七つ夜に朔は来る【未改訂ver】   作:六六

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 題名が思いつかんから適当に。
 ネタ話で総文字数40万字を超えるとかありえない。

 本編とは関係ないんだってヴぁ。

登場人物紹介

七夜朔:とある屋敷に住み着くごく普通の殺人鬼。

骨喰:とある殺人鬼にとり憑くごく普通な気もする日本刀。

遠野志貴:とある屋敷で暮らすごく普通だったらいいのにと思う青年。

アルクェイド・ブリュンスタッド:とある町に何故かいるごく普通ではない吸血姫。

シエル:とある学校に居座るごく普通とか笑っちゃう先輩。

遠野秋葉:とある財閥を束ねるごく普通なわけがない妹。

翡翠:とある屋敷で働くごく普通っぽいメイド。

琥珀:とある屋敷を影から動かすごく普通が裸足で逃げ出すドクターアンバー。 


短編めるてぃぶらっど! とある給仕の呼称変化

 今日も今日とて遠野邸の家事(料理以外)を担当し、今も使用されることが無い部屋の整理。またこの屋敷の住人達の部屋を清掃するなど普段通りの仕事に精を出し、途中に見つけたネコアルクを洗脳した後、自身の主である遠野志貴の世話で彼と手が触れ合い顔が真っ赤になるなどのハプニングもあったが、実に充実した一日だったと翡翠は思った。

 

 琥珀がその場面を発見しちょっとした騒動まで発展しかけたのはいただけないが、その後共にパーティーのセッティングもしたので引き摺ることはなかった。それに姉に対していつまでも引き摺っているのは意味が無い。

 

 さて、そんな翡翠だがちょっと最近気になることがあった。

 

 翡翠の今後を考えるならばちょっとどころな話ではないのかもしれないが、それを面前かつ直球に関わりあうほど翡翠は器用ではなかった。翡翠は誠心誠意かつ真面目な性格であるが同時に恥ずかしがり屋なのである。

 

 しかし、未解決のままにしておけば後々何らかの支障が出る事は確実。だから翡翠は気になりはするけども、それをどうすればいいのか迷っていた。

 

 翡翠の気がかりを解決するためには、とある人物たちに着目しなくてはならない。

 

「――――」

「はい、どうぞ朔ちゃん。いっぱい食べて下さいねー」

 

 琥珀がチョイスした食べ物が載せられた皿を渡されて、朔はそれを味わうでもなく無言で食べていく。

 

「これ、わたしがつくったんですっ。朔ちゃんの好きなものたくさん作りましたので、どんどん食べて下さいね」

「――――」頷きながら朔は食べ物を一つ食べる。ちなみに今食べたのは魚の煮付けである。

「朔ちゃん、おいしい?」

「――――ん」

「本当ですか!?よかったぁ、頑張った甲斐がありました!」

 

 こくりと朔は頷く。それを見て琥珀は幸せそうに笑った。その笑みに影は無く、心の底から今を楽しんでいるような笑みである。

 

 現在客人として迎えられたシオン・エルトナム・アトラシアの歓迎会と称し、ちょっとした立食会が行われていた。

 

 無駄に広い食堂を使い今日の主役であるシオンを始め遠野の人間、何故かいるアルクェイドやシエルが笑顔で毒舌の応酬を行っている。その手には何だろうか、二人の手にはにんにくソテーにカレースパゲティと仄かな悪意が見えなくも無い。

 

 志貴に構ってほしい二人だから足を引っ張り合っていがみ合っているのだろうが、騒ぐ二人を秋葉は頬を引き攣らせながら無視している。恐らくものの一分で爆発するだろうが。

 

 ちなみにその騒動の原因である志貴はシオンと共に談笑を愉しんでいた。ざるである秋葉がいる事によりお酒が振舞われているので、志貴やシオンも既に飲んでいるのかほんのりと頬が赤い。なかなか良い雰囲気であるが、それはそろそろ終わりを迎えそうである。具体的に言えば肩を震わせるアルクェイドやシエル、果ては秋葉の手により。どうやら気付かれたらしい。

