その至高、正体不明【完結】   作:鵺崎ミル

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正体不明の誤算

 ─ナザリック地下大墳墓・ぬえの私室─

 

「ぬえ~~~~」

「お疲れさまでした、ぬえさん」

 

 疲労困憊、といった様子でベッドに倒れこみ、呻くぬえ。付き添ったアインズはちゃぶ台の前に座り込み、優しい声で労った。ぬえの擬声語に懐かしさを覚え、改めて仲間が帰ってきた事実を嬉しく思う。抑制されても、その気持ちはすぐに湧き起こる。

 

 やはり、ナザリック地下大墳墓こそが、仲間が最後に帰る場所なのだと。

 

「違うんですよ、私が、私が望むぬえってのは、真面目な雰囲気に耐えられず茶化すような子なんですよ……」

 

 まだ言うか。

 人がこんなにも再会を喜んでいるというのに、この仲間は二言目には「ぬえ」である。そういう人だったとはいえ、執着が過ぎるのではないかと思う*1。なので、玉座の間ではよくぞ我慢したとも言えた。

 

「ナザリックを離れた理由含め、最後まで真面目にやり通したのは私も驚きましたね」

「だって! あんな喜ばれてるのに茶化すなんて、できないじゃないか! ぬ~え~ぇ~……」

「ぬえさん、名前を擬声語にしてればぬえっぽいとか思ってる節ありません? いや、私東方project知らないんでぬえさんの言うぬえしか知りませんが」

 

 ぬえがナザリックを離れた理由をどうするかは事前の打ち合わせとして、100%の嘘はやめようと決めていた。上手な嘘は真実が9割混ぜ込まれているという話は有名なものだ。

 まず、ぬえの引退した理由は「ユグドラシルでやりたい事をほとんどやった達成感」「部署変更による多忙」「仲間達、特にウルベルトさんが引退した為」の3つが挙げられる。

 それをNPC達に分かりやすく言い換えた結果、このような形となった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

【ある日、転移したこことも違う、異世界からの脅威(ブラック企業、不景気etc)が41人を襲った。それがやがてナザリックを滅ぼしかねない(サービス終了)という事実に気付いた41人は、それを跳ね除ける決意を固める。

 だが、その異世界はあらゆる法則が異なり(現実だから)、ユグドラシルの武装は持ち込めず(現実だから)、帰還すら怪しいというものだった。

 最初の遠征陣が未帰還(引退)となった。死んだのか、帰還手段を失ったのかすらわからない。脅威が除かれていない以上、少なくとも苦戦していること(多忙)は明らかだった。

 

 ぬえは、当初こそアインズ(モモンガ)らと共に残って待つと考えていたが、ウルベルトの遠征宣言、そして未帰還(引退)により大きく揺れることとなる。友を探しに自分も飛び立つべきか、このナザリックで祈り待つべきか。だが脅威は未だ健在であり、ぬえも覚悟を決めることとなった。

 

 アインズにナザリックを任せて一人で向かうということが、今まで遠征した仲間がすべて還ってこない場所に向かうことが、事実上ナザリックとの別れであると理解しながら。仲間達を、敬愛する悪の権化ウルベルトを異世界(現実世界)で探すために。

 

 しかし結果として、ぬえはウルベルトと会うことすら叶わず、絶対の脅威(企業間抗争の流れ弾)を前に敗れ去った。全てを後悔しながら息絶えたはずが、こうしてナザリックに帰還している。原因はわからないが、帰還できた事が本当に嬉しい。そして仲間達を連れ戻せずに申し訳ない】

 

 

 今振り返っても正直、やりすぎたと思っている。というか誤算だった。

 この話を終えた瞬間に、号泣するシモベが続出したからだ。

 嘘を極力混ぜずに話すとどうしても、こういう話しか思いつかなかったとはいえ、至高の41人が我が身を犠牲にして、ナザリックを守ったという事実はSANチェック……否、直葬ものだったらしい。

 

 ぬえが現地で死亡したという事実が特に余計だったようで、「ぶくぶく茶釜様も……!?」と、アウラなど泣き崩れる有様であった。アルベドですら、はらはらと涙を流して「私は……私は……」などと呆然自失状態に陥ってる有様だ。地獄絵図である。

 

 この阿鼻叫喚の惨状を引き起こしたぬえも精神的動揺で泣きそうになり、結局この場を収めたのはアインズであった。

 

「静まれ」

 

 絶対的支配者による、厳かで、それでいて穏やかな声が玉座の間に響き渡る。

 

「ぬえさんは確かに死してナザリックにて蘇った。だがこれは一つの事実を示しているのだぞ。あの我らをして悍ましい世界で脅威に敗れたならば、ナザリックに帰還する可能性が生じたのだ。いや、この世界に転移と言ったほうがより適切だろう。ナザリックの転移も原因不明なのだからな」

 

