

 

そして遊は確信した。この男は、ただ、楽しむためだけに自分を痛めつけてる、と。

その日は一日中拷問が続いた。終わる頃には遊の精神は壊れ始めてた。

 

 

一週間たった。拷問はひたすら続けられた。トリオン体であるため生身に影響はないが、精神の方はもう限界をとっくに超えていた。それを象徴するかのように、元は漆黒の髪をしていた遊の髪は、残さず全て白になっていた。

 

「ほらほら、さっきから聴いてるだろ?1000−7は?」

「……」

 

この男は、1000から7を引いた数を言い続けろと命令した。最初は訳がわからなかったが、これが自分に正気をギリギリ保たせるためのものだとわかった。遊は遊で、その数字にすがったが既に精神は壊れていた。

 

「じゃあ次は腕いってみるか」

「……っあァァァァァァ!」

「クククク、いいねぇ」

 

この尋問はほぼもう意味をなしてない。本当にただ憂さ晴らしをするためだけにやられているものだった。

 

「さて、じゃあ次は……」

 

再び遊を痛めつけようとしたその時

 

「ぎゃあ!」

 

独房の壁が爆発した。そしてその穴からは、

 

「遊!無事か⁈」

 

父、祐介が出てきた。ブレードで鎖を切ると遊を抱き抱えて外に出た。

 

「お……親父……」

「すまねぇ!遅くなった!予想以上に警備が硬くてな!突破するのに恐ろしく時間かかった!取り敢えずもう遠征艇のトリオンはたまった!こんなクソみてぇな国とっととずらかんぞ!」

 

そう言って逃げ出すが、一国そのものを相手にするのだ。いくら祐介と言えども捕まるのは時間の問題だった。

 

現在はどうにか逃げ切り建物の陰に隠れているが、見つかるのは時間の問題。祐介のトリオンは限界。加えて遊は左目を潰され満身創痍で精神は壊れかけている。

 

「クソが……。なんもしてねぇ子連れのおっさん1人に対してなにやってんだかな……」

 

この国はいろいろと異常だ。どんな国であっても、敵意の持たない人間には警戒こそすれど、攻撃はしない。ましてこんな躍起になって捕らえにきたりなどまずしない。

指揮官がヤバいやつなのか、それともそうまでしなければならない理由があるのか。どちらにしろ最悪な状況であることは変わりない。

もはや万事休すか。祐介はそう考えていた。

だが、ここで一つの策を思いつく。いや、もうこれしかないと言った方が正確か。

 

「遊、よく聞け」

「……」

「これから俺は、黒トリガーになる」

「…………え?」

「もう、これしかない」

「……まて、よ」

「俺から言うことは3つだ。よく聞けよ。

 

一つ、てめぇの人生だ。好きに生きろ。でも俺が助けてやれるのは、ここまでだ。困難にぶちあたった時はお前の持ってる全てのものを使って目の前の困難を打ち砕け。それでもダメなら誰かを頼れ。

二つ、俺の探し物についてだが、お前の持病に関わるものだ。黒トリガーの中に記録を封じ込めておく。どうにかして開け。そして探せ。

できなきゃお前は長くは生きられなくなる。

三つ、仲間をつくれ。お前の持ってる手札だけじゃどうすることもできないことも必ずでてくる。そんな時は、仲間を頼れ。

 

俺が言うことはこんくらいだ。悪かったな、今まで親父らしいことしてやれなくてよ」

 

やめろ。やめてくれ。そんなこと聞きたくない。そんなの、親父らしくない。遊にはそう思うことしかできなかった。

祐介はおもむろに遊を抱きしめる。

 

「…し……ぜ、遊」

 

何を言ってるのかは、よく聞こえなかった。

そして光が当たりを包み込んだ。

 

 

「なんだあの光は……」

 

兵隊の一人が見たものは、建物の陰から発せられるまばゆいほどの光だった。なにかある、と思わせるには十分すぎるほどの光。

 

「おい!こっちでなんか光ってるぞ!」

 

兵士は仲間を呼び寄せ、光の元凶を調べることにした。もしかしたら今指名手配されている親子なのかもしれない。

 