 

 しかしそんな会場の中、やはり翡翠が気になるのは琥珀と朔である。琥珀が一方的に構っているというか、客人らの相手をしながらも朔の側を全く離れない琥珀と、それを当たり前のように受け入れている朔。そして本当にわかりにくい事であるが、その朔もそれとなく琥珀に気を使っているようで、琥珀の手に持たれた皿の食品を手渡しで琥珀の口元に運んでいる。その雰囲気はオシドリ夫婦という奴だろうか。寡黙な朔とそれに付き添う琥珀の姿はなんとなくそう見える。羨ましい。

 

「……はぁ」

 

 そしてそう思い、翡翠は人知れず溜め息をついた。それは本当に微かなもので、翡翠すらも自覚しなければわからないような溜め息である。

 

 翡翠が気になるというのは琥珀と朔である。

 

 琥珀は言うに及ばず翡翠の姉である。翡翠とは違って快活かつ朗らかな性格である彼女は翡翠と瓜二つな顔をしているのにその雰囲気からかちょっと似ていない。着物姿と給仕服という違いもあるだろうが、表情が良く変わり、また気さくで人を笑顔に出来る彼女を翡翠は純粋に羨ましく思っていた。

 

 とは言え、翡翠と琥珀の仲はいたって良好。そこに暗い感情は芽生えないし、これからも彼女にそのような感情を抱く事はないだろう。しかしたまに悪戯が過ぎるのは考え物であり、はっちゃけているぶっとんだ姉である。

 

 さて、そんな琥珀の隣にいるのは彼女の主である遠野志貴の兄、七夜朔である。

 

 とある事件を経て遠野邸に住み着くようになった人物で、実は以前にも遠野にはいた。その頃から翡翠は朔と出会っているのだが、これはまあ本編を続けてからにしよう。

 

 久しぶりに再会した朔であるが、彼はどうしてか以前の彼よりもだんまりが多く、寡黙というよりも殆ど無口。とは言え昔も朔の声なんて聞いたことは無いが。遠野邸にいる無口姫レンと肩を並べるレベルである。せめてもの救いは仕草もまた彼女レベルという所だろうが、つまり矢鱈とコミュニケーションが取り辛い。

 

 志貴の肉親であり、また琥珀の大切な人物である彼とコミュニケーションが取れぬとは使用人失格であると一念発起し、彼との接触を必死に行っている翡翠であるが、気になるところとはそういうものではない。

 

「朔ちゃん、お酒はいかが?この前侵入してきたブサイクネコさんの所からちょっぱってきたお酒があるんですよ。その名も猫殺し、化け猫も地獄へ弾丸ツアー0泊7日のお陀仏コースな幻の気もしなくもないお酒です!」

 

「――――」

 

 今も見ようによっては仲睦まじい琥珀と朔の二人であるが、その関係は一体どういう風になっているのか、翡翠は全てまで把握できていないので何とも言えない事であるのだが、翡翠の身近であんなに仲が良い二人である。琥珀が翡翠と結ぶ関係とも異なり、また志貴が朔と結んでいる絆とも違う、あの二人だけの仲。

 

 果たして、あの二人は結婚するのだろうか?

 

 会場の中心では今まさに客人二人と遠野当主が取っ組み合いの喧嘩に発展し、否応なくその視線はそこに向けられるが、それでも翡翠は琥珀と朔の二人を見る。

 

 琥珀は微笑んでその光景を楽しげに眺めており、また朔は時折その体がぴくりと反応する以外に変化も見えない。どうやらアルクェイドやらシエルやら秋葉の気配に血が滾っているらしく、指先にまで血管が浮かんで少々怖いが今のところどうやら人外の自制心で押さえ込んでいる様子である。

 

 顔を驚愕に変える志貴やシオンとも違う反応で、二人は泰然とそこにいる。その雰囲気はもう熟年の老夫婦である。

 

 そう言えばこの前も琥珀と暇してた朔が買出しに行っていたが、琥珀が自然と朔の腕に自身の腕を絡めて寄り添いながら歩いていた。ぶっちゃけ志貴とそんな事も出来ない翡翠からしたら羨ましい限りだ。

