ブラック・ブレットから絶望引いてみた(い)-凍結-   作:上やくそう

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ハイどーも。
「か」と打つと次候補の先頭が「彼女いない」の作者です。イジメか。
ご主人様に喧嘩売ってるタブレットを叩き割った所で行ってみよー。

はっじまっるよー。



原作前6

 

 

 

 

 

勾田公立大学附属大学病院。

 

そこが「先生」という人物の居場所らしい。

会社を出て電車を乗り継ぎ、数分歩いた場所に勾田大学の敷地はあった。

 

かなりの広大さを誇る勾田大学の隣に病院は建っている。

大学も病院も初めて見る延珠はつい視線をそこかしこに移してしまった。

延珠に歩くペースを合わせ、少し前を進む蓮太郎がそんな延珠を振り返って微笑んでいたので、つい強く睨みつけてしまった。

 

自動ドアを開くと途端に綺麗なロビーに入った。

受付の看護師とは顔見知りのようで、蓮太郎は少し話してから奥へと進んでいく。

 

進んで行く内にだんだんと人気がなくなり、ついには無人となった廊下の突き当たりに地面を四角く切り取った穴があった。

 

「ここだ」

 

よく見るとそれはかなり急な造りの階段だった。

底が暗く見えないその階段を降りていくと、途轍も無く禍々しい装飾が施された扉が現れた。

 

「......」

 

ーーこ、ここに入るのか?

 

7歳の延珠にはお化け屋敷じみたこの部屋に入るのは少々、いやかなり辛いものがあったが蓮太郎はそんな事などお構いなしに扉を開いて中に入っていく。延珠は慌てて後についていった。

 

 

中に入ると人が死んでいた。

 

「ひっ...」

 

初めて人の死体をみた延珠が悲鳴を上げてしまったのも無理はないだろう。むしろ気絶しなかったのを褒めるべき事である。

 

「ほら食え先生」

 

「むぐぐごご」

 

「....!?」

 

蓮太郎に聞かれなくてよかったと安堵する延珠をよそに、本人はあろうことか死体の口を開き強引に菓子を詰め込んでいた。

 

 

というか今死体が喋った。

 

 

あのどうみてももう手遅れな感じの顔色の悪さで生きているとでもいうのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

数分すると本当に死体がゾンビのような足取りで起き上がってきた。

 

「ぅうん....あれ、蓮太郎君じゃないか。女性の寝込みを襲うなんてそんな子に育てた覚えはないぞ?」

 

「餓死しかけてた貴女にたまごボーロを恵んでやった俺を労ってくれてもいいんじゃないか。菫先生」

 

蓮太郎はそう言うと、顔色が悪く未だに足取りがおぼつかない菫をおもむろに抱き上げた。所謂お姫様抱っこである。

 

「ひゃあっ...」

 

いきなり抱えられ慌てる菫と無表情の蓮太郎。

それを視界に入れながら延珠は驚愕した。

13歳の少年が抱えるには明らかに身長的に無理があるというのに、蓮太郎は眉一つ動かさず平然としている。

 

「や、やめないか...!これくらい一人で歩ける!」

 

「足震えてるじゃないか、産まれたての子鹿みたいだぞ。しっかり食べろ、金があるんだから。今日はたまごボーロしかないけど、今度差し入れでもするよ」

 

「あ、悪いね。でも肉じゃがにじゃがいもを入れるのはやめてくれよ。じゃがいもは嫌いだーーーじゃなくて、コレをやめろと言っているのに!....ひ、姫抱きはないだろう......!」

 

「先生が言ってるのは味噌汁から味噌を抜けと言ってるくらい不条理だ」

 

それはただのお湯である。

 

そんな会話を続けながらも蓮太郎はすたすたと椅子まで近づくと菫を優しく降ろした。

 

数歩とはいえ自分の体重以上の人間を抱えて歩いた後とは思えないほど涼しい顔をしている。

 

「....こほん。ま、まあいい。そっちの子は?攫ってきたのかい?」

 

菫の視線が延珠へ向く。さっきまでのやり取りを見ていた延珠は困惑するしかなかった。

病院内で餓死しかける死人のような顔色の医者との会話術なんて持ち合わせていないのである。

 

「俺のイニシエーター(相棒)だ。名前は藍原延珠。延珠、この人が室戸菫先生だ」

 

