ワールドトリガー Another story   作:職業病

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ボーダー入隊です。


11話

1月8日

 

ボーダー正式入隊日。

ボーダー本部内の本部に彼らはいた。

 

「さぁ、いよいよスタートだ」

「…ふー…なんか緊張してきた」

「なんでだよ。オサムはもう入隊してるじゃん」

 

ご尤もである。なぜ入隊しているオサムが緊張するのか。

 

「よし……確認するぞ。C級隊員の空閑と千佳はB級を目指す」

「おれたちがB級に上がったら、3人で隊を組んでA級を目指す」

「A級になったら遠征部隊の選抜試験を受けて……」

「ネイバーの世界に、さらわれた兄さんと友達を捜しに行く!」

「………よし!」

 

「今日がその第一歩だ……!」

 

決意を固める少年たちを、遊は1人少し離れた場所から眺めていた。

 

 

「ボーダー本部長の忍田真史だ。君たちの入隊を歓迎する。君たちは本日C級……訓練生として入隊するが、三門市の、そして人類の歴史の未来は君たちの双肩にかかっている。日々研鑽し正隊員を目指してほしい。君たちと共に戦える日を待っている」

(お、知ってる顔だ)

「私からは以上だ。この先の説明は嵐山隊に一任する」

 

その言葉と同時に周囲が少し騒がしくなる。そして嵐山隊が出てくると、その喧騒は一層強くなった。

さすがボーダーの顔といった所である。

 

「あーあー喜んじゃって……」

「素人は簡単でいいねぇ…」

 

なんとなく頭の悪そうな3人がどことなく嵐山隊を見下した目で見ていた。

 

(なんだありゃ)

「なあ、それどういう意味?」

 

そしてそれに弟が絡んでいくのを見て兄は面倒事の気配を感じ取り我関せずを決め込んだ。

 

「無知な人間は踊らされやすいって意味さ。嵐山隊は宣伝用に顔で選ばれたやつらだから、実際の実力は大したことないマスコット隊なんだよ」

 

ドヤ顔でいうバカな言葉に遊はその言葉に内心失笑した。

以前、遊は木虎の戦いぶりを目にしたことがある。あのイルガーの時だ。あの戦いぶりを見ていたらとてもマスコット隊なんて呼ぶことはできないだろう。

 

(どこで仕入れた情報か知らねぇが、あの隊がマスコットなら、他の隊はそれこそお飾りだろうよ)

 

本当にあれでマスコットならどれだけボーダーの実力が高いのだろうか。それはそれで見ものではあるが、そもそもあの3人は嵐山隊に勝てるだけの実力は無いだろうに。

 

無知ゆえに踊らされてるのはどちらだろうか。

 

 

その後、B級に上がる為の説明を受けて狙撃手とは別行動を取ることになった。

 

「三雲くん」

「木虎……」

 

その道中、修が木虎に話しかけられた。

 

「なんであなたがここにいるの?あなたB級でしょ?」

「転属の手続きと空閑の付き添いだよ」

「おっ、キトラ。久しぶり。おれボーダーに入ったからよろしく」

「……あなたもですか、神谷さん」

「まーな。成り行きみてーなもんだが」

「…………」

 

なんとなく敵意を向けられてるように思えて遊は視線を外した。

 

「なぁキトラ、おれなるべく早くB級に上がりたいんだけどなんかいい方法ある?」

「簡単よ。訓練で満点とってランク戦で勝ち続ければいいわ」

「なるほど、わかりやすくていいな」

 

遊真が好戦的な笑みを浮かべていると訓練室に到着。

 

そこではトリオン兵との模擬戦をやることになった。相手はバムスター。遊や遊真からすれば見飽きて取るに足らない敵だった。これでモールモッドだったら遊はもう少しやる気が出せたのだが、バムスター相手だとわかった途端遊のやる気は目に見えてなくなった。

 

「ユウ、そんな面倒くさそうな目してると目立つぞ。背高いんだし」

「バムスター相手じゃねぇ……」

 

正直、トリオン体なら武器なしでも倒せる相手だ。そんな敵を仮想訓練とはいえ倒せと言われてもやる気はでない。

 

