七夜は決して最強ではない。
思えば、七夜黄理との訓練の際、教えられた全ての事柄は否定から始まった。
七夜は最強ではない。決してこの世界で最も強い存在ではない。ただ超能力を保持し、人外の身体能力を持ち、暗殺術を伝えている、だけの存在。それ以上でも以外でも以下でもない。それは隠しようのない、紛れも無い事実。もし七夜がこの世界で最強だというのなら、なぜ七夜のものは死ぬのか。
それが答え。七夜は死ぬ。簡単に死に絶える。それは我々が弱いからではない。人間と言う領域ならば七夜は極めて高い場所に座する一族。長い時をかけて繰り返された近親相姦は、七夜の血を澄まし不純物のない身体を持つに到っている。ではなぜ七夜は死ぬのか。
この世には人間ではない存在が溢れている。人外の化け物。悪鬼羅刹の魑魅魍魎が跋扈する現界の地獄。これが世界の現実。
そのような者に七夜が勝てるのか。
勝つこともあるだろう。川原の砂金を発見するような確立で。
勝ちを拾うこともあるだろう。
だが、それは絶対ではない。
世界は化け物に満ち満ちている。裏に、夜に、影に、闇に、あるいは無にそれは潜み、あるいは闊歩している。そんな世界では、人間の想像を超える存在が当たり前のように存在している。
超越種と呼ばれる人間という種よりも上の存在がいる。それは血を好む吸血種とでも考えればいいだろう。中には肉を捨て事象に成り果てた存在もいると伝え聞く。そのような存在に七夜は勝てるのか。
勝てない。七夜は容易に死ぬ。ゆえに絶対は無い。七夜が勝つという絶対は無い。
覚えておけ。
七夜は退魔組織では混血を相手にしていた。それはつまり七夜にはそれ以外の道が無かったといえる証明。そして七夜はそれ以上の相手には相性が悪い。純粋な魔という存在に七夜は太刀打ちが出来ぬまま殺されるのみ。
だが、それでも七夜がなぜ蜘蛛として恐れられ、禁忌の存在となっているのか。
それは偏に、殺す殺さないという領域で、七夜に敵う存在がいないからに他ならない。
七夜は殺しを目的とし手段とし結果とする一族。
ゆえに殺すことを第一に、必殺を教え学び考え鍛え磨く。
他の退魔組織ではどうか。確かに彼らもまた魔を対象に動く集団。だが彼らの目的は七夜とは異なる。彼らは魔を相手に討伐し封印し祈祷し祓うことを目的にした一族であり、殺しは手段の一つあるいは結果でしかない。
これが魔なら更にはっきりとしている。魔が行うのは暴力。彼らはその自らが生まれ持った素養や能力を行使し、相手を圧倒する術を持っている。それは鍛えて得たものではなく、また望んで手に入れたものではない。彼らは自らが持っている力によってのみ暴力を行使し、その結果が死ということに他ならない。
七夜は違う。七夜は殺す。確実に殺し、必ず殺す。
それ以外は出来ぬ。それ以外をやろうと思わない。
それが七夜にとっての最善であり、存在証明でもある。
だから七夜は恐れられる。
七夜は殺人鬼だ。殺しを目的とし手段とし結果とする殺人鬼だ。
これほど最悪な者がいるだろうか。
七夜は生きているから殺すのではなく。
殺すために生きているなどと、自ら証し立てているのだから。
□□□
呼吸は深く長く。五体の隅々の先、指の末端にまで酸素が行き渡るように息を吸い、そして吐く。吐く息が白い。肺と胃の中にある酸素を吐き出し、肉体の中身を搾り出すようにして吐き切る。それが終わると再び息を吸う。それを繰り返すこと数回。冷たい空気が体中に染みる。姿勢は直立、あくまで自然体。そうすることで意識は次第に澄んでゆくのがわかる。雑多なものは消え去り、余分なものは取り払われ。
その呼吸は空手などに伝わる呼吸法に似ている。特別な呼吸によって全身の筋肉を刺激させ、更なる動きの発展へと結びつける。武道家が行うそれは、例え殺しの術を磨き続ける殺人鬼であっても変わりはしない。肉体を駆使する、という意味では両者共に同存在だろう。