菫のからかいを見事にスルーして質問にだけ簡潔に答える蓮太郎。スルーされた本人は蓮太郎の後ろでいじけていた。

 

「へーんだ、なんだいなんだい。少しくらい反応してくれてもいいじゃないか、全くもってつまんないね君は。っと、はじめまして延珠ちゃん。私は室戸菫。蓮太郎君の教師だ。あ、勿論『奪われた世代』だよ」

 

「......ふん」

 

「あらら、嫌われたものだね」

 

「そんな言い方するからだろう」

 

自己紹介にさえも息をするように皮肉を交えてくる菫にムッとしたので延珠は無視をする事にした。

 

ただそれは逆にいえばムッとする「だけ」だった。

そこにはへばりつくような憎悪も悪意も無かった。事実、根っからの皮肉屋な菫は今の会話に皮肉を入れる事ができたから皮肉を言っただけだ。

 

なぜ皮肉を言うのか、と菫に聞けばこう答えるだろう。

 

『そんなの、そこに会話があるからさ』と。

 

つまり菫は口を開けば皮肉が自動で出るのだ。全自動皮肉マシーン、それが室戸菫なのだ。

 

「...ところでだ、蓮太郎君。その、丁度いいタイミングで来てくれたね」

 

「丁度いい?何がだ?」

 

「.........」

 

「先生?」

 

急に歯切れが悪くなり俯く菫。その顔に浮かぶのは悔恨と自嘲だった。

 

「...民警は、戦う仕事だね」

 

「...?そうだな」

 

「命懸けでガストレア達と戦う仕事だね」

 

「そうだな」

 

「...もうそろそろいいだろう。君に本来の力(・・・・)を与えよう」

 

 

「...まさか」

 

 

 

「ーーーーああ。君のその義肢(・・)に」

 

いったい二人が何を話しているのか延珠には分からなかった。しかしその表情からは緊張と覚悟が見て取れる。

 

菫はこの話を切り出すのに相当な勇気を要したのだろう。

兎の因子(モデル・ラビット)を宿す延珠には彼女の動悸が加速していく音さえ聞こえてきた。

 

「ーーーそう、か」

 

蓮太郎もいきなりの事に驚愕を隠せないでいる。

「きみのぎし」と言うからには蓮太郎の持つ「ぎし」とやらに関する話なのだろうが、7歳の延珠には「義肢」の意味が分からなかった。

 

だから、次に起こった出来事に延珠は絶句した。

 

「......ふぅ」

 

「.....!?」

 

ーーな、なな何をしているのだお主は!?

 

 

突然蓮太郎が上着と靴を脱ぎ捨て、上半身と足首を露わにした。

いきなり何をやっているんだと叫びそうになったが、本当に延珠が驚愕する事になるのはそこではなかった。

 

蓮太郎の右手足の皮膚にコバルトブルーの回路模様(サーキット)が浮かび上がったかと思うと、まるでそこから熱が伝わり(・・・・・・・・・)焼き切れて行くように(・・・・・・・・・・)皮膚が剥がれ落ちて行く(・・・・・・・・・・・)

 

 

「ーーーーえ」

 

 

人口皮膚に覆われていたソレは、光を吸い込む漆黒の鋼。

 

バラニウムの手足だった。

 

 

 

「...延珠ちゃんに言ってなかったのか彼は。教えてあげるよ延珠ちゃん。

私は彼の教師であると同時に担当医でもある。あの右手足と、普段は分からないが片眼も彼自前の物ではない。

 

ーーー彼はね、七年前に両親をガストレアに殺され自身の半身も失ったのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼はね、七年前に両親を殺され自身の半身も失ったのさ」

 

 

菫の言葉を聞いた延珠が愕然としている。

 

この表情を見るだけで菫は蓮太郎が延珠に本当に何も教えていなかったという事が理解できた。

そして、蓮太郎が本当に「呪われた子供達」に対して負の感情を抱いていないのだという事も。

 

二人はペアを組んでそれ程時間が経っている訳ではないのだろう。

延珠は常にピリピリとした雰囲気を纏っており、視界に入る人間全てを疑い、警戒している。

 

