その至高、正体不明【完結】   作:鵺崎ミル

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正体不明の円盤

─王都・王城内─

 

「……ナーベよ、これがデミウルゴス主導の計画なのは間違いがない。大体の見当もついている。だが精密な計画には連絡が必要だ。向こうから〈伝言(メッセージ)〉が飛んでこないのは此方の状況を案じ、此方から来るのを待っているのだろう」

「なるほど……さすがは至高の御君」

「ではお前が連絡を取れ。ぬえさんではなく、デミウルゴスの方にだ。私がしないのは戦士化の魔法で他の魔法が使えない事と、イビルアイの監視の目があることだな」

「エントマを瀕死に追い込んだ存在を何故殺さなかったのですか?」

「理由は2つ。復活魔法のコネクションを作る為。そしてぬえさんがあいつを生かしていたからだ。エントマを救ったのがぬえさんということは、その場の人間皆殺しにされている方が自然だ。だが奴も奴の仲間も生きていた、生かすべきという計画なのだろう。それを私が台無しにする訳にはいかないからな」

「申し訳ありません、愚かな質問でした」

「気にするな、私だって必死に殺意を抑えつけていたのだから……隠しきれなかったのは失態だったな。若干怪しまれている」

「……いえ、あれは寧ろ敬意や恋慕のような」

「馬鹿を言うな。早くデミウルゴスと連絡を取れ。少なくとも此方の方針をはっきりさせねば不味いぞ。ぬえさんの使役するあいつらはえげつないからな」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 王都全域を赤、青、緑の円盤がゆらゆらと飛び回る。高度から判別しにくいが大きさは1mほどだろうか。ユグドラシルプレイヤーが見れば、外装課金の無駄遣いと一笑に付すか、世界観を壊すなと憤るだろう。ぬえからすれば知ったこっちゃないという話だろうが。

 だが王都の民はこんなもの誰一人経験していない。否、この世界の人間でこれを知る者など皆無だろう。完全なる未知が、次から次へと増えていく。存在に気付いた民衆が次々と混乱を起こすのは当たり前のことだった。

 

 UFOは浮遊する以外は特に何をするでもなく、ゆらゆら移動している。好奇心からだろうか、低位の冒険者がUFOに向かってあろうことか魔法を放った。放たれた光弾をUFOはひらりと回避する。仲間が止めることもお構いなしに彼は二撃目を放とうとして……その首が消し飛んだ。

 

 崩れ落ちる愚か者の身体は、地面に倒れきる前に浮かび上がる。仲間達は何が何だかわからないが、攻撃を受けたUFOがすぐ近くまで迫っている事に気が付いて一斉に逃げ出した。死体はそのまま、円盤の真下まで運ばれていき、口のような穴に飲み込まれる。嫌な咀嚼音がUFOから響き渡るが、やがてそれも消えるとUFOは再び上空に飛び上がっていった。

 

 このような被害が複数発生し、情報が拡散すると民衆はパニックを起こした。逃げると言っても、外に出れば最悪殺される。戦えない民衆たちは窓を閉め切り、明かりを消して謎の存在に気づかれないことを必死に祈り続けるばかりだった。

 

「いいぞ、お前ら。見せしめとしては十分だ。今後も攻撃を受けたら、そいつだけを殺せ。何かを探すように、時折降り立ってうろうろするのも忘れるな。ただ、私の思念に映っているこの対象者を傷つけることだけは許さん」

 

 ゲヘナの炎で囲われた一区画、その上空からぬえが眷属の指揮を執る。

 低位妖怪召喚。百鬼夜行主の眷属である20レベル未満の妖怪たちを次々と生み出す〈特殊技術(スキル)〉だ。その内、飛行能力を持った妖怪をぬえはUFOに改造している。色分けはされているが、正直ぬえも大して区別はついていない。ただ、元となった妖怪たちの攻撃がエグいことだけは知っている。あるUFOは触手で獲物を貫き肉を食らう。あるUFOは死の宣告を与える。あるUFOは10mもの長い木綿で拘束し絞め殺す。