 

 しかし、翡翠の感情を差し置いてもあの二人の関係は気になるところ。もし結婚するのならばそれで良いだろうし、翡翠自身も実に良い事だと思うが。

 

「どうしたの?翡翠ちゃん」

 

 そんな翡翠の前に琥珀が近づいてきた。気のせいか晴れ晴れとした笑顔である。

 

「あ、姉さん。……朔さまはもう良いの?」

「ええ、朔ちゃん成分もしっかり補充できました。ほら!」

 

 そう言って笑顔を見せ付ける琥珀である。確かに本人二割増なツヤツヤ笑顔である。五割増ぐらいなら顔から光線でも撃てそうである。

 

 どうやら朔は側にいないようで、今は黙々と食材を消化している様子である。

 

「――――」

「…………」

 

 その側にはいつの間にやらいたのかレンがもきゅもきゅケーキを食べていた。なごんで仕方がない。

 

「姉さん、あの」

「何、翡翠ちゃん?」

 

 気軽に話を聞いてくれる琥珀にありがたく思いながら、翡翠は思い切って聞いてみることにした。

 

「朔さまと姉さんは仲良いですよね」

「そうですよー、朔ちゃんと私は一緒にいるのが当然なんです」

 

 臆面もなくキラキラと言ってのけるその自信をほんの少しでも分けてもらいたいと思いながら、翡翠は「それじゃあ」と続けた。

 

「姉さんと朔さまは、結婚するのですか?」

「へ?」

 

 翡翠の言葉に目が点となる琥珀。まるで全米が感動したと言う宣伝文句に期待し見に行った映画がスプラッタものだったような表情である。てかどんな顔だ、それ。

 

「……違うのですか?」

「そ、そうですよ!私と朔ちゃんはずっと一緒にいるんだから、そ、それぐらいちょちょいのちょいです!!?」

 

 ジェスチャー混じりに琥珀はアワアワと言っているが、何を片付けるのか不明である。

 

「それじゃ、つまり結婚するという事なのね?」

 

 顔をずい、と近づかせて翡翠は確認する。しかし暫く顔を真っ赤にさせた琥珀は、ぼそぼそと小さい声で「……出来たら、いいなぁ」と呟いた。

 

「出来たら、ですか」

「……私が思ってるだけなんですけどねー、こればかりは朔ちゃんと決めないといけない事ですし」

 

 琥珀の言葉を聞いて翡翠は「なるほど」と納得した。つまり琥珀は結婚をしたいらしいが、現実的にするかどうかはまだ分からない、という事らしい。この反応を見れば明らかである。しかし秒読みはスタートしているように見えなくはない。

 

「おめでとうございます、はまだという事ね、姉さん」

「うー!うー!」

 

 権謀術数を張り巡らし、遠野邸影の支配者と呼ばれ、遠野地下帝国の主である琥珀がこんな恋する少女の如くに顔を真っ赤にさせれば、同じ女である翡翠にも分かる。ただそれにつられて翡翠の顔もほんのり赤くなるのはご愛嬌だろう。

 

「では、もし姉さんと朔さまが結婚した場合ですが」

 

「はい」

 

「私は朔さまをなんとお呼びすればよろしいのでしょう」

 

「はい?」

 

 今度は違った意味で琥珀の瞳が点になった。

 

「だってそうでしょう、姉さん。姉さんと朔さまが結婚するという事は家族になるという事。それはつまり私や志貴さまも家族になるという事だわ」

 

「まあ、そういうことになりますかね」

 

 翡翠や志貴は直接的な関係にはならないけれど、姻族として義兄弟の関係にもなる。つまり志貴と翡翠は主と使用人という関係であるが、そこに兄と妹の関係が生まれるのだ。実は密かに志貴と義兄弟になって兄と妹のイケナイ関係を夢見る翡翠であった。近親相姦おいしい。

 

「でも、そうしたら私も朔さまと兄妹になるの。私、どうすればいいのか……」

 

 朔の立場は現在妙な事になっている。

 