(しかし、あんなガキつれて歩く方もだけど、うちの上官は大人気ないな。いくら戦争に負けてるからってわざわざ旅人からトリガー巻き上げようとしなくてもいいのにな)

 

そんなことを思いながら呼び寄せた仲間と共に建物の陰を覗き込む。いたのは、やはり指名手配されていた親子の子供だけだった。その子供はうなだれて背を向けている。そして目の前には白い砂のようなものが散らばっていた。

 

「よおガキ。大人しく投降してくれれば痛い目には合わねーぞ。もう拷問したりしねーから投降してくんねーか?」

 

まだ10歳程度の子供だ。兵士としても、あまり痛めつけたくなかった。彼にも息子がいるから、という理由もあるが。

 

「………」

 

子供は答えない。もう一度同じようなことを言ってみるが、やはり答えない。そして気づいたが、子供の姿が先ほどと少し違う気がする。先ほどまで子供は囚人服のような黒いTシャツにボロボロの白いズボンだった。なのに今は黒いジャケットに長ズボンになっていた。

 

「やれやれ仕方ない。おい、こいつを縛りあげろ。逃げられたら面倒だ」

「……よ」

「ん?」

 

子供が何か話したように聞こえた。

 

「なんだ?」

 

髪を掴み聞く。そして兵士はその顔をみて、驚愕した。

全く生気のない目をしていた。まるでガラス玉のような目だ。

 

「ごちゃごちゃ」

 

凄まじい殺気。気づいて手を離した時には、もう遅かった。

 

 

 

「うるせぇんだよ」

 

 

 

衝撃波により兵士は吹き飛ばされる。兵士はトリガー使いではないが、防具をつけていたため死には至らなかったが、あまりの衝撃に意識が飛びそうになる。此れ程の威力は、通常のトリガーではでない。

 

「がは……」

「次」

 

そう言って子供が手を翳すと、そこから剣が出てくる。先ほどまでとは別人。

 

(まさか……親父が黒トリガーになったってのか⁈)

 

だとしたら自分たちではとても太刀打ちできない。撤退するしかないと考え、兵士は本部に連絡をいれようと通信機を出したが

 

その通信機は、子供の投げた元凶により粉々になった。

 

「な……」

「死にたくない人は逃げろ。でないと、死ぬぞ」

「ひっ……」

 

先ほど以上の殺気。そして冷たい目。とても10歳かそこらの子供には見えない。その国のトリガー使いに此れ程の化け物はいない。そしてその殺気に押され、兵士たちはその場から一目散に逃げ去った。

 

 

人っ子一人いなくなり、遊は遠征艇の隠されてる場所へといこうとする。だが、その顔を掠めて弾丸が放たれた。

 

「よおクソガキ。見つけたぜ」

 

遊を拷問した尋問官だった。そして見た所トリオン体になっているようだ。

 

「……なにか用?」

「殺しにきただけだ。俺はたまたま近くにいただけだが、もうすぐうちの精鋭達がやってくるぜ。そうなりゃお前は終わりだ。……んで、お前の父親はどうした?死んだか?」

「………死んだよ。俺に力を残してね」

「はっ!そうかよ!ならその力とやらを見せてみろ!」

 

そう言って無数の弾丸を放ってくる。その弾丸は遊めがけて一直線に降り注ぎ、そして爆発した。

 

「他愛もねぇな」

 

恐らくトリオン体だったであろうからそのトリガーを回収しようと近づこうとしたその時、剣が飛んできて右腕を斬り飛ばした。

 

「なっ!」

 

結果からいうと遊は生きていた。無数の剣が遊を守るように浮遊していたからだ。そして飛ばされた剣もそのうちの一つだろう。

 

「『幻影剣』」

 

腕を翳すと、尋問官めがけて凄まじい速度で剣が放たれる。そしてその全てが尋問官に突き刺さり、トリオン体を破壊した。尋問官はシールドを展開していたが、そのシールドも一瞬で破壊されていた。

 

「ば、バカな……。この俺が、ここまであっさりと……」

 

膝をついていると、いつの間にか遊が目の前に来ていた。

 

「俺を殺そうとしたんだ」

 

とても10歳には思えないほど冷たい目。そして突き刺さるような声。

 

「だから」

 