「じゃあ各自、初めてくれ!」

 

嵐山の号令により訓練が開始された。

 

 

「つまんねーなぁ…」

「気持ちはわかりますがそういうこと口にしないでくれます?」

 

現在遊は観覧席の上の方で他の人が戦っている姿をボーッと眺めていた。そしてその後ろには木虎と修。遊の包み隠そうともしない率直な感想に木虎は棘のある言葉を返す。尤も、その程度で怯む遊ではないのだが。

 

「さっきの58秒の奴が今んとこ最高。この訓練、見たところ初めてなら多分1分切ればいい方ってとこだろうな。それで58秒の奴しかいない状況じゃつまんなくもなるわ」

 

これでは遊真がトップになるのが目に見えてる。

 

「貴方も、初めはああだったんじゃないですか?」

「俺?ああ、そうだろうな。多分、初めて剣握った時の俺じゃ5分じゃ殺せないな」

「……ちなみに、それはいつの話ですか?」

「俺が3つの時だな。ま、仮にこの歳になって初めてだったとしても五分じゃ殺せないだろうよ。俺は天才と呼ばれるタイプの人間じゃねーからな」

「……!」

 

木虎はそれを聞くと黙り込んだ。いくらネイバーとはいえ、まさか3歳の頃から戦いに身を投じていたとは思ってなかったのだ。

 

「お、次は遊真か」

 

そんな話をしていると、遊真が訓練室に入っていくのが見える。他の人は先ほど58秒を出した今もなおドヤ顔して自慢しまくっている男に目を向けているため、遊真が入ったことに気づいている者は少ない。

 

(ま、結果は目に見えてるけどな)

 

その数瞬後、彼らの視線は遊真に向くのだった。

 

 

「0.6秒、ね。まぁ妥当だわな」

 

遊真の訓練の記録は1秒を切って0.6秒という歴代トップの記録だった。しかし今までの生活を考えるとこれくらいの記録は出て当たり前である。

その後58秒だった3バカの1人が遊真にもう一度やれと突っかかってきたが、遊真はさらに記録を縮めて0.4秒。訓練生達は皆唖然とするのだった。

 

「ま、スコーピオン使ってるならあれくらいはできるわな」

「弧月じゃできないんですか?」

「できない。弧月は重さがそこそこあるからあんだけの速度を出すには相当な技量が必要だ。ま、弧月でも1秒切るくらいならできるだろうよ」

「ならさっさとやってください。あとは神谷さんだけですよ」

 

気づけば訓練生達は二週目に入ろうとしていた。遊がまだやってないから次に進めないのだ。

 

「へーへー悪うござんした」

「…………」

 

露骨に嫌悪感を出しながら木虎は遊に嫌味を言ったが、遊は全く気にしない様子。

と、そこで足音が近づいてくる。そちらを見ると烏丸が歩いてきていた。

 

「か、か、か、烏丸先輩!」

 

なにやら面白い反応をしている木虎だが、突っ込むと面倒なことになるのが目に見えていた遊は黙ることに専念した。

 

「おう木虎、久しぶりだな。すまんな、少しバイトが長引いた。どんな感じだ?」

「問題ないです。空閑が目立ってますけど」

「あれ、神谷先輩はまだなんですか?」

「俺はこれからやる」

「そうですか。じゃあ頑張ってください」

「やる気出ねーけどなー」

 

そう言って遊は訓練室に気だる気に歩いていく。

 

「なんなんですかあの人。ロクにやる気も出そうとしないで……」

「あの人はそういう人だからな」

 

ーーー

 

「面倒くせぇ」

 

なぜ今更バムスターなんぞ相手にせねばならないのか。遊の心境はそんな不満と倦怠感で満ち溢れていた。

 

(素手で倒すか?いやでもどうせだしアレやるか、久々だし相手も弱い。ちょうどいい)

 

『3号室、用意』

 

アナウンスがかかったところで遊は弧月に手をかけ、僅かに抜く。

 

『始め!』

 