 志貴の肉親であり、秋葉の客人であり、琥珀の想い人であり、またシエルの仕事仲間である。アルクェイドとの仲は良く分からないが、そこまで険悪な仲には見えないし特に気にする必要はないだろう。そんな訳でごちゃった立場の朔は現在志貴が三人の喧嘩を止めるようお願いされているところだった。そして朔はこの三人の抑え役としての役割もなんか持ってたり。果たして騒動の原因である志貴がそのような事許されるはずもなく、次の瞬間には三人に詰め寄られていた。

 

「特に気に病む事もないと思うけど、ここは朔ちゃんに向かってお兄ちゃん(はーと)!と呼んじゃいますか?」

「遠慮します」

 

 流石にそれは恥ずかしい。難易度が高すぎである。

 

「えー、残念。こう、胸の前で手を組んで瞳をキラキラとさせながら「お兄ちゃん大好き!」とか言ってる翡翠ちゃん見てみたかったのに!」

「姉さん、それ私じゃないわ」

 

 もしそんな翡翠がいたら萌えて仕方ない。

 

 さて、どうしよう、と思った矢先にどうやら再び喧嘩が巻き起こったようで、八つ当たり気味に吹き飛ばされた志貴を見ながら翡翠は如何するべきかと再び考えるのであるが、ちっとも名案が浮かばない翡翠であった。

 

 別に朔に対して印象が悪いわけではない。だから身近な存在となるのも問題は無い。しかしその場合だと妹としては距離が分からないのである。妹は大変だ。

 

 しかし、そんな翡翠に琥珀は目元を緩ませるのだった。

 

「翡翠ちゃん」

 

「何、姉さん?」

 

「ありがとうね」

 

「え?」

 

 突然感謝され翡翠は戸惑った。

 

「何で姉さんがお礼を言うの?」

 

「だって、翡翠ちゃんは朔ちゃんの事も結婚の事も受け入れてくれて、しかもそんなに悩んでるって事は真剣に考えてくれているってことじゃないですか」

 

「……それは、家族の事だから」

 

 家族の事なのだから考えざるを得ない、と翡翠は思う。

 

 たった一人しかいない姉の事なのだから、尚更そうじゃないか。

 

「姉さんが幸せになってくれたら、私も嬉しいから。だから、私も頑張りたいの」

「……翡翠ちゃんは優しいのね」

 

 慈愛の視線を向けられて翡翠は恥ずかしくなった。やはりこういうところは姉妹の姉である。こういう柔らかい雰囲気は翡翠には真似できない。

 

「こほん。―――その前に姉さんが結婚できるかをどうにかしないといけないのでは?」

「はうっ」

 

 琥珀の胸に見えない何かが物理的に突き刺さったようである。

 

「っく、翡翠ちゃん言うようになりましたねっ!」

「姉さんの妹ですから」

 

 しれっと言い放つ翡翠だったが、その向こうで怪獣大戦争もかくやな三つ巴戦が勃発しているのはガン無視である。

 

「でも、少し楽になった気がします」

 

「そうなの?」

 

「はい……」

 

「よかったー、翡翠ちゃんの困った顔も可愛いけど、やっぱり堅苦しい事は考えないほうが楽しいですしね」

 

 そう言ってニパーと笑う琥珀だった。

 

「けど、やっぱり気にする事ないよ翡翠ちゃん。だって、ほら」

 

 琥珀は何気ない仕草で指を向けた。

 

 そこは吸血姫とカレーそして妹の最終戦争を離れた場所で、一撃KOされた志貴(朔によって回収されたらしい)が倒れ伏しており、その側には自分が膝枕をすべきかとアワアワしているシオンの姿があった。それを見て膝枕は自分の役目だ、と翡翠は思った。

 

「違う違う、そこじゃなくて」

 

 と、その側に目を向けられた。

 

「…………」

「――――」

 

 するとそこには、騒動なんて関係ねえと言わんばかりに退避している朔とレンが壁際に並んで、もきゅもきゅとしていた。

 

「………あ」

 

 そして翡翠は気付いた。

 

