その至高、正体不明【完結】   作:鵺崎ミル

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正体不明の戯曲

(モモンガさんが格好良すぎる件について)

 

 素直に認めよう。見惚れた。アルベドだったらくふー! とか言って理性失いそうなほどにモモンの登場は決まりすぎていた。英雄は魅せる存在だ。功績が最も重要視されるのは間違いないが、英雄とは「才能と機会を得る者」なのだとぬえは考える。元々すごい人だと認めていたが、英雄の才能すらあったとはと改めて感服した。

 

「漆黒の英雄!! 私は蒼の薔薇のイビルアイ! 同じアダマンタイト級冒険者として要請する! 協力してくれ!!」

「──承知した」

 

 アインズもといモモンは、イビルアイの要請に頷くと彼女を背に隠し、ぬえの前に立ちはだかった。それがまた格好良くて、負けてられないと気合を入れる。アインズへのサプライズだって兼ねているのだから、堂々としなければならない。事前に決めていた魔王名を名乗り上げる。

 

「お前は強そうだな。漆黒の戦士よ、私はユナ・ナンシィ・オーエンという。オーエンとでも呼ぶがいい」

 

 正体不明に相応しい魔王名だと自画自賛する。候補は他に『フランドール』『ヤクモ』といった東方projectのキャラクターからサルベージした魔王達の名前まで様々なものがあった。だが、やはり200年前の傑作『そして誰もいなくなった』に使われた偽名、オーエン夫妻から取るのが一番だと結論付けた。U.N.オーエンそのものはフランドールに取られた感はあるのだが、UNKNOWNと掛けている偽名は『封獣ぬえ』にこそ似合うとぬえは確信している。

 

「……変な名前だな」

 

 だが会心の選択と判断した魔王名はモモンにバッサリと切り捨てられた。ぬえは内心でずっこけ、このセンスをわからないモモンに若干怒りが芽生える。そんなぬえの色々感情が乗った視線を意にも介さず、モモンは堂に入った態度のままだ。もうちょっと動揺ぐらいしてくれてもいいのにとすら思う。やはり30分前の連絡は余計だったか。

 

「……オーエンか、分かった。私はモモン。彼女が言ったようにアダマンタイト級冒険者だ」

「なるほどな……してモモンとやら。お前がこの場に現れた理由はなんだ?」

「お前とは関係がない依頼だ。上空を移動中だったが、ここでの攻防を目にしてな。緊急事態と認識して飛び降りたまでだ」

 

 モモンが言っている事は即ち、此方が得ていた情報通りであり、先の連絡通りの行動をモモンが取っている事の示唆だ。ちなみに≪伝言≫を今繋ぐ気はない。イビルアイに違和感を持たれてはならないし、何より繋いだら絶対に怒られる自信がある。

 

「……お前の目的はなんだ?」

 

 今度はモモンが訊ねてきた。翻訳すれば『これからどうするの?』という確認だ。

 ぬえはデミウルゴスに言われた事を思い出しながら説明する。魔王RPを意識しながら。

 

「我が片腕にデ──ヤルダバオトという悪魔がいてな? そいつが私達を召喚し、使役するアイテムがこの都市に流れ込んだと言い出したんだよ。回収する為に来た、そういうことになってると言えば満足かな?」

「それをこちらが提供すれば問題はそれで終わるのか?」

「無理だな。連れてきた配下たちが腹を空かせている。私も暴れ足りないんだ、敵同士戦う以外ないだろう」

「それが結論か? ぬ──オーエン。私達は敵同士という道しかないわけだな?」

「そういうことだ」

 

 情報の確認は終わった。ぬえは真紅の槍を構え直す。

 まだ〈ゲヘナの炎〉は立ち上がっていない。エントマがデミウルゴスと合流しているなら、状況は悟っているはずだ。デミウルゴスは『オーエンの片腕、悪魔ヤルダバオト』として活動することになっている。計画に柔軟性を持たせ、融通を利かせる為だ。オーエンに扮するぬえがテンパった時用の助け船とも言う。現状で作戦第2段階に移行していないという事は、まだセバスがツアレを救出完了していないか、ぬえの帰還を待っているのだろう。今は最低限しか遊べない。本命は後のお楽しみだ。

 

「大体理解した。そういうことならば……ここで倒させてもらおう。仕置きの時間だ」

「言ってくれるなモモンとやら。このオーエンがお前の余裕を打ち砕いてやろう!」

 

 前哨戦。といえども、これはぬえが待ち望んだ展開だ。昂る気分に任せて吶喊する。図らずも踏み出した1歩は同時であり──激しい金属音の序曲が始まった。

 