その瞬間、遊の腕が一瞬だけブレたように見え、そして僅かに抜いていた弧月をしまった。

 

 

そしてバムスターは倒れていた。

 

 

『記録、0.5秒』

 

 

「あら、遊真の記録に若干届かないか。まぁ弧月だしこんなもんだろ」

 

周囲の人間はなにが起こったかわからないでいたが、当の本人はそんなもん知るかと言わんばかりの態度だった。

実際の速度は遊真よりはるかに速いのだが、計測器のスペック上このような結果になるのは仕方ないことなのだが、遊はそれを知るよしもなかった。

 

ーーー

 

「な………」

「どうなってんだ………」

「今……え?なにした?」

「インチキじゃね?」

「いやでも……」

 

そんなざわついた空気をよそに、遊はあくびをしながら出てきた。なんともなめた態度である。

 

「木虎……今の見えたか?」

「いえ……抜いたとこまでしか見えませんでした」

 

烏丸も木虎もA級の強者であるが、2人とも見えたのは剣を手にかけ、抜いた瞬間までである。抜いたと思ったら気づいたら鞘に収まっているのだ。

修と遊真も含めて4人が遊の今の動きに戦慄していると、遊が3バカに絡まれてるのを見かけた。

 

「いやいやいやいや、そんなわけないから。どんなインチキ使ったんだあんた」

「別に、なにも」

「今のなにしてるか全然見えなかったからインチキに決まってんだろ!」

「ならお前がその程度ってことっしょ」

「……ふん、まぁいい。ここでインチキしていい記録出してもランク戦ではこうはいかない。ランク戦でこってり絞ってやるからな」

「そいつは楽しみだー」

 

誰が見ても遊が3バカを全く相手にしていないことが明らかだった。子犬が大人の犬にめちゃくちゃ吠えて威嚇するが大人の犬に全く相手にされていないような感じの光景である。

そんな3バカをスルーして遊が戻ってくる。

 

「ふむ、相変わらず化け物みたいな剣だけどおれの方が早かったな」

「お前はスコーピオンだからだろうが。俺がスコーピオン使ったら縮地使えてもっと速かった」

「でもおれの方が早い」

「あーはいはい俺の負け俺の負け」

(どんだけやる気ないんだ神谷先輩……)

 

あれだけやる気がないのにも関わらずあんな人間離れした動きができるのだ。修としてはチームに入ってくれればこれほど頼れる人はいないと思ったのだが、本人に「入らない」とざっくり切られたのを思い出して若干肩を落とした。

 

「……なるほどな」

 

不意に背後から声が聞こえてくる。小柄だが、強者のオーラを纏っているのが一目でわかった。

 

「風間さん、来てたんですか」

「嵐山、訓練室を1つ貸せ。迅の後輩とやらの実力を試したい」

「へぇ…」

「なっ……」

「待ってください風間さん!彼はまだ訓練生です!トリガーだって訓練用だ!」

 

僅かに焦るような口調の嵐山だが、遊はそれが勘違いだということをなんとなく悟っていた。

 

(多分、実力を試したいのは俺や遊真じゃなくて……)

 

そしてその予感は的中する。

 

「違う、そいつらじゃない。俺が実力を試したいのはお前だ、三雲修」

(やっぱねぇ…俺と遊真の方全く見てなかったし)

「訓練室に入れ三雲。お前の実力を見せてもらう」

 

その言葉に修は固まる。無理もない。修はまだ正隊員になってから日が浅い。加えて実力は訓練生と大して変わらない。本人もそれを自覚している。そのためここは受けないという手もあるだろう。

 

「受けます。やりましょう模擬戦」

 

修は逃げなかった。

 

(大方、実力は知っておいた方がいいとでも思ったんだろうな)

 

その判断は間違いではない。遠征部隊を目指す以上、いつかは戦うことになる。その人がどれ程の実力か知っておいて損はない。

しかし修の実力を考えると、A級の風間の実力の半分も出せずに終わるのが目に見えている。

 

それが一戦なら、ではあるが。

 

そして修の決断により周囲は僅かながら騒がしくなる。正隊員同士の対戦など訓練生で入ったばかりの彼らには物珍しいのだろう。

 

