せきにんじゅうだい!   作:かないた

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#15

――七男丘。なんでか妙に耳にひっかかる。これに関係する事をどこかで聞いたはずなのに思い出せない。美紀ならもしかしたら、この引っかかりに何か気がつくかもしれない。

 なにはともあれ、一つ言えるのはこの事件の根は深い。私みたいなただの高校生が踏み込んではいけないほどの領域まで。

 多分これは、よくある映画みたいな陳腐な展開だ。でも、それが実際に起きていたら?空想だから、創作だから許される世界はいざ自分に降り掛かる恐ろしい。

 

祠堂 圭

 

 

 

 慈たちが出発した翌日の朝。美紀は胡桃に代わり、朝の見回りを行っていた。既に一階以外の上階は制圧が完了しているため危険はほぼないだろうが、万が一というものを考えるべきだと美紀は思っていた。

 慢心などない、といったところだろう。

 彼女が真面目故にということもあるが、胡桃はこれも見越して渡していた。

 「異常は無し」

 一階最右翼の階段の踊り場までくればバリケードに異常はない。机と椅子、それに有刺鉄線を巻き付けて作成されたものだが、少なくともモールで作っていたダンボール製のバリケードよりはマシに見える。

 これを三人、実質、組み立て中に戦闘を行う胡桃を除けば慈と悠里の二人で作り上げていたのだ。彼女らの動きは常人のソレではない。いや、狂っても普通にしていたりする時点で、彼女らは少しマトモであることから逸脱している。そうしなければ保たなかった、と思いたい。

 モールでは疲れから感情的になっていたようだが、平時のゆきがいない場面で見せる慈の顔を美紀は数度だが確認している。優しい先生。そんなイメージが無かったかのような冷徹な、毅然とした瞳。どれだけ顔が柔和でも眼だけはまるで違う人。それが今の、美紀から見た慈だった。

 あの普段の“めぐねぇ”の裏にどれほどのものがあるのか。圭からは信用は出来る大人だと聞いていたが、何をもってして圭がその結論にいたったのか美紀はわかなかった。

 「(だけど、あの人は逃げるとハッキリ言った)」

 圭と共有した情報から、慈の最終的な目標は逃げ延びる事。復讐、怒り、憎しみ、蛮勇。この状況下でそれを感じてしまうのは致し方ないはずなのに、慈は「逃げる」と言ったらしいのだ。いささか、冷静過ぎはしないだろうか。

 ただの一介の教師がそこまでの判断が出来るのか。美紀の疑問はそれに尽きた。美紀の知る“リーダー”は碌でもなかったからだ。ゾンビに噛まれたことを秘密にして、そのまま皆を巻き込ん死んだ。彼が何を思ってそうしたのか。恐怖からか。

 明かせばリーダー一人が殺され、明かさなかったから九人が死んだ。

 恩人である彼を殺せただろうか?美紀は思う、私は殺せないと。だが、圭は間違いなくやれてしまう。美紀は圭が必要とあれば何であろうとするのを知っていた。陽気なお調子者。クラスの前では見せていたそのキャラクターの裏にあるのは美紀ですら推し量れない計算高さ。

 時折見せていた彼女の怜悧さには美紀も何度かヒヤヒヤしていた。自分は一体、彼女からどう見えているのか。果たして、友達なのか。これも彼女の計算故の結果なのか。

 だが、追い込まれたモールでの最後の生活で美紀は圭と間違いなく一つになれていた。後が無く、実質自殺に近いことをしようとしていた彼女が自身の声で留まってくれたのだから。

 しかし、慈は一体どうなのか。少しだけ美紀は懐疑的なのだ。あの大人は本当に自分たちの事を考えてくれているのか。あの圭が認めたのだからおそらくは本当にそうなのだろうが。

 その懐疑的にさせる原因こそがあの「冷徹な瞳」なのだ。そして、もう一つがゆきの存在を問いつめた際に見せた「狂気」。あれ以降は見ていないが、間違いなく慈も他の部員に劣らぬほどに狂っている部分がある。その片鱗があのゆきの母親発言ではないだろうか。