 モモンが生み出した無数の剣の煌きを飲み込むように、真紅の槍が幾重もの紅い光跡を残す。ぬえはネタビルドの都合中衛とも言うべきポジションだが前衛向きの能力だ。異形種の高いステータスを槍に乗せて叩き込む。だが、5連続で放たれた紅いレーザーをモモンは全て叩き落し、槍より内に踏み込んだ。

 

 感嘆がぬえの心を支配する。

 ユグドラシルでは完全に後衛職だったくせに、恐ろしい才能と言わざるを得ない。だが、それでも前衛は1日自分が上を行く。剛腕に振るわれた巨剣がぬえの身体に触れる前に、槍を回転させるように捻り戻す。頑丈な柄は必殺の一撃を弾き返し、モモンごと押し返すように薙ぎ払われる。

 

「あはははは!」

 

 気が付けば笑い声が口から洩れる。槍が剣に対して持つ優位性がまるで意味をなさないような、出鱈目なモモンの攻撃がとても楽しい。片手持ちの両手剣二振りが槍の攻撃速度と同じなんて反則だ。無論、お互い本気とは程遠い。それでもプレイヤースキルというのは滲み出るものである。モモンは、魔王オーエンと互角にやり合える。

 

 一際大きい金属音が響き渡ると、ぬえの身体が吹き飛んだ。自ら飛んだと言った方が正しい。距離を取りたいときは相手の大振りの攻撃に合わせるのは基本だ。ゲーム廃人は一瞬の無駄を嫌う。ごくごく僅かな遅れが、距離を取った相手への追撃を躊躇わせる。尤も、それでなくとも追撃は確実にないだろうとは思っていたが。

 ぬえは魔法も併用して軽やかに着地する。そのまま槍を肩に回して一息ついた。モモンも右手の剣を石畳に突き立て、その手で首のコリを取るような仕草を見せる。要は小休憩だ。

 

「見事だ、漆黒の戦士。お前のような天才がこの場に現れたのは……想定外だな」

「つまらん世辞だ。それで、私の査定が終わったなら本気で来てもいいんだぞ?」

 

 心からの称賛なのだが、世辞の一言で切り捨てられてしまった。しかも査定とすら言われてしまう。ナザリックに帰ったらちゃんと褒めようとぬえは心に誓った。ちなみに2人の会話を聞いてイビルアイは本気で驚かされているのだが、そんな事はぬえもモモンも気付いていない。

 

「モモンg──と言ったか? 査定のつもりはないが、お前こそ本気ではないんだな」

「……ぬ」

「査定が望みならこれはどうかな!? 〈三つ首のキマイラ〉」

 

 誤魔化すように声を張り上げたぬえに合わせるように背中の翼(イビルアイには3対の触手が肥大化したように見える)が大きく広がった。奇怪な3対の翼の背後に魔法陣が2つ展開される。一気に警戒するモモン、それがさもおかしいと言った様子でぬえが語り掛ける。デミウルゴスの計画通りにモモンを称賛するようにして。

 

「お前程の猛者を相手に確実な勝利は断言できない。いや、私よりも強い可能性すら視野に入れる必要はあるだろう。この魔法では殺せないだろうな……後ろの雑魚は知らないが」

 

 魔法陣が2つ共に光を帯び、徐々に強く輝きだした。いつでも撃てるのに間を持たせているのは1つはイビルアイを絶望させる為、1つはモモンにしっかりと伝える為だ。そう、弱者を守り切る英雄はカッコいい。

 

「お前が英雄なら、庇う事を勧めるよ? 鵺符『鵺的スネークショー』!」

 

 魔法陣より緑光の弾幕が一斉に放たれる。蛇のように奇怪な動きを見せる光弾はモモンとイビルアイへ囲うように襲い掛かった。周囲の石畳は軒並み砕かれ、激しい土埃が発生する。2人を覆い隠す程のそれは、モモンの巨剣によりあっと言う間にかき消された。

 

「見事。そいつを無傷で守り切るとは、な」

「世辞はいらんと言ったはずだが」

 

 ぬえの予想通り、イビルアイは無傷だ。あの巨剣でイビルアイへの直撃弾を全て叩き落したのだろう。ああも様になっていると、守られているイビルアイを羨ましく思うほどだ。英雄は人たらしだ。男女関係なく惚れかねない姿がそこにある。実際、その守られているイビルアイは陥落寸前であった。

 

「それよりオーエン……どうして距離を取るんだ? 仕置きが怖いのか?」

「「!」」

 

 漆黒の英雄は、先ほど救ったその少女を抱え込むように持ち上げる。ぬえには、全てが見えていた。仮面で表情こそ窺い知れないが、誰もが見惚れる英雄に抱きかかえられそうになり、感激する少女の姿が。そして物語に出てくる騎士に守られる姫のように横抱きされるわけでもなく、荷物のように抱えられて、場違いながらも消せない不満を漂わせる少女の姿が。

