東京喰種 【GLF】喰種解放戦線   作:トミナカ・ビル

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episode3:裏切りの代償

   

「……一体、何があったんだ?」

 

 真戸暁が現場に急行すると、そこはまるで大規模なテロにでも遭遇したかのような有様であった。バラバラになった車の残骸が、炎上しながらあたりに散らばっている。恐らく、ロケット弾か対戦車ミサイルにでも攻撃を受けたのだろう。

 

「あれは……!」

 

 暁が爆音のする方に目を向けると、道路の先の方で車に隠れているCCG職員の姿が目に入った。怪我でもしているのか蹲るようにして隠れているのが一人を、別の男が庇うようにして銃を構えている。もう一人の巨漢は、クインケを盾のように構えて敵の出方を窺っているようであった。

 

「助けに行った方がいいか?」

 

 暁が問いかけると、父・呉緒は首を横に振った。曰く、「あいつらなら大丈夫だろう」と

 

「それより暁、敵の索敵を優先するぞ――これを使え」

 

 父はそう言うと、コートの中から拳銃を暁に放り投げる。

 暁はそれを受け取ると、片眉を吊り上げた。

 

「いいのか? アカデミー卒業は来年なのだが」

 

「構わんよ。ここから先は正当防衛だ」

 

 その理屈はさすがに無理があるんじゃ、と思いつつも暁は慣れた手つきで拳銃に弾丸を装填する。もちろん、普通の銃弾ではない。Qバレットと呼ばれる、溶かした赫子を練り込んだ特別な銃弾。威力は低いが通常の銃弾と同じように扱える、新人捜査官向けの武器だ。

 

 ――敵はどこだ?

 

 暁の疑問に答えるように、連続した銃声が響いた。百メートルほど手前、ビルの上から機関銃が火を噴いている。

 

(銃……!?)

 

 謎の襲撃部隊が銃を使ってCCG職員を攻撃しているという事実に、暁は驚きを隠せない。CCGの敵といえば喰種だが、彼らは基本的に銃など使わない。もっと強力な武器・嚇子があるからだ。

 

 人間のギャングならば銃を使うこともあるだろうが、喰種狩りを専門とするCCGの任務にギャング対策は含まれておらず、ここまで大規模な攻撃を受ける理由は見当たらなかった。

 

「何が目的かは、倒してから聞くとしよう」

 

 呉緒はそう言うや否や、鞭状の鱗嚇クインケを両手に展開する。

 

「暁、援護を頼む」

 

「了解した」

 

 暁の発砲を受け、敵がビルの陰に身を隠す。真戸はその一瞬の隙をつき、一気にビルまで駆け抜けた。

 

(敵は3階――この程度の高さなら、いける……!)

 

 突起物をクインケで器用に絡めとりつつ、ビルの壁を昇ってゆく。敵も真戸の姿に気づいたのか、一人が機関銃を下に向けて乱射する。

 

「はっ! こっちは喰種との戦いで動体視力が鍛えられていてね。そんな射撃じゃ当たらんよ」

 

 次々に放たれる弾丸は、地面と壁に無数の穴をあけてゆく。されど銃弾の雨が、一度たりとて真戸に当たることは無かった。

 傍目には真戸が銃弾を躱しているようにも見えるが、正確には“敵の目の動き”を見ているのだ。人は武器を使う前に、まず目視で相手に狙いを定める――真戸はその習性を利用し、銃口が向けられるより先に視線の外へ移動しているのだ。もっとも、それが出来るだけも充分に人間離れしているのだが。

 

「なっ――!」

 

 敵の目が驚愕に見開かれると同時に、急に機関銃の発射音が止む。真戸の人間離れした機動に気を取られ、銃身の過熱を失念していたのだ。そのせいで弾詰まりが起こってしまい、一気に距離を詰められる。

 

 

「――――終わりだよ」

 

 

 残りのメンバーが銃を向ける間もなく、真戸はクインケで全員をなぎ倒す。リーチの長い鱗嚇クインケだからこそ出来る技だ。

 

 

 **

 

 

「発砲が……止んだ?」

 

 真戸が敵を倒したおかげで、ようやく篠原たちも銃弾の雨から解放されていた。 

 遮蔽物にしていた車の影から篠原が恐る恐る顔を出すと、ポケットの携帯が鳴る。

 

『――聞こえるか、篠原君。私だ、真戸だよ』

 

「真戸さん!? たしか今日は非番なんじゃ……」

 

『――ああ、思わぬ休日出勤になってしまったねぇ』

 

 予想外の連絡に驚く篠原とは対照的に、真戸はいつものペースを崩さない。

 

『――それはともかく、だ。篠原君、私にも当事者の一人として、何があったか聞かせてもらえないかね?』

 

「ええ、勿論です。実は……」

 

 今回の捜査に、担当区の違う真戸は関わっていない。そこで篠原は今日起こった出来事を、経緯から詳細に説明した。

 

「――――――という話なんです。今の襲撃は、恐らく口封じが目的かと」

 

 篠原が説明を終えると、真戸は考え込むような口調で「ふむ」と声を返す。喰種と警察がグルになっていたという事実に、真戸も思うところがあるような口ぶりだった。

 

『それで、容疑者の方は?」

 

「幸い、大きな怪我もなく無事ですよ。ただ……輸送手段が無くなってしまったので、今、丸ちゃんが本部にヘリを要請してるところです」

 

 篠原が振り返ると、丸手が「10分で来るらしい」と返す。

 

「今回は珍しく本部も動きが早いじゃねぇか。つか、こんな事なら最初からヘリで来りゃよかったぜ」

 

 いつもの愚痴をこぼしながら、丸手は車の陰に隠れていたキーパーソン・石井警視正を引っ張り出す。

 