 ナザリックが異世界に転移した今、ぬえを滅ぼすほどの脅威の影響は恐らくない。

 そして、ぬえの死亡転移(デスルーラ)。これらが指し示す推測が1つある。

 仲間達が、脅威から守るためにナザリックを転移させ、更に死亡時に追従できるよう魔法を構築させた可能性だ。特に魔法職最強のウルベルトならば、不可能ではないとアインズは自信をもって語る。

 

 仲間が今も戦っている可能性は高く、ナザリックを座標に帰還する可能性もぬえが示してくれた。ゆえに、この世界でナザリックを、アインズ・ウール・ゴウンを不変のものとして君臨させ仲間が迷わぬようにせよ。ナザリックこそが、我らの不滅の証なのだ。

 

 アインズの威厳ある声調、一切の迷いも感じさせぬ王気を前に皆が正気を取り戻す。恐怖と悲嘆を押し流した感情は賛美と感嘆。至高の41人の頂点、絶対の支配者。自分たちを慈しみ、今も君臨してくださる慈悲深き王。

 

 シモベ達が一層の忠誠を心に抱かせている中で、ぬえもまたアインズへの評価が鰻登りであった。もともとあの癖の強いギルドメンバーを纏め上げる、長としての才能はあった。しかしこれは、チーム長だとか課長だとかではない、王そのものではないか。

 

≪ふー、ちょっと予想外に荒れましたがなんとかなりそうですね、ぬえさん≫

≪まさに、オーバーロード……心服しました≫

≪えっ≫

 

 

 

 ◇

 

 

 

「いや、あれは本当格好良かったですよ、さすがモモンガさん」

「何言ってるんですか、必死で取り繕ってただけなのに」

 

 玉座の間での騒動を振り返り、ぬえはアインズに嬉しそうに話す。只管に格好良かったと。支配者とか全部押し付けていいかなと。自分は生前通りRPにかまけてもいいかなと。完全に逃げの思考だった。

 

「モモンガさんが最高支配者なんですから、私がぬえらしくやっても大丈夫ですよね」

「待ってくださいよ、これでも一杯一杯なんですけど」

「何をご謙遜を。私が支配者面するより、序列明確にしたほうがいいですよ」

「あ! 無理やりにでもぬえRPする気ですね!? くそう、想定外だ!」

「ぬえ~ん♪」

 

 玉座の間での雰囲気はどこへやら。2人とも部下には見せられない砕けっぷりであった。ぬえは上機嫌に、ナザリックでのぬえっぽい立ち位置を検討し、アインズは頭を押さえながらも、どこか楽しそうに笑っている。

 

「ひとまず一段落したことですし、ゆっくり休まれてから久々にナザリックでも見て回ったらどうですか?」

「おお、それは是非! 私が手掛けたあそこも無事か……!?」

 

 急にぬえが固まった。

 気がついてはならぬことに気が付いた。

 そんな具合だ。

 

「……」

「どうしたんですぬえさん」

「……ねぇ、私の作ったNPCってさっき玉座の間にいたあの子らだよね?」

「ええ、立ち上がりかけたり号泣したりしてましたね。造物主には忠誠も一入……」

「う、うわあああああああああああ!!!!」

「!?」

 

 絶望的な叫びをあげるぬえにアインズは困惑する。

 何だ、何の問題があるのか。まさか、自分と同じ黒歴史なのか。ぬえはベッドに幾度も頭を叩きつけた後、絞り出すような声を出す。

 

「ぬえに、忠誠誓うとか……あいつら原作再現NPC(東方キャラクター)なのに……!!」

 

 嫌な予感しかしない。

 NPCの忠誠前提など誤算もいいところだ。

 封獣ぬえRPの道は前途多難。それを痛感しながらぬえはベッドに頭を沈ませるのだった。

 

*1
(お前が言うな)




そりゃあ、東方好きで、ぬえ再現に課金しまくるような男だったらぬえの周辺人物もNPCとして再現したくなりますよね。

どういうことか参考までに。
エクレア・エクレール・エイクレアー:第九階層客室周辺執事助手。気取り屋な性格で職務に忠実。設定に『ナザリックの支配を狙っている』とされ、その設定通りに支配を狙う発言を頻繁に行うが、至高の41人への忠誠は絶対であり、その姿勢は崩さない。

つまり、NPCたちは設定より先に忠誠というものが大前提なのです。

・ぬえとアインズによる『至高の41人驚きの真実!』
ぬえの帰還と現実世界の整合性を目指して作り上げた嘘。だいたいあってるのがポイント。この嘘を平気でシモベたちに貫き通すアインズ。原作でもついた嘘は貫き通すことができるタイプ。
図らずも宝物庫奥にある『霊廟』の信ぴょう性が増している為、霊廟の存在を知っているアルベドが受けたショックは甚大であった。無論、彼女が抱えていた憎悪も余計に後押ししている。

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