せきにんじゅうだい!   作:かないた

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#11

――購買のパンって美味いのと不味いのが極端な時あるよな。あとラーメンはソフト麺だし。

 その点、りーさんの飯は美味い!ホント、なんで彼氏がいないのかわからない。家庭的だし、美人だし、おっぱいでかいし。あぁでも、包丁持った姿がなんでか似合ってて怖いんだよなぁ。まさかそれか?

 

学園生活部戦闘員 恵飛須沢 胡桃

 

 

 

 仮入部歓迎会から僅か数日後である、美紀と圭が入部を決めた。それをゆきは大いに喜んで、圭と美紀に抱きついていた。

 「けーくんにみーくん!よくぞ入部を決めてくれたっ!ここに入部届けを受理してしんぜよう」

 「ははー!」

 芝居かかった口調でふざけるゆきにノリのいい圭が付き合い、よくわからないやり取りが行われている。尚、入部届けは本来、部長である悠里の受け取るものだが、ゆきがやりたいと言ったため悠里は任せた。

 「楽しそうですね、ゆき先輩」

 「家柄は間違ってない」

 「そういえば丈槍ってどういうお家なんですか?」

 「さぁな。ただここいらだと有名な金持ちだった気がする」

 胡桃はさしてゆきの実家に興味はなかった。現状、それで何か不都合が起きている訳でもなければ“こうなる”前のゆきはちょっと明るくない程度で大きな違いは無い。

 興味が無いものはどうでもいい胡桃であった。

 風土史などはそれなりに詳しい美紀だったが、丈槍という苗字の富豪は聞いたことがなく、本当にそうなのかと疑ってしまう。ただ、悠里が言うには、ゆきは料理をしているところをここで初めて見たというのだから本当だろう。

 「はいっ!めぐねぇ!二人の入部とどけ!」

 「ありがとう、ゆきさん」

 ゆきから入部届けを預かった慈は机の上に置いて、あらかじめ準備しておいた判子でそれを受理したとし、この瞬間から正式に圭と美紀は学園生活部に入部した。

 「それじゃあ改めて!二年の祠堂 圭!これより学園生活部に入部します!」

 「同じく、直樹 美紀。これからよろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げた二人に、パチパチと拍手が起きる。新たな仲間の誕生に、誰もが喜んでいた。が、後輩が出来た途端によく起こることがここでも発生した。

 「よーし!んじゃ早速仕事だ!圭と美紀、ちょっと行くぞ?」

 胡桃がそう言って立ち上がり、スコップを手に持った。今日のスコップはなんだかいつものとは別のやたらシールなどが貼られたマーキング仕様で、まるでロボットの武器のようだった。

 ちなみに、もう胡桃の肩は完治している。治癒能力の高さは本当だったと悠里は呆れてしまった。最初に出会った時はただの陸上部の女の子かと思えば、時が経つにつれてこの様である。

 この誘いに美紀は露骨に嫌な顔をした。

 「えっ…………ヤです」

 「はぁ?先輩からの誘いを断るとは………圭は?」

 「私はりーさんと約束があるのでー」

 「おっし。じゃあ、美紀いくぞ」

 「きょ、強制ですか!?」

 美紀が胡桃と共に行動したくない理由は、ちょっと前にやった鬼ごっこのせいである。重りをつけている上に本調子ではないというのに人間離れした足の速さに度肝を抜かれたのである。

 アレと一緒に行動したくない…………ついていけないという物理的な理由とグイグイと来る胡桃がちょっと美紀は苦手だった。いい先輩には違いないが。

 「大丈夫だ。もうこの前みたいに捕まったらくすぐりの刑とかしないし。ちゃんと今度は仕事だから」

 「何をするんですか?」

 「まずは午前のうちにお前らのロッカーを運ぶ」

 「「あぁ…………」」

 美紀と圭のロッカーは未だに準備されておらず、胡桃が回復した今、取りにいこうというわけである。

 「はーい!はーい!わたしも行きたいよ、くるみちゃん!」

 「ゆき。お前力ないだろ?だからお前は屋上で掃除の準備。めぐねぇもいい?」

 「そうねぇ、いいわよ。ゆきさん、いきましょ?」

 「うん!」

 慈にゆきを任せ、ゆきが飛び出すと慌ててそれを慈が追いかけた。いつもの光景である。そんな二人を目線で見送った悠里が胡桃に視線を流す。

 「で?どうするの?」

 「おいおい、そこは…………そうだな圭、考えてみろ」

 「え?三人でいけばいいんじゃないですか?ロッカー運び二人に戦闘要員一人で」

 「理解が早くて結構!というわけで、本当はそれで済むんだけど環境慣れも含めて四人で行こう。美紀とわたしが周辺警戒。残り二人がロッカーを輸送だ」

 ロッカー輸送役の悠里と圭は屋上まで運ぶということを決められてちょっと不満だったが、ここは気にしないことにした。これからここでの初陣なので、今後もこういうことがあるであろうし慣れてしまう必要がある。

