その至高、正体不明【完結】   作:鵺崎ミル

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アインズ様のスライム風呂が誰得などという不届き者がいるそうですね。アルベドに説教を受けるべきだと思います。

参考までにぬえのスライム風呂とか考えましたが、こちらは誰得だと思ったのでやめました。
後ごめんなさい、弾幕は次回です。


正体不明の探索

「──ふぁ」

 

 ナザリック地下大墳墓。その施設の1つにて、小さく、無意識下で漏れたような甘美な声が響く。

 数多の者を釘付けにするであろう、美貌と容姿。その身体に纏うはずの普段着はない。

 これがこの場の正装であるとばかりに必要最低限の着衣のみで、無防備に寝台で横たえている。

 

 異様があるとすれば、ヌメヌメとした光沢を持った数多の触手がその周囲を蠢いていることか。

 その触手が、無防備なそれに纏わりつき、腕、足、腰に巻きついている。

 やがて、触手の本体とも言うべき肉塊が立ち上がるようにせりあがり、ぽつぽつと眼球が現れる。

 掴んだ対象を値踏みするようにじっと眺めていたが、どうするかを決めたのだろう。ぼこり、と数本の触手が肉塊より生えてきた。

 囚われた身体は抵抗の様子もなく、触手に引っ張られその上体を起こされる。

 

「本番、かな」

 

 グロテスクな、一際巨大な触手は見せつけるように目の前を揺らぎ、やがて暴力的に蹂躙を開始する。肩、腰、そして絶妙な部分へと強い刺激が身体を走り抜けていった。

 

「ああん……あ、そういえばこの台詞やっと言えたかも……あっ」

 

 絶妙な部分、翼の付け根を器用に刺激され、ぬえは抑えきれない声をあげた。

 ここは、ナザリック地下大墳墓第9階層の娯楽施設の一つ、マッサージルームだ。

 

 

 ナザリック地下大墳墓九階層。

 ギルド“アインズ・ウール・ゴウン”のメンバーの居住区画がここだ。

 現実ではブラックな環境にいる者が大半だった彼らの望みという望みを全て叶えた贅沢の結晶。

 ユグドラシルでは小道具的な意味合いしかなかったが、それでも彼らは全力を尽くした。

 彼らの私室は世界最高峰のロイヤルスイートを再現。大浴場も思うがままにデザイン。

 バー、雑貨店、ラウンジ、円卓会議場、ブティック、果てはネイルアートショップまで用意されており転移した今はすべてが稼働状態にあった。

 

 最低限の仕事を終え、アインズの帰りを待つばかりで暇となったぬえは、仲間らと作り上げた広大なギルド本拠地を見て回るのが楽しみの1つとなっていた。第九階層でバーが普通に営業されていたのには吃驚したものだ。

 今日もゆっくり見て回ろうと、施設の1つ1つを見て回り、たどり着いたのがここだ。

 大浴場からそう離れていない位置にあるマッサージルーム。

 これまでの施設と比べればさほど広くはないが、それぞれ用途の違うマッサージチェア・ゴーレム数台、寝台型式のマッサージゴーレム数台が設置されていた。

 わざわざ全てがゴーレムなのは、ぬえの悪友が用意したからだと確信する。

 そして一際目に付くのが、ローパーが蠢いている寝台だ。

 ユグドラシル時代ではローパーはそこに管理モンスターとして設置されているだけで、ペロロンチーノ曰く『いやらしいマッサージ』などはできないはずだった。ユグドラシルではR-18的行為は厳しく制限されているからだ。

 

(そういえば五大最悪の、エロ最悪とかもいたっけ。あれヤバいんじゃないの)

 

 設定上は薄い本で大活躍するような類だったと記憶している。

 今目の前で、謎の期待に眼球をいくつも輝かせているこのローパーは大丈夫だろうか。

 そんな不安にかられていたのが10分ほど前である。

 

「ああ~……やばい、すごい気持ちいいわこれ」

 

