東京喰種 【GLF】喰種解放戦線   作:トミナカ・ビル

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episode26:激闘

 アリサのしかけたプラスチック爆弾の衝撃は凄まじく、離れていた真戸ですら無事ではいられなかった。

 

「っ……!」

 

 巨大な爆発音が聞こえたかと思ったら、いきなり爆風で吹き飛ばされていた。とっさに受け身の姿勢をとったので何とか耐えられたものの、中年オヤジにはキツイ一撃だ。

 

「丸手――」

 

 見れば、バランスを崩した丸手が地面に倒れている。

 

 恐らく衝撃をもろに受けたのだろう。あの状態ではまともな戦闘は出来ない。意識を失っている可能性もある。助けに行こうと考えた丸手の目に、さらに驚くべき光景が飛び込んできた。

 

「……アリサ」

 

 血だらけになってはいるが、生きている。だがそれ以上に真戸を驚かせたのは、アリサの華奢な体に纏わりついている“モノ”だ。

 

 防弾チョッキのような、いやもっと禍々しい。甲虫のように黒光りする装甲―――鎧状の甲赫クインケだ。どうやら、これも「アゴラ」で作られていた試作品のひとつらしい。

 

「いやいや、危ない所でしたよ。備えあれば何とやら、ですね」

 

 あれが丸手の放った、渾身の一撃を防いだのだろう。しかし衝撃波まで完全に吸収してくれる訳ではないらしく、アリサの声はやや苦しげだ。ぜいぜいと荒い息を吐きながら、丸手にトドメを刺そうとする。

 

「アリサ!」

 

 こうなったらイチかバチか、真戸は大声で叫んだ。

 

(バカか私は……)

 

 こちらは完全に丸腰だ。それで喰種に挑もうなど、自殺行為としかいいようがない。出来て、自分自身の身を囮にするぐらいか。

 

「本当に、しぶといですねッ!」

 

 すぐにアリサに捕捉され、羽嚇クインケの銃口が向けられる。

 

 

 ――万策尽きたか!?

 

 

 そう思った刹那、頭上で大きな音がした。

 

 

「――暁!?」

 

 見上げれば、上のバルコニーに暁が立っていた。手すりに巨大なコンテナを乗せている。手は折れたパイプがあり、柵を叩いて音を出していたのだ。

 

「へぇ……そっからコンテナ投げようってつもりですか? 言っておきますけど、人間の力でそんな事が出来るとでも思ってるんですか?」

 

「いや。だが地面に落とすぐらいなら出来る」

 

 暁の意味深な言葉に、アリサは首をかしげる。そんな彼女に分かるよう、暁は目でバルコニーの下を指示した。

 

 

 ――そこには、アリサの部下が運んでいたブリーフケースがあった。金融情報の詰まったハードディスクも一緒に、だ。

 

「ちょ、ま――」

 

 暁がコンテナを落とすと同時に、悲鳴を上げるアリサ。そして次の瞬間には、ブリーフケースはコンテナの重量に押しつぶされた。もちろん中に入っていたハードディスクもタダでは済まない。

 

「そんな……!」

 

 アリサの目の前で、数百億の金融情報の入ったハードディスクが単なるプラスチックのガラクタへと変化してゆく。

 

 

 **

  

 

 耳をつんざく轟音で、丸手は目を覚ました――。

 

 身体の節々が痛む。頭から血も流れているらしい。だが、致命傷は免れているようだ。痛みを堪え、どうにか体を起こす。

 

 あちこちにプラスチックの残骸が散らばっている。こんな状況で良く生きていられたものだ――自分の幸運を喜びながら周囲に目を走らせると、茫然とした様子のアリサが目に入った。

 

 

「お前らバカか!? 金だ!金だぞ! 国民の血税から搾り取った、正真正銘の大金なんだ!なんで潰すんだよ!?おかしいだろ!」

 

 

 夢にまで見た大金が一瞬で消し飛んでいく様子に、アリサは絶叫していた。それが隙となり、丸手が反射的に放った銃弾と、真戸の放ったクインケがアリサを直撃した。

 

「ビンゴォッ!!」

 

 丸手が叫ぶ。

 

 堅牢な甲嚇クインケのおかげで刺死は免れたが、肋骨の数本が折れる嫌な音がした。加えて、丸手の銃弾は羽嚇クインケを壊す事に成功していた。

 

「このっ――」

 

 アリサは体勢を立て直すべく後ずさるも、暁がそれを許さない。

 

 拳銃に装填された9㎜弾を休むことなく打ち込むと、度重なる攻撃でヒビの入った装甲が割れ始めた。再生も追いつかない。

 

「ちっ――!」

 

 アリサが素早くベルトをいじると、満身創痍の甲嚇クインケが溶けるように消失する。割れた装甲の防御力に期待するより、少しでも身軽になって攻撃を躱した方が有利だと判断したのだろう。

 

 もちろん多少身軽になった所で、暁に逃す気などさらさら無い。銃口から打ち出された弾丸が、まっすぐアリサに飛んでいく。

 

 

 すると予想外の事が起こった。

 

 

 強烈な炎と爆発音。土煙が舞い、白煙がもうもうと立ち上る。

 

 ――何が起こった?