 階段を上がりながら、美紀は学園生活部の部員のどこがおかしいのか考える。

 「(まず、ゆき先輩は“幻想を見てる”。くるみ先輩はあの“身体”、りーさんは圭曰く“ゆき先輩を妹視”。そして、めぐねぇはあの“母の狂気”)」

 どれもこれも頭が痛くなるようなものだ。この状況下であぁも動けるのはどこかしらおかしいからではないのかと本気で美紀は思ってしまう。

 一部は本来は目覚める事が無かった才能が開花した結果だとも思える。慈の指揮能力然り、胡桃の戦闘能力然り。悠里は大局を見る事が出来る参謀だ。よく見えすぎたから、今狂い始めているのかもしれないが。

 ただ、彼女らの事を美紀自身も言えた事ではないと美紀は思っている。圭への依存度は正直に言えば行き過ぎている。親愛、友愛というレベルを超越している。一度追い込まれて衰弱による心中を考えていたほどだ。状況によるものだったのかもしれないが、一度それが心の中に芽生えれば嘘ではないのだ。

 今でも美紀は不安だった。圭は無事なのか、また彼女に触れられるのか。生きている事をこの手で確かめられるのか。

 身を焦がすような圭への想いがあふれてくる。これは情に深い美紀だからこそ起きたことなのかもしれない。そして、その情に、ここにいない圭はどこか甘えていた。

 掴んだ手は離さない。この生活が始まってから美紀が自身に課した誓約だ。いや、誓約というには少し劣情かもしれないが。

 なんであれ、どれもがすぐさま全滅に直結するものではない。

 「(…………今頃、圭たちはどうしてるんだろう)」

 三階の階段踊り場の窓から外を見て、美紀はそう心の中で呟いた。

 

 

 

 「くしゅん!」

 「風邪か?」

 「ち、ちがいますよ。ただ鼻がムズムズしただけです」

 市役所のある巡ヶ丘駅までさして遠くない位置まで来ていた慈たちは一度車を降りて徒歩で探索していた。ゾンビの数は予想に反して少なく、それに反比例する形で銃撃の後がいたるところにあった。

 更に、死体を処理したと思われる積み上げられた人だったものの燃えた跡やゾンビ化した後に倒されたものもある。

 明らかにあの自衛隊に扮していたと思われる者たちが戦った形跡だ。

 「これじゃあまるで火消しだな。さっきの車の連中は黒幕に近い奴らなのか…………?」

 胡桃の推測は的を得ているかもしれないと慈と圭は思う。マニュアルには自衛隊の駐屯所も載っていた。恐らくは避難場所、集結場所として“正常な実験”が行われれば使われていたが、これはイレギュラー。

 もしかしたら、あのマニュアルの存在を知る何者かによって自衛隊に罪を着せようとしているのかもしれない。

 ならば、本物の自衛隊はどうしているのだろうか。

 「ゾッとしない推測ね、くるみさん」

 慈がそう言うと胡桃はため息をつく。

 「冗談じゃない。生きてる人もたくさんいたってのに、それをこんな風に。見つけたらあたしがっ…………!」

 「ッ………それはダメです!」

 胡桃の発言に、圭が声をかけ彼女に抱きついた。虚をつかれた胡桃は硬直する。本当なら慈がしなくてはならなかったことだが、圭のほうが早かった。

 「先輩は、先輩はあいつらだけでいいんです。生きてる人間を殺す必要なんて」

 「じゃあ黙って殺されろっていうのか!」

 「違う!自分から、そんな風に殺意を持たないで!そんなことをしていたらおかしくなっちゃいます!戻れなくなりますよ!」

 事後とはいえ、圭はあのリーダーを殺しておくべきだったと思う程度には生者への抵抗がない。そして、その殺意は慈にも容易く向けられ、あの夜の問答の次第ではその場で慈を殺していた。

 学園生活部の事を言えたものではない。圭も十分に狂っていると自覚している。だが、これは自分だけでいい。胡桃が持っていいものではない。胡桃にはそれを簡単に成し遂げられるだけの力があるのだから。

 「…………わりぃ。ちょっと、頭冷やすわ」

 圭の腕を優しく退けると、胡桃は近くのバス停のベンチに座る。圭はひとまずは大丈夫だと肩の力を抜いた。

 やるせない。モールでも胡桃が感じていたことだろう。そのケアを慈はしなくてあはならないと思っていた。しかし、現にそれをすることはかなわず、一度目は何も出来ずに。今度は圭に任せてしまった。

