東京喰種 【GLF】喰種解放戦線   作:トミナカ・ビル

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Chapter3:Ad astra per aspera
episode13:初期対応


   

 GLF、喰種解放戦線と名乗る組織の犯行声明から一夜が明けた――。

 

 1区にある喰種対策局本部では、まるで戦場と見紛うほど殺伐とした空気が立ちこめていた。

 

 パトカーや救急車はもちろん、消防車や爆弾処理班の大型特殊車両が何台も停車している。制服私服を問わず多くの職員がかけずり回り、騒ぎに便乗した野次馬まで集まって大変な人だかりとなっていた。

 

 建物内に設置されたテレビはいずれもついたままで、どの放送局も大きく「テロ警報」との字幕を出して日本中で起きている大混乱を報じる特集を流していた。

 

『警視庁は都民に対し『治安の回復に全力を注ぐ』として、パニックを起こさないよう呼びかけています』

 

『既に複数の地区で喰種による襲撃事件が発生しているとの情報も入ってきています。我々はテロの脅威に直面し……』

 

『我々は複数の関係筋から、CCG内部で非人道的な拷問や人体実験が行われている、との証言を……』

 

 

 右寄りの報道機関は安全対策の甘さを、左寄りの報道機関はCCGの人権侵害を、それぞれ攻め立てている。

 

「忌々しいマスコミめ……」

 

 和修局長は窓の外を眺めながら、怒りをにじませた口調で毒づく。彼に言わせれば、マスコミは等しく視聴率の事しか考えない俗物的かつ無責任な存在で、捜査の邪魔にしかならない。

 

 ――マスコミという連中は、この局面で勝手な解釈をされたり誤解を招くような解説をされることが、どれだけ捜査を妨害しているのか考えようともしない。放送される映像によっては、反乱分子の増長や混乱の拡大を手助けすることになりかねないというのに。

 

 だが、マスコミ以上に怒りを覚えるのは、件の喰種の件だった。

 

 

 ――やはり喰種どもは、生きる価値のないクズどもだ。

 

 

 頭の中に思い浮かぶのは、辛うじて電波ジャックを妨害した時に流れていた喰種の声明だ。

 

『――全ての虐げられた喰種を解放するため、我々は行動する。まずは手始めに、CCGによる圧制の象徴・CCG本部を武力で制圧する!』

 

 露骨な挑発だった。あの喰種は正面からCCGにケンカを売り、それでいて勝つつもりなのだ。

 

 和修吉時は、かつてこれほどまでに怒りを覚えたことは無かった。身を焼き尽くすような激しい感情が、体の中を駆け巡る。

 

 

 ――選択肢はひとつしか無かった。

 

 

「掃討作戦を開始するぞ!市民の敵を根絶やしにしろ!」

 

 和修は部下に向かって宣言すると、同時に立ち上がる。

 

「全ての支部に召集をかける!全面戦争だ!」

 

「はっ、はい!」

 

 部下が青い顔で応じ、逃げるように部屋を出ていく。それを見送ると、直属の部隊にも通信を繋ぐ。

 

「屋上にヘリを用意しろ。私も現場に向かう」

 

 自ら現場に出るなど、何年ぶりのことだろう。だが喰種のクズどもが血祭りにあげられる様を、この目で確かめなければ気が済まない。

 

 こんなことなら、もっと早くから掃討作戦を行うべきだった。今度こそ、あの連中を根絶やしにしてやる。自分たちが生まれてきたことを、後悔させてやるのだ。

 

「――特等捜査官の召集、完了しました。テレビ通信ですが、回線は安定しています」

 

 部下から通信が入る。和修は頷くと、タブレット端末から特等捜査官に繋がる回線を開いた。モニター上に映し出された5名の特等捜査官に向き直ると、彼らを一瞥しながら口を開いた。

 

「我々はこれより、本部に向かってくる敵の迎撃を開始する――ありったけの戦力を、全て都心へ回す」

 

『――それはつまり……』

 

「ああ――決戦だ。奴らを根絶やしにする」

 

 みな、一様に緊張した面持ちをしている。なにせ全部で11名しかいない特等捜査官の内、実に半数近くが動員されるのだ。

 

 CCG側の作戦は、「後の先」と呼ばれる守勢戦術だ。これは敵を強固な防御で削った後、温存していた部隊で反転攻勢をかけるという戦術である。

 

 具体的には3区(港区)と4区(新宿区)全体を広大な縦深を持つ防御陣地として、13区(渋谷)から進撃してくる喰種の軍隊を消耗させ、敵軍が疲弊したところで1区から精鋭部隊を投入して一挙に反撃・殲滅しようという計画である。

 

「件のテロ集団は、警察署を襲撃しただけでなく、無関係の市民を無慈悲に殺害・捕食した」

 

 和修が口にすると、特等捜査官たちの目に強い光りが宿った。それは仲間と、守るべき市民を殺された事に対する怒りの炎だ。

 

「容赦はするな!生きている価値のない喰種どもに、我々の力を思い知らせてやれ!」

 

 和修の言葉に全員がモニター上で敬礼を返すと、通信が切られる。すぐに散開して各々の作業の取り掛かっているのだろう。

 

 ヘリに向かう和修の胸に湧き上がったのは、暗い後悔の炎だった。彼は今、これまでの自分がとってきた対応の甘さを悔いていた。

 

 

 ――こんな事なら、もっと早くから徹底的に、喰種を狩り尽すべきだった、と。

  

  




CCG「喰種なんか怖くねぇ!野郎オブクラッシャー!」

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