この異常な少年をつくってしまったのは

 

「俺に殺されても」

 

まぎれもなく、自分たちの国だ。

 

 

 

 

「仕方ないよね」

 

 

 

自らの頬が引き攣るのを感じながら、振り下ろされる剣を視界に捕らえたのが、その尋問官がみた最後の光景だった。

 

 

尋問官が地に伏せると新手がぞくぞくやってきたが、遊はそれらを全て斬り伏せた。他のはトリオン体を破壊するだけにしていた。理由は数が多く面倒だから。

そして全てのトリガー使いを倒すと、遊はその国を後にした。

そして父の言いつけ通りにカルワリアを目指した。

遊の潰された目は父親がトリオン製の左目を創り補っていた。そのため右目と若干ではあるが色が違う。そして、そのせいかはわからないがもともと大人しくあまり喋らない遊だったが、少しづつ父親のような気さくで飄々とした性格にかわっていっていることを遊は気づかなかった。

 

 

 

そしてカルワリアを目指す道中、トリオン切れになりアフトクラトルという国に降り立った。

 

ーーー

 

「ここが、アフトクラトル。神の国とか呼ばれてるとこだな」

 

ネイバーフッド最大規模の軍事国家、アフトクラトル。遊の黒トリガーにはネイバーフッド間を渡ることのできる能力がついていたが、その能力はトリオン消費量が凄まじい。カルワリアを目指す途中、補給としてアフトクラトルに立ち寄ったのだ。

そしてこの時遊は12歳。まだまだ子供であるが、その雰囲気は一人の戦士そのものだった。

 

「無駄にでっけーな、ここ」

 

感嘆の声を漏らす。遊が今まで見てきたネイバーフッドの中で最も大きい国だった。

そこで背後に気配がする。そこには初老の男が立っていた。だが、遊は一目見てわかった。

 

(この人、強い)

「おや、見ない顔ですな。外の方ですかな?もしや……」

「いや、違います。ちょっと行きたい国があるんですけど、その道中トリオン切れになってしまいました。だからちょっと補給のために寄っただけです。自分はどこの国にも属してません」

「そうですか。どうやら早とちりをするとこでしたな。いや申し訳ない」

「あの、疑わないんですか?」

「はい。あなたのその目は嘘をついてる目ではない。実力もありそうですし、信用に足る人物であることは一目でわかりましたよ」

「そう、ですか」

「補給となると、しばらくいるのでしょう。なら私の家に来ませんか?」

「え?」

「寝泊まりする場所が必要でしょう。私の家なら安全ですぞ。もちろんあまり出歩くことはできないでしょうがね」

 

願っても無い話だ。しばらくは遠征艇に身を潜め、トリオンの回復を待つつもりだったが、泊まるとこがあれば話は別だ。

 

「お願いいたします」

「ええ、喜んで。ところであなたはおいくつで?見た所とても若いようですが」

「……神谷遊です。年齢は、12歳」

「なんと、12歳とは。これは随分お若いようですな。おっと申し遅れました。私はウィザと申します」

「よろしくお願いします、ウィザさん」

 

 

「ウィザ翁、後ろの子供は?」

「おおハイレイン殿、こちらは外から来られた遊という少年です」

 

武官のような男がウィザに話しかける。その内容は言わずとも遊のことだ。

 

「外だと?ならこの者は……」

「ご安心を。彼に敵意がないのはわかっておりますので。私の屋敷にいてもらう予定であります」

「………ウィザ翁がそう言うのであれば間違いないのでしょう」

 

どうやら、ウィザはこの武官に相当な信頼を寄せられているようだ。

 

「遊、といったか。ウィザ翁に免じて、君を我らの領土に匿うことを許可する。だが忘れるな。君が反逆を起こせば我らは容赦なく君を狩りにいく」

「…………」

 

それだけいうとハイレインは去っていった。

 

(あいつ、多分黒トリガーだな。俺で勝てるか……?)