「はいはい終わった人はラウンジで休憩しよう」

 

そんな訓練生に時枝はラウンジで休憩するように促す。これから修が一方的にやられることがわかったから気を使ったのだろう。

 

「おれは見ててもいいの?」

「もちろんだ。君も見るだろう?神谷くん」

「俺はパスで」

「え」

「結果は目に見えてる。今の修じゃ風間さんとやらに傷1つ負わせられないでしょうね」

「………」

「でも」

 

そこで予想外の言葉が遊の口から出てくる。

 

「一回くらいは引き分けにできるんじゃないすか?そこにたどり着くまでに20回以上やるハメになるとは思いますけどね」

 

そう言って遊は去っていった。

 

 

 

 

 

そしてその後、修は本当に遊の言った通り最後に引き分けに持ち込むことができた。結果24敗1引き分けである。

 

 

訓練室を出て1人ラウンジでコーヒーを飲みながらスマホをいじくる遊。見ているのは修と風間の対戦状況だ。結果は目に見えてるが、彼らがどこまでやるのかが気になっていたのだ。

 

(あーあ、もう18敗か。さすがに実力差がここまであると一戦ごとの時間も短かいな)

 

そんな風にぼんやりしていると、後ろから3人が近づいてくるのに気づくことができなかった。

 

「おいあんた」

 

声をかけられるが、遊は思考の海の中。聞こえていない。

 

「あんただよあんた。そこの黒いジャージの」

(えーっと、今日は自宅に帰る日だったな。食材なにがあったかなぁ)

「おい、聞いてんのか」

(お、今日スーパーの特売日だったな。なんかいいもんあるかな)

「おい!」

「!ああ、悪い。聞いてなかった。なに」

 

この言葉で3バカのリーダー的な男の額に青筋を立てた。

 

「今期トップの実力での入隊である俺たちを無視するとは、いい度胸だな」

「ポイントで言ったら多分そうだろうけど、実力で言ったらお前らはトップじゃねーよ」

「ボーダーではポイントが全てだ。今期の入隊者の中では俺らより高いポイントを持ってるのはいない。あんた、1000ポイントしかないじゃないか。インチキでいい記録だしたからって調子に乗らない方が身のためだぜ?」

「なんで?」

「俺たちのような真の強者の前ではそんなの無意味だからさ」

「そ、よかったね。で、まだなんかあんの?」

「だがもし、あんたがインチキじゃなくて、なおかつ俺たちのお眼鏡に叶うようであったらあんたを俺たちのチームに入れてやろうって話だ」

 

話が飛びすぎてて遊はよくわからなかった。理解するのに数秒要した彼を責められる者はいないはずだ。

 

「俺たちは強者を求めてる。あんたのあの記録と動きはデタラメだったが、もしあれが本当にインチキじゃなかったら?という話が俺らの中で挙がってな」

 

ニット帽を被った目つきの悪い男がいう。

 

「もしそうなら俺たちにとって心強い味方になる。そう考えたのさ」

 

そばかす男が自慢気にいう。

 

「後でランク戦のブースに来い。俺たちがテストしてやる」

 

リーダーがそれだけ言うと3バカは去っていった。

 

「俺は俺で、なんでこう面倒事に縁があるのかねぇ……」

 

遊は1人深いため息をつくのだった。

 

 

ランク戦ブース。

訓練を一通り終え、他にやることもなかったのであの3バカが言っていたランク戦ブースとやらに遊は来ていた。

訓練は遊と遊真がトップ争いをしていた程度で取るに足らないものだった。

 

「さて、ここがブースとやらか」

 

たくさんの訓練生がこの空間にいる。よくみればちらほらと正隊員もいるようだ。どうやらここでは正隊員もランク戦に参加できるらしい。

そして遊真は知らぬ間に時枝といっしょに遊についてきていた。

 