 

「だから童貞なんだよ」

「えっ」

 

 思わず口から飛び出していた。しかも台詞は生前を思えば絶対に言える立場ではないものだ。いや、理屈に適った抱え方なのはわかる。これから更に戦闘を想定するならば、理想的と称賛してもいいだろう。しかし、もうちょっと女心を汲んでほしいと思ったぬえは悪くないはずだ。今のぬえには、エントマを殺されかけた事による殺意も無視した同情が心にある。

 

「今のはどういう……」

「さ、さて! 頃合いなのでな、一度引かせてもらおうか。目的はお前を倒す事ではなく、王都のどこかにあるはずのアイテムを得る事だからな。そろそろ目星をつけた区域を我が至宝の悪魔デ──ヤルダバオトが特定していることだろう。そこは炎で囲うつもりだが、もし侵入してくるならば、次は確実に殺してやる」

 

 言うだけ言って、ぬえは〈正体不明〉〈完全隠遁〉で姿をかき消し逃走する。

 先ほどの失言の追及を避ける為というのが本音だが、さすがにこれ以上遊ぶのは不味いとも判断したからだ。モモンの行動のせいで冷静になったおかげとも言える。数分もしない内に合流地点に到着すれば、待っていたと言わんばかりにデミウルゴス──仮面をつけているので役名ヤルダバオトと呼ぶべきかもしれないが──が最敬礼で出迎えてくれた。

 

「ぬえ様、お待ちしておりました」

「ごめんね、アインズ様が最高のタイミングで介入してくれたものだから、あの場にいたイビルアイに見せつけるようにちょっとだけ戦わせてもらった」

「それはそれは……さすがはアインズ様ですね。ゲヘナの炎を見せる前にぬえ様にひと暴れしてもらう算段でしたが……名声を高めるタイミングというものを完全に掌握しておられる」

「全くだよ。あまりに格好良くて見惚れる程だった」

 

 幾度目かも分からない、アインズへの感嘆を声に乗せているデミウルゴスに相槌を打つ。一瞬、デミウルゴスが固まったように見えたが、仮面越しでも分かるほどの笑顔で「そうでしょう、そうでしょうとも」などと更なる相槌を打ったのでただの気のせいとして流す。アインズとの戦闘で知覚が鋭敏になっている為だろう。

 

「それで、展開する雑魚は魔将達による召喚スキルと、私の眷属たちでいいんだね?」

「はい。……ぬえ様の召喚される妖怪は私共の知識にもない完全なる『未知』。素晴らしい演目となるでしょう」

 

 弾幕再現の為に強引に外装データを弄った召喚獣なのだが、ナザリックの面々には非常にウケがいいようでぬえも嬉しくなる。総額で言ったら給与3か月分は消し飛ばした気がするが、弾幕再現以外でも出番があるなら浮かばれるというものである。

 

「それでは、ゲヘナの炎と併せてお願いいたしますオーエン様」

「ふ、任せるがいいヤルダバオトよ!」

 

 

 セバスがツアレを救出、モモンとナーベがイビルアイとの会話を一通り終えた頃、王都の一区画を炎の壁が包み込んだ。人々は30mにも昇るであろう炎にまず視線を奪われ、更に上空のソレに気が付き悲鳴を上げる。

 

 月と星々が輝く美しい夜空を汚すように、毒々しい発光が散らばっている。誰もその正体を知る者はいない。ぬえが召喚した無数の空飛ぶ円盤たちが、王都全域に展開していた。




前回今回とゲヘナ計画を意識しすぎて前哨戦部分が書籍と完全に同じ流れだったのは反省点ですね、ご指摘ありがとうございます。あまりに同じ下りはぬえがその場にいようが基本カットしているのですが、戦闘面入れたいならもうちょっと独自状況作るべきでしたねぇ。最初から槍持たせて暴れさせるとイビルアイが即死するし…計画の都合、モモンの英雄要素高める戦闘は必要だし…ぬえじゃないけど手加減が難しすぎる。

ぬえとアインズがPvPを本気ですると、『アンデッドの群れ VS UFO百鬼夜行』というB級映画でもなかなか見られないカオスな戦争が始まります。ぬえは初見殺し特化なんで対策全把握してるアインズが最終的に有利ですね。ネタビルドの上、データ晒されまくってるのにPvPの勝率が高いアインズ様が廃人すぎるとも言う。全装備神器級以上って本当どれだけのめりこんだのやら
ちなみにモモンとしての装備は全部聖遺物級となっています。魔王オーエンは武器だけ伝説級という設定なので、武装で言えばオーエンが上ですね。

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