夜。朔は訓練場にて一人佇んでいた。冬となって訓練場は夜の静寂(しじま)が増していったような気がする。
時刻は幾ほどばかり経っただろうか。黄理との訓練は疾うに終わり、朔は訓練場を動こうとせず、黄理に教えられた動き、黄理の行っていた動きを吟味していた。反復運動を繰り返し、自分なりの最良を見つけ出す作業。最短の動きで最速となる動き、肉体。それらを手にするため訓練が終わった後も一人鍛錬を行っている。食事を取ることなく、休息を取ることなく。
呼吸を整え、静かに目蓋を下ろしていく。疲労からか意識が解けていきそうな感覚が数回、それをあの日の残像で拭っていく。
あの時、目の前に現れた異物。
それを自分の内側は殺せと吼えたて、同調するように肉体が猛っていく。筋肉は痛いほどに熱を持ち、ともすれば自身の意識さえも侵食してしまいそうな感覚。
だが、これではない。こんなものではない。あの時の自分はこんなにも静寂な存在ではなかったはず。
意識を沈め、自分の中に潜り込み、あの混血という魔の姿、存在そのものを思い描く。姿ばかりが似ていても意味がない。魔。それにならなくてはならない。自分とは違う、人間とは違う、人間ではないもの、人間以外のもの、正真の化け物。
だが、脳裏で創造しようとすればするほど混血の姿は歪と化し、あの日の存在とは似ても似つかない存在に成り果てる。違う、これではない。
創造と否定の作業をどれほど繰り返したのだろう。元から出来ぬことだとわかっている。だからと言ってやらない理由にはならないが。しかしこの作業は混血と出会ったあの日から始まりこれまで続けられてきた。それはどのような反応を自分は示したのかと確認するためであり、そして自分自身の変化に対する問答でもあった。
変わったのは周囲だけではない。朔自身も変わっていった。取り返しがつかぬほど遅くなりながらも。
朔には人間がわからない。それは自分が周囲の人間と違うからだと思っていたからだった。だが朔はそれでもなぜ自分は違うのかと思い、ひたすらに思考を重ねていった。それだけが朔に出来る解答への至りだった。だが、今となって、朔は疑問を疑問と思わないようになってきていることに気付いた。自分が以前なら疑念を抱いたような事柄に対し、朔は以前よりも淡白、無機質になっている。それを良いことか悪いことかの判別はつかない。だが、そのような判断すらも朔にとっては価値の見出せないものになりつつある。
だからだろう。あの日の自分へと近づき、その答えを見つけようとしているのは。
梟と朔が対峙した後、朔の生活は一変していった。
朝、目が覚めると、縁側に朝食が置かれ、誰が作ったかもわからぬそれを誰も訪れることのない離れの中で一人食す。食した後、黄理との訓練が始まり、食事を取ることも休息を取ることもなく昼が過ぎるまで訓練を行い、その後夕刻となるまで一人訓練場で肉体を酷使する。そして疲労がピークに達する頃、黄理の命によって鍛錬を止める。その後食事を取った後、一人で就寝する。
そんな生活を自発的に朔は行っていた。自発的にだ。黄理によって気絶させられ、目が覚めたあの時から。自身を苛め続け、更なる高みを目指す。現在生活の全てが以前と比べ、はっきりと高みへ登るためだけに消化され続けている。一日中動かし続けた肉体は痛みの危険信号をけたたましく鳴り響かせ、それに合わせ意識は次第に澄んでいく。痛みが増すほどに意識の蒙昧さはどこかへと消え去り、あの日混血と対峙した自分と同じ状態へと近づいていく。
だがそれも一定以上凝らしていくと、意識が飛んでいく。そして気付くと離れで寝ている。おそらく誰かが運んでいるのだろうと推測し、その誰かを予想することなく再び訓練場に向かう。その度に朔は視線を感じたが、それもどうでもいいことだと思った。そんな生活も幾ほど経っただろうか。最早覚えていない。