 大人として、彼女らの受け皿となろうにも出来ていない。慈は悔しかった。

 「それで、めぐねぇ………じゃなくて、佐倉先生。これからどうします?」

 「え?これからって」

 「もうこれ以上、ここを探しても生存者はいないと思いますけど」

 「……………えぇ、そうね。この様子では、みんな」

 「殺されてるでしょうね。ゾンビじゃなくて、人間に」

 一体何者なのか。それだけが気がかりだ。ランダルなのか、テロを起こした者たちなのか。

 「圭さんはこの状況をどう思う?」

 「嫌な感じですね。マニュアルをちょっとずつですけど、裏付けるような感じで。教頭も同じ理由で殺されたのでは?」

 「そうかもしれないわ」

 胡桃には聞こえない声の大きさで慈と圭は話す。マニュアルにあった緊急連絡先の組織や場所。それに内容からこの状況はいくらか推測出来る。

 あのマニュアルは人材の選定を求めていた。その際に武力衝突も厭わない記述があった。ならば、この惨状はそのことから引き起こされたものではなのだろうか。慈はそう考える。飛躍はあれど、十分にあり得そうだ。

 ただそうなると、何故この場でそれが起きていたのかだ。やるなら徹底的にやりそうなものだが、学校にはそんな奴らはこなかった。状況だけで推測すれば、神山先生を含む教師陣のほとんどがβ型BC兵器で即死させられ始末が完了したと思える。つまり、来る必要がなかった。

 となると、学校以外のマニュアルが存在する公共施設などでも同じような措置がとられていると思える。事実としてモールに関しては圭の話からそうだった。

 では、わざわざ兵士まで呼んで処理活動をここでさせたのは何の意味があるのか。不特定多数を消すためだったのか。それとも別の要因か。

 わからない。これ以上の推測は不可能だと慈は思考を止めた。

 「圭さん、くるみさんを呼んできて」

 「はい。でも、どうするんですか?」

 「市役所もそう遠くないから、行きましょう」

 「……………わかりました」

 何が起こるかわからないが、進むしか無い。圭が胡桃を呼びに駆け出し、慈はこれからのことへと意識を切り替えていく。

 そんな時だった、“彼ら”特有の臭いと呻き声が聞こえたのは。

 「………!?」

 慌てて振り返れば廃れたコンビニの中から這いずり出て来ているものがいた。まだ幼い子供だったのだろう。あの日の時間帯から子供は既に帰宅して、友達と遊んでいてもおかしくない。

 それを哀しく一瞥した慈は相手が遅いとわかり無視して胡桃の方へと歩き出す。

 「めぐねぇ」

 「あれは無視します。このまま市役所まで急ぎましょう」

 「りょーかい。先頭は私がやるから二人ともついてこいよ。道はめぐねぇが頼む」

 「わかったわ、くるみさん」

 慈と圭がついていける速度で胡桃が走り出し、障害物を避けて道を進む。歩道に車道。そんなものは関係なく、市街地のはずがまるで森の中のように道無き道を進んでいる。

 陽の影で陰るビルがまるでジャングルの木々のような。まさにコンクリートジャングル。そう言うに相応しく、町の中は荒れている。

 「邪魔だ」

 大型の車の影からヌッと出て来たゾンビを胡桃はまるで障害物を退けるかのごとく容易くスコップを喉元に突き刺す。一連の動作に一切の無駄は無い。

 駅に近づくにつれ、微妙に“彼ら”の数が増えて来た。

 「うっ、やっぱりいた」

 「大丈夫?圭さん」

 「あっいえ、ただ」

 圭の顔色がよくないので慈が声をかけると圭は苦笑しながら答えた。

 「美紀に呼び止められて、私は結局出て行くのやめたんですけど、万が一無事に生き延びれたら駅に行こうとしてたんです」

 それは慈にも胡桃にも初耳だった。本人が自殺の意図が多分にあったと語っていた、美紀を一度を見捨てようとして未遂に終わったこと。だが、何も本当に自殺するためだけではなかったようだ。

 「………まぁ、計算高そうなお前が自棄になってもそう考えてたのは不思議じゃないな、っと」

 新たな“彼ら”を倒しながら胡桃が言う。慈は更に問う。

 「なんで、駅に?」

 「父が駅長でしたから。もしかしたら、って……………そんなはずないんですけどね。こんな状態じゃ」

 帰宅ラッシュの駅でゾンビが溢れたら何が起こる想像に難くない。それでも、圭は家族に会いたかった。死ぬとわかっていても。でも、彼女は最終的に美紀と共に最期を迎える事を選んでいた。

