ブラック・ブレットから絶望引いてみた(い)-凍結- 作:上やくそう
うちの木更サンは神眼持ってます
結論から言うと、天童流を習うのは許可された。
この前菊じいに超気合入れて「俺はもう...負けたくないです...!強くなりたいんです...ッ!」と頼み込んだらok貰えた。我ながら迫真の演技だったぜ。
何に負けたくないんだよゴルァ、とか言われるかと思ったけど杞憂だったようだ。まあその時はテキトーに「この世界に...ですよ(キリッ」とか言っときゃいいだろ、と思っていたんだけど案外チョロいな(笑)
まあいくら許可されようと菊じいに捕獲されてしまった俺には当然の如くヤツが付いてくる訳で。
ぶつぞう が あらわれた!▼
れんたろう は にげだした!▼
しかし まわりこまれて しまった!←今ここ
最悪である。俺の鍛練が終わると直ぐにニクいあんちきしょう(木製)とご対面だ。まあさすがに食事やトイレ、風呂の時間はあるのだが、それを引くと大体最近の日課はこうだ。
起床→鍛練→ヤツ「(´・ω・`)/やあ」→就寝
おかしい(確信
ここのところ視界に入る顔がジジイか仏像しかいないってどうなってんだよ。ジジイといえば、最近俺の周りにジジイが一人増えた。天童助喜与という菊の字に負けないくらいのジジイだ。負けないというのはジジイ度の高さで、という意味だ。ジジイ度ってなんやねん。
.....ジジイがゲシュタってきた。
その助じい、なんと天童流の師範だったのだ。師範とか何それかっけぇ。
ちなみに俺が習っているのは戦闘術だ。他の天童流には、天童式神槍術、天童式合気術、天童式抜刀術がある。
そのうち抜刀術は菊じいと木更ちゃんも習っているらしい。菊じいの方は何と免許皆伝だった。免許皆伝とか超カッコいいじゃないですか、俺も早く名乗りたい...。
天童式戦闘術は俺の他にもう一人習っている人がいるらしい。兄弟子とか憧れますわ。
正直選ぶ時はルビサファの最初の三匹並に悩んだ。全部カッコいいからね、仕方ないね。この「○○式○○術」ってカッコよすぎでしょ。特に式がミソ。
二人と同じ抜刀術にして一緒に鍛練するというのも魅力的だったけど、抜刀術選ぶと菊じいが調子乗って「ワシの動きをよぉ〜く見て頑張るんじゃぞい☆」とか言い出しそうだったから止めた。キモい。
木更ちゃんに一緒にやろうとか頼まれたら俺は抜刀術を選んでいたかもしれないけど。そらそうでしょ、木更ちゃんパゥワーには抗えんわ。
二つ以上やっちゃダメなの?とも思ったけど、そうすると一つ一つの技の練度が落ちるらしい。助じい曰く「一つの道を極めることでうんたらかんたら」だとか。お前全部やってんじゃねぇか。
「..........ずずず」
そんなこんなで今に至る。今俺は縁側でお茶を飲んでいるところだ。
クソッ...遂に俺の行動にもジジイっぽさが侵食してきやがった...ッ!ちなみに茶は玉露しかなかった。これが天童クオリティか。
何故仏像をゴスるか鍛練かの二択しかなかった俺がお茶を飲んでいるかと言うと、先日、ツインズジジイ達に鍛練や彫刻の合間に休む時間をくれ、と言ったところ、何とOKされたのだ。
流石に子供には大変だとは思っていたらしい。なら仏像やめろし。
「あ、里見くーん!」
瞬間、俺に電流奔るッ!
キターーーーーー!木更ちゃんキタ!これで勝つる!