最近志貴が六歳になったと、誰かから聞いた。その誰かは女性で、なぜか自身の表情を隠していたような気がする。震えるように感情を隠して。そして会話は禁止されていて、この会話も秘密なことだと言われた。
だが、果たしてあれは誰だったのだろう。
『食事はちゃんと取っていますか』
『休息は充分ですか』
あれは自分と親しかったのだろうか。柔らかな表情と、暗い色を湛えたあの女性。
記憶の中に似たような存在がいたような気がする。
だが、それが誰だったのか、わからない。
しかしそこでどうして自分は疑問に思っているのだろうかと、考えてみる。だが、その考えは果たして必要なのかと考え、そもそも自分に疑問は必要なのかとも考え、その考えを切って捨てた。
そして、それも、最早どうでもいいことだろう。自分にはきっと意味の無いことなのだろう。そもそも意味を求めること事態間違いなのかもしれない。そして朔はそれを間違いと決め付けるほど朔は判断材料を持っていなかった。
今となっては黄理とほとんど言葉を交わさなくなってきている。それは普段の生活のみならず訓練の時においても。その理由を朔は求めはしなかった。ただそうなのだろうと、変化していった周囲を受け入れた。疑念を抱くこともなく。
だがそれでも、変わらないものも、もしかしたら―――。
「兄ちゃん……」
気付けば、そこに志貴がいた。
終わらぬ精神統一を図る朔の側に、いつのまにか志貴がいた。夜の鮮やかな黒に紛れることなく、小さな少年は朔の側にいた。
「兄ちゃん。もう、夜だよ?家に、帰ろうよ……」
志貴は揺れる感情を持て余しているようにも見えた。落ち着きなく揺れ動く瞳が朔を見つめている。その感情が一体何なのか朔にはわからなかった。
いつからか、ひと気のなくなった朔の側。だが志貴だけはなぜかそこにいる。いつも変わらずに志貴は朔の側にいる。それが不思議でならなかった頃もあった。だが今となっては朔にそれの答えを求める感情は芽生えることもない。
しかし、帰りを促す志貴の存在を考え、志貴は黄理の代わりにやってきたのだと推測した。
それを、黄理とはもう会うことも出来ないのか、と漠然に思った。
残念とは思わない。
ただ、内側に余韻が虚しく響いた。
「兄ちゃん……?」
「……」
――――視界が僅かに霞んでいる。
しかし、自身の瞳が濡れていないことはわかっていた。
時折だ。朔の視界に突然微かな靄がかかることがある。
それはこの時のように志貴に見つめられている時だったり、あるいは離れに一人でいる時だったり、母屋にいる時だったり、はたまた訓練場にいる時だったり。高い頻度で靄がかかる。
だが、この靄。色がついているようにも見える。ただその色彩の判別が朔にはつかない。
そして視界いっぱいに靄が広がるのではなく、道筋のようにどこからか繋がり漂っている。これが何なのか朔にはわからない。他の人間、例えば志貴にもこれは見えるのだろうか―――。
「……」
そこで朔はかぶりを振る。
―――そんなことを考えてどうするのだろう。考えたところ、自身に答えなどわからないだろう。
朔は志貴の視線、不安そうな志貴の目を受け、離れに向かって歩いていく。この靄が何なのかわからないが、見ていても感慨が浮かびはしない。
はんば志貴が見えていないように動こうとする朔。
その身を、引っ張る力があった。
着流しの袖を志貴が掴んでいる。だがここに押し留めるような力はそこに無い。だと言うのに志貴は朔の袖を掴んで離さない。
「……」
志貴は俯いている。俯いて、黙り、朔の袖を掴んで離さない。
そして朔には、この手を振り払おうと思うことが、なぜか出来なかった。
そのまま二人は歩いていく。朔が志貴を連れて行くように。
