東京喰種 【GLF】喰種解放戦線   作:トミナカ・ビル

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episode 5:真相

 

 真戸暁は、ひとり車の中で待機していた。さっきまで隣にいた父の姿は、今は消えている。

 

 自動車解体場の前に止まっていたトラックは消えており、周囲は静寂に包まれていた。

 

 

「――暁、お前はここに残って警戒を続けてくれ。私は中を調べる」

 

 

 口封じを終えた黒づくめの一団が走り去った後、父・呉夫はそう言い残して解体場へと向かった。

2人同時に向かわなかったのは、相手がまだ監視要員を置いている可能性が捨てきれなかったからだ。

 

(これだけ慎重な相手だ。用心し過ぎることはない……)

 

 暁は自分に言い聞かせ、目を凝らして周囲を警戒する。

 

今のところ異常は起きていない。輸入代理店に近づく者も興味本位の通りすがりで、ちょっと足を止めただけですぐ立ち去ってゆく。そもそも通販サイトで海外から容易に輸入も出来る現代にあって、わざわざ輸入代理店に用事のある人間など殆どいないのだ。

 

 そういえば、と暁は今日の朝刊にあった内容を思い出す。

 

 3区のとある麻薬密売組織が、同業者との抗争によって全滅させられたというニュースだ。

その組織は表向きは輸入代理店として活動し、海外から安値で仕入れた麻薬を卸していたという。

 

 問題は、その殺害方法だ。犯罪組織同士の抗争があると、見せしめの意味を込めて死体は出来るだけ惨たらしく処理される。

 

しかし今朝の事件で見つかった死体は、ベテラン警官でさえ眉を顰めるほど酷い有様だったという。

 

 

――それこそ、喰種に食い荒らされたかのように。

 

 その時、不意に暁の携帯が鳴った。

 

「―――っ!」

 

 着信を見ると、父からのものだった。すぐに携帯を開いて耳に当てると、焦った父の声が聞こえてくる。

 

『――聞こえるか暁! 車が爆発するぞ、今すぐ出るんだ!』

 

 珍しく動転した様子の父の声を聞いて、暁は反射的に従ってしまう。

 もし車が爆発するのだとしたら――すぐにでも脱出しなければならない。

 

 そう、それこそクインケを置いてでも。

 

 周囲を警戒実戦経験が少ないがゆえのミスだった。

 

 

「―――Молодая особа, добрый вечер(お嬢さん、こんばんは)」

 

 若い女のロシア語が聞こえたかと思うと、次の瞬間には猛烈な眩暈が襲ってくる。口元にあてられた布から、大量のジエチルエーテルを吸引してしまったせいだ。

 

(さっきの父の声は……合成したものだったのか)

 

 気絶する間際、暁は自らの過失を呪った。

 

 

 **

 

 

 真戸呉緒は激怒していた。必ず、かの極悪非道の喰種どもを殲滅しなければならぬと決意した。

 

「どけぇいっ! 暁を探しに行く!」

 

 CCG本部では、捜査官が数人がかりで暴れる真戸を押さえつけていた。

 

「奴らは私から微を奪った! 暁まで失ったら、私は……ッ!」

 

「落ち着け真戸! 奴らから娘を取り戻したいなら、なおさら慎重になるべきだ!」

 

「しかし……!」

 

 丸手も加わった事で、ようやく真戸の動きが止まる。

 

「真戸、俺たちも同じ気持ちだ……もう2度と10年前の悲劇は繰り替えさせない。絶対にだ」

 

 10年前、真戸は24区の捜査中に『隻眼の梟』と呼ばれたSSSレートの喰種に遭遇している。圧倒的な戦力を誇った梟から撤退する最中、真戸の妻・微は殿をつとめて命を落としたのだった。

 

丸手や篠原もその場に居合わせており、微の死は彼らの中で忘れることの出来ないものとなっている。

 

「冷静に考えるんだ。集められた情報を徹底的に分析し、念入りに準備した上で娘を助ける。それが一番効率良く、一番確実に娘を助けられる方法だ――違うか?」

 

 丸手の問いに、言葉に詰まってしまう真戸。ぐうの音も出ないほどの正論だったからだ。

 

 

「……少し、暴れすぎた」

 

「そう思うんなら、自慢の勘を働かせろ。そして娘を助けに行け――暁ちゃんはまだ生きてるんだろ?」

 

 丸手の言葉に、決意の滲んだ表情で頷く真戸。そう、暁はまだ生きているのだ。

 

「もし敵が暁を殺すつもりなら、車には傷なり破壊されたクインケなりが残っているはずだ。だが現場には血痕も無ければ、窓ガラスすらわれていない」

 

 つまり暁は何者かに車内から出るよう促され、出てきたところを無力化されたのだろう。暁はそのまま何処かへと連れ去られ、恐らくは今も捕まっている。

 

「人質を取ったという事は、何らかの要求があると考えるべきだな」

 

 現時点で分かっている情報を元に、丸手が分析する。

 

「だが、犯人からは未だ何の連絡も来てない」

 

「それは俺も奇妙に思っていた――真戸、何か現場に手掛かりになりそうなモノは残っていなかったか?」

 

 篠原の問いに、真戸は懐から小さな物体を取り出す。

 

タバコの箱ぐらいの大きさの梱包物を篠原に投げると、それを受け取った篠原が顔をしかめる。

 

「麻薬か……」

 

「これ以外にも、いくつか転がってたよ。まぁ、大半は警視庁が押収してしまったがね」

 

 麻薬関係の事件では、警視庁の麻薬取締局に捜査の優先権が与えられる。

一応は先日の石井本部長暗殺事件との繋がりもあってCCGおよび警視庁の合同捜査となっているものの、人手不足からCCGは脇に追いやられていた。

 

「喰種どもが麻薬を……?」

 

 篠原が信じられない、といった表情になる。

 

喰種は基本的に、水やコーヒーを除けば人肉しか口に出来ない。麻薬を使ったところで、人間のように快楽に酔うことは無い。

 

「いや、たぶん自分たちで使っているんじゃない。人間に売りさばいているんだ……それに」

 

 丸手の視線は、死亡者リストに注がれていた。そこには喰種だけでなく、人間の死体も含まれている。

当初は喰種たちのエサにされた憐れな犠牲者だと思われていたが、警察が身元を特定したところ、衝撃的な事実が判明した。

 

 ――彼らの全員が、地元の暴力団関係者だったのだ。

 

「喰種と人間の犯罪組織の結託……最悪のケースだ」

 

 喰種の身体能力は極めて高い。並の喰種でも素手で人体を貫き、人ごみの中から足音を聞き分けることができるという。

 

恐らく喰種たちはその力を活かして警備を担当する代わりに、活動資金や武器を提供してもらっていたのだろう。

 

「凶暴な喰種の大半は、人間を食糧だと見下しているからな。それに喰種の組織はどちらかというと、奴らの相互扶助団体か自警団的な色彩が強い。人間の犯罪組織との同盟なんて、考えもしなかった」

 

 

 喰種は人間とは相容れない……その常識が、崩れつつある。しかも、悪い方向に。




人間と同盟組めばソフト面での改善は大きそうです

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