「よ、木更」
表面上は至って冷静に、呼び捨てでいいと言われたので遠慮なく名前で呼ぶ。つーか内心どんだけ騒いでもこの体はあんまし動揺とかしないのだ。人からは俺は静かな子供という認識っぽい。
「何してるの?」
「ん、昼の練習終わったから休んでるとこ」
「私といっしょね!」
「そうだな」
木更ちゃんも剣の練習を終えたところらしい。元気いっぱいに話しかけてくる。ところで、動きやすい服って露出多くてイイよね。お肌の汗が眩しいです、ぐへへ、ごちそうさま。
「私、この前よりもっと強くなったのよ!里見くんがぐずぐずしてたら、すぐに置いて行っちゃうんだから!ふふーん、悔しかったら里見くんももっと強くなりなさい?」
「そっかー、そりゃ俺も急がなきゃなー」
ぺたんこの胸を精一杯張ってドヤ顔で宣言する木更ちゃん。正直毛ほども悔しくない。いや、別に向上心が無いとかそんなじゃなくて。むしろ仏像タイム減るし普通に楽しいし、向上心の塊レベル。でも、あんたがそんなことしても可愛いだけです。
「ちょっと、ちゃんと聞いてる!?里見くんは私の召使いなんだから、私の言うことは守らなきゃ駄目なのよ?」
「うんうん」
かーわいーいなー。なんかいつの間にか召使いになってるけどむしろ喜んでやるわ。木更ちゃんのためならお兄さんいくらでも頑張ります。
「って、なによその顔は」
おっといかん、ついにやけてしもーた。けどこれは議論の余地なく木更ちゃんが悪いね、だって可愛いんだもの。
「ふーんだ。じゃあ今度お兄様達から虐められても助けてあげなーーーー」
ハイ体当たりどーん!!!当て身ッ!
や、お兄様達の登場にイラっときた訳ではない、断じて。おい今遂に手出しやがったとか言った奴、後で屋上な。
ずしん、と。
さっきまで木更ちゃんがいた場所に巨大な何かが着地した。
「ーーーい?」
その大きな体躯と複数の動植物を無理やり一つの体に押し込めた様な怪物は、開いた巨大な口から粘液を滴らせながら、餌を見つけた歓喜に身を震わせて叫び声を上げた。
「ギイィィイイアアアアアァアアァアヴァアアア!!!」
どう見てもガストレアです本当に(ry
ウソダドンドコドーン...
◆
天童木更にとって里見蓮太郎とは、一番身近な友人であり、兄しかいない自分にとって、初めて出来た弟の様な存在だ。
木更が蓮太郎を初めて見たのは数ヶ月前の事だ。
その日、現在の天童邸に住んでいる全員が集められた。菊之丞が一人の少年を養子として引き取ったためだ。少年と天童家とのお互いの自己紹介の場を菊之丞が設けたのである。
聞けば、その少年は木更と同い年らしい。ガストレア戦争で両親を亡くし、菊之丞に拾われたのだという。
不謹慎でいけない事だとわかっていたが、木更は少し喜んでしまった。木更には兄達がいるが、木更と彼等は大きく年が離れており、一緒に遊ぶ事も無ければ、構って欲しくても迷惑そうな目を向けられる事さえあった。当然、兄妹の仲は疎遠になり、木更もそんな彼等と仲良くなろうという気は自然と無くなっていった。
蓮太郎と出会ったのはそんな時だ。いくらしっかりしていても、彼女はまだ6歳である。養子という点を除いても蓮太郎個人に強い興味を持つには十分だった。
しかし、何故か天童家で蓮太郎と出会う事はあまり無かった。稽古場にもいない、鍛練がない時に、いつものように庭で一人で遊んでいても見かけることはない。
会ったとしても、朝昼晩の食事時のみだった。仲の良くもない家族が集う場所で、初対面の相手にいきなり話しかけるというのは木更には抵抗があった。
だから、木更は蓮太郎を何が何でも自力で探し出す事にした。食事時に家族に見られないようにこっそり聞く、という手もあったが、ここで本人に居場所を聞くのは自分の負けな気がして蓮太郎と話す事は無かった。
木更には一つだけ心当たりがあった。菊之丞が仏像を彫る時に使う巨大な土蔵だ。だが、そこはもう殆どが菊之丞の彫った仏像で埋め尽くされており、それ以外は本当に何もないので誰も近寄らなかった。というか入る必要がなかった。
さらに菊之丞は仏像を彫る時は土蔵に籠もり丸一日出て来ない事も稀にあるため、誰も近寄れなかった。
夜、部屋を抜け出て木更は土蔵へ足を運んだ。
木更が土蔵の扉を中にいるかもしれない蓮太郎に気づかれない様に開けると...