頭上には月。冬の冷たく澄んだ空気で月の輪郭がよく見える。
満月まで、あと少し。
□□□
「御館様」
「翁、か」
屋敷の中、囲炉裏の間。火の灯る囲炉裏の前。そこに黄理と翁はいた。と言っても翁は先ほどになって現われたばかりだ。黄理は静かに座布団へ座し、黄理は力なく側にいる翁を見る。その翁を視界に納める瞳に僅かな疲労が見えた。それは肉体的なものでなく、精神的なものだと、翁にはわかっていた。
翁は先ほど見た光景を見て微笑みを湛えた。それは孫を見つめるような好々爺の表情だった。
『なんで兄ちゃんと会っちゃ駄目なの?』
『どうして誰も兄ちゃんと一緒にいないの?』
『なんで!?答えてよ、お父さん!』
『もう知らない!お父さんの莫迦!!』
目前で繰り広げられた志貴と黄理の問答。
その光景は正に親子の喧嘩にしか見えず、翁は密かに笑いを堪えていた。こんな何気ない光景が、七夜には生まれている。いつかと比べれば、七夜は変わっている。癇癪を起こす志貴、受け流すことも出来ない不器用な黄理。これを親子喧嘩と言わず何と言う。
だが、今現在の事態が重いことを翁は充分に承知していた。
「朔様が離れに戻ったようです」
「……そうか」
朔の名を聞き、黄理は僅かに視線を床に向けた。
あの時から始まった朔への接触禁止は今のところ滞りなく進んでいるようにも見える。だが、それは里の中に僅かな、逃してしまいそうなほどに小さな亀裂が生み出されていた。もとより朔と関わるものは少ない。だが、それでも皆朔を大事にしていきたいと思っている。それは朔が優秀だからとか、やがては当主になる可能性が高いとか、そういう打算のようなものも含まれているが、それ以上に通常、七夜の仲間意識は高い。
朔の父、名を排された黄理の兄は禁を破ったことで粛清されはしたが、それ以外の事態ならば七夜の意識は覆されない。
だが今回、黄理の命によってそれに動揺が生まれている。なぜ朔の扱いが変わってしまったのか、その原因を七夜の者は知っている。圧倒的な殺気。それを皆知っている。だが、それでも朔は十にも満たぬ子供。人の温もりが必要だ。例え朔がかつての父のようになろうとも、それだけはなくてはならない。
ゆえに皆接触を禁じられた朔に憐れみ、黄理に疑念を抱いている。
事実、黄理の妹は密かに朔と接触している。それはほんの数分の出来事。だが、そんな僅かなことでも咎めなくてはならない。しかし、いざそれを妹に言って、妹の冷たい視線に晒された。
『兄様は、それでいいのでしょうね』
あの言葉が、耳から消えない。
そして黄理自身、自分の行いが本当に正しかったのかと、後悔に身が震えた。
当主としては正しいのだろう。事実あの時感じた朔の気配。あれはかつて黄理の兄が発していた存在感そのものだった。遠からず、朔はそれに極めて近い存在になるという予感が黄理にはあった。
だから朔を隔離した。
精神的な枷を作り、もし朔が暴走しても他の七夜に危害が及ばぬように。そして、もし朔が狂気に呑まれた時、その時黄理は―――。
「……っく」
だがその答えを理性で捉えようとしても、黄理の父としての顔が歪んでいく。当主としてこれはきっと正しい。だが。
朔が徐々に変わりつつある。
それを肌で感じなくとも、黄理ははっきりとその目で見てきている。
より無機質に。より機械的に。それでいて暴力的に。
あの目。朔の目。
無機質だった目が、今では何者も見つめていない。それはかつての自分を思い抱くには、黄理には充分すぎるものだった。
「翁」
「はっ」
「今の朔。お前には、どう映る」
それはかつて、黄理が翁に問うた言葉だった。
朔が変わったのは、それだけではない。
飛躍的に伸び、そして今もなお昇華していく運動能力。
打撃は重く、鋭さを増し、より狡猾に敵を、訓練の相手である黄理をしとめようと動いていく。その姿は正に蜘蛛だった。