 

 煙が晴れると、さっきまでそこに居たはずのアリサが消えていた。

 

  

 今の爆発で跡形も無く吹き飛んだのか……しかし暁はその考えが間違いであることに、すぐに気づいた。

 

 アリサはすでに暁の背後に回り込んでいた。おそらく暁の弾丸が放たれると同時に、視界を奪うチャフグレネードを起動していたのだ。

 

 

「死んじゃって!」

 

 アリサが突っ込んでくる。

 

「ぐっ―—―!」

 

 暁は間一髪で飛び出すも、アリサの突撃で受けた衝撃は凄まじく、バルコニーを支えていた鉄筋が何本か折れた。支えを失った通路は自身の重さに耐えきれなくなり、残りの鉄筋をバターのように曲げていく。

 

「きゃぁ―—っ!」

 

 滑り台のようになったバルコニーの上を、転がり落ちる暁。体中を打ち付け、ずきずきと筋肉が痛む。

 

「うぅ……」

 

「大丈夫か、暁ちゃんよ」

 

 暁が目を開けると、心配そうに自分を見つめる丸手の姿があった。彼も意識を取り戻したらしい。

 

「丸手さん、父は……!」

 

「心配すんな。ほれ」

 

 丸手が顎で指した先では、アリサと真戸が戦っていた。アリサも既に出せる手は全て撃ち尽くしており、、表情にも焦りが見える。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「どうしたアリサ。若いのにもう息切れか?まったく、最近の若者は体力がなっていないな」

 

 真戸が挑発し、一気にケリをつけようと駆け出す。

 

「老害が……何を、言ってるですか……」

 

 アリサも赫子を構えた。細身で先端が鋭く尖っている尾赫が、彼女の本来の武器だ。

 

 斬るよりも、むしろ突くタイプか―—真戸はそう断定する。

 

 甲赫クインケで叩けば折れそうな赫子だが、あいにく甲赫クインケは持ち合わせていなかった。それどころか、甲赫の次に威力のある尾赫クインケも失っている。

 

 だが、そのぶん身軽でもある。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 一気に間合いを詰めると、足元に蹴りを放つ。対喰種戦で、初手が蹴りというのはまず予想しない。人間程度の蹴りでは、喰種相手では与えられるダメージなどたかが知れているからだ。

 

 しかし、今のアリサは満身創痍。膝を砕くとまでいかずとも、当たれば痛みで動きが止まる程度には弱っていた。

 そもそも対喰種戦闘では正攻法より奇襲をかけるのが有利……のはずだった。

 

「こっちですかぁ?」

 

 茶化すようなアリサの声と同時に、地面に鋭い突きが来る。真戸はとっさに身を捻ったが、あまりに速い攻撃に脇腹がえぐられた。

 

「ぐッ……!?」

 

「チッ、今ので決めるつもりだったのに……。じゃあ、これはどう?」

 

 体勢を立て直す間もなく、次の突きが来る。真戸はクインケで弾こうとしたが、手応えがない。

 

(フェイントだとっ!?)

 

 見抜かれていたか―—―真戸は唇を噛む。久しく感じることのなかった感情が蘇る。戦闘で相手に先読みされたり、狙いを外されることなど、いつ以来だろうか。

 経験不足を露呈した初戦から、アリサは短期間のうちに学習している。

 

「真戸っ!」

 

 丸手の援護射撃が無ければ、真戸はやられていたかもしれない。アリサは舌打ちをつきながら、銃撃を躱すために身を翻す。

 

「大丈夫か、真戸!」

 

「ああ。ここ来る前に遺書も書いておいた」

 

「そりゃ安心」

 

 ともあれ、これで2対1。多少はこちらが有利だ。

 

「賢いねぇ、アリサ君。喰種には惜しい頭脳だ。だからここは一旦—―—―死んでくれッ!」

 

 踏み込んで、クインケを振るう。眼前に伸びてきたアリサの尾赫を、鼻先をかすめるだけにとどめて避ける。返す手で、クインケの先でアリサの手元を狙う。

 

「おっと、またその手ですか」

 

 アリサの持つ羽嚇クインケから放たれた嚇子が、肩に触れた。身を翻し、同時に関羽たーを叩きつける。

 だが、アリサは右足を軸に全身を捻り、真戸のクインケの射線上から体を逸らす。

 

「っ――!?」

 

 だが、そこに待ち構えていたのは丸手の持つ自動小銃の銃口。絶好のチャンスだ。

 

「うおらぁッ!」

 

「やばッ――――――――なんてね♪」

 

 だが、アリサは尾嚇を錨のように地面に固定させ、全身を無理やり急旋回させて銃撃を避けた。直線的な真戸の動きに対して、アリサの動きは流れるように円を描くよう。それはまるで―—。

 

「俺の動きを先読みしてんのか!?」

 

「だってオジサン、分かりやすいんだもの」

 

 

「俺は! オジサンじゃねぇえええッ!」

 

 

 弾が切れ、仕方ないので銃ごと放り投げる。しかしまたも先読みされ、返しの突きでこちらの傷ばかりが増えていく。

 

(やべぇ……)

 

 丸手の額に一筋の冷や汗が流れた。

 

(つい、勢いで銃投げちまった……)

 

 今更ながら自分が丸腰だという事に気づき、丸手は深く後悔した。

  




 個人的に丸手さんはオモシロ黒人枠だと思ってたり。

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