「じゃあこっちに来てくれますか。やり方説明しますから」

「あー俺はよくわからん先約がある。遊真だけ連れてってやってくれ」

「先約………ああ、あのラウンジで……」

「見てたのかよ……ま、そーいうこった。遊真をよろしくな」

「はい。じゃ、行こうか」

「ありがとう、木虎の先輩」

「時枝だよ」

 

それだけ言って2人は去っていった。

 

「さて、あのバカ共は…」

「お、逃げずに来たな」

 

やたら自信有り気な声が聞こえそちらを見ると、案の定3バカがいた。

 

「さっそくテストしてやるよ」

「ま、俺たちの実力にビビってやる気無くさないようにな」

「弱肉強食が世の理だからな。そうなっても仕方ないとは思うが」

 

なぜ入隊したばかりのこいつらがこんな自信たっぷりなのか些か疑問である。

 

「で?なにすればいいんだ?俺、やり方知らねーぞ」

「それくらい説明してやるよ。弱者に教えを施すのも強者の役目だからな」

「さっさと言え。時間の無駄だ」

「まずはブースに入れ。そしたらパネルが設置されてる。そこに表示されてる部屋番号をタッチすれば対戦できる。それだけだ」

「俺たちは214にいる。あんたも好きなとこ入れよ。そしたらすぐに対戦できる。逃げんなよ」

 

それだけいい3バカは214のブースに入っていった。

遊も近くにあった空いてるブースに入る。するとそこは3バカが言ったようにパネルが設置されていて、なぜかベットもあった。

 

(確か214だったな)

 

そこに表示されているのは2058というポイントと『ハウンド』という使用トリガーの名称だった。

 

「これをタッチすればいいのか」

 

タッチして対戦スペースへと入る。入るとすぐに転送が開始された。

 

 

『対戦ステージ「市街地A」。C級ランク戦、開始』

 

転送されるとさっそく対戦がスタートする。相手はそばかすだった。

 

「速攻で終わらせてやる!ハウンド!」

「………」

 

やたら自信たっぷりなのは相変わらず。

遊は飛んできた弾丸を最小限の動きでかわし、相手のそばかすを観察する。ハウンドは追尾弾。そのためこちらの動きに合わせて進路を変えてくるが、どこまでいってもノーマルトリガー。

 

(『追』判つけた弾丸ほどの精度は当然ないか。加えて、扱うやつもまだまだ未熟ときた。これはつまんないことになりそうだ)

 

その後、遊は武器も抜かずにぼんやりしながら相手のハウンドをかわし続けた。

 

ーーー

 

「くそ!なんで当たらない!ハウンド!」

 

どんなに撃ってもさっぱり当たらないという事実に、そばかす(早乙女)は焦っていた。

 

(全くの素人の割にはスジがいいのは確かだな。さすがにポイント上乗せされてスタートするだけあるわ。でもまぁ、素人の域は出ないな)

 

当たらないという事実に焦り、もともと命中精度がやや粗い射手のもあり更に当たらなくなる。それこそナ○トのカカシ先生のように文庫本読みながら戦うこともできるまである。

 

「もうこれ以上やってもそれこそ時間の無駄だな」

「くそ!ハウン……」

「おせーよ」

 

射手の間合いで戦っていたはずが、一瞬で距離を詰められた。早乙女がその速さに反応できるはずもない。

 

「はいお疲れ」

 

そのまま首を飛ばされてベイルアウトしてしまった。

 

 

第二戦

 

「次は俺だ」

「………」

 

ニット帽の少年は弧月を抜くと一気に迫って、袈裟斬りを放つ。しかし遊にはあくびをしながらでもかわせる程度の動きだ。

 

「さすが早乙女を倒すだけあっていい動きするな。だが、その程度で俺を倒せると思うな!」

「……はぁ。あんま強い言葉を使いすぎんな」

「はぁ?どうした?怯えちまったか俺の実力に!」

 

 

 

「弱く見えるぞ」

 

 

 

その瞬間、遊の姿が視界から消えた。

そして気づいたら時には上半身がバラバラにされていた。

 

「な……」

「ま、実際まだ弱かったか」

 

そうしてニット帽もベイルアウトしていった。

 

 