 「いいですけど、くるみ先輩。私は何を使えば?」

 「何がいい?」

 「武器、選べるんですか?」

 「槍、出刃包丁、火炎放射器、弓、スコップ、シャベル。どれにする?」

 いくつかはわかるが火炎放射器はなんだと美紀は唖然とした。汚物を消毒とでも言いたいのか。

 「…………槍で」

 「おーけーだ。そういえば、圭もやれるのか?」

 「私、か弱いんで無理です!」

 「おう。いい度胸だな、圭。後で憶えてろ」

 悪ーい笑みを浮かべて胡桃がちらりと圭を見る。ゆきがついていけないため、ムードメーカー役をやろうというのか。胡桃は大歓迎だった。何をするにしても楽しくやったほうがいい。そこはゆきをリスペクトだ。

 「それじゃあ取りにいくが…………美紀、どうした?」

 「あの、槍はどこにあ……?」

 「あっ。くるみ、あなたそういえば回収は」

 悠里に指摘されて胡桃は思い出した。そういえば槍は遠足の出発時に使用し、そのまま放置である。今頃、倒したやつに突き刺さったまま直立していることだろう。

 「あー、悪い。お前ら助けにいく前に使って、そのまんま外だ」

 「え」

 「というわけで美紀。ちょっと試しにこれ使ってくれ」

 そう言って胡桃が手渡しのはモールで回収した伸縮式のシャベルである。軍の払い下げ品らしく、アーミーグリーンのカラーから頑丈そうだ。

 「かっこいいね、美紀」

 「………………」

 今時、音楽プレイヤーを使って音楽を聴く圭の感性は美紀とは少し違っているとは思っていたが、まさかコレをかっこいいと言われるとは思わなかった。ただ、圭も美紀の妙に男心をくすぐる格好に疑問を持っているためおあいこだが。

 元々、圭と美紀がモール時代に使用した武器や戦い方はスマートなもので、こんな鈍器とも刃物ともつかないようなものを使ったことはない。慣れろと言われて背負って鬼ごっこなどをされたが、どうにも理解不能な部分が美紀にはあった。

 まだ伸縮式なだけ取り回しが良く、マシなほうだが実際に敵と遭遇しても振るえるかどうかは扱い的な問題で不明だ。

 「よし!みんな丸太…………じゃないな、スコップは持ったな!?「シャベルです」うっせぇ!いくぞ!」

 「くるみはホントに漫画が好きねぇ」

 「りーさん、お母さんみたいですね!」

 「あらやだ」

 あらやだの動作が妙に洗練されていたのを圭は確認したが何も言わなかった。糸目の人は怒らせてはいけない。

 

 

 

 (胡桃と美紀が)武装して、四人は階段を降りる。その最中、美紀はふと疑問に思ったことがあったので悠里に訊ねた。

 「あの、そういえば今日はゆき先輩は授業じゃないみたいですけど、どうしてですか?」

 「え?今日は日曜よ?」

 「……………曜日感覚残ってたんですか」

 「そりゃそうよ。学校としての機能を最低限残して生きて来たのよ?」

 「おかげさまで金曜の天国と月曜の地獄もまだ味わえるぞ」

 「幸せですねー」

 確かに圭の言う通りある種、幸せなものだが、なんだかんだでまだ授業を低い頻度とはいえ受けている悠里と胡桃はいまいちその有り難みが薄れている。

 なにせ、状況が状況のため期限は出来次第とされているが慈から宿題も出されるのである。それをまだ胡桃と悠里は圭と美紀に伝えていなかった。

 「めぐねぇも、最近は国語どころか簡単な数学とか、理系の授業もし始めたからな。よくやるよ、この状況で」

 実は先日の遠足中に発覚した寝不足の原因は調査や由紀との密会の他、授業のための予習のせいだったが、この隠れた慈の努力を知るのは由紀だけである。

 ちなみに、慈の教師志望は美術→日本史→国語という方向でシフトしている。趣味に走ろうとして、それが上手く行かなかったための国語教師である。これも生徒たちが知る由もないことだが。

