せきにんじゅうだい!   作:かないた

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#21

――盗んだバイクで走り出すどころか車で走り出してるのを気にしてはいけない。私たちは追い込まれているのだから。だからといって何をしても許されるのか?

 これもまた、判断する者がいない。

 社会が崩壊している以上――罪を罪と断ずる者がいないのだから。私たちが生きるために成すのは生き残るというたった一つの行動規定だけだ。

 

佐倉 慈

 

 

 

 真夜中の校舎裏へと侵入した胡桃たちを出迎えたのは“彼ら”だった。しかも、妙に数が多い。裏側はあまり目を向けていないためか胡桃はここ最近の様子をあまり見ていなかった。

 「増殖してんな、オイ」

 今回は珍しくスコップ、シャベルではなく昼間の鍛錬で熱血的指導の際に使用した“鉄棒入り竹刀”を剣のように力任せに振るって“彼ら”を破壊していた。

 「そう言いますけど、片っ端から破壊してますよね」

 その様子を見ながら、美紀は呆れたように言う。なんという脳筋プレイ。数が多ければそれを上回る暴虐を尽くせば良い。胡桃の戦闘スタイルは改めて見ても滅茶苦茶だった。

 圭もこれには概ね同意である。

 胡桃はその評価をわかっているが無視した。現に、これでどうにかなるのだからなんと言われようとかえる気はない。戦闘で不利になるなら変えるが。

 「いいかっ<ドガッ>こいつらに<ガシュッ>容赦は<グシャ>無用ッ!<ドグシャァァ>」

 明らかにスプラッタ映画で流れるような人体が破壊される音を言葉の間に挟みながら、進む道に湧いて出る“彼ら”を確実に倒していく。美紀と圭はそんな破壊活動を続ける胡桃の後ろにスリップストリームをかけるように追従しており、被害は一切受けていない。

 「それにしても、そんな物騒なモノはどこで手に入れたんですか?」

 「あぁ?これはな、風紀委員が剣道部から取り上げたもんだよ。相当前だが指導で“やり過ぎた”時に使ったやつらしい」

 圭の質問に答えた胡桃だったが、それを聞いて圭は「どうみてもいわくつきじゃないか」と苦笑する。

 「だから所謂“呪われた装備”だな」

 「取り外し無効じゃないですか!」

 「ネタが古いのに付き合いありがとォ!」

 胡桃の冗談に美紀がツッコミを入れた事で、胡桃がテンション高く新たに現れた学校関係者ではない姿の“彼ら”の頭部を粉砕する。ちなみにこの会話の間、三人はインターハイレベルの素早さで走っている。学生業ではない。

 走りながらも胡桃は、

 「粉砕!」

 左から右に薙ぎ払うように一閃し、竹刀だというのに無理矢理腹を切り裂き。

 「撃砕!」

 続けざまに返す動きで脇腹から肋骨を砕くように振る。

 この姿に美紀はどう見ても深夜テンションだと胡桃の様子を見た。多くが校舎裏、学校正面から見て右側の体育館のほうから流れているようだがその波がある場所を突破するまでまさにバーサーカーと化した胡桃は止まる事は無いだろう。

 剣道をしていたわけでもないので、竹刀の動きは完全に“暴力”だ。この動きを見ていると人間相手でも馬鹿力どうとでもなるのでは?と考えてしまう美紀であった。

 だが、この考えは以前から胡桃の中ではあり得ないものになっている。彼女自身はあくまで行動が単調な“彼ら”相手だから暴力のみで戦えているが、相手がまともな思考する者だった場合はどうにもできない。

 そのために慈や悠里という存在がいるのだが、まずそんな相手と相対する事が無いため今まで胡桃の戦闘行動は戦術面ですら胡桃本人の思考で全て組まれている。

 「にしても体育館近くから出て来てるがあそこらへんに道でもあんのか?」

 「わからないですけど、ありえそう。美紀もどう?」

 「今後のことを考えれば制圧は必須でしょう」

 美紀の言葉に胡桃がうへぇ、と顔を歪めた。

 「めぐねえに続き、美紀も扱いが荒いなコンチンクショウ!」

 悪態を付きながら、胡桃は正面の一体をまた切り捨てた。すると、見えて来たのだ。部活棟が。

 「近いのに随分遠く感じますね」

 美紀が言う。圭も同意して頷いた。

 「そだね」

 「一番そう思ってるのは私なんだがな」

 間違いなくこの場で最大の苦労をしている胡桃の言葉に美紀と圭は笑う。意外と余裕そうな二人に胡桃は青筋を額に浮かべつつ敵を斬り倒す事に専念した。

 「(今宵の竹刀は血に飢えておる………!)」

 そんな中で吐き出しかけた言葉をさすがにこれは痛過ぎると胡桃は心の中で言った。これは剣型の武器を持ったら一度は言ってみたいと彼女は思っていたが、いざ現実に言おうにも恥ずかしさが先行した。

