ワールドトリガー Another story   作:職業病

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第3話

木虎がイルガー迎撃に向かいその場には遊、遊真、修の三人がのこされた。

 

「キトラ、いっちまったぞ。どうすんだオサム。」

 

「僕も現場に向かう。」

 

「おいおい、武器なしで戦う気か?またやられるぞ。」

 

「わかってる。学校みたいな無茶はしない。ネイバーは木虎に任せる。僕は街の人を助けに行く。やれることがあるはずた。」

 

「ふむ、それいいな。ならおれもいく?」

 

遊真の問いを意外にも修は拒否する。

 

「いや、空閑と神谷さんは木虎についてくれ。」

 

「あ?」

 

修の言葉が意外すぎて遊は変な声が出てしまう。

 

「木虎も初めて見るネイバーだ。A級隊員でも手に負えないかもしれない。木虎がやばそうなら二人が手伝ってくれ。」

 

「え〜。」

 

遊真はかなり不満そうにする。

 

「本人が自分でやるつってんだからほっときゃいいんじゃねぇの?」

 

遊も面倒くさそうにする。

 

「頼む。」

 

修のかなり真剣な態度に遊と遊真は顔をみあわせる。そして同時に溜息をついた。

 

「オサムは面倒見の鬼だな。自分はすぐ無茶するクセに。」

 

「ぐっ…。」

 

「まぁしょうがねぇか。」

 

遊と遊真は渋々ながら同意する。が、

 

「でも、おれは修につくよ。」

 

遊の言葉に修は驚愕の表情を浮かべる。

 

「イルガーなら遊真一人で十分だ。それにおれのトリガーは正体を隠すのに向いてる機能もある。街の被害を抑えにいこう。」

 

「ふむ、遊がいるなら問題ないな。まぁでも一応念には念を、と。レプリカ。」

 

『心得た。』

 

遊真がレプリカに声をかけるとレプリカから豆粒のようなものが現れる。

 

『持っていけオサム。私の分身体だ。私を通してユーマとユウとやりとりができる』

 

「んじゃ遊、オサムをよろしくな。」

 

「あいよ。」

 

そう言うと遊真は木虎のいる方へ、遊と修は街の方へかけだした。

 

「さて、おれもトリガーつかうかね。」

 

そう呟くと遊は右手首につけてる腕輪を軽くかざして言う。

 

「トリガー、起動(オン)

 

そう言うと遊の身体はトリオン体と入れ替わる。

戦闘体の遊は黒いフードつきのアウターに白いラインのはいった黒いインナー、下はスラックスのような黒いズボンに黒いブーツという全身黒ずくめの格好になる。

 

「それが、神谷さんのトリガー…!」

 

「まぁそうだな。でも正体バレちゃ面倒なことになるから顔は隠させてもらうぞ。」

 

そう言って左手で顔を覆うと白地に黒い模様のついた仮面がでてきて、さらにフードを被る。見た目はかなり怪しい風貌になったが、一見誰かはわからないだろう。

 

「おれは爆撃を止める。修は街の人を頼む。」

 

「はい!」

 

「あと、おれの姿は十中八九誰かに見られる。けど何があっても修は知らぬ存ぜぬを通せ。これは絶対だ。いいな?」

 

「え!でも!」

 

「でももへったくれもねぇんだよ。いいから黙って言うこと聞け。でないと後々面倒なんだよ。」

 

「…はい。」

 

少し不満そうだが修は了承する。

 

「よし、じゃあ街の方よろしく。」

 

そう言うと遊は腰に携えてた剣を抜きそれをビルに向かって投げる。

 

「『シフト』」

 

そう言うと修の隣にいたはずの遊の姿は一瞬で光の粒子にかわり投げつけ、ビルに刺さった剣にぶら下がった格好で現れる。

修はその場で唖然としているが遊はそれに構わず先ほどまでぶら下がっていた剣の上に器用に立ち、手に新たに出現させた剣を別の場所に投げつけ、そこに瞬間移動する。

それを繰り返していきあっという間にイルガーの元にたどり着く。

 

「さて、まずは爆弾が街に落ちないように、と。」

 

左手をイルガーに向かってかかげる。

 

『捕捉』(ロック)

 

そう言うと遊の視界にイルガーにカーソルがつけられる。

 

『弾』判(バウンド)

 

足元に現れた『弾』という字がついた足場を思いっきり踏みつけると、一気にイルガーのすぐ下まで飛ばされる。

 

『追』判(チェイス)『壁』判(ウォール)

 

イルガーのすぐ下、遊のほんの少し上に光の壁が現れ、イルガーの軌道に合わせてその下を進んでいく。さながらマンタに寄り添うコバンザメのようだ。(もっとも、イルガーの大きさより壁の方が面積的には大きいのだが)

 

「とりあえず、これで爆弾は街に落ちないな。さて次は…ん?」

 

