東京喰種 【GLF】喰種解放戦線   作:トミナカ・ビル

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episode8:宣戦布告

 

 丸手斎は、唖然としつつテレビから流れてくる映像を見つめていた――。

 

 映し出されていたのは、13区に“あった”CCG支部の映像だ。そう、過去形である。

 

『誰か助けてくれ!喰種の大軍が――!』

 

『早く応援を頼む!――嫌だ、死にたくないッ!』

 

 映像の中では黒煙をあげて崩れ落ちるCCG支部と、それを襲撃している喰種たちの姿が映し出されていた。

 

 それも10人や20人ではなく、その倍以上の数の喰種が徒党を組んでいる。圧倒的な戦力の喰種たちに恐れをなし、クモの子を散らすように逃げ出す捜査官の姿は見るも無残なものだった。

 

「おい、嘘だろ……」

 

 丸手が歯ぎしりしつつ、ボリュームを上げようとリモコンを取ったところで、画面にノイズが走る。

 

 なんだ――?

 

 それは次第に大きくなり、やがて画面に一人の男の顔が映し出される。最初はマスコミの用意した映像かと思ったが、その疑問はすぐに打ち消される。

 

 どのチャンネルに変えても、その画像しか映っていなかったからだ。恐らくは何者かが全ての主要テレビ局の電波をジャックしている。さきほどのノイズもそれが原因だろう。

 

『――おはよう、都民の皆さん』

 

 映っていたのは、エリートビジネスマンを思わせる、眼鏡をかけた40代前後の男性だった。

 

 低く、静かな語り口だが、それでいて人の注意を引き付ける魅力を秘めている。

 

『先ほど我々が襲撃した施設は、「喰種収容所」と呼ばれる場所です。名目上は凶悪な喰種を収監している事になっていますが、その裏では喰種に対する非人道的な行為が日常化しているのです』

 

 テレビの映像が切り替わり、手術室のような部屋が映し出される。中央にあるベッドには拘束用の手足枷があり、隣のテーブルにはメスやら注射器が置かれていた。さらに後ろの棚には、赤褐色の液体の入った試験官が林立する。

 

 続いてベッドがズームアップされ、拘束された血塗れの少女の死体が画面いっぱいに広がった。

 

『彼女の名は、「上田沙織」。喰種であるというだけで文字通り“解体”された、15歳の少女です。彼女が生前、何をされたか、我々は知るべきです』

 

 続けて映像が切り替わる。資料映像らしい。

 

『―――――っ、―――』

 

 映像の中の少女は明らかに怯えた顔で、何かを訴えている。しかしその口には拘束器具が埋め込まれており、掠れた息が時折漏れるだけだ。

 

『チオペンタールもレミフェンタニルもダメか……こりゃ正真正銘の化け物だな』

 

『うるさいぞ。 次、フェンサイクリジン打つから押さえてくれ」

 

 CCG職員が別の注射を持ち出すと、少女は喘ぎながらは身をよじるようにして拘束を抜け出そうとする。だが効果は無く、CCG職員は次々に消毒薬や農薬、化学薬品を注射していく。

 

『やはり薬品はダメみたいだな。前のサンプルと同じだ』

 

『一通り、リストにあるものは試しました。続いて治癒能力の検査に映ります』

 

 今度は別の職員がメスを取り出し、涙を流す少女の首筋を切り開いていく。静脈を露出させて穿刺し、血液を吸引する。それも効果が無いとみると、今度は針とカテーテルを鼻と耳から挿入して脳を貫いた。

 

『――――ッ―――!』

 

 少女が激しく痙攣し、そのまま気絶するところで映像は終わっていた。

 再び画面に男性の顔が映し出される。

 

『皆さん、今のはCCGによって行われた蛮行のごく一部に過ぎません。CCGの掲げる正義には、こうした蛮行も含まれているのでしょうか?』

 

 問いかけるような語り口は、一般市民に向けたもの。衝撃的な映像で注意を引き付け、CCGへの不信感を募らせる。それはおのずと、喰種の利益につながってくる。

 

(こいつ……!)

 

 丸手は口をあんぐりと開けながら、画面の中にいる男の巧妙なやり口に舌を巻いた。

 

 事の真偽はともかく、今の映像を見た一般人は間違いなく動揺するだろう。CCGに恐怖するかもしれないし、非人道的なやり口に異を唱えるかもしれない。ひょっとしたら、そうした混乱を煽ること自体が目的の可能性もある。

 

 あるいは、今の映像を喰種が見ていたらどうだろうか。自分たちの同胞が、散々いたぶられた挙句に実験材料として惨たらしく殺されているのだ。CCGが存続する限り、常に自分も逮捕され同様の扱いを受けるリスクは残っている。

 

 であれば、大部分はこう考えるだろう―—何としてでも、CCGを滅ぼさねばならない、と。

 

 テレビの中の男は語り続ける。

 

『私は、この国の歪みを認めません。我々はそれを正すために、戦い続けることを宣言します。我々は喰種解放戦線――この国に希望の……』

 

 そこでノイズが交じり、唐突にテレビの映像が途絶えた。

 

 テレビ局が電波ジャックを防いだのか、あるいは連中が意図的に切ったのかはわからない。

 

 だが「喰種解放戦線」を名乗る連中はこの一件で、世間に知れ渡る事となったはず。

 

 

(なんだか凄く嫌な予感がするぜ……)

 

 何故かいつも嫌な事だけは的中するんだ、と丸手はひとりごちた。

 




 そういえば喰種って薬物耐性はどのぐらいなんだろ?

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