この作品自体がそうなんですけどね。
では10話です。
遊が城戸相手に交渉した次の日も遊真達は相も変わらず訓練に励んでいた。
「おーおー今日もやってるなー」
「お、遊くん。おはよ」
「うす」
見たところ、遊真は昨日と同じでひたすら小南と戦うようにしているようだ。遊真の場合、あとは慣れるだけのようなものだから当然だろう。
修はまず自分の戦闘スタイルをどのようにするかを考えるところから始めるようでいろいろなトリガーを試しながら烏丸に指導を受けている。
千佳は普通に狙撃の練習のようだ。
「みんな頑張ってるね〜」
「そうだな」
「遊くんはなにかしないの?」
「やることねーだろ俺は。部隊組むあいつらが優先だ」
「それはそうだけど、なにか手伝えるんじゃないの?」
「………ふむ、なにかしらはあるだろうが、現時点じゃ師匠達に任せるのが1番だろ」
「それもそうかもねー」
結局、午前中遊は特になにもせず、時々小南と手合わせする程度だった。
*
「あんたら黒トリガーだったらどっちが強いの?」
木崎が作った昼食をとりながら急に小南がそんなことを聞いてきた。
「む?」
「あんたらどっちも黒トリガーもってるじゃん。黒トリガーで本気で闘ったらどっちが強いのって聞いてんのよ」
「そりゃもちろんユウだろうな」
「かもなー」
実際、黒トリガーで本気の手合わせなどしたことないからはっきりしたことは言えないが。
「つっても、単純な出力だけなら遊真のトリガーの方が強いけどな」
「そうなの?ならなんで遊の方が強いのよ」
「ま、実力かな」
「うわ、ウザ」
「しかしそれはちょっと気になるとこですな」
「ん?」
「いやさ、ユウとはずっと味方だったからさ、訓練用のトリガーとかでなら手合わせ何度もしてるけど、黒トリガーで本気でぶつかったことはないんだよね」
「んなことしたら街が一つなくなるぜ」
トリオン体は一度破壊されるとトリオン体が再構築されるまで戦うことはできない。そのため本気でやりあってしまうといざという時に戦えないということになりかねないのだ。
「じゃあさ、ユウ」
「ん?」
「ここの、なんだっけ、普段おれたちが使ってるやつ」
「ああ、仮想戦闘モードな」
「そうそれ。それなら思いっきりやってもいいんじゃないの?」
「………なるほど。どうだ宇佐美、可能か?」
「うん、可能だよ」
「決まりだな。遊真、メシ終わったらやってみっか」
「おう」
*
昼食が終わり遊と遊真は早速トレーニングルームへと向かった。宇佐美に頼み仮想戦闘モードにしてもらい全力でやってもいいようにした。
設定されたのは市街地。広さは普段チームランク戦やるときと同じ広さだ。
『トリガー、
2人同時にトリガーを起動し戦闘体へと換装する。
「んじゃ宇佐美、頼むわ」
『ほいほーい』
宇佐美の声とほぼ同時に2人はそれぞれランダムに市街地へと転送された。
ーーー
遊が転送されたのは河川敷のすぐそばだった。
「さて、やるか」
『じゃあバトルスタート!』
宇佐美の声と同時に遊はレーダーを起動した。
どうやら少し離れた場所にいるようだ。
「よっ」
手にわずかに曲がった短剣を出現させるとそれを遊真のいる方へと思いっきりぶん投げた。
すると遊の姿が消えて、投げられた短剣が青い光を放ちながら飛んでいく。
「っと」
空中で姿を現し短剣を逆手持ちにしながらキャッチする。そしてそのまま再び短剣を投げる。
投げられた短剣は川の向こう岸にたどり着くと再び姿を現した遊に掴まれる。
「もうちょいか。おら!」
再び短剣を投げる。
そして街中に入ると姿を現し短剣を掴む、
「みっけ」
遊真の姿を確認すると、一気に臨戦態勢に2人とも入る。
「
バウンドを発動し一気に遊真に近づいていく。
「
「幻影剣」
遊真が放った無数の弾丸は遊の周囲に浮遊する半透明の剣に防がれた。
「
「っと」
遊真の振り下ろされた拳を召喚した剣で防ぐが勢いを殺せず吹き飛ばされる。
「
「うお」
吹き飛ばされた遊を追撃すべく遊真は全速力で飛んできて拳を振り下ろす。
「せい!」
「甘い」
「どっちが?」
「!」
躱したと思った拳はフェイクで本命は振り下ろした方の拳とは別の拳の方だった。
「せーのっ!」
これが直撃すれば遊のトリオン体は粉々になるだろう。
