東京喰種 【GLF】喰種解放戦線   作:トミナカ・ビル

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後半部分を加筆。


Chapter5:Ense petit placidam sub libertate quietem
episode24:脱出


           

 亜門鋼太朗は、集合ポイントである待ち合いロビーの前に立った。現在、彼は臨時の防衛隊長として羽田空港にいるCCG捜査官および空港警察を指揮する立場にある。

 

「集合完了しました――」

 

 副隊長が敬礼と共に声をかけてくる。亜門は出来るだけ自信がありそうに頷くと、立ち並ぶ15人の隊員たちを見渡した。

 

 局員捜査官が5人、警官が10人――任務の重さの割には、いささか心もとない部隊だ。クインケを持っているのは亜門だけということもあってか、みな一様に緊張した面持ちを浮かべている。

 

(無理もないな……一時は本部が陥落する寸前だったのだから)

 

 陽動作戦のせいで上位捜査官の大部分が13区に閉じ込められたこともあって、CCGは本部と市民を守るべく下位捜査官まで根こそぎ動員していた。必然、21区のような辺境の防備は軽くなる。

 

 結果、羽田空港には亜門を含めて6人しか捜査官が残っておらず、全員が隊長としてチームの指揮をとっていた。

 

「我々はこれより、GLF残存部隊の空港侵入を阻止する――」

 

 亜門はタブレット端末に地図を表示させながら、送られてきた作戦計画の説明をする。

 

「敵の進入路は複数予想されるが、我々が担当するのはAウィングだ」

 

 隊員たちは真剣な眼差しで凝視する中、亜門はモニターに表示された担当地区を拡大した。道路から近く、主にアジア便に乗る客が利用する場所だ。

 

「もし我々の担当区域に喰種が侵入してきた場合、即座に戦闘を開始する。我々の任務は敵を足止めしつつ、味方が敵の側面・背後に回り込むまで時間を稼ぐことだ」

 

 広い空港を少数の、しかも弱体な兵力でカバーしながら防衛しなければならない――この困難な任務を成功させるには、各部隊が密な連携が不可欠だった。

 

 そこでCCGが立てた作戦は、小規模部隊を分散配置することで広い範囲をカバーしつつ、喰種の侵入ルートが特定できたら素早く部隊を転用・投入・包囲・反撃するという機動防御だった。

 最寄の部隊が時間を稼いでいる間に、他の部隊は素早く戦場へ移動して包囲するというプランである。

 

「平沼、原、蒲原はロビーにて警戒」

 

「はい」と3人が返事をする。

 

「片浜、吉原、草薙の3人は私と共に免税店で待機する」

 

「はい」

 

「我々が先に敵を発見した場合、すぐに他の部隊に連絡を取ってから防衛戦を行う。逆に他の部隊が先に敵を発見した場合、我々もすぐに増援に向かう。――作戦は以上だ」

 

 亜門がそう締めくくると、隊員たちは大きな声で返事をし、入念に装備の点検を始めた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 逃走用の車の中で、アリサはCCGの動きをチェックしていた。清水が死んで指揮系統が乱れた隙をついて、CCGは総攻撃に出ているらしい。

 

「どうすんですか、アリサさん。もし羽田にこちらの動きがバレたのならら、厄介です」

 

 部下の一人が不安げに言うと、アリサは余裕たっぷりに笑い飛ばす。

 

「こんな時の為のプランBってね。大丈夫、30分ぐらい遅れるけど、殲滅できる」

 

 とはいえ、訓練されたCCG捜査官を相手取るのは並大抵の苦労ではない。相手が事前情報を得ているなら猶更だ。

 

「まっ、逆にこっちが優位な点もあるよ。相手の迎撃計画はハッキング済みだし」

 

「ハッキングって……電気は止めたはずじゃ」

 

「羽田は重要施設だから電気系統が独立になってんの。それに、いくらハッキングを警戒してたとしても、あれだけ広い空港を文明の利器なしにカバーすんのは無理だし」

 

 むしろ戦力が分散して各個撃破しやすくなる分、アリサたちにとってはありがたいともいえる。そして効率よく警戒しチームワークを生かして確実に迎撃しようとすれば、CCGは自ずと情報端末に頼らざるを得ない。

 

「なるほどねぇ……」

 

 アリサは早速、ハッキングしたデータに目を通す。どうやら目的の通路付近に配置されているのは6人編成の2部隊――片方が攻撃されれば別の片方が背後から挟み撃ちにするという、古典的な警戒態勢だ。

 

 堅実な手段だが、単純ゆえ対策を取りやすくもある。アリサは軽く舌なめずりをした後、部下に素早く指示を出した――。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 「隊長――救援要請です。発信源はチーム“デルタ”、最寄りの部隊です」

 

 副隊長に告げられ、亜門はすぐ集合するよう部下に告げる。

 

(ここからだと最短で10分、なんとか持ってくれ……)

 

 やがて部下が集まると、亜門は自らが先頭に立って動き出す。チーム「デルタ」の担当区域である格納庫へと通じる廊下を、部下たちとともに駆け抜けた。

 

 亜門はクインケを、部下は拳銃を構え、最大限に警戒しながら、薄暗い通路を進む。

 

「隊長」

 

 目的地まであと数十メートルにせまったところで、平沼が声をかけてきた。

 

「何だ?」

 

「何か妙です。静か過ぎませんか?」

 

 平沼が感じたのと同じ疑問を、亜門も感じていた。チーム「デルタ」とGLFが戦っているはずなのに、銃声もなければ悲鳴も聞こえない。

 

「まさか……」

 

「邪推はよせ。行くぞ」

 

 不安げな平沼の声を断ち切るように言うと、亜門はそのまま先陣を切って歩き出した。何が起こっているか分からないからこそ、確かめる必要がある。平沼たちもそれ以上は何も言わず、後に続く。

 

 

 やがて角に差し掛かったところで、亜門は「止まれ」と合図をを送って足を止めた。ここを曲がれば、格納庫が見えてくる。ゆっくりと手鏡を出して、格納庫の様子を見る。

 

 巨大な格納庫の脇に、搬入用の車が2台並んでいる。横にはクレーン車もあるが、人の気配は感じられない。

 

 安心した亜門は突入を決意する。クインケを両手で握るべく手鏡を戻し――。

 

(なっ!?)