 希望的観測よりも、今ここにある全てに身を任せて。あの日だけは圭も今までの考えを全て捨てていた。思うがままに美紀と一緒に最期を過ごすために。

 それは結果的に“正解”の一つだったのだろう。今はこうして、生きて一人ではなく頼れる仲間と共にかつて目指そうとした場所に向かっているのだから。

 「……………ったく、どいつもこいつも。なんでこう、家族ってのは」

 やるせないといった感情が再び胡桃の中で渦巻く。胡桃の父も、今の話で“あの日”どこにいたのか思い出していた。胡桃の父はあの日、仕事で会社にいたはずだ。その会社はこの近くにあり――火災により焼け落ちているのをここに来るまで、車に乗っている時に確認していた。

 もとより、家族の事を割り切っていた胡桃は残念には思ったが致し方ないと思っていた。

 が、こうして家族を失って心を痛めている仲間がいるそれを見るのが辛い。悠里もきっとそうだ。彼女が狂い始めたのは明らかに亡くした者の大きさではないだろうか。

 園芸部の部員。胡桃は見ていないが、慈と由紀が騒動の起こる寸でのところで屋上に上がった際、もう一人女生徒がいたと幻想に呑まれる前の由紀から胡桃は聞いていた。

 それは園芸部の部員だったそうで、購買部に道具を買いに行って慈、由紀とすれ違ったらしい。もし、彼女を行かせなければ。悠里の最初の後悔。“あの日”の晩に胡桃の傷が癒えぬ間もなく告げられたことだった。

 「(なんで、なんでこんな。遺されたヤツがどうして、こんな)」

 理不尽さに、胡桃はスコップを振るう手を強める。これがただの事故ならばしょうがないと思っていた。だが、明確な人の意志が介在しているのが胡桃にはわかり始めていた。

 ゾンビパンデミックものでよくあるテンプレート。始まりは呪いや偶然の産物ではなく、人が生み出した何か。

 そして、起きたあとに始まる人と人の不毛な争い。映画だからおとなしく見ていられる。だが、現実でこうも起こると堪ったものではない。胡桃は圭の話を聞いて余計にそう思った。

 「見えて来た!」

 「市役所………!」

 三人の視界に巡ヶ丘市役所が見え始めていた。もう遠くない位地だ。あそこに、何かがあるのだろうか。この状況を知るための何かが。慈はかならずそれを見つけ出すと決めた。そうしなければ、ならない。この先への打開策を考える。それが今の慈の役目なのだから。

 

 

 

 昼食を悠里、美紀と食べた由紀はゆきに意識が一時戻ったため授業を受けていたが、ゆきの設定した授業が終わり、気がつくと由紀は教室の椅子に座っていた。三階の教室は窓ガラスが割れている以外は掃除され、机は五つしかない。

 黒板にはゆきが書いた授業の板書が見受けられる。その筆跡は今は亡き神山先生のものにそっくりだった。

 「……………英語、楽しかったなぁ」

 由紀にとって神山先生の授業は慈の国語の次に楽しかった。内容もそうだが、何より神山先生は普通の生徒として由紀と接してくれていたから。

 英文で書かれた文書を読めば、そのままゆきの心情が書かれていた。こんな文書は教科書にない。

 「“ここには夢も希望も全てあった。でも、それは既に過去のこと。それでも明日のために皆に笑顔を”」

 和訳して読み上げる。それはかつて、由紀が一時的に意識を取り戻せるようになる前に思っていたこと。彼女が知っているのは当然だろう。この言葉の末に生まれたのが“ゆき”なのだから。

 由紀が頻繁に意識を取り戻したのは慈の持っていたマニュアルを見てから実に相当の時間が経過してからだったが、ゆきとして影で苦悩する慈には笑顔だけではどうにも出来ないとゆきが思ったからだろう。そうすると、いつの間にか由紀は現実に放り出されていた。

 怖く仕方なかったが、慈のためならなんでも出来ると自身を奮い立たせて由紀は慈の共犯者として立ち上がった。

 それで少しは慈も救われた。そうして、以前よりも親密になれた。二人だけの秘密。なんとも乙女チックなことだ。内容を除けば。

 そそくさと由紀は教材を鞄につめる。教室にいるのは由紀は嫌いだ。いたら影からいつもヒソヒソ声が聞こえて、そこは自分の居場所でないと追い出されるように出て行く。それが“あの日”以前の由紀の学校だった。