だが簡単にやられる遊ではない。
「武装」
「!」
ゴキン、とまるで硬い金属を殴ったような音が響く。
「……でたな、『武装』」
「こんな早く使うハメになるとはな」
遊は遊真の拳を普通に腕をクロスさせてガードした。
だが『強』印を三重も重ねがけした遊真の拳をそのままシールドも無しでガードしてもトリオン体は粉々になるだろう。
なのに遊は普通に腕だけでガードした。
遊のトリオン体は少し特殊で体の特定の部位にトリオンを少量流し込むことでトリオン体のその部位を硬化させることができるのだ。
硬化させるだけ、と言えばあまり強くは思えないが、硬化させることにより防御力はもちろん攻撃力も大幅に上昇するのだ。
それにこの武装は幻影剣によって召喚された武器にも纏わせることができる。武器に纏わせることによりその武器は硬化しさらに攻撃力も上がる。かなり汎用性の高い技術なのだ。
もちろん「自由」がコンセプトである遊の黒トリガーのトリオン体のみ可能な技術であるが。
「おら行くぞ!」
「っと」
遊は召喚した槍を遊真に向かって投げつけ、遊真はそれを難なく避ける。
シフトを使い投げた槍に瞬間移動するとさらに短剣を召喚し投げつける。遊真はシールドを展開した腕を振り抜き短剣をあらぬ方向へと弾き飛ばす。
そしてそこへ瞬間移動した遊へあらかじめ仕掛けておいた死角からの『射』印で一斉に攻撃を加える。
「っと!」
無数の剣を周囲に召喚し全ての弾丸をやり過ごす。
「
「!」
『錨』印によって周囲の剣が全て重石がつけられ地面に落ちていく。
剣が全て封じられたため一瞬剣を召喚がすることができなくなる。
「『射』印+『強』印三重!」
着地した瞬間の遊へと強化された弾丸が襲いかかった。
*
「決まった……!」
外のオペレータールームで見ていた修はそう確信してそう呟いた。
「なによあいつ。俺の方が強いとか言っておきながらあっさりやられてんじゃない」
「……ちょっと遊真のことをなめてたのかもな」
確かに遊と遊真では本気の度合いが違うように思えた。
遊はなんとなく遊び半分な感じがしたが、遊真は本気でやってるように感じた。その差が勝負を決めたと思われても仕方ない。
「……どうやら違うみたいだよ〜」
「え?」
画面に目を戻すと遊がなにやら蝶の羽のような形をしたモノを目の前に展開していた。
「神谷先輩、多分こっからです」
烏丸の声に誰もが画面に釘付けになった。
*
遊真は正直決まったと思った。
なんとなく遊び半分な遊の気持ちの隙をついて一気に攻めれば勝てると思った。だから最速で倒せるように思いついた手を出し惜しみなく使った。
逆にいうと正面から崩せる気がしなかったというのもあるが。
だが遊はまだ倒れてない。
それどころか本気にさせてしまったようだ。
「……
「まさか最初からこれ出すことになるとは思ってなかったわ」
IXA
遊が本気になる時に使うブレードの一つだ。
見た目は黒い中世騎士が使うような槍のような形をしているがレイガスト同様シールドモードが存在し、シールドモードになると蝶の羽のような形の盾が展開される。
その盾の強度は黒トリガーですら軽く防ぐほどである。
だがその防御力と引き換えにシールドモード展開中は重量がとてつもなく重くなるという弱点がある。
そのためシールドモード展開時は遊はきっ先を床に突き刺し逆さにして展開している。
そしてブレード部分を視界に届く範囲ならどこからでも起動できる遠隔起動という機能もある。
この遠隔起動はどこからでも展開できるが、風刃と違いそこまでの速度はなく同時に展開できるブレードは一つのみである。
だがそれでもかなりの性能と威力を持っている。
攻守一体となったバランスのいいトリガー、それがIXAだ。
「さて……アップはこんなもんでいいだろ」
「このやろう……」
遊は左手にIXAをもち空いた右手にもう一つ剣を召喚する。
「いくぞ」
右手の剣を変形させる銃型にするとそこから雷を放った。
「『弾』印!」
遊が放った雷をバウンドでかわす。
剣銃一体型ブレード、グラディウス。
普段は剣の形をしているが、変形させると銃型になり銃型になると追尾型の雷を放つ。
単純な威力なら普通の弾丸のノーマルトリガーと同程度の威力があるが、速度は速く雷であるがゆえに被弾すると僅かな間体の自由が奪われる。その数瞬は実に大きな隙となるため非常に厄介なトリガーだ。