(....いた)
蓮太郎だ。扉に対して横に座って仏像を彫っていた。
ちなみに木更は菊之丞から隠れようとはしていない。というか天童式抜刀術皆伝の彼に隠れようとするだけ無駄である。菊之丞も木更を咎める気は無いようで、木更を一瞥した後に蓮太郎へ視線を移した。
ただ、興味が無いという感じではなかった。お前もこいつをよく見ておけ、とでも言うように顎をしゃくっている。
そして、視線を戻した木更は、いつの間にか蓮太郎を食い入る様に見つめていた。正確には、彼の瞳に。
蓮太郎は怒っていた。
蓮太郎は憂いていた。
蓮太郎は嘆いていた。
だが彼は其れを外には、他の人には向けない。向けるつもりも、ない。
齢6にして類稀なる剣の天賦を持って産まれた木更には分かった。彼はその目に様々な激情を宿しながら、迷いなく腕を動かしている。
木更は思った。
(ーーーきれい...)
彼の目に渦巻いているのは間違いなく負の感情のはずなのに、木更はその少年の姿をどうしようもなく美しいと感じた。
同時に、木更は彼の過去を聞いて少しでも喜んでしまった自分を改めて深く恥じた。
あの目になるまでに彼にどれだけの出来事があったのか、少なくとも、自分に想像できる範疇のちっぽけな悲劇ではないだろう、と。
そして、幼いながらも彼女は理解していた。
確かに彼は悲劇を背負いながらも綺麗だ。だが、あのままでは彼は一人だ。側で支える人が居なければ。
(私が支えなきゃ...!)
そして木更は間違ってはいない。
(何で夜まで倉庫でジジイと二人きりで木彫らなきゃなんねえんだクソがあああぁあぁ!!)ゴスゴスゴスゴス
当たっても、いない。
それから木更は出来るだけ時間を見つけては蓮太郎に会いに行った。自分はこの弟分兼召使いを支えるのだと。もっと剣の腕を磨いて、強くなって、綺麗なこの少年を一人にしない様に。
ーーー思えば、彼の瞳に魅せられたあの夜から、それが淡い恋慕へと変わるのは必然だったのかもしれない。
◆
だから、今、私が動かなきゃいけないのに。
私が彼を守らなきゃいけないのに。
「ギイィィイイアアアアアァアアァアヴァアアア!!!」
彼が自分の前に立っている。勝てるはずがないのに、私を守るために。
足が震えて力が入らない。
呼吸が荒くなっていく。
化物の声もよく聞こえない。
蓮太郎が静かに構える。
「天童式戦闘術ーー」
ごばっ、と。
あまりにも呆気なく。地を抉りながら下から跳ね上がった
「がッ......」
静かな噴出音を伴い蓮太郎の右半身と左眼窩から面白い様に血が噴き出し、辺りに紅い血化粧をこれでもかと撒き散らせながら、少年の小さな体は吹き飛んだ。
「里見くんっっっ!!!!」
少年の名を泣き叫ぶ。自分は何をやっているんだ、そんな元気があるのなら立て、戦えといくら力を入れようと、足は石のように固まり命令を拒否する。
悔しい。彼のために強くなろうと決めたのに、こんな時に動けないなんて!
ーーーちょ、技名くらい言わせてええぇ!
女子を泣かせておいて未だに
蓮太郎...フン、戦闘力5か、ゴミめ...。
技名いうのが悪い。