遊がもう一体のイルガーに目を向けるとイルガーからボンと小さく聴こえてきた。恐らく木虎がおとしたのだろう。

 

「あーあ、あの落とし方はダメだ。」

 

遊の独り言通りにイルガーは自爆モードへと変化し、こちらに向かって落下してきた。

イルガーの自爆モードはかなり硬くなるため並大抵の攻撃力ではどうすることもできない。空中でイルガーの防御力を上回る威力の攻撃をするか、地面に引きずり下ろすかの二択である。

さてどうすっかなーと考えていると、河川敷のところから鎖が伸びてきてイルガーを捉える。

 

(遊真の『鎖』印か。まぁそうするしかないよな。)

 

その光景を眺めているとイルガーは川の中に叩き降ろされ大爆発をする。

一体目が倒されたのはいいがもう一体のイルガーは未だに爆撃を続けている。遊の『壁』判のおかげて街に新たな被害はでていないがそれも持ってあと15分程度だろう。『壁』判はかなり丈夫とはいえ、あの頻度で爆弾を落とされたらさすがに長くは持たない。それにあの様子からしてあと15分で木虎がイルガーを落とせるとも思えない。また『壁』判を使ってもいいが遊個人的には早く終わらせたかった。

 

「もういいや、待つの面倒だしとっとと終わらせよう。」

 

そう言うと遊は左手の親指で人差し指の関節をならす。

ペキ、と骨が鳴る音がした。

 

「『弾』判、六重」

 

そう言うと先ほどより何倍もの勢いでイルガーの下まで飛んでいく。イルガーのやや上まで飛んだ遊は腰から剣を抜く。

 

「『強』判、三重』

 

そう言うと遊の背中に円盤のようなものがあらわれる。その円盤の中央には『強』とかかれている。

 

「『弾』判」

 

再び『弾』判を使用し、一気にイルガーに近づく。

次の瞬間、イルガーは真っ二つになり空中で爆散した。

街の上空に『壁』判をはり、落ちてくる残骸から街を守る。下の方から住民の歓声が聞こえるが無視する。

 

「任務完了だぞ、と。」

 

遊がそう呟きふと顔を上げると遠くの木虎が唖然としているのが見える。目があったのがわかるが、面倒事はごめんだったので遊は腰に剣を収め、ポケットに手を突っ込む。

 

『隠』判(ハイド)

 

そう言うと遊の姿は風景に溶け込むように消えた。

 

 

木虎は眼前で起こっている事態に動揺を隠せなかった。なぜなら明らかにボーダーのものではないトリガーを使うフードを被った仮面の男によって先ほどまで木虎が苦戦を強いられていて、挙げ句の果てに街中で自爆させそうになったネイバーをあの男は一瞬で真っ二つにし、倒してしまったのだから。

それに加えて街への被害も殆ど出さずにやるという荒技をやってのけたのだ。

その男の正体を確かめようとその男に近づこうとしたが、仮面の男はポケットに手を突っ込むと風景に溶け込むように消えてしまった。

 

(今のは、一体…?)

 

思考を巡らすが、答えは当然でそうにない。そしてその思考は歓声によって停止させられる。

そこには住民から歓声や感謝の言葉を受け、あたふたする修の姿があった。

 

(住民を守ってポイント稼ぎ…。そんなに人気者になりたいの?)

 

木虎は修の行動を相変わらず否定的にみている。

が、そこで修が木虎の存在に気づいた。

 

「みなさん、彼女です!彼女がネイバーを倒してくれたのです!」

 

修の言葉に住民が一斉に木虎の方を見る。木虎はボーダーの顔である嵐山隊であるため住民からの知名度も高く、修にかけられていた以上の歓声と感謝の言葉が木虎に浴びせられる。

その光景を木虎は驚愕の表情で見ていた。当然だろう。先ほどまで木虎は修はただヒーローであろうとするためにやっていた事であると認識していたのだから。それなのにわざわざ自分に手柄を譲渡したのだから驚くのは無理もない事である。

 

「言ったろ?お前とオサムでは見てるものが違う。勝負になんないってのはそういうことだ。」

 

いつの間にか横に来ていた遊真の言葉に木虎は心のどこかで納得する。

 

「…確かに、ただのC級隊員ではなさそうね…。」

 

「でもすごいなお前。あの魚あっという間に倒したんだからな。」

 

また違う声が聞こえてきたので木虎がそちらを向くと長身の学ランをきた瞳の青い青年が立っていた。先ほど神谷遊と名乗った高校生だった。

 

「違う。」

 

遊の言葉を木虎は即座に否定する。

 

「私はあのネイバーを止められなかった。誰かが手を貸してくれた。それにもう一体の方は私が駆けつける前に仮面をつけた男が倒した。その男のおかげて街への被害もかなり減っている。私は自分のやってないことまで自分の手柄にする気は無いわ。」

 

木虎の言葉に遊と遊真は顔を見合わせる。そしてお互い納得したように呟く。

 