「さぁ、立つんだ。これで誰が敵で誰が味方か、ハッキリしただろ。死にたくなきゃ、俺たちCCGに協力するんだ」

 

 だが石井は顔面を蒼白にしたまま、虚ろな視線をさまよわせるばかり。その後も何度か会話を試みるも、まるで反応がない。戦争神経症(シェル・ショック)にでもかかったかのような反応に、丸手はやれやれと頭を掻く。

 

「こりゃあ、本部でじっくり話を聞くしかないな――ほら、ヘリが来たぞ」

 

 丸手は石井を無理やり立たせると、近づいてくるCCGのヘリに向けて手を振った。

 

 

 

 ヘリは丸手たちの姿をとらえると、その頭上でホバリングした後、ゆっくりと高度を下げてくる。地上すれすれのところでヘリのハッチが開き、中から捜査官が4人降りてきた。胸にはCCG捜査官を表すバッジが光っている。

 

「CCG本部の三島です! 敵は?」

 

「敵の襲撃は撃退した! だが車は全部お陀仏だ! 悪いがそのヘリで本部まで参考人を連れてってくれないか!?」

 

 ヘリの騒音に負けじと丸手が叫ぶと、三島と名乗った捜査官はサムズアップで答える。そのまま石井の身柄を預けようとした時、丸手はふと違和感を感じた。

 

「……おい、ちょっと待て」

 

 足早に立ち去ろうとする4人を呼び止め、捜査官バッジをまじまじと見る。

 

「なんで下位捜査官が4人も出張ってんだ?」

 

 喰種捜査官には6つの階級が存在しており、うち「特等捜査官」「准特等捜査官」「上等捜査官」は上位捜査官、「一等捜査官」「二等捜査官」「三等捜査官」は下位捜査官と呼ばれている。そして任務の際には、上位捜査官と下位捜査官が一組となって行動するのがセオリーだ。

 

 丸手の詰問を受けた三島は一瞬ぽかんとした表情を浮かべ、その後「ああ、そのことですか」と納得したような様子で口を開いた。

 

「いえ、なんていうかその、緊急の救援要請だったもので。その場に居合わせた人間で臨時編成を組んだんですよ」

 

「なるほど、そういう話かよ。そりゃご苦労さん―――――」

 

 

 

 

「とでも言うと思ったかッッ!!」

 

 

 

 丸手は大声で叫ぶと、有無を言わさず銃を抜き放って発砲する。初撃は見事命中し、三島と名乗った捜査官の額に穴が開いた。

 

「ぬかせ、俺たちのCCGがそんな臨機応変に動けるかってんだ! ヘリ一台飛ばすのに、どんだけ面倒な手続きがいるか知らねぇだろ、お役所仕事バカにしてんのか?」

 

 丸手がそう言い放つと、残った3人の様子が変化した。

 瞳が赤く染まり、背中からは赤い肉塊が――。

 

「させるかよッ!」

 

 丸手は赫子の展開を許さず、続けざまに銃を連射する。クインケ嫌いのまま准特等までのし上がった実力者なだけあり、その射撃は性格無比。放たれた弾丸は全て急所に命中し、うち一発が一人の喰種の眼球を貫通、脳を破壊した。

 

「なっ、人間ごときに……!」

 

 瞬く間に2人を殺された喰種たちの顔に、動揺の色が見える。残された2人は体勢を立て直そうと、ヘリまで退却したものの―――。

 

 

「篠原ァッッ!!」

 

 

 大音量で丸手が叫ぶと、それに答えるかのように篠原がクインケを構え、そして。

 

 

 ――放り投げた。

 

 

「んなッ!?」

 

 投擲された『オニヤマダ壱』は驚く喰種に向かって真っすぐ飛んでいき、防御のために展開した赫子を粉砕して喰種の一人を直撃した。それだけに留まらず、勢いで吹っ飛ばされた喰種がヘリに衝突。バランスを失ったヘリは盛大に横転し、そのまま動かなくなってしまった。

 

 これで残る敵は一人。鱗赫の喰種だ。

 丸手は弾を装填し直すと、最後の一人に近づいていく。

 

「雑魚が。その程度の戦闘能力で、准特等捜査官に勝てるとでも思ったか?」

 

 戦ってみて、ハッキリした事がもう一つある。それは目の前の喰種たちがとても「弱い」ということ。恐らくレートにすれば、CかよくてBレートといったところだろう。

 

「派手な襲撃を囮にして、俺たちの気が緩んだところを騙し討ちにでもしようと思ったのか? 悪くはないアイデアだが、バレた時点でお前らの負けは確定だ。大人しく死んだ方が身のためだぞ」

 

 もう何もできまい――丸手がそう思った瞬間だった。

 

 最後まで残った喰種が、鱗赫を地面に叩きつけたのだ。土煙が舞い上がり、喰種の姿を隠す煙幕となる。

 

「目くらましだとおッ!?」

 

 とはいえ土煙を巻き上げただけの煙幕など一時的なもの。すぐに風に吹かれて晴れるも、その一瞬のスキをついて喰種は走り出していた。

 

 その目標は、丸手斎ではない。もちろん篠原幸紀でもない。――石井警視正だ。

 

「初めから狙いは口封じかッ!」

 

 慌てて丸手が銃を構えるも、すでに時遅し。喰種の鱗赫は石井を射程内に捉えていた。

 

 

 ――限界まで延ばされた鱗赫は石井の肉と胸骨を貫き、その心臓に風穴を開ける。

 

 

 それは奇しくも、丸手の放った銃弾が喰種の心臓を貫いたのと同時刻だった。

 

   




 喰種同士の戦闘ならともかく、CCG職員は生身の人間なので銃つかった方が便利だと思ってみたり。
 嚇子だと個人差あるし、リーチ短いし。

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