 いけない、と胡桃は内心戦いながらも心を落ち着かせる。ここ最近は怒濤の展開が相次いだせいで疲れているのか色々と自重が外れている。無駄な馬鹿力は身体を痛め易いのだ。故に、無駄無くスマートに相手を葬る。これを忘れてはいけない。

 「先輩、地下の温泉の場所は?」

 「部室棟正面から見て右!こっから見て建物が縦だから再奥の扉を開けて階段だ!」

 「波を抜けるよ!」

 斬り倒して、斬り倒して――群になっていた“彼ら”をようやく抜けて胡桃たちは部活棟の前に到着する。コンクリート打ち放しの無骨な造りに幾つもの部活の名前が入った札が扉についており、その有様はホラーゲームに出てきそうな胡散臭さが漂っている。

 「初めて来ました」

 美紀が部活棟を見上げながら言う。

 「そういえば、美紀は帰宅部だったもんね」

 「圭もでしょ?」

 「いやほら、私は色々と渡り歩く流浪の民で…………」

 圭の返答に美紀がなんともいえないジトっとした目を見せる。胡桃は二人の会話になんだか心が明るくなり、日常を感じていた。美紀と圭の会話は時には学園生活部初期メンバーよりも気安いものが多い。それがなんと救いになることか。

 「――よし。それじゃあ地下を確認するぞ?」

 「はい!」

 胡桃の声に従って、圭が地下へと続く扉へと向かおうとするがそれに対して美紀が「待ってください」と声をかける。

 「どうした?美紀」

 扉を開ける前に胡桃が一度止まり、美紀のほうに振り返った。

 「先輩。退路の確保をするべきです」

 「…………それもそうだな」

 「ですから、私はここに残ります」

 美紀の提案に胡桃が眉を顰める。

 「美紀、なんで?危ないよ………?」

 圭が不安を隠さずに美紀に言うが、美紀は微笑を浮かべて大丈夫だと言った。胡桃は美紀の提案に数秒ほど諮詢したが「わかった」と頷いた。

 「ありがとうございます、先輩」

 「なんとなくだが、お前の考えはわかった。ただし、条件がある。圭もここに残れ」

 「え?」

 胡桃の条件に美紀と圭は驚いた顔をする。

 「退路の確保は重要だからな。地下から出れなくなったらそこでアウトだ。おまけに、ほぼ間違いなく奴らはこっちに近寄ってくる。ほら」

 「「あ」」

 胡桃の言う通りに“彼ら”はゆっくりとだが確実に、数体が部活棟へと向かって来ている。

 「お前らにコイツを預ける。どうせ地下に降りたら閉所だ。邪魔にしかならん」

 竹刀が胡桃から美紀に手渡され、ズシリとした重さが美紀の両手に載る。明らかに重さが竹刀のそれではない。鋳造された鉄棒でも入っているかのようだ。

 「お、重い………」

 「その重さが大切だ。んじゃ、ちょっくら行ってくらぁ。すぐに戻るから無理はするなよ」

 扉を開けて、胡桃が部活棟の中へと消えていく。それを見送った圭が竹刀を持っている美紀の手を包み、一緒に重たい竹刀を持ち上げた。

 「………圭?」

 「美紀。重いね」

 「それだと、まるで私が重いみたいに聞こえる」

 「何言ってるの?美紀は羽のような軽さだよ!上に乗られても大して――」

 「な、何を言ってるの!?」

 「あはは。――だから、大丈夫。無理に背負うとか思わないで」

 「あ………………」

 竹刀の重さが本当にそのままの重さなのか。いつも胡桃が使用しているシャベルと違うとはいえ、この重さこそ胡桃が手に持っている責任の重さなのではないのだろうか。

 今、この瞬間では美紀と圭の二人分の重さに値する――責任。

 退路の確保のために残ったのは嘘ではない。きっと胡桃の言った重さは破壊力に関する事だったのだろうが、美紀はそうであったとしても少しだけでも責任を肩代わりしたかった。そんな想いから出た提案だった。