「最後は俺だ」

「…………」

「あいつらを倒したところを見ると、やっぱアレはインチキじゃなかったようだな。ま、俺は最初から見抜いていたがな」

 

最初にインチキだと突っかかってきたのはお前だろう、という言葉は飲み込む。言ったところでどうにもならないことが目に見えていたからだ。

 

「あいつらもそこそこやるとは思うんだが、どうやらまだ修行が足りないようだな」

「お前なら勝てるとでも?」

「ああ」

「へぇ」

「正直あんたは強いよ。でも、あんたの動きはもうわかった」

「………」

「これで俺が攻撃手だったら勝ち目は薄かった。だが俺は射手。この射程の差が勝敗を生むのさ」

「…………」

「ハウンド!」

 

ハウンドが放たれる。遊はそれを難なくかわし距離を詰めようとする。しかしそれと同時にリーダーの男も下がり、そして下がりながらハウンドを更に放ってきた。

 

「あんたは攻撃手!射程が短いから距離を詰めようとする!だが、俺のハウンドをかわしながら下がる敵を追い詰めるのは至難の技だ!」

 

どうやら、下がりながら攻めるというのが策らしい。

 

「……まぁ、攻撃手相手なら間違った戦法ではねーな」

 

とは言ってもそれは戦いにおいて初歩の初歩である。そんな初歩のことを自慢気に言われても遊のやる気が無くなっていくだけでだ。

 

(極力相手の間合いで戦わないなんて、当たり前じゃねーか)

「どうだ?勝つべくして勝つ人間はそこいらの奴らとは違うのさ!」

(ま、ズブの素人ならそれもわかんない奴もいるか。でも自慢できるほどのことじゃねーな)

「どうした!手も足も出ないか!」

「はぁ…」

 

遊は相手にも聞こえるくらい大きなため息をついた。

 

「どうした?降参してもいいんだぞ?」

「さっきも言ったが……」

「ん?」

「あまり強い言葉を使うな」

「?」

 

その言葉と同時に、遊の姿が視界から消えた。

 

「な!」

「強い言葉使っても」

 

そして次の瞬間

 

 

「弱い奴は弱い」

 

 

遊が目の前に迫ってきていた。

 

リーダーは首が飛ぶ。

 

「な、あ」

「入隊初日、加えてまだロクに実践も積んだことないお前らがたかだか最初にポイント上乗せされた程度で真の強者になれるとでも思ったか?」

 

そしてリーダーはベイルアウトし、遊のポイントが増えた。

 

「へぇ、こりゃいい。訓練よりこっちのが断然稼ぎやすいな」

 

その後、高ポイントの訓練生達とかたっぱしからランク戦していく遊の姿がそこにはあった。

 

 

「合格だ」

 

ブースを出ると真っ先に言われたのはその言葉だった。

 

「は?」

「だから合格だと言っている」

「で?」

「俺たちと組もうぜ。強者同士が組めばより上を目指せる」

 

どうやら彼らは遊の言った言葉を何一つ聞いてなかったらしい。まぁあのベイルアウトする一瞬だったため聞き取れなくても無理はないのだが。

 

「なんで俺より弱い奴の下につかなきゃいけねーんだ?」

「確かにあんたの方が強い。でもそんな力の差は俺たちならすぐに埋まる。だが、あんたが強いのは確かだ。味方に入れれば心強い味方になるだろう?」

「興味ないね。俺はB級に上がっても当分チーム組む気ねーよ。ましてやお前らみたいなやつらなんて願い下げだ」

「な……!」

「用は終わりか?なら俺は行く」

 

そうして遊は呆然とする3バカの前から立ち去った。

 

 

 

 

 

「………へぇ、あの子、いい動きしてたわね」

 

 

 

 

 

そんな遊を見て1人の長身美女が微笑んでいた。

 

 

ラウンジ

 

遊の手の甲には『3069』というポイントが記されていた。

訓練だと訓練一つ満点で20点。そのことを考えるとランク戦がいかに稼げるかがよくわかる。

 

(4000でB級昇格つってたな。となると、あと2日もあればB級に上がれそうだな)

 