取りつく島もない程の警戒っぷりだが、所詮はまだ7歳の少女だ。蓮太郎が自身の境遇を話して義肢を見せつけてやれば、罪悪感は嫌でも生まれるだろう。そしてそこにつけ込むのは実に容易だったはずだ。

 

しかしそれをせず延珠の態度にめげずに彼女に接しているのは、延珠との絆を深めようと蓮太郎の方から歩み寄っている証拠だ。

 

もはや呪われた子供達=ガストレアと認知されつつある現在の「一般人」共からすれば、延珠を敵として彼女を仇の代わりとしてサンドバッグにしてもおかしくないというのに、蓮太郎の延珠を見る目は慈愛に満ちていた。

 

 

蓮太郎の中でガストレアと呪われた子供達は明確に隔たれていた。

 

 

菫もガストレアが憎いという気持ちは確かにある。だが、菫はガストレアと呪われた子供達が生物学的にどこがどう違うかが正確に理解できていたからどうしてもガストレアと彼女達を同一視できなかった。だから呪われた子供達を初めから「憎みにくかった」だけなのだ。

 

しかし蓮太郎はそんな前提がどうのという話ではなく、心から彼女達を人間として認めている。

 

彼は他の人間とそこが決定的に違う。

13歳、中学一年生に相当する年齢の少年にしてはかなり大人びていてどんな時でも自己を貫き通し冷静に判断を下せる。

 

七年前、菫に()せたあの意思の強さ。

 

 

ーー彼ならばあの力を正しく使える。

 

 

「神医」室戸菫の「新人類創造計画」はまだ完成していない。

 

 

ーー復讐に取り憑かれていた自分の創り出してしまったあの忌々しい力を。

 

 

今の蓮太郎が使っているのはほぼ生活に必要な運動を行える機能のみのただの義肢だ。

 

いわばまだ真っ白な状態。

 

それを、これから自分が穢してしまうのか。

復讐のためだけに創り上げたあの力で。

 

本人の前でアレを与えると言った以上、もう取り下げる事はできない。

取り下げるつもりもない。なぜなら菫は蓮太郎ならあの力を使いこなせると信じている。

 

だが、

 

 

「.......っ」

 

 

 

意思に反して、菫の体は動いてくれなかった。

 

 

(なぜ、今更...!)

 

もう決めた事だというのに、動けない。

蓮太郎を信じていない訳では断じてない。だが、アレを自分以外の人間に預けるという事が、それ程までに菫に重くのしかかっていた。

 

 

 

 

「ーーやらないのか、先生?」

 

 

 

そんな不安を、そんな葛藤を消し飛ばす様に、自信に溢れた声が菫の耳朶に響いた。

 

「...すまなかった、蓮太郎君。私は、後悔しているんだ」

 

気づけば菫の口は動いていた。

 

もう黙っていても仕方がないと、決意を曲げる様で情けない事だが、菫は蓮太郎に打ち明けた上で力を手に入れるか判断してもらう事にした。

 

「...何に?」

 

「今から君に与えようとしている力を私が生み出してしまった事にだ」

 

「なぜ?」

 

「私の醜い心をありったけ詰め込んだんだ。

それを造った当時の私は復讐のためだけに、どうガストレアを効率よく、無惨に、確殺できるかを突き詰めた。恋人を殺された私は一生分涙を流してガストレアを憎み絶望したからね。

...まぁ、その時憎み尽くしたおかげで、もう呪われた子供達を理不尽に恨む事が無くなったのが幸いかな」

 

視界の隅でびくり、と延珠の肩が震えた。

彼女の思考には自分はガストレアだという考え方がこびりついているのだろう。

 

「君に与えようと、いや押し付けようとしているのはそんな恐ろしい物なんだ。

 

それでもいいのかい?」

 

 

 

「ああ、構わない」

 

 

 

「なーーー」

 

 

即答だった。

思考時間0秒の反射。打てば響く様に返された蓮太郎の答えに菫は一瞬言葉を失う。

 

「...な、なぜそんなことが言えるんだ!君も初めて会った時の私を知っているだろう!

あれが私の本性だ!私は今から君を自分の復讐のために利用しようとしているんだぞ!?