『ユーマ、まずユウの武器をアンカーで封じよう。そうすればユウの選択の幅が狭まる』
「いや、多分幻影剣相手にアンカーは相性あんまよくない。一度消したら多分一度つけたアンカーも無効化される。そんでブーストつけて武器破壊しようとしても向こうには武装がある。一つ壊すだけでもかなりのトリオン持ってかれるからこれもできない。幻影剣をアンカーで一瞬封じて、その瞬間に攻撃を叩き込むのが1番だけど、さっきそれ使ったから多分もう効かない」
『…さすがユウだな』
「おれがあのトリガー使ってもこうは扱えないだろうな」
遊があの鏡判を使うからこそ恐ろしいほどの能力を発揮するのだ。
遊の恐ろしさを感じていると遊がバウンドて一気に近づいてくる。
「はっ!」
「
ブレードモードのグラディウスの投擲攻撃をなんとかシールドでやり過ごすが、直後にIXAによる鋭い突きが放たれる。
「っと」
なんとかかわせたが僅かに顔を擦りそこからトリオンが漏れ出す。
「『射』印!」
「シールドモード」
遊真の放った弾丸も遊は難なくIXAの防御壁で防ぐ。
「『強』印三重!」
「遅えよ」
遊真の放った蹴りを軌道をずらしてかわすとそのスキにIXAでトドメを刺そうとする。
「『弾』印!」
「うお!」
だが遊真はバウンドで遊の体を弾き飛ばしどうにか凌ぐ。
「おお!」
「『強』判、五重」
2人の拳がぶつかり合い凄まじい衝撃波が起こり、それにより周囲の家が吹き飛ばされる。
「このやろう……」
「どうした遊真、お前の『強』印は三重ですむのに対して俺は五重もかけた上で武装もしなきゃ威力じゃ張り合えない。なのに、お前の方が押されてないか?」
「まだまだ、こっから」
「そうこなくっちゃな」
ーーー
「うおお!」
「おら!」
遊真の拳と遊のIXAがぶつかり合う。
「『弾』印」
「ふん」
バウンドで弾き飛ばされた瓦礫を遊がIXAで切り裂く。
「
「『盾』判」
瓦礫につけられてたチェインをシールドで軌道を逸らしやり過ごす。
「『錨』印+『射』印四重」
そのスキに遊真はアンカーを飛ばすが遊はそれも難なく空中に放り投げた短剣の場所にシフトでかわす。
「『強』印、二重!」
「武装」
遊真の拳を武装した腕で防ぎ距離をとる。
「IXA、遠隔軌道」
「やば」
遊真が後ろに飛んだ瞬間、下から黒いブレードが生えてきた。
(ユウの遠隔起動は起動からリロードまで少し時間がある。そのスキに攻撃を武装で防ぐ暇もなく叩き込むしかなさそうだ)
IXAがある以上、普通に攻撃を加えてても全て防がれてしまう。空中に放り出してボルトで倒す、というのも考えたが、そうなったらシフトで逃げられてしまうだろう。ならば、IXAが防げないタイミングで攻撃するしかない。
「さてさてさーて、そろそろ上げて行こうか」
「………」
「鏡判、第二解放」
IXAを空に掲げると、その周囲に『火』や『天』などの漢字が書かれた判が現れる。
そのうちの一つの『火』と書かれた判をIXAで切り裂く。
そしてIXAを床に突き刺す。すると床に『火』と書かれた判が展開された。
「やっば」
「劫火灰塵」
「『弾』印!」
「
『火』判から放たれた火柱は遊真を蛇のようにうねりながら追跡していった。
「『盾』印、五重!」
火柱がシールドに当たり弾ける。強化してないシールドでも防げるため、『火』判はあまり威力がない。その分派手で目くらましや誘導に使えるのだが。
そして遊はその弾けた炎の中から姿を現した。
「おら!」
「ぐっ!」
遊の放った蹴りがモロに遊真の腹に入る。
吹き飛ばされながらも態勢を立て直し、追撃に来た遊に反撃する。
「『射』印+『強』印!」
「ふっ!」
放たれた強化された弾丸の間を縫うように投げられた短剣。それは遊真の眼前まで飛んで行く。そして突然姿を現した遊に思いっきり蹴られる。
だが遊真は床に叩きつけられながらも次の一手への思考は止めない。
「まだまだいくぜぇ」
遊は当然追撃に来る。だがその瞬間、床から鎖が放たれた遊を捕らえた。
「うお」
「『射』印+『強』印二重!」
遊を捕らえる鎖をIXAで切り裂く。だがその瞬間、IXAに重しがつけられた。
(アンカー!)