今となって黄理は自身の得物、二本の撥を使用し組み手の相手をしているが、抑えているのがやっとの状態。いや、それも危うい。さながら暴風雨のように動き回る朔は、最早黄理と同等の力量にたどり着こうとしている。
僅か、八歳の子が、だ。
ゆえに黄理は時折、朔に対し怖気のような感情を抱く。それは畏れと言ってもいいだろう。
そう遠くない未来。
朔は黄理を超える。
それは、はっきりと、異常。
「そうですな……。ただただ恐ろしく思います。あのままではどうなってしまうのか、と」
「そうか……」
最早予想のついていた答えだった。このままでは朔はどうなってしまうのだろう。
「ただ……。御館様は正しいと、里を守る者からすれば正しいと思います。しかし、御館様。あなたは胸をはれますか?」
翁の言葉が響く。それは黄理を確かに揺さぶるほどの力を秘めた言葉だった。だが。
「……翁。私は、どうすればいいのだろう」
黄理はどうしようもないジレンマに陥っている。最近では志貴との関係もうまくいっていない。今回の喧嘩がいい証拠だろう。志貴は黄理に向かって反発し、そしてそのまま朔のもとに駆けていった。
疲れていると自覚する。だが、どうしようもない状況に気が休まらない。朔のことが一時たりとも頭から離れないのだ。こうして悩んでいることも朔のことばかりで、解決策が見当たらない。
答え見当たらぬ泥濘の中、黄理は悩んでいく。
それでも月は関係なく輝いていく。
□□□
鮮やかな月が天上に吊り下げられ、地上を照らし出す。
だが、月の光は眩くとも儚く、触れてしまえば消えてしまいそうに淡い。
だからこれは、月にも映し出されぬ宵闇の中。
暗い底の会話。
「それで、お前はいいのか。確か刀崎は七夜と協定を結んでいたのでは」
「構いはしねえよ。そんなもの、今となってはどうだっていい」
「どうだっていい、だと?」
「ああ、そうだ。今の俺にとっちゃそんなもんどうでもよくなっちまったよ」
「ふむ。……ならば、いい。私にとってもどうでもいいことだ。約束を違えなければそれでいい」
「ひひ。あんたは話がわかるからいいな」
「……。では手筈を整える。お前は道筋を教えればいい」
「あいよ。その代わり、だ。条件を破るなよ」
「本来なら、それも破り捨てるところだが、ルートを知るのがお前しかいない今、条件は守る」
「七夜朔の確保。これだけでいい」
「しかし、知らぬぞ。もし確保できなければ、殺してしまう」
「何言ってんだあんた?」
「なに?」
「ひひひひひひひひひひひひひ!これは愉快だ。あんたら如きじゃあいつは捕まれねえ。気を抜けば、いや、気を抜かぬとも口の中さ。あっという間に喰われちまうぜ」
「……」
「だから安心しな。あんたらは油断なく殺していけばいい。きっと残った中にあいつはいる」
「……」
「あぁ。久しぶりのご対面だ。ハハ、身なりを整えなけりゃならねえなあ」
「……そうか。まあ、いいだろう。では頼んだぞ
――――梟」
暗がりで密かに物語りは進んでいく。だが、それは月にも映されぬ闇の中に溶けて消える。
だと言うのに、天上に吊るされた月は、あいも変わらず地上を睥睨し照らし出していく。
満月まで、あと少し。
今の朔の状態について補足いたします。
現在朔は梟と対面したことで、潜在的なたがが外れました。なので爆発的な身体能力の獲得と成長を得ました。
しかし、黄理が行った隔離により、もとから薄かった人間味が磨耗。興味の幅がより狭く深く、それ以外、例えば人物に対する記憶力も薄れています。
普段接する人物、黄理や側にい続ける志貴は別ですが、直接会うことを禁じられた妹様はだいぶ忘れてきた状態です。
あと七夜襲撃は手引きする人間がいなけりゃ無理だと考え梟の登場です。
それでは次回お会いしましょう。