「では遊殿、行きましょう」

「……はい」

 

 

それからしばらく、ウィザの屋敷で遊は過ごした。そこでウィザには剣の手ほどきを受け、もともと優れていた剣の腕がさらに上がった。加えてトリガーでの戦いも指導を受けたため遊は格段に強くなった。ほとんど出歩くことはできずにいたが、ウィザの屋敷にいる者とはそれなりに打ち解けていった。

 

 

しかし、この関係はそう長く続かなかった。

 

ーーー

 

一ヶ月後

 

ウィザ邸訓練場

 

「はっはっはっ……」

「ふむ、大分よくなりましたな遊殿」

「せめて勝ち越してからその言葉が欲しいですね……」

「ほっほっほ、そうですか」

 

こちらは全力でやり、滝のように汗をかいているというのに息すら切らさずにいるウィザに内心で舌打ちをする。

 

「…………では私は戻ります。遊殿はもう少し休んでから上にいらして下さい」

「……どーも」

 

ウィザが去ると訓練場は静寂に包まれる。

 

「…………」

 

そして遊はこれから来るであろうことを予測し、立ち上がる。

 

「トリガー、起動」

 

戦闘体に換装し、警戒レベルを全開にする。

するとやはりと言うべきか、背後から気配がする。それはゲートのようなものだった。中から現れたのは、ツノを生やした一人の女性だった。

 

「なんか用か?」

「あら、随分な口調ね。匿ってあげたのに」

「おいおい、何言ってんだ?俺を匿ったのはウィザさんであってお前じゃない。用があるならさっさとしろ」

「……そうね、ならそうさせてもらうわ」

 

そう言うと、釘のようなものが遊を貫こうとする。

だがそれを難なく遊は躱す。

 

「あら、少しはやるようね」

「そーかよ。それと、やっぱそういうことかよ」

「あなたのトリガーが、まさか黒トリガーだったとはね。普通のトリガーならこんなことしなかったのだけれどね。でも黒トリガーとなると確保しないはず無いわ」

「ハッ、ワープ女が」

「強がっていられるのも今だけよ。トリオン製のこの訓練場から私を躱して逃げ切れるとでも思ってるの?」

「ああ、だってお前ら、俺のトリガーの能力なんも知らねーだろ?」

「?」

「じゃーな」

 

とても12歳とは思えないような悪い笑みを浮かべると

 

「なっ⁈」

 

遊は忽然と姿を消した。

 

 

「ふう」

 

シフトを使いあらかじめマーキングしておいた場所へワープする。あの女性のことをワープ女とか言っていたが、自分は自分でワープしている。人のこと言えない。

遊はウィザに自身のトリガーが黒トリガーであることを明かした。そして過去も。だから遊のトリガーが黒トリガーであることはウィザからばれたのだろう。だがウィザもあのハイレインとかいう武官の部下だ。上司の命令とあれば仕方ない。だからウィザのことを恨んだりはしない。

だがそこで気配を感じる。もう追ってきたのだろう。

 

「チッ、仕事がはえーこった」

 

あのワープの能力をもつ女性の力だろう。

そして追ってきたのは

 

「まさか頭領サマが直々に出張って下さるとはな」

「恩を仇で返すとはな」

「ハッ、そーかよ。匿ってくれたことは感謝してるぜ」

「少しでも恩を感じてるなら我々の仲間になれ」

「寝言は寝て言え。てめーらが欲しいのは俺のトリガーだけだろうが」

「なら仕方ない。強硬策だ」

 

それだけいうとハイレインは鳥の形をした弾丸を放ってくる。

 

「幻影剣」

 

遊の周囲に剣が現れる。その剣が遊を守るように漂うが、

 

「⁈」

「ほう、なかなかいい反応だ」

 

弾丸が当たった剣は、当たった場所がキューブに変化した。そしてなお降り注ぐ弾丸を遊はシフトを使い回避した。

 

「………」

「逃がさん」

(弾丸の性能はなかなかヤバいが、速度は大したことない。シフトで逃げ続けてスキあらば『門』判で……)

「何を企んでいるのかしら?」

「!」

 

再び釘のようなものがくる。

 

「クソワープ女が……」

「逃げられるとでも思ったの?」

(これはヤバいな。無理矢理逃げるしかもうねぇか)

 

いくら遊といえども、黒トリガー2人と本気で当たって勝てるはずない。ここはもう逃げの一択だ。

 