 「これは、皆で負うべきもだから。だから、一緒に」

 「うん。…………ありがとう、圭」

 竹刀の先端が一人目の相手を捉えた。不格好でもいい。力が足りなくてもいい。それでも、一人で抱え込むよりは。

 

 

 

 胡桃が地下に潜り、圭と美紀が“彼ら”との攻防を始めた頃。本校舎内の学園生活部の部室では慈が室内にあるものを運び込んでいた。それは薄型のテレビ。職員室の棚の中に保管されていた備品であり、職員室内のテレビが故障した際に使用するものである。慈はそれを持ち込んでいた。

 「えっと、電源は………」

 テレビの電源プラグを差し込むために普段から使っている延長コードのコンセントを探すと、すぐに部屋の隅にそれがあったので慈はプラグを差し込んだ。

 テレビのスイッチは付属のコントローラーで点けるもので、テレビと一緒に入っていた電池を慈は既にコントローラーへと入れている。

 「えい」

 コントローラーの電源ボタンを押すと、テレビは即座に耳障りなノイズを発したので慈は音量を下げる。これでゆきや悠里を起こすのはかわいそうだ。

 この状況になってからテレビの放送はもちろん止まっており、それが何を意味するのか。なんとなくだが慈はわかっている。“あの日”の事件が起きた時刻は夕方の帰宅ラッシュと被っている。つまり、感染者が“運悪く”電車の中に乗っていたら――果たして、巡ヶ丘以外へデリバリーされたものはどうなったのだろうか。

 いつまでも来ない救援から巡ヶ丘以外の被害も僅かに想像していた慈はため息をつきながらテレビの電源を落とし、いつもの席に座った。尚、テレビは部室の、入って右隅に三階の教室から持ち出した机の上に置いてある。

 「(巡ヶ丘から逃げるだけではダメかも)」

 逃避が最大の目的であり、生存率が最も高いはずだがそれでも安全な場所に逃げられなければいつまでも慈たちにとっての事件は終わらない。やはり、後顧の憂いは絶っておくべきなのか。

 大抵はこのようなパンデミックが起きればフィクションの世界では戦略兵器を投入して町ごと証拠隠滅を図るというのがよく描写される。しかし、巡ヶ丘に対してそれを行った場合の環境汚染や誤摩化しが上手く出来ない。町ごと吹き飛ぶような施設が残念ながらこの町にはないからだ。

 その点が慈に長期的なサバイバルを見通させていた。何よりも、街中で見つけた兵士の死体の存在により相手が地道な方法で火消しをしようと図っていた事が考えられるからだ。

 「(現状、最大の脅威は黒幕だけど…………それ以外だと美紀さんたちがラジオで聞いたって言う“クラウド”とかいうのかしら)」

 つい先日、美紀と圭により報告された“彼ら”を救いと言う者がいる。それを“クラウド”と仮称し、慈はゆきを除く部員全員に頭に止めておくように言った。この巡ヶ丘の生存者の中にも明確な危険人物がいる。それを知っておかなければ危ない。

 女性しかいない学園生活部にとって、男性の生存者がどんな人物であれ敵だったとしたら大変な脅威となる。いくら胡桃一人が強くても、もし相手が大勢だったら誰かの犠牲は免れない。特に、悠里や慈自身はかなり危険だ。部の中では一番身のこなしが鈍く、真っ先に狙われて人質に取られる可能性がある。

 そのことを考慮すれば、昼間の胡桃によるトレーニングはなんだかんだで必要な備えだと考えられる。いっそのこと、胡桃と対人戦闘の訓練を考えてもいいかもしれないと慈は思った。絶対にやりたくないことだが、死んでしまっては元も子もない。

 「…………いやだ。あの子たちには、人殺しをさせたくない」

 思わずそんなことを呟く慈だが、それはあまりに儚い願いだ。いつか、かならずどこかでその時はやってくる。もはや、この巡ヶ丘において道徳や常識は通用しない。生きるか死ぬか。それだけだ。

 そして、幾度も思うのだ。慈が最期にその責任を取る。大人として、全ての行いは自分が教唆したと。

 もっとも…………罪を責める人間が生きていればの話だが。

 慈は暗い思考をそこまでとして、入り口付近にぐちゃっと纏められている胡桃の荷物を確認する。モールへと向かう途中で回収し今の今までほぼ触れられていなかったパソコンとゲーム機である。ゲーム機に関してはテレビをセッティングしたため今すぐにでも使えるが電気の節約をしなくてはならず、使うのは全員が起きている時だろう。