 

 外装を弄られていない妖怪たちはそのまま炎の壁内にて「アイテムを捜索している動きをしながら待機」している。笑い般若などが多く配置されているのはぬえの趣味だ。笑いながら人間の肉を食らい続けるその姿はさぞ楽しい恐怖を与えてくれるだろう。

 

「弾幕用の高位UFOで絨毯爆撃もしたいんだけど、無差別攻撃したら殺してはいけない相手まで巻き込みそうだし、難しいね」

 

 本当は、アインズが王都に来たのを確認次第、上空から貴族の別荘地区に向けて弾幕をばら撒く手筈だった。それが、エントマが蒼の薔薇と戦闘した為に、オーエンの出番が早まった訳で。既に計画は第二段階に移行したからには必要以上の被害は出せなかった。

 

「ああ、はやく来てほしいなモモンガさん。久々に楽しいPvPをしよう」

 

 次は、ちょっと本気出す。

 またUFOが哀れな犠牲者を食い殺したのが伝わる。眷属が奏でる恐怖と死の音色も併せてぬえは楽しく笑っていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ないはずの肌が震えた気がする。モモンに扮するアインズは、不意に訪れた謎の感覚に戸惑っていた。アルベドが興奮して迫ってきた時のそれに似ていた気がする。

 

「モモンさん、どうかされましたか?」

「いえ、こうしている間にも犠牲者が出ている事が少し気がかりでしてね」

 

 僅かに固まっていたアインズに、挨拶に来ていた冒険者が心配そうに訊ねてくる。とっさに思いついた言い訳で返すと、納得いった様子で頷いていた。

 王城の一角。今ここには王都内の全冒険者が集まっている。元来であれば国家の為に動かない彼らも、この非常事態にはそういったルールは関係ないということだ。アインズやナーベラルもイビルアイに連れられてここにいる。元々レエブン候の依頼は表向きに過ぎず、八本指の撃破が本命だったのだから、それがオーエンの撃破に変わっただけだ。

 

 リ・エスティーゼ王国の第三王女ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフによる大まかな説明も終わり、別室にてより細かい作戦の打ち合わせが行われている。モモンがその打ち合わせに入るのは最終確認の段階だ。

 挨拶をしながらもモモンの意識はぬえに向く。戦士化の魔法をかけているせいで此方から〈伝言(メッセージ)〉することができないのがもどかしい。できるのであれば、真っ先に叱り飛ばしてやったものを。

 

(絶対自分が遊びたいからあんな立場にいるな。俺と軽く剣戟交えてたらすごく嬉しそうだったし)

 

 とんだサプライズだったが、一方で許容している自分もいた。ぬえがナザリック外をもっと探検したがっている事は知っていたし、それを抑えつけていたのは他ならぬアインズだ。鬱憤も相応に溜っていたのだろう。ツアレの誘拐で『アインズ・ウール・ゴウン』に泥を塗られたことで、色々タガが外れたのかもしれない。そう思うと、八本指への怒りが再燃する。

 

「モモンさん、ちょっと不機嫌そうだな」

「ああ、独断専行した冒険者が上空の化け物に次々殺されているからな。さっきも気にしていたし、それが相当気に食わないんだろう」

 

 下級冒険者のひそひそ声が聞こえる。慌てて感情を抑え込むが、どうやら都合のいい解釈をしてくれたようだ。安堵しつつも、アインズの意識は再びぬえに向かう。ナーベが〈伝言(メッセージ)〉で確認した情報によると、モモンはオーエンと戦い、デミウルゴスがヤルダバオトという名の悪魔として乱入。その際に話す場を設けるのでそこで全てを話すということだった。つまり2対1となるわけで、なかなか面白そうと感じたのも事実だ。

 

(案外俺も戦闘狂だったりするのか? ……いや、ギルドの仲間であるぬえさんとまた一緒に遊ぶというのが楽しいのかもしれない)