 ケーキを頬張っているレンはさて置き、今しがた朔が食しているサンドイッチは翡翠が作ったものだった。

 

 実は料理に忙しそうだった琥珀に混じって翡翠もと特製のサンドイッチを作ったのである。あまり料理の出来ない翡翠は精一杯頑張った。不慣れな手つきでパンをカットし、震える掌でサンドした。

 

 そうして出来上がったのは翡翠の好きな梅を挟んだ梅味サンドイッチである。ちょっと翡翠は頑張った。「これで志貴さんも昇天だね」と琥珀も言ってくれた。何故かその目は死んでいたが。

 

 しかし、それはパーティ会場の一角から魔王が放つ雰囲気も真っ青な何かを噴出して誰も手につけなかった一品である。だってオーラが悲鳴を上げる骸骨である。ヤバイったらありゃしない。

 

 それゆえ誰も手をつけようとしなかったのであるが、何で誰も食べてくれないのかと翡翠は志貴に進めた。翡翠、酷である。

 

 しかし志貴は劇画な顔をして食べてくれた。その際「我が生涯に一片の悔いなし……!」と呟いていたが、そんなにおいしかったのだろうか。また作ろう。

 

 しかし、それから誰にも手を作られず内心ちょっと落ち込んでいた翡翠なのだが。

 

「…………」

「――――」

 

 若干であるが、レンの視線から瀕死の傷を負いながらも頑張って生きている小動物を見ているような温さを感じながら、朔は黙々と梅サンドイッチを食べていた。

 

 その味は口に含めばエキセントリック、一口噛めばワンダーランド、飲み込めば前衛的というよりも寧ろ衛生兵である。しかも隠し味に何を使っているのか、随分とフルーティーに生臭い。どんな臭いだ。

 しかし、朔はそんな事に興味ないかのように淡々と食べている。顔は歪まないし、その口も止まらない。しかも一枚食べきったらもう一枚と運んでいく様はライン生産方式のようである。

 

 もし志貴がその光景を見たら驚愕に目を見開くだろう、それぐらい普通に食べている。

 

 その隣にいるレンは表情に出さないが、こいつはヤベエと少し戦慄していた。

 

 だが翡翠は気付かない。翡翠は純真なのである。

 

 翡翠の目には朔が美味しそうに自分の作ったサンドイッチを食べているようにしか見えなかったのだ。一心不乱に食べているその様は食いっぷりが気持ちよく、翡翠をそこはかとなく擽った。

 

 そして、翡翠なんだか呼び方で肩肘張る必要はないんじゃないか、と思った。

 朔はどんな形であれ、受け入れてくれるのではないかと考えた。

 

 それはまるで姉のようでそうではない。積極的に動く事はないが静かにいつもいる。受動的に泰然と佇ずみ安心できて寄りかかれる、頼れるその姿は。

 

「…………兄さん」

 

 知らず、翡翠の口元からそんな言葉が零れた。そしてそれは翡翠が思う以上にすんなりと彼女の内側に入り込んで、次の瞬間にはそれが自然な響きを持っている気がしたのである。

 

 しかし、こんなの恥ずかしくて言えるはずが無い。琥珀は姉さんと気にもせず呼べるが、それにまだ朔は正式に兄ではないのだ。だから翡翠はそれを胸の奥にそっと仕舞って、その時が来るまでそれは大切に取っておく事にした。

 

 そして、その時がきたら言おうと思った。きっと死ぬほど緊張して、顔から火が出るくらい恥ずかしいのだろうけど、精一杯の気持ちを込めて、そう言おう。

 

 ダブルKOならぬトリプルKOで倒れ伏すアルクェイドやシエル、秋葉を見ながら翡翠はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、朔ちゃん味覚の許容範囲広すぎです。私が作った料理と同じ反応とか、少し落ち込んじゃいます……」 

 

 ちょっと感動した翡翠の耳に落ち込んだ琥珀の言葉は聞こえなかった。

 

 ちなみに朔が梅サンドイッチを食べていたのは、争いを遠巻きに見ていて他に食べるものが手元になかったためであるが、知らないほうが皆幸せ。


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