そんなことを考えつつスマホでニュースやらスーパーの特売情報を見ていた遊に、1人の女性が近づいてくる。

 

「こんにちは」

「ん?」

 

振り返ると、そこには長身長髪の美女が立っていた。見たところ、大学生くらいの歳だろうか。

 

「ここ、いいかしら?」

 

他にもたくさん席が空いているにもかかわらず遊の前に座ろうとしているということは何かしらの用が遊にあると考えた遊はそれを承諾する。

 

「どーぞ」

「ありがとう」

「いーえ。で、どちら様ですか?」

「そうね、要件の前に自己紹介が必要ね。私は加古望。A級加古隊の隊長よ」

 

A級。つまりはボーダーの中でもトップに位置する存在のことだ。

 

「加古さん、ですね。どーもC級の訓練生、神谷遊です。で?A級の隊長さんがC級の訓練生になんの用ですか?まさか新人潰しみたいなのじゃないでしょうね?」

「あら、あなた思ってたより捻くれてるわね。ボーダーに新人潰しなんてそうないわよ。……でもそういう子、私は好きよ」

「はぁ」

 

早く要件を伝えろ、と遊が目で訴えかけると加古はそれを感じ取り要件に入る。

 

「そんな急かさなくてもいいのに……まぁいいわ。率直に言うわね。あなた、私のチームに来ない?」

「C級の訓練生になにアホなことほざいてんすか?」

「あなたのさっきの戦いぶり、見せてもらってたわ」

(なんで見てんだよ)

「なんで、って顔してるわね。C級のランク戦ブースはね、現在戦ってる隊員達の戦闘がランダムで映されるのよ。その時私が見てたのがあなたの戦いだったの。あなたの動き一目みてすぐに思ったわ。『この子は大成する』ってね」

「随分感覚的っすね」

「感覚って大事よ?私は理論より感覚派だしね」

「俺はC級ですよ。A級のチームになんて入れないでしょうに」

「正隊員になれば入れるわよ」

「ま、なんにしてもお断りします」

「あら、どうして?」

「高く買ってもらってるところ悪いんですが、正直面倒くさそうなんで」

「ますます気に入ったわ」

 

なんでだ、という遊のツッコミは飲み込み、遊は席を立つ。この加古という女性はやたらセレブオーラが出ているため一緒にいるとやたら視線を引く。だからさっさとこの場から去りたかった。

 

「んじゃこれで。お誘いどーも」

「あ、ちょっと待って」

 

そういうと加古はメモ帳になにか描き始め、そしてそのページを破ると遊に渡してきた。

 

「これ、私の連絡先。もし気が変わったらここに連絡してくれる?」

「………ま、期待しないで待っててください」

 

それを受け取り遊はラウンジから去っていった。

 

「……あの子、本当に面白いわね」

 

1人になった加古は人知れずそう呟いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

司令室

 

司令室で1人仕事をしていた城戸の手元に一枚の資料があった。

 

「……………」

 

それは、黒トリガーの適合性テストの結果の資料だった。

ボーダーには現時点で正隊員だけでもそれなりの人数がいる。そのためテストする対象もそれなりの数になる。本来なら全正隊員でなく実力のある一部のみをテストするのだが、今回は異例の事態であったため全正隊員をテストした。

 

理由はその黒トリガーを譲渡した神谷祐介の息子、神谷遊が言った『今まで自分以外で起動できた人がいない』という話を聞いていたからだ。

 

今回、条件付きで譲渡された黒トリガー『鏡判』。それの適合性テストの結果が記された資料に目を通して城戸はもともと険しかった顔をさらに険しくした。

 

『適性検査の結果、黒トリガー『鏡判』に適合する隊員数0』

 

現時点で神谷遊を除く全ての隊員がこの黒トリガーを起動できないということだ。

 

 

 

そしてこの事実は遊に黒トリガーを返却するという意味も含まれている。

 

 

 

「………やはり、お前は誰にも心を開かないのだな、神谷」

 

城戸のつぶやきに答える者はいない。

 

 

 

 

 




ブリーチのセリフってこういうとこだと使い勝手がいい

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