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ゲヘナの炎で封鎖された一区画。UFOによる犠牲者も出なくなって久しくなり、ぬえは暇なので地上に降り立ち、UFO達を用いて夜空に幾何学模様を作り出していた。暇なのは当然、デミウルゴスが計画はあくまでも自分たち守護者がすべき事として奮起しているからである。シャルティアを洗脳した敵対組織の動きもなく、ほぼ安全が約束されたのにぬえの仕事は増えないのだった。

 

(生前は平社員だったからどうにも今の地位がもどかしい。荷物運びとか命じられたら喜んで動く自信あるぞ私)

 

 思念通りに動いて夜空を彩るUFO達を楽しんでいると、デミウルゴスが歩いてくる。実に活き活きとした様子であり、ぬえは彼が趣味を挟んだことを悟った。この区画の人間は大半をナザリックに連れ去る手筈となっており、おそらく数人を見せしめ代わりに玩具にしたのだろう。

 

「ぬえ様、準備が整いました」

「ご苦労デミウルゴス。眷属からも一応様子は窺わせてたが、向こうは吶喊を主流にした作戦なんだって?」

「はい。後30分もすれば、ゲヘナの炎を冒険者や衛士が突破してくることでしょう」

 

 まだ待たされるのかとうんざりするが仕方がない。区画内の人間、資源を運び出すのに必要な時間に向こうがわざわざ合わせてくれているのだから。むしろ待たせているのはこちらなのだろう。

 

「そうか……準備と言ったが、幼子達は隔離してあるか?」

「仰せの通りに。アインズ様は無垢なる者の犠牲を好まれないと教えていただき感謝しております。当初の計画では区画内の人間は老若男女問わず大半を連れ去る手筈でしたから」

 

 ぬえはデミウルゴスから計画を聞かされた際に、注文をいくつかつけた。その1つが『幼子は攫わない』というものだ。人間などとっくに別種の存在であり妖怪の餌であるという認識に染まっているが、生前の残滓とでもいうべきか、ぬえは幼子を殺す事には抵抗を覚えた。アインズも鈴木悟の残滓が幼子の殺害には不快感を覚えると話していたので、ぬえはデミウルゴスにしっかりとそれを伝えている。わかってくれるは甘え、言わなければ伝わらないというのも生前からの持論である。

 ただし、幼子の親を例外にしているわけではない為、王国が対策を打たないならば結局幼子達の命は軽いままだろう。

 

「我儘だろう? 私も別に人間をいくら殺そうが抵抗がない、寧ろ愉悦を覚えるぐらいなんだが、それでも幼子を手にかけるのは趣味ではなくてな。遊びに使える幅の違い、とでもいえばわかるか?」

「そうでございましたか。ソリュシャンとは趣味の方向性がまた違われるのですね」

 

 生前人間だったからなんてこと言えるわけもなく、それっぽい理由を作り出す。デミウルゴスも納得した様子でぬえは安堵する。そういえばソリュシャンは赤子を溶かすのが一番好きという設定だっただろうか。誰だよあんな悪趣味な設定つけた奴。……自分含め候補者が多すぎた。

 

「どうかされましたか?」

「いや……そうだね、アインズ様前衛でも相当強いし……ちょっと装備変えておこう」

 

 話を逸らすついでに、アインズが来るまでに少し強化をしておくことを決める。魔王RPで魔法の無効化アピールは十分やったしこの魔法無効装備はさっさと付け替えてしまうべきだろう。この世界では非常に価値がある装備だが、モモンを相手にするならば魔法を気にしていては意味がない。撤退という敗北前提なのだから斬撃耐性強化に変えておく。

 

 魔王オーエンと、漆黒の英雄モモンが激突するまで後2時間。




外装データを弄られようが、中身は変わってません。血肉を食らう妖怪たちです。ぬえが指示を放棄すれば、人間だけを殺す兵器よろしく王都全域に襲い掛かるでしょう。

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