「諦めなさい、勝ち目はもうな……」

「『火』判」

「なっ⁈」

 

凄まじい爆発と共に火柱が上がる。その火柱はまるで意思をもつようにミラに襲いかかる。

しかしそれを難なくワープで躱す。そしてその火柱に向かって無数の鳥が向かっていき、火柱はキューブと化す。

そして火柱が消えた頃には遊は姿を消していた。

 

「すみません隊長、逃しました」

「いや、仕方ない。レーダーで大まかな位置はわかる。それにその方向には

 

 

 

ウィザ翁がいる」

 

 

「………ふぅ」

 

シフトを駆使し、元いた場所から大分離れた場所についた。そこは遊が初めてアフトクラトルに降り立った場所だ。

そして、その場に佇む気配が一つ。

 

「………」

「お待ちしておりました、遊殿」

 

最悪の相手だ。遊は未だにウィザに勝てたことは一度もない。経験が違いすぎる。

 

「………まぁ、逃がしてはくれませんよね」

「私個人としては、逃がしてあげたいところですが……生憎わたしにも立場がありますので。だから遊殿、私の渾身の一太刀を受け切ったら見逃しましょう」

「………本当ですが?」

「ええ」

 

それだけ言うと、ウィザは杖に見せかけた剣を柄に手をかける。

なら遊の選択肢は一つだ。遊も刀に手をかける。

 

 

静寂が、あたりを包む。

 

 

そして……

 

「フッ!」

「………」

 

互いの剣が交わり、甲高い音があがる。

 

「………」

「………ほっほっほ、お行きなさい」

「…どーも。『門』判」

 

ゲートが開き、遊はそこへ足を踏み入れる。

 

「お世話になりました」

 

それだけいうと、ゲートは消え去った。

 

ーーー

 

「いやはや、若さとは素晴らしい」

 

アフトクラトルに来たばかりの遊なら、受けられなかったはずだ。だが一ヶ月で受けられるほどに成長した遊に、内心下を巻いた。

すると背後に頭首出歩くハイレインが降り立った。

 

「ウィザ翁、やつは?」

「申し訳ありません、逃げられました」

「ウィザ翁が取り逃がすほどの実力を持っていた、ということですか?」

「いいえ、なかなか頭のいい子でしてね。いろいろと面白い手を使い去っていきました」

 

もちろん嘘だ。ウィザが逃したのだから。

 

「………まぁ、仕方ないでしょう。ご苦労でした」

「はい。ハイレイン殿も」

 

それだけいうと、ミラのゲートを使いハイレインは去っていった。

 

「……遊殿、また会えるでしょうね。会ったその日は……」

 

また手合わせしましょう。

ウィザの言葉はアフトクラトルの空に吸い込まれていった。

 

 

それからしばらくして、遊はカルワリアへと降り立った。

そこでは遊真が前線で戦っていた。そしてその時には、有吾は黒トリガーになっていた。遊真自身、トリオン体へと成り代り髪も白くなっていた。

そして遊はカルワリアへと味方し、長い戦争は終結した。味方の勝利だ。

 

そして、やることの無くなった二人は親の故郷である玄界へと向かった。

 

***

 

「ざっくりとは、以上です」

「………そうか、大変だったな」

「いや、俺は別に」

 

とても幸福な人生だったとは言えない。幼い頃から厳しく訓練を受け、拷問を受け左目を失い、なおかつ両親を失っているのだ。

 

「それで、遊はどうする?ボーダーに入るか?」

「ええ、まぁ今の所。どうせあいつも入るでしょうし、探し物もここにあるかもなんで」

「そうか、よかった。じゃあ手続きはしておく」

「ありがとうございます。それじゃ失礼します」

「ああ、悪かったな長話させて」

「いえ」

 

遊が部屋をでていこうとした時

 

「ああ林藤さん」

「ん?」

「俺は遊真のチームには入りませんよ」

「……」

 

それだけいうと遊は去っていった。

 

「さて、あいつの心を解放してやれるやつはいるのかね……」

 

林藤は一人になった部屋で一人つぶやいた。

 

 

 

 

 

そしてその後、遊真達の入隊が決まりA級を目指すことを彼らは決めた。

 

 

 

 

 


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