 パソコンもセッティングしたいところだが、これは胡桃のプライバシーを考えて後回しだ。

 そんなゲーム機とパソコンの傍に置かれているが一本のゲームソフト。おどろおどろしいパッケージのソレは“セブンスマンヒル”と題打たれている。そう――今の巡ヶ丘とあまりに似ているゲーム内世界を持つ、何とも疑わしい偶然を持つゲームである。

 パッケージの裏面を見れば、制作協力企業の名前が出てくるがその中で目についたのは“ランダルグループ”というもの。どうみてもマニュアルに載っているランダル製薬と関係がありそうな名前だ。

 「(となると、ランダル製薬はグループ会社の一つってところかしら)」

 慈もプレイヤーの一人だったが、今まで制作会社を気にするようなことはあまりなく、初めて見たのだがまさか本当にランダルが関係しているとは思っていなかった。

 想定外ではないが「やっぱり」という気持ちはあった。

 このランダルが関与しているということから、仮説が幾つか慈の中で浮かび上がる。一番最初に浮かんだのが“パンデミックの状況下でどのように人間は行動するのか”というものをモニターするためにというもの。ゲーム内のため、参考になることは少ないと思うがあり得なくはない。

 また、そこから発展して“彼ら”の性能をデータ上でチェックしていた可能性もある。

 数度のアップデートで嫌なほどにゲーム内のゾンビは動きの生々しさが上がっていたのを慈は憶えている。ネット上では「製作陣は本物を見た事があるんじゃないか?」なんて冗談があったほどだ。全く笑えない。

 更に、セブンスマンヒルは発売地域が広く、国外でもサーバーが設けられていた。慈が知る限りではアジア各国はもちろん、アメリカなどの大国でも発売されていた。

 つまり、ゲームがシミュレーター実験だというのなら発売国でも何らかの実験が予定されている可能性がある。陰謀論もいいところだが、ランダルという明らかな繋がりがある以上、少しでも考えておく方がいいと慈は思った。

 と、それなりにゲームから色々と慈は考えたがこれ以上は全員で考えたほうがいいだろう。特に、一番戦闘をこなしている胡桃がゲーム内のゾンビと現実の“彼ら”を比較してもらう必要もある。

 パッケージを置いて、慈は身体を上に伸ばす。久しぶりの運動で慈は疲れを感じていた。翌日は筋肉痛の可能性もあり、眠気だけは無くしておこうと慈は思ったが胡桃たちがまだ戻っていないのだ。彼女らの無事を見るまではまだ眠るわけにはいかないだろう。

 そうなると、戻ってくるまで手持ち無沙汰になってしまうが慈はふと昼間の自分の体操服姿を思い出してあることを考えた。

 考えてから羞恥で顔が真っ赤になるが、誰もいない部室内をしきりに首を振って見る。

 「よし。誰もいない。誰も見てない。そう、大丈夫。これはちょっとした好奇心よ。邪な気持ちなんてない。それに生徒の気持ちを知る事も大切な事よ」

 まるで自身に言い聞かせるように捲し立てた慈は静かに、素早く部室から出て行った。

 

 

 

 部室棟の地下へと侵入した胡桃だったが、手に持った懐中電灯で内部を照らすと思ったよりも酷い惨状が広がっていた。地下に逃げ込んだ生徒がいたのだろうが、既に事切れて腐敗が始まっており酷い臭いが鼻をつく。

 “彼ら”と化したものはいないため恐怖から自害したか、それとも“彼ら”になる前に殺し合ったか。そのどちらかだろうと思われる。

 「(脱衣所はのほうは目も当てられんが浴室の方は………)」

 血塗れな以外はほぼ破損が無い浴室にある程度、面倒が減っていると胡桃は思いながら浴槽と脱衣所を隔てる引き戸を開けた。ちなみに、この浴室は男女に別れておらず時間帯によって分けられていた。

 「オープンセサミ………………うおっ。こりゃ酷い」

 扉を開ければ浴室内に五名ほどの遺体が見られ、中には抱き合うように倒れている遺体もある。体操服姿と髪の毛の長さから男子と女子のようだ。部活の後から考えると、胡桃は陸上部の部員ではないのかと吐き気を抑えて中に侵入し、遺体を確認する。

 「……………お前らか。まったく、こんなところにいたとは」

 そこにいたのは胡桃の良く知る部員だった。女子のほうはそれなりに仲が良く、“あの日”は先に部活を上がっていたはずだったが校内に残っていて巻き込まれたのだろう。心中を図ったのか、女子の手には何かの鋭い破片と男子の手には縄があった。