「なるほど。」

 

「A級隊員とは、よくいったもんだな。」

 

しかしその平和な空気も一部の住民によって壊される。遊がある程度被害を抑えたとはいえ、被害はゼロではない。少なからず建物も壊されている。それに関する追求は当然の如くでてくる。

住民の対応を修のかわりに木虎がし、とりあえず損害賠償については後日ということになりその場は収まったのだった。

 

 

そのほぼ同時刻、警戒区域内

 

「はいはいもしもし?」

 

サングラスをかけた1人の男に無線で連絡がはいる。

 

『俺だ。片付いたか?』

 

「こっちは終わりました。向こうのチームももう終わるでしょ。」

 

サングラスの男は飄々とした態度で無線に応じる。

無線からはさらに指令が飛んでくる。

 

『よし、お前は本部に直行しろ。城戸司令が呼んでいる。』

 

「ほう、本部司令直々に、この実力派エリートを及びとは。」

 

サングラスの男、ボーダー玉狛支部所属S級隊員迅悠一は不敵に笑いながら呟いた。

 

 

その後、修と木虎は本来の目的である本部に出頭するためにボーダー本部への連絡通路に来ていた。その後ろに遊と遊真はついている。

 

『トリガー認証、本部への直通通路を開きます。』

 

機械音声と同時に通路が開く。

 

「ほう、トリガーが基地への入り口の鍵になってんのか。」

 

「ええ、ここから先はボーダー隊員しか入れません。」

 

「じゃあおれたちはここまでだな。なにかあったら連絡くれ。」

 

「…わかった。」

 

そう言い、修と木虎は通路の中に消えていった。

 

「帰るか、と言いたいとこだがまず食料の買い出しに行かなければメシも作れん。とりあえずどっかで食料調達すんぞ。手伝え。」

 

「ふむ、わかった。メシが食えないのは一大事だからな。」

 

対照的なシルエットの二つの人影がいつの日かのように市街地へ消えていった。

 

そのまま遊と遊真は二人で近くのスーパーまで来ていた。買い物カゴは遊が持っていて、遊真は並べてある商品を興味深そうに眺めている。

どうやら今日は肉が特売日のようだったので夕飯は肉類にしようと肉をカゴの中に入れながら遊はそんなことを考える。

 

「ふむ、今日は肉か。」

 

「ああ、特売日だったからな。どうせ遊真は大量に食うんだろ?少し多めに買っておいてやるよ。日持ちするのもあるしな。それに昨日はファーストフードだったから野菜も取らなきゃな。」

 

「遊の作るメシはなんでもうまいからな。おれはなんでも大量にたべるぞ。」

 

「うまいと言ってくれるのはありがたいがくいすぎんなよ。食費バカになんねぇから。」

 

そんな会話をしながらも野菜やらなんやら色んなものを物色しながらカゴに詰めていく。

二人分なら十分な量になり、必要なものはあらかた揃えたところで意外な人物に出会う。

 

「熊谷じゃん。」

 

「あれ、神谷。何してんのこんなとこで。」

 

熊谷友子。遊が編入してきて初めてまともに話せるようになった女子生徒だ。

 

「見ての通り買い物だ。」

 

「へぇ、神谷が買い物してるとなんか主夫みたいだね。なんかやけに様になってるし。お使いかなんか?」

 

「さりげなく貶された気がするんだけど?みんなおれの扱い悪くない?まぁそんな感じだ。お前は?」

 

「私もお使い頼まれてきたの。調味料と少しの食材のね。そういえばそちらは?」

 

今まで会話に参加してこなかった遊真に熊谷は話の矛先を持っていく。

 

「ああ、こいつは遊真ってんだ。おれの、弟みたいな感じ。」

 

「空閑遊真です。背は低いけど15歳です。どうぞよろしく。」

 

遊真はぺこりと頭を下げる。

 

「へぇ、兄と違って礼儀正しいのね。私は熊谷友子。神谷のクラスメートよ。よろしくね。」

 

熊谷は遊真に手を差し出し、遊真もそれに応え握手をし、二人してニヤリと笑う。なんでこいつらこんな息合ってんだ、と遊は内心呆れていた。

 

「ちょっと、おれ礼儀正しいだろ。むしろお前らの方がおれに礼儀正しくないだろ。」

 

「ふむ、よろしくお願いします、くまがい先輩。」

 

「神谷、気にしないのそんなこと。うん、よろしくね、空閑くん。」

 

「はぁ…。」

 

遊真と熊谷が知り合いになり、ちょくちょく遊のことを弄りながらお互いそのまま帰路についた。

その後遊が大量に作った食事を(遊の分を除いて)全てペロリと平らげたのは別の話。




遊がどんどん弄られキャラになっていく…
それはさておき、遊のトリガーは遊真のと似ているけどどこか違う感じです。
詳細は今後出てくるのでここでは言いませんがね
ではまた次の話で

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