 好奇心に負け、着替えて体験してみたが、マッサージの快感ここに極まれり、であった。

 自分が固定された状態が、専用の服を着ている都合どうにもいやらしいが、せっせと触手を動かすローパーは真面目な様子で凝りをほぐしてくれている。

 時折、ぬえの様子をみて【&$&?】などと奇怪な音声で話しかけてくるが、どうやら気持ちいいかを確認してくれているようだ。頷くと嬉しそうに肉塊を揺らしたので間違いない。

 改めてみると規則性なく蠢く眼球が、パチクリとしててなんとも可愛らしかった。

 見つめられると少々恥ずかしい。しかし、ここにはぬえと優秀な整体マッサージ師しかいない。聴く人が聴けば嬌声としか言いようがない声を隠さずあげながら、彼の同族の方もこんな技術あるのかと考える。

 確か、ユグドラシル規制の限界を見極めた性能はつけていたはずだ。

 

「エロ最悪の方って……ヘロヘロさんみたく装備破壊するから種族特性として麻痺無効とかないとヤバいんだったかなー。駄目だ、従業員は増やせないか」

【&$&$&$&$~?】

「あ、ひょっとして知り合いなの? ごめん、ローパー語はわかんないんだ」

【$&$&$&$】

 

 20分後、全身快適といった調子でぬえはマッサージルームを後にする。

 また来てください、と言わんばかりに触手を振って見送ったローパーに、ぬえはすっかりほだされていた。

 

「また来よう……疲労無効つけてんのに翼の根元って疲れが微妙に残るんだよね。あ、名前ないならつけてあげないと」

 

 後に、アインズが三吉と名付けたサファイアスライムと、ぬえがロー君と名付けるエルダーローパーどちらが可愛いかでペット馬鹿と化した至高2人が論争する事となる。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 マッサージルームからネイルアートショップをみて回り、遊技場でルールもわからないままにビリヤードで遊ぶ。最初は力加減を間違え、キューと玉、ラシャを破壊してしまったがバレない内に魔法で修復した。

 

 レベル100の筋力となると、魔法職のアインズですら恐ろしい力を発揮する。

 ぬえは、大妖怪、鵺という種族の凶悪な基礎ステータスに加え前衛職もとっているので筋力はアインズの比ではない。特殊に関しても特殊技術(スキル)を有効活用する為限界まで割り振り、スペルカードの為にMPも非常に高い。

 が、後は軒並み劣化シャルティアと言うべきステータスである。それでも筋力は前衛職として最低ラインは維持しているので、本気で暴れるととんでもないことになるだろう。

 EXTRAボスとしての威厳もないわけではないのだ。

 

「変な意識さえしなければ、人間だった頃の感覚でいいのか。強い力を振るう、無意識からの衝動的行動であっさりリミッターが外れる感じか」

 

 ゲームのおかげでコツは掴めた感覚がある。だが、やはりアインズが言うように模擬戦がしたい。

 スペルカードをこっちに転生してから一度も使っていないのだ。

 再現した中でも自信作と言えるそれを、確認する意味でも使いたい。

 

 そんな事を考えていると、脳内に糸が繋がったような感覚が走った。

 〈伝言(メッセージ)〉が繋がったことを意味する。今、自分に〈伝言(メッセージ)〉を繋ぐのは、アインズ、アルベド、デミウルゴスのいずれかのはずだ。

 

≪ぬえ様、アルベドです。模擬戦の準備が整いましたので、闘技場までご足労願います≫

≪アルベドか。早いね? 数日後ぐらいでもよかったのに≫

 

 望めば与えられるとはこのことか。

 アルベドからの実にいいタイミングにぬえの顔が思わず綻ぶ。

 

≪至高の御方の模擬戦……寧ろ候補希望が多すぎて選定に苦労したほどです≫

≪あー、長引かせると悪化するのか。ごめん≫

 