 「めぐねぇの授業ってどんなかんじなんですか?」

 「そうねぇ…………普通ね」

 「普通だな」

 圭の問いに、あまりに当たり前な言葉を返す悠里と胡桃。実際にそうなのだから仕方ない。簡単すぎる訳でもなければ、難しいわけでもない。わかりやすいかと言われればそうでもなく、わかり辛いかと言われるのも違う。

 基本的にはよくあるような授業だ。

 「ただ、美紀たちは二年だし、同じ勉強をするわけにもいかないよな」 

 「それなら、美紀は大丈夫だと思いますよ!美紀、学年でも上位でしたし」

 「へぇ?」

 「そ、そんなことないよ圭。それに点数がいいのは英語だけで」

 「それでもすごいよぅ」

 美紀の得意科目は英語だった。ただそれは本好きが行き過ぎて翻訳版の本を読んだ後に原語の本を読んでいるおかげだった。何か特別な勉強をしていたわけではないのだ。

 もっとも、このような状況になってからは美紀も圭も学業から離れて久しいのだが。

 「ま、たしかに美紀は頭良さそうだよな」

 「先輩!私は?」

 「お前はなんか良くも悪くも今時の女子高生って感じが」

 圭の質問に胡桃がそう応えると、圭は憤慨した様子で「先輩だって今時の女子高生じゃないですか!」と言ったが、胡桃は「へいへい」と気の抜けた返事をするだけでそれ以上は取り合わなかった。

 「っと。ここだ」

 階段を降りきり、一階の左翼部分の階段踊り場に四人は到着した。そこには従来の机と椅子と有刺鉄線を使用し作成されたバリケードがそびえ立っていた。

 その向こうにはまだ“彼ら”の姿が見えない。

 「さて、というわけでロッカーを運ぶわけだが最大の問題がここだ。バリケードを越える際に一度、上にロッカーを持ち上げて、そこからこちらに入れなくちゃならない」

 「くるみ、それはどう解決するの?」

 「とりあえず、ここのバリケードを越えられれば多少はゆっくりでいい。だから、まずはロッカーを一年の教室から一つ持ち出して、それを美紀、圭、りーさんの三人でバリケードを越えるように持ち上げてもらい、わたしはその間、三人の護衛だ」

 胡桃のプランは行き帰りともに美紀と胡桃による護衛を行い、最後のロッカーのリフトアップ時のみ胡桃単独で護衛に回るというものである。

 しかし、これは女子の力ではバリケードを越えてロッカーを持ち上げるのは無理なため、悠里が代案を出した。

 「後が面倒だけど、下の鉄線を切ってしまうのはどう?」

 「なるほど、下を通すのか。いけるか?」

 「んー…………あら、あそこだけ椅子がないから背もたれが下向いてないし、通せそうね」

 悠里が指差した先には確かにバリケードの一部に椅子がなく、ロッカーを通せそうな空間がある。なんであんな空間が、と胡桃は思ったが、すぐにあれはバリケード作成後に即時撤退用の胡桃のための抜け穴だと思い出した。

 確かに、こっちのほうが楽だ。

 「そうですね。そうしたら、私とりーさんだけでいけるかも」

 圭が悠里の案を推し、胡桃もこちらのほうがいいと判断して頷いた。美紀は一連の流れについていけず、黙っていることしか出来なかった。

 胡桃がバリケードの上によじ上り、向こう側へと降り立つ。彼女に続き、美紀もバリケードを越えた。

 「それじゃあ、いこう。慎ましく、女の子らしくね」

 胡桃がスコップを頭の上で回転させたかと思うと勢いよく、正面に両手で構える。まるで大剣を構えたかのような動作だった。一方で、美紀は静かに、表情を澄ましたものから一切変えずにシャベルの柄を伸ばした。

 二人の登場に廊下を徘徊している“彼ら”が気がつく。胡桃がそれを確認して、ニヤリと笑った。

 「そんじゃあ…………突撃ィ!」

 「「「慎ましくいくんじゃなかったの!?」」」

 勇ましく猛り、猛然と駆け出した胡桃に、思わず他の三人はツッコミを入れざる得なかった。

 