君を戦わせて自分は此処に篭るだけだ!」

 

菫は蓮太郎に自分を罰して欲しかった。

四賢人の生命の尊重を破り、自らの復讐のためにまだ幼い少年の未来を奪った。

彼女は他の何であるよりも先ず一人の医者でなければならなかったのに。

 

蓮太郎の即答で余りに呆気なく自分が赦された気がして、そして何よりそれに安堵してしまった自分にどうしようもなく腹が立って菫は叫んだ。

 

「...先生」

 

そんな自分に呆れる様な、そんな自分を優しくあやす様に蓮太郎は菫に話しかける。

 

「あなたがそれを後悔してようが、その力がどんな物だろうが、俺は先生の事を醜いとは決して思わない」

 

「...嘘だ」

 

 

「嘘じゃない。だって

 

ーーーーー俺を利用する事が目的だったとしても、俺は貴女に(・・・)命を救われた。俺がここにいるのは先生に会えたからだ」

 

 

そして気づく。蓮太郎の絶対的な自信。

蓮太郎のあの声音に含まれていたのは自信ではなく信頼だったのだ。

(命の恩人)への全幅の信頼。

 

 

 

「貴女がくれる力なら、他の誰が何と言おうと俺は安心して命を預けられる

 

 

 

ーーー俺は信じてる。先生がくれたこの腕は、きっと誰かを救うための物だから」

 

 

そうして生意気に、少し面倒くさそうに告げる。

 

「だからやってくれ先生。もう迷わないでくれよ?」

 

彼にとって今の菫の話は本当に面倒以外の何物でもないのだ。

自分を救ってくれたのに何故謝るのかが本当に解らない、という顔で菫を見ている。

 

こんな自分を、命の恩人と言って全幅の信頼を置いてくれる。

 

 

「ーーーそう、か。そうか...」

 

 

全く、今までずっと悩んできた自分が馬鹿みたいだ。

まさか本人が恐怖しないどころか最初から気にしていなかったなんて。

全て杞憂だったのだ。蓮太郎が離れてしまうのではという恐怖も、自分を恨んでいるかもしれないという不安も。

蓮太郎が自分の醜い部分を知ってもなお信頼してくれるという事実がたまらなく嬉しくて、やっと肩の荷が下りたようで、菫の目には涙が浮かんでいた。

 

「それにさ」

 

「?」

 

 

 

「先生は一生分悲しんで、哀しんで、憎んで、絶望したんだろうけどさ。まだ喜んで、楽しんで、愛せて、希望を持てるじゃないか。

あまり悲観する事ないと思うぞ」

 

「...!?〜〜!!」

 

そこにこの不意打ちだ。そんなこと、考えた事もなかった。

この生意気な教え子は間違いなく女泣かせになるだろうなと思いながら、菫は眦に溜まる涙を払いながら微笑んだ。

 

 

 

 

「まったく、敵わないな......わかった。それじゃあ始めようか」

 

「ああ、頼む」

 

 

 

 

涙でぼやけた視界は、なぜかいつもより輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にくどーん、お待ちー」

 

「......」

 

「来たかーーーーなんだ、これは」

 

「あいやー、雨の日スペシャル肉丼ー」

 

病院の帰り、ボロアパート近所の中華料理屋。

今日はここで蓮太郎が「ふんぱつ」という行為をする事で夕飯が食べられるらしい。

 

今までの人生で初めて見る巨大な肉の山に驚愕すると共に思わず頬が緩みそうになるが、奇跡的に延珠は我慢に成功した。

 

横目で蓮太郎を見やる。

どずん、と轟音を響かせテーブルに置かれたどんぶりに珍しく頬を引きつらせていた。

 

こうしているとただの少年にしか見えないが、延珠は知ってしまった。

この少年が途轍もなく過酷な人生を送っているという事を。

 

そして、もしかしたら自分が信じる事ができるかもしれない人間だと言う事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院を出て帰る途中、延珠の頭は未だに少し混乱していた。

 

今日の事でますます蓮太郎の事が分からなくなった。

ガストレアに両親を殺されて、自分の体も喰われた。

 

その話を聞いて延珠は蓮太郎への警戒心を高めたが、それでも蓮太郎の自分()を見る目が優しいものにしか見えなかった。

もう不可解を通り越して不気味でさえあった。

 

家族を殺されても何も思わない程に薄情な人間なのか。

ーーそれでは自らの半身を喰われたのに恨まない理由にはならない。

 