強化された弾丸が、再び遊を襲った。
*
弾丸を受けた場所から、トリオンが漏れ出す。
「……う、あ」
弾丸を受けたのは、遊真だった。
「あっぶねー、
そして放たれたはずの本人はピンピンしていた。
あの瞬間、遊に弾丸が当たる瞬間、遊は手を前にかざした。その瞬間放たれた弾丸は向きを変えて遊真の方に戻ってきたのだ。ギリギリ反応できたとはいえ、無傷ではかわせなかった。
「なにを、した?」
「ん?ああ、見せたことなかったな。
尤も、これの真髄はそんなやつじゃないけど、と心の中で呟く。
遊真は反則だろ……と言いたくなるが、自分も黒トリガーを使っているから自重する。そもそも条件的にはどう考えても向こうのほうが不利なのだから。
性能はピカイチだが、その分他の黒トリガーと比べると出力が落ちる。出力が落ちるというのは黒トリガー同士だとかなりきつい条件だ。それを覆すほどの技量を遊は持っている。それだけのことなのだ。
自分が目指す背中はまだ遠いようだ。だが、ここで負けを認めるわけではない。全力で、
「まだまだ」
遊真は飛んだ。
あの背中に追いつくために。
*
「『天』判」
「っと!」
目の前が大量の雷に覆われる。すんでのところでバウンドが間に合い回避に成功した。
「『射』印四重!」
距離を取るためボルトの弾丸で遊を牽制する。その弾丸は遊に着弾する前に周囲を漂う透明な剣に阻まれた。
しかし、距離を取ってもすかさず遊は右手にグラディウスを召喚し雷を放ってくる。その雷をボルトで打ち消すと再び『火』判が襲ってくる。
「ほんっとに多彩だな」
『それだけユウが戦ってきたということにもなるな』
「雇われ傭兵やってきただけあるよ本当」
戦って痛感した。
自分と遊とではくぐってきた死線の数が違いすぎる。自分もカルワリアで戦争に参加し、いろいろな敵と戦ってきたが遊には全く届かなかった。追いつこうと訓練に励んでも、差は広がる一方。彼の強さは底が未だにしれない。
それでも勝ちたい。そう思う気持ちが遊真にはあった。
幼い頃から遊真は遊の背中を見てきた。あのどこか哀愁を感じる背中に追いつきたかった。負けたくなかった。
でもその気持ちとは裏腹に、差は広まる一方。どんなに鍛錬しても、遊はその倍鍛錬する。寝る間も惜しんで自分を磨く。その上、自分はロクにやってこなかった勉強までしている。
「全く、敵わないなぁ…」
『ユーマらしくないな』
「向こうが化け物じみてるだけだよ。でも、負ける気も諦める気もないから」
諦めたらそこですぐに詰む。それがわかっているからこそ遊真は諦めない。やれることは全てやる、その決意を固めながら走る。
「『弾』印!」
「お?」
「『強』印、二重!」
遊の鏡判の弱点は出力。なら真っ向勝負で火力勝負をすれば勝てる。だが遊もそれをわかってるからうまく火力勝負にならないようにしている。なら、遊がかわす前に無理やりでも持ち込めばいい。
先ほどのリバースのせいでトリオン体は傷つきトリオンが漏れ出しているし、左腕も動かしづらい。トリオン無限モードとはいえ、トリオン漏出による敗北判定は存在する。時間がない。一気に行かねば先にこちらが終わる。
「はぁ!」
「っと」
振り下ろした拳はなんなくかわされるが、これは読み通り。
「うお」
再びチェインで動きを封じるが、今度は足だけを封じる。
「せーの!」
「………?」
武装させて強化したグラディウスで遊真の拳を防ぐ。この時、敢えて遊真は右側から攻めた。遊は左利き。そのためガードする時僅かに偏りができる。
ブーストをさらに付け足し、強化。遊は攻撃と攻撃の合間にできる僅かな隙に左手のIXAで鎖を切り裂く。当然というべきか、IXAにアンカーがつけられる。
「っと!」
「………」
「はぁ!」
「………」
常に遊の右側を攻めながら遊の余裕を奪っていく。バウンドでグラスホッパーの連続使用のピンボールをやってるような感覚だ。
ブーストが四重になったところで一際強い一撃を放つ。
「おお!」
「………」
右腕のグラディウスが弾き飛ばされた。
(ここで生じるロスタイムを、次の一手に……)
武器を召喚させる隙も与えずに次々と強烈な攻撃を放ち続ける。その攻撃の余波で周囲の家やら電柱やらが吹き飛ばされていく。今遊が持つ武器はIXAだけ。左腕だけで遊真の攻撃を凌ぎきるのは至難の技。そして左背後に飛んだ遊真はアンカーを纏わせた腕で遊に攻撃を放つ。
