誰にも見られることのない、月にも照らされぬ、影の出会い。
――――タスケテ。
タスケテ、タスケテ、タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ。
私の、願いなんて、叶った事がない。
ただ私は、我慢するだけ。
だって、私は、お姉ちゃんだから。
■■ちゃんは、私が守るから。
私が我慢していれば、■■ちゃんには手を出させない。
ギシギシ、ギシギシ、と音がする。
私は、また―――――。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
動物みたいな息遣い。
私は、また乱暴されて、■されている。
もう痛いのは、嫌なのに。
でも、私が嫌がると、■■ちゃんが、危ないから。
私は、我慢する。でも、痛くて、たまらない。
そんな私を■■様は、顔を歪めて、更に激しく乱暴する。
その目は、モノを見ているよう。
■される。■される。■される。■される。■される。■される。■される。■される。
涙も、もうでない。
早く、朝になればいい。
そうすれば、夜になるまで■されない。
でも。
朝になって、明るくなっても。
私には何もない。居場所も、ない。
私は、遠くから、眺めるだけ。
■■様がくぐもった声を上げた。
顔に、生暖かな■■がかかった。
私は、まるで、人形のようだった。
「よう、嬢ちゃん。嬢ちゃんに少し頼みてえ事があるんだが」
昼、誰もいない私の部屋に、その人は入ってきた。昼は、私には夜よりも辛い時間だった。夜になれば、また■■様に■される。
窓の向こう、■■の子供と仲良く遊んでいる■■ちゃんが見える。■■ちゃんは笑っていて、凄く楽しそうで、あの子を守りたいともう一度思う。窓の外に見える■■ちゃんだけが、私の支えだった。でも、時たま思う。
なんで、私はあそこに、いないのだろう。
眩しい場所に、私の居場所なんて、ない。
その人は、突然目の前に現れた。
妖怪のような人だった。背が高くて異様に手足が長い、着物を着た老人。
怖いとは、思わなかった。
心は、もう、動かない。
その人は、私の事なんかどうでもいいような瞳をしていた。私の事を、人形のように見ているような目をしていた。
その人は、自分を■だと言った。確かに、そのギョロリとした眼球は■のように見えた。
「こいつを、暫く預かって欲しいんだが」
そう言って、その人はおもむろにベッドにそれを横たえた。
人形かと、思った。
人形だと、思った。
いっそ、死体だと思った。
血の気のない肌。左腕のない身体には包帯が到る所に巻かれていた。
そして、その子は動いていないのに、目を開いていた。
瞳の色は、蒼。深い深い虚空を思わすような、空の蒼色。
生きているようには、思えない人だった、その生気の感じられない目が開かれている。それは少し滑稽に思えた。
だけど、何故だろう。その蒼色をした瞳が、何よりも澄んでいて、綺麗だと思った。
そんな事、思うはずないのに。
「なあに、■■には許可取ってる。それにあいつも親類から言われたんだ。蚤の心臓してやがるあいつだ、従うっきゃねえだろうよ。ま、俺が他の■■の連中に言ったから、ってのもあるんだがなあ」
そう言って妖怪は笑っていた。この世全てを見下したかのような笑い顔だった。
でも、そんな事、私には気にならなかった。
ただ私は、ベッドに横たわっている少年を見続けた。
「嬢ちゃんにやって貰いたい事は、ひとつだけだ。■に■■をやって欲しい。手段は問わねえ。何、嬢ちゃんが■■と■■しているのは知ってる。アイツも犬みてえにずっと盛ってるわけじゃねえんだろ?それ以外の時間は、■に使え」
人形の名前は■と呼ばれていた。でも、そんな事は、私にはどうでも良くて。
結局、私が期待されているのは、そんな事だった。私は、そんな事を、また。そしてこの人は、私が■■様に何をされているのか知っていて、それを頼んでいるのだと、直ぐに分かった。でも、助けてくれはしないことも、直ぐに分かった。
私は汚されて、穢されて、毎日辛い思いばかりしているのに。
■■ちゃんとも遊べなくて、外にも全然行けないのに。
だって、この人は、私の事なんてどうでもいいんだ。この人は私なんか見てなくて、ずっと■を見続けていた。
「んじゃ、頼むぞ。嬢ちゃん」
そして、その人は消えた。
残されたのは、私と■のみだった。
静かだった。生きている人間が、誰もいないようだった。
そこには、沈黙だけがあった。
「……」
私は■に近づいてみた。
■■様が許可しているという事は、私には拒否出来ない事だった。私の関わらない所で、私の事が勝手に決められていく。それをどこか簡素な部分で受け止めた。
■の顔に手を翳してみた。■はそれを見ていないかのように、瞬きもしなかった。まるで人形みたいだった。
私も、この人形みたいになれば、痛いと感じないのだろうか。
それは、私にはとても魅力的に思えた。
だって、痛い事は痛いから。辛い事は辛いから。
何も感じないようになったら、それは、とても幸せな事だと思う。
でも、■は動かない。人形みたいな■は、生きているのかも、分からない。
こんな全然動かない人形になってしまうのは、少し、ほんの少しだけだけど、怖いと思えた。
外を見る。暖かな日差しが、外にはあった。■■ちゃんが、笑っている。
だけど、この部屋は冷たくて、暗い。
そんな場所に、私以外の誰かがいる。
それが凄く、不思議だった。
そして、人形に成り掛けた少女と。
――――人形に成り果てた少年は出会った。