誰が死のうと自分がどうなろうとどうでもいい程に絶望しているのか。

ーー違う。蓮太郎は社長や菫と話す時も、自分と接する時でさえ表情が読み取りづらいが楽しそうにしている。本当に全てに絶望している者はそんな顔はしない。

 

「...なぁ」

 

「なんだ?」

 

延珠は自分が隙を見せるリスクよりも蓮太郎に探りを入れる事にした。

 

「...その腕」

 

「ん、コレがどうかしたか?」

 

「何でなくなったのだ」

 

「あぁ...ガストレアに喰われた」

 

「っ.....じゃあ、家族は」

 

「同じだ」

 

やはり、菫の言っていた事は本当だった。

ではなぜ蓮太郎は自分を前にして何事もないのか、普通なら激昂し殺していてもおかしくはないはずだ。

 

「......なぜ、」

 

「?」

 

「わらわはお主の仇と同じ化物だ。嫌いじゃないのか?痛くしてやりたくはないのか?」

 

そこがずっと不思議だった。なぜ自分に人間と同じように接するのか、なぜ自分(ガストレア)を憎まないのか。

いくら延珠が超人的な力を持っているとはいえ、今の蓮太郎に勝てるとは思えない。

新しい義肢の力を使えば延珠を殺す事は容易なはずだ。

 

なぜ、なぜーーー

 

 

 

 

 

 

「なぜ?」

 

 

 

ーーえ?

 

 

「いや、だからなぜ俺が延珠を憎んでる前提なんだ?」

 

「いや、わらわはガストレアだから...」

 

「違うじゃないか」

 

なんだコイツは。話がまるでかみ合っていない。

そう思っているのは向こうも同じなようで、「何言ってるんだコイツは」とでもいうような顔をしていた。

 

「お前、本当に自分のことをそう思っているのか?」

 

「それ、は」

 

だって、周りは散々自分を人間と別の扱いをしてきた。

お前と人間はどうしても他の生き物なのだと、嫌という程見せつけられた。

だから自分は化物だ。

 

「周りじゃなくて。ここにはお前と俺しかいないぞ、お前の意見をどうこう言う奴はいないんだ。

お前は自分がどうありたいんだ、という話だ」

 

「わ、わらわは」

 

 

「俺は自分を人間だと思っている。半身は機械だが、それでも俺がそうありたいから」

 

「ーーーー」

 

「仮にお前がガストレアなのだとして、それが嫌なら変わればいいだろ。と言うか見た目はただの人間の女の子だ」

 

とんでもなく理不尽な持論。

だが延珠はこれが蓮太郎なのだと漠然と理解した。

「俺は俺だ」と断言する周りに振り回されない強烈な自我。

 

自分の事は自分で決める。

これが里見蓮太郎なのか。

 

「少なくとも俺は延珠を化物か人間かはともかく、『相棒』で『家族』だと思っている」

 

相棒、それは彼我の立場が対等だという事だ。

 

つまり蓮太郎は延珠をーーー

 

そこで会話は途切れ、蓮太郎も「後は自分で決めろ」とばかりに口を閉じた。

延珠は一瞬立ち止まり、蓮太郎の数歩後ろをついていった。

 

 

蓮太郎の確固たる意思の言葉は、延珠には少し眩し過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......多いな....」

 

 

流石の蓮太郎も辟易とした表情を隠せず、眼前の肉の山に小さく呟いた。

 

「...悪いな延珠、お勧めがこんな初見殺しとは知ら.........食った、のか」

 

「......」

 

少し申し訳なさそうに延珠の方を見た蓮太郎がどんぶりを見て驚愕した。

実に失礼である。美味しい物を完食して何が悪いと言うのだ。

 

お前のモヤシ三昧よりよっぽどマシだと言いたかったが情けをかけて見逃してやることにした。

延珠は優しいのである。

 

食べきれずに代金の額を聞いて無表情で硬直している蓮太郎を余所に、食べ終わった器を見つめながら延珠は不思議に思っていた。

 

 

これの方がずっと美味しかった筈なのに、蓮太郎に作ってもらった食事より物足りなく感じるのは一体なぜなのだろう、と。

 

 





今回のお話にはウンザリするような綺麗事がたっくさん詰まってるYO☆(事後報告

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