 事を理解して思わずアルベドに謝罪した。

 NPC達からすれば『手ほどき』を受けてもらえる立場なわけだ。

 ギルドメンバーの中ではぬえの実力は下に位置するが、NPCにとって至高の41人は絶対である。恐れ多くも模擬戦の相手をしていただけるならば、と希望者が続出したらしい。

 

≪滅相もございません。ところで今どちらに≫

≪第九階層の遊技場だよ。一人だから、暇つぶしでしかないけど≫

≪御一人、でございますか?≫

 

 アルベドの疑問を呈する声にぬえも首を傾げる。

 このナザリック探索には傍仕えのメイドも連れていない。

 アインズだって今は外出中なのに何がおかしいのだろうと、ぬえが返そうとした時。

 

≪私室を除き、ぬえ様には常に八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)が付いておられたはずですが≫

≪……≫

 

 天井の気配に気付くのとアルベドの指摘が同時に重なり、ぬえの表情が凍り付いた。

 

≪ぬえ様?≫

≪あっ、うん! そうだったね! じゃあちょっとしてから向かうよ!≫

≪畏まりました≫

 

 アルベドからの〈伝言(メッセージ)〉がふつりと途切れる。

 凍り付いた表情は、今は火のように、熱い。

 思い出すのはマッサージルーム。別にやましいことをしていたわけではない。健全なマッサージ、別にR指定が入る事でもない。見た目と、気にせず声を上げていた自分が恥ずかしいだけだ。

 

「エ、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)……」

「「はっ、至高の御方の御側に」」

 

 天井からするすると降りて、透明化を解除する忠臣。2匹もいやがる。

 確かに最初からいた。悪いのは忘れていた自分に他ならない。

 

「さっきの、マッサージの事だけど……」

「「……」」

 

 おい、目を逸らすな。余計恥ずかしくなるだろうが。

 インセクト族の癖に頬を赤らめるな。もっと恥ずかしくなるだろうが。

 頬が熱を帯びている自覚があるだけに、さっさとこんな話題終わらせたい。

 刺激された涙腺が仕事をしないよう、こらえながらぬえは続ける。

 

「忘れろ、口にするな、その時は殺す……」

「「……ぬえ様の御意志のままに」」

「それと……お前達が常に私の護衛担当であることを命ずる、絶対交代は許さない」

「「ぬえ様の御意志のままに」」

「……マ、マッサージルーム入ったら入口で待機!」

「「……」」

「返事!!」

「「ぬえ様の御意志のままに!!」」

「よし、仕事に戻れ! 後、少ししたら闘技場に転移するからね!」

「「ハハッ」」

 

 再びするすると天井に戻っていく八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)を見送り、ぬえは幾度も深呼吸する。

 されど頬の赤みは抜けた自覚もなければ、涙目は収まらない。

 正直、『封獣ぬえ』でもこれは泣いて許されると思う。

 

「模擬戦相手には悪いけど……発散させてもらおうかな……」

 

 ぬえは決めた。

 全力で八つ当たりする、と。

 ぬえが闘技場に現れたのは、アルベドから連絡を受けて15分後のことだった。




エルダー・ローパーのロー君 命名ぬえ
触手構成:拘束用触手16本、按摩用触手8本、指圧用触手4本。
製作者:エロに人生をかけた至高の41人他

五大最悪『エロ最悪』の親族的設定。よって性格は穏やか。
誰も来てくれないマッサージルームを寂しく過ごしていたが、ぬえが常連となったので活き活きとするようになった。
元来は鞭攻撃の威力を底上げする為に幾つもの突起や重りとしての球体が付属しているグロテスクな触手が按摩用、目玉など柔らかい部分を貫いて欠損・出血させる鋭利な触手が指圧用に改造されている。
設定職業はレア職業「体操士」。元ネタは知る人ぞ知る。
スキルにより、疲労の完全回復、一定時間疲労無効、身体能力向上をバフする事が出来る。

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