 家にも居場所がなく、学校も腫れ物のように扱われる。それでも三年生の時は慈のクラスだったから周りになんと言われようと彼女の傍に居続けた。

 結果、由紀は助かり、由紀を疎んだ者たちは消えた。この状況では実家の人間も全員助かるまいと由紀は冷たく、そう思っていた。

 「あっ!先輩、こんなところにいたんですか」

 「ん?みーくん?」

 教室の扉をガラリと開けて入って来たのは美紀だった。由紀にとって、慈の次に手を差し伸べてくれた優しすぎる人。彼女は一切、由紀となっていることに気がついていない。

 「どしたのー?」

 「いえ、授業がそろそろ終わる頃かな、と」

 何故か少しモジモジしている美紀に、由紀はハッとしてあることを思った。

 「(これは、先輩の授業が終わるのを見計らって来てくれる理想の後輩!)」

 アドベンチャーゲームではよくあるシチュエーションだと由紀は思い、悪戯っぽい笑顔になった。そんな由紀に美紀は首を傾げるだけ。なんて可愛い後輩なんだと由紀は思ったが特に何もしない。

 「みーくんはいい後輩さんだ!」

 「え、え?何が………?」

 「そうやって迎えに来てくれるなんてわたしは初めてだよ!」

 下手すればこれは人生で初めて。

 大事なのか大事じゃないのかわからないが、自分の父は帰りに車を寄越さなかった。大富豪の娘だからといって送り迎えを由紀の親はしてくれなかった。運転手もいたというのに。

 「初めてって、まぁ、光栄です」

 照れた様子で言う美紀に由紀は「もぉー可愛いなぁー!」と美紀に抱きついて頭を撫で始める。

 「うわっ。先輩、何をするんですか!?」

 「いや〜、みーくんは本当にいい後輩だからいい子いい子!」

 「ううっ…………や、やめてくださいよ………なんか照れます」

 美紀も嫌がるそぶりをあまりみせずにされるがままにしている。美紀を撫でる手が艶のある美紀の髪の毛の感触を伝えてくる。そのまま由紀は美紀にくっついたまま手を顔に沿わせて動かし、頬を触る。

 「な、なんですか先輩」

 「ん〜?」

 由紀と美紀の顔は近かった。あまりにも。それこそ、ただの先輩後輩というには異常なレベルで。

 「そ、その、そういうのはまだ早いというか、なんというか……」

 「何をいってるのかにゃ〜」

 「わひゃ!?」

 からかうような由紀の声と共に美紀は頬を優しくつまれる。そのまま感触を楽しむように由紀が美紀のほっぺたをむにむにしていると、美紀が顔を真っ赤にしてジトーと由紀の眼を見る。

 「しぇんふぁい、やめてくらふぁい」

 「えーもうちょっとだけー」

 「おこりましゅよ」

 「ごめんなさい」

 ちょっと美紀が睨めば由紀は悪戯をやめた。凄まじい早さで反応した由紀に美紀はため息をつくも、それ以上は何もなかった。

 「ふざけるのも大概にしてくださいよ。それで、りーさんが菜園での作業を手伝ってほしいというので、来てくれます?」

 「モチのロン!」

 胸を張って応える。そうして、少しだけむなしくなる。悲しいかな、目の前の美紀は着やせでもしているのかちょっと“大きい”のだ。一方で由紀はいつまでたってもお子様体系である。

 おまけに美紀はガーターベルトをしている。由紀からはそんな美紀が色気ムンムンに見えた。

 「………先輩?」

 「な、なんでもないよ!さぁ行こう!」

 「変な先輩」

 まるで、どこにでもあるかのような平和な日常を今、由紀は謳歌している。

 

 




<今回の変更点>


「頼れる仲間はみんな狂ってる」
 人間性を捧げ(ry
 何はともあれ、全員どこかおかしいけどその分、正常な部分もある。それが上手く作用してる。

「圭のタガ」
 友を守るために親愛を越えた愛は容易く圭を鬼へと変える。

「圭の父」
 駅に向かった理由をこちらではこのように解釈。
 原作ではもしかしたら駅に何かがあると思っていたのかもしれないが真意は不明。なんであれ、かないは六巻を読んで悲しかった。

「由紀の理想」
 幻想が作り出す最良の学校生活。神山先生はそんな理想の学園生活の中で今でも由紀の中で、理想の先生であり続ける。

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