 確認した胡桃はやるせない気持ちになりながらも、それもまた正しい選択の一つだったのかもしれないと目を閉じる。

 「生徒手帳はもう預かってるからよ。後で取りにこいよ。それと、ちゃんと迎えに来てやっから。それまで動くなよ?」

 もの言わぬ躯に、生前の姿を重ねて胡桃は告げる。校舎裏の墓標はまた増えるだろう。墓を掘る時だけ胡桃は墓守だ。死者を慈しみ、安らかな眠りを提供しようという意識を頭の片隅に置いている。

 「さてと。そろそろ戻るか」

 浴室の状態は確認した。脱衣所からまずは除染と清掃。遺体の回収に火葬をしなくてはならないが、施設自体は大したダメージを受けているようには思えないので、これで水道が本校舎同様のシステムであればすぐにでも使えるようになるだろう。出来れば除霊、なんてこともしたいが流石に学園生活部に霊能力者はいないため、胡桃は仕方が無いとそれは諦めた。

 脱衣所を抜けて階段を駆け上がっていくと、月明かりが漏れる扉が見える。手早く開けて外に飛び出せば美紀と圭が二人で竹刀を握って“彼ら”をいなしていた。

 「(ラブラブ○リバーかよ)」

 心の中でそんなツッコミを入れつつ、胡桃は二人に声をかけた。

 「美紀、圭」

 「あっ。先輩」

 圭が気がつき、それにつられて美紀も胡桃のほうを見る。

 「よく無事だった。撤退するぞ」

 二人に駆け寄って竹刀を返してもらうと、胡桃は勢いよく近寄って来ていた相手二体を薙ぎ払った。もはや手応えすら感じない。有象無象に過ぎない“彼ら”は胡桃に取ってただの障害物だ。

 「胡桃先輩、下のほうは?」

 「あぁ。幾らかお亡くなりになった生徒がいたが奴らはいなかった。掃除すれば使えるかもしれん」

 美紀の問いに胡桃は答えて、歩みを進めた。一先ず、今夜の探索はこれにて終了。後は校舎に戻りシャワーをもう一度浴びてから寝るだけ。胡桃は戻ってからのことをそう考えて再び竹刀を振るった。

 

 

 

 「い、意外とまだいける」

 三階のシャワールームの鏡前で慈はあるものを着ていた。そう、それは巡ヶ丘学院高校の女子制服である。今は眠っている悠里のものを拝借して着てみたのだが胸の部分がほんの少し余る以外はほとんどサイズがあっていたのである。

 スカートの短さに慈は恥ずかしがりながらも、自分がまだまだ若いということを再確認し、よくわからない自信がついた。

 「コホン。学園生活部の、佐倉 慈です!」

 咳払いし、佇まいを整えてそんなことをのたまう。やってから顔を真っ赤にして慈は手を覆う。何をやっているんだと。幾らなんでもこれは悪ふざけが過ぎたとやってから気がついた。

 こんなことをするのはもうやめにしようと、制服を脱ごうとしたところでシャワールームに誰かが入って来た。

 「――あれならゆきも満足するだろうし、シャワー浴びてさっさと報告をめぐねえに……………」

 「あ」

 現れたのは血ぬれの胡桃。スカートに手をかけている慈を目にして、胡桃はまるで人形のように硬直した。その彼女の後ろにいた圭と美紀も固まった。

 その瞬間、時間は止まっていた。

 「……………わたしたちは何も見ていない。美紀、圭。OK?」

 「「はい」」

 虚ろな目で言いながら三人はかごに服を脱いで入れて、シャワールームに消えていく。残されたのは顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている慈だけだった。

 魔が差したとはいえ、この醜態を見られた。慈は教師としての威厳がついになくなったと内心悲鳴を上げた。

 




<今回の変更点>
「胡桃(セ◯バー)」
 色んな適性を持ってる胡桃。一番向いてるのはバーサ◯カー。

「ランダルグループ」
 グループ会社故に、巡ヶ丘での姿はあくまで側面の一つ。

「ゲームがシミュレーター」
 あまり参考にはならない。結果的に塩を送った形になってしまった。

※実は学生時代に出会った先生がめぐねえと性格真逆だけど生徒とかなり近しい位置にいる人だったり。なんとなーく冷徹めぐねえの雰囲気はその人を参考にしている。

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