 

 角から戻した鏡は、亜門の背後の様子を映し出す。そこには、こちらに狙いを定めている敵の姿――。

 

「退避!」

 

 亜門が叫んだ時には、もう遅かった。

 

 重機関銃が、凄まじい銃撃音と共に火を噴く。それだけではない、格納庫からも自動小銃で武装した男たちが10人ほどあらわれ、一斉に射撃を開始した。

 

「ぐあっ!」

 

 雨のように降り注ぐ弾丸は、瞬く間に原と片浜を蜂の巣にした。

 

「くそっ!」

 

 亜門は這いつくばるようにして、弾丸を掻い潜る。仲間を助ける余裕も、反撃する暇もなかった。逃げ場のない狭い通路で、重機関銃が相手では為す術がない。

 

「どうします!?」

 

 なんとか自分と同じように退避できた残りの部下が、真っ青な顔で訪ねてきた。

 

「増援の到着まで時間を稼ぐ! 援護してくれ!」

 

 亜門は隊員たちに合図を送り、カウントしてから一揆に飛び出す。

 

 

「うぉぉぉぉぉおおお、お……?」

 

 

 そこに、敵の姿はなかった。

 

 

 ――しまった。

 

 

 振り返ると、背後で大きな爆発が起きる。部下が悲鳴を上げる間もなく、ズタズタに体を引き裂かれて爆散した。

 

 

 その光景を見て、亜門は完全に平静を失う。

 

 

「うぉぉおおおおおおおおおッ!!」

 

 

 悲鳴にも似た咆哮をあげながら、全速力で突撃する。格納庫を目指して、ただひたすらに走る。走ってどうするのか、勝てるのか、自分でも分からなかった。

 

 やがて格納庫が近づき、亜門がドアを蹴破ると同時に、糸が千切れるような音がした。ハッとして音のした方を見ると、ピンの外れた爆薬が目に入った。

 

 

(ブービートラップ……!)

 

 

 金属片と共に押し寄せる、強烈な爆風に煽られ、亜門の身体は吹き飛んだ――。

 

 

 **

 

 

「さて、これで侵入完了っと」

 

 アリサは手元のノートパソコンで、爆発する映像に目を向けた。ウィンドウはひとつだけではない。複数のウィンドウで、いくつも同様の映像が映っていた。

 

「――アリサさん、飛行機を抑えました」

 

「じゃあ後は荷物を積み込むだけだね。南波クン、運転よろしくぅ」

 

 境と呼ばれた男は頷くと、搭乗ロビーから飛行機に乗り込もうとする。しかしゲートを潜り抜けようとした時、一発の弾丸が彼の心臓を貫いた。

 

「敵襲!?」

 

 驚いたアリサたちは身を伏せ、敵の姿を探す。そして――。

 

 

「うそ……」

 

 まさか。やはり。

 

 2階に佇む、人影――アリサはその男を知っている。その顔と声を覚えている。

 

 

「“また”お前か……っ!」

 

 

 

「よォ、待ちくたびれたぜ。お嬢さん」

 

 そこにはタバコを咥えた、丸手の姿があった。

 

「知ってたか? 警察はその気になれば交通整理が自由に出来るんだぞ」

 

「……しつこいっすね」

 

 アリサが不機嫌そうに呟く。彼女の部下が一斉に銃口と嚇子を向けた。

 

「殺して」

 

 アリサが冷ややかに言い放つと、けたたましい銃声が部屋中に響き渡った。連続した銃声が響き渡る中、丸手は捜査官のコートを翻し、売店の陰に転がり込む。

 

「逃がすな!」

 

 アリサの部下が叫び、嚇子を振り回しながら売店に突っ込んだ。ペットボトルと土産グッズが周囲に散乱し、たまらず丸手が躍り出る。

 

 

「仕事が早いのは高ポイントですけど、雑な仕事は振り返ってきますよ? 焦って一人で来たのが間違いでしたね」

 

 アリサは嫌味ったらしく告げると、銃で丸手の頭に狙いを定める。この距離なら外しはしない――その時だった。

 

(何……この音?)

 

 空港の2階にいるというのに、低いエンジン音が聞こえてくるのだ。しかも、どんどん近づいてくる。

 

 丸手が、にやりと笑う。

 

「誰が一人で来たと言った?」

 

 丸手の視線は、外に注がれていた。慌ててアリサたちが外――滑走路の方を振り返った瞬間、大型ジェット機が搭乗ロビーのガラスをぶち破って飛び込んできた。

 

 

『―――待たせたね!』

 

 

 操縦席でハンドルを握る真戸が、通信を入れてきた。免許はないが、滑走路を動かすぐらいなら車とそう変わらない。

 

 真戸は駐車してあった適当なジェット機を乗っ取り、アリサたち目掛けて特攻させたのだ。

 

 

「嘘でしょ―――!?」

 

 

 アリサが叫び、同時に大爆発。搭乗ロビーは粉々に粉砕され、アリサたち一味は押しつぶされるか、外へと放り出されていった。

   




 まだ新人の亜門さん。ちょいとツメが甘かった……
 爆風で飛ばされただけなので死んではいません。ご安心ください。

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