 

 

 一階で胡桃が暴れだした頃、屋上で掃除の準備を進めていた慈とゆきは水道の蛇口にホースをつないでいた。

 「ゆきさん、付けた?」

 「うん!」

 一通りの道具は全て用意してある。デッキブラシに雑巾。洗剤や落とした汚れが菜園に行かないようにするブルーシートも。ここは悠里のための領域だ。だからか、慈は実はそんなに多くの頻度でここにはこない。

 ここには“園芸部としての悠里”が生きているのだから。

 一先ずの準備が完了し、ゆきが手持ち無沙汰になっているので慈は何かを話そうかと思ったが、その前にゆきが何かを思いついたかのように肩をはねさせた。

 「あっ!そうだ!いいこと思いついた!」

 「どうしたの?」

 「めぐねぇ!社会科見学いこうよ!」

 社会科見学?思わず慈は首を傾げたが、ゆきが興奮した様子で語りだす。

 「ゆきさん、社会科見学といってもまずどこに行くの?」

 「えっ…………えっと、それはーそのー」

 どうやら思いつきで言ったようだ。これで変に駄々をこねられても大変だと慈は苦笑気味になるが、彼女の機嫌を損ねないように上手く説得しようとする。

 が、そうしようと口を開きかけた直前に、ふとある考えが浮かんだ。

 外に調査をしに行くには上手くゆきを誘導しなくてはならない。が、これなら今後も継続的に外への調査を行いにいけるのではないのだろうか。

 「……………めぐねぇ?」

 「ゆきさん、社会科見学のこと、職員会議で聞いてみるわね?」

 「ほ、ほんと!?」

 「えぇ」

 遅かれ早かれ、情報を集める必要がある。そのためには“ランダル製薬”に関連する知識も外で収集する必要がある。といってもどこに行ったものか。

 この土地について詳しそうなところといえば――

 「……………市役所、か」

 巡ヶ丘市役所。この土地の行政施設である。いわば、一番黒幕に近く、尚且つ生き残りもいそうな場所である。資料が生きていれば、もしかしたらこの土地を以前に襲った“男土の夜”の詳細やその他にも手がかりになりそうなものもあるかもしれない。

 それに何より、国とも繋がりがある公的機関だ。もしかしたら、市役所にも学校やモールのようなマニュアルがあるかもしれない。それに、場所が場所なだけに黒で塗りつぶされた部分がない“原本”かもしれない。

 「そうね、行く場所もなんとなく思い浮かんだから、後日伝えるわ」

 「ありがと、めぐねぇ!」

 ゆきが喜んだように両手を挙げて喜ぶ。慈もそれを見て微笑むが、内心どうしたものかと悩む。

 市役所に行くのはいい。生き残りもいたとする。それで果たして、味方だろうか。もしかしたら“敵”かもしれない。そうなった場合、現有の戦力ではどうにもならない。

 また、全員で行くのは危険だ。今度は敵がいるかもしれない場所だ。最悪、慈一人だけで行く必要があるかもしれない。だが、それはいくらなんでも自殺行為だ。

 何か手は無いものかと考えるが、上手くまとまらない。戦術に関する思考は悠里のほうに丸投げだ。慈はいつも、事を起こすまでの戦略を立てるほうが向いていたので、そちらばかりやっていた。

 己の力の限界。慈は自身でも、次第に大きくなっていく事態にそう感じていた。本当なら大人である自分がなんとかしなければいけないが、この状況ではそれをするのが愚の骨頂だ。

 最低限のラインだけ護って、使えるものは使わなくてはならない。

 ただそんなことを考えていても、まずはやるべきことをやらなくてはならない。それが今日のロッカー回収と掃除だった。

 




<今回の変更点>


「お嬢様のゆき」
 お金持ちでお嬢様だからといって幸せではない典型例。料理も広い場所で一人、子供の頃から周りには避けられ、家では家庭教師の顔ばかり。そんなお嬢様が冒険者になるのはどこかの冒険譚でよくあること。

「ロッカー回収」
 上階の教室にあるものはほとんど外に投げ捨てられている。そのために一階へ。

「曜日感覚」
 地獄のような世界でも残り続ける悲しき呪縛。

「社会科見学」
 情報を得るために学園生活部は再び外へ。でも、行く前にアポ取りと下見はしないといけないよね?

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