「………」
すると遊のIXAにアンカーが取り付けられた。アンカーは直接触れることにもよって発動する。
IXAが使えなくなったことを好機と悟り遊真は一気に攻撃を仕掛けにいった。
(つなげ…)
全力の拳を遊の胴体目掛けて放った。
「真面目にやれ」
遊真の、両足が切り裂かれた。
足を無くした遊真は地面に転がる。
「……え?」
一瞬、理解が追いつかなかった。なぜ自分の足が切られているのか。
だがその答えはすぐに出た。
遊の右手には、遊がよくシフトに使う剣が握られていた。名前はエアステップソード。なんの変哲もない普通のブレードだ。だが普通であるが故、扱いやすいということもある。
「詰みだな」
「ぐ……」
転がった遊真の眼前に剣が突きつけられる。
「なんかしようとしてもいいけど、お前がなにかしでかすより俺がお前を倒す方が早いぜ?」
「………」
「……はぁ、43回。なんの数字かわかるか?」
「む?」
「俺がお前に致命傷を与えることができた回数だ」
思考が止まった。まさかそんなに多くの隙を見逃していたとは思わなかった。
「同時に、それを見過ごした回数でもある」
「…む」
「前半はよかった。それでも10回は殺せた。だがさっきまでの動きはなんだ。あれだけで20回は殺せたぞ」
「………」
「お前、途中からヤケ糞になってたろ」
否定できなかった。『敵わない』とおもった時点で確かにそういう節があってもおかしくなかった。
「……むぅ」
「ヤケ糞で俺に勝てると思うな」
「…そうだな、おれ、確かにヤケ糞だったかもしれん」
「ヤケになったら勝負は詰みだ」
「そんなお前なんか、5秒で殺せる」
「………」
「じゃ、勝負は俺の勝ちってことでな」
「悔しいが仕方ない」
本当に悔しい。それが今の遊真の心象だった。
「なーんか最後が気に食わんから、ちょっと1発ぶっ放すか」
遊は『炎』と書かれた判をエアステップソードで切り裂いた。するとエアステップソードが赤く輝き始めた。
「そら」
そしてその剣が空を切ると
目の前の住宅街が真っ二つになった。
上と下で風景が違うように見えた。切り裂かれ宙を舞った家々はすぐに燃え上がり地面に着く前に燃え尽きた。
「すっきりしたぜ。んじゃ戻るか」
そう言って遊は武装解除し、生身に戻った。遊真も武装解除し生身に戻る。
「次は負けない」
「なら精神面も鍛えるんだな」
やはりこいつは一言多い。
*
「2人ともお疲れ〜」
訓練室を出ると宇佐美が出迎えた。
「おう」
「いやぁ遊くんすごいね!あんな多彩なトリガーよく使いこなせるね!普通ならあんなに機能あっても使いやすいやつだけになっちゃうよ!」
「かもな」
確かに機能は多い方がいいが、多すぎるといくつか使わないものがでてきてしまうだろう。
「あんた、黒トリガーなら強いのね」
「ならってなんだならって」
「ノーマルトリガーじゃ大したことないってことよ」
「ほー、なら今日5本俺に取られた小南も大したことないってことになるな」
「ムッカー!」
相変わらず小南は感情の起伏が激しく弄りやすい。
「遊真くんもお疲れ」
「ありがとうしおりちゃん」
「空閑、お疲れ」
「うむ」
「しかし……神谷先輩すごいな」
「だろ?」
「空閑より強いって聞いてはいたけど……正直、これほど強いとは思ってなかった。見た感じまだ全力でもなさそうだったし」
「……おれは、まだユウに全力を出させたことないんだ」
「そんなに…⁈」
修は驚愕した。
自分が知ってる中でも空閑はかなり強い。ノーマルトリガーなら小南の方が強いが、黒トリガーなら空閑の方が強い。つまり修の知る中では空閑が1番強いのだ。それを遊はあっさり上回った。
そして思った。この人が自分達に協力してくれたら、どんなに心強いか。
そしてその遊は今も小南を弄り烏丸と絡んでいる。
「なぁ空閑」
「なに?」
「神谷先輩の目的って…なんだ?」
「………それは、ユウから聞いて。おれから言うことじゃない」
そういう遊真の顔は僅かに陰っているように見えた。
修が遊の顔を見ると、たまたま遊と目が合った。
「…………」
遊はなにも言わずなにも感じられないような顔をして、修から目を逸らした。
まるでお前には言うつもりはないと言っているようだった。