やはり俺たちの高校生活は灰色である。   作:発光ダイオード

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ー折木奉太郎ー

 

 

少し前

 

 

千反田達が嘉悦と比企谷を探しに行った後、俺は雪ノ下と由比ヶ浜からかつて奉仕部だった頃の話を聞いた。話の内容はおおよそ予想通りであったが、時間があまり無かった事もあり大まかにしか聞けなかった。話を聞いて分かった事と言えば……比企谷の自己犠牲的なやり方で三人の関係は悪くなったが本音を言い合う事で解消され、比企谷もそんなやり方はもうしないと言った。今はまた別の問題を抱えている様だが、部活が併合した事で少し緩和したらしい、という事ぐらいだ。しかし比企谷はもうしないと言ったにもかかわらず、また自分を犠牲にしようとしている。今までの依頼と違う事と言えば、原因を作ったのが比企谷本人であるという事だ。おそらく比企谷は自分が原因で起きた事に雪ノ下達を巻き込むまいと考えたのだろう。だが雪ノ下達はそれを快く思っていない。そして俺も千反田に言われた以上、何とかしなければならない。自分も原因を作った内のひとりなので当然といえば当然かもしれない。

話を聞いていて一つ思いついた方法はあるが、あまりいいとは言えないものだった。前髪を弄りながら考えていると、由比ヶ浜が何か思いついたかと聞いてくるので、あまりいい方法では無いと前置きしつつとりあえず話してみる。

 

「今思いついた事で、多分嘉悦の問題は解決できると思うが、お前達の問題は解決できない。せいぜい何かのきっかけになるかもってぐらいだ。お前達の問題はお前達自身で解決しなければならないだろう」

 

二人は黙って聞いていたので俺も話を続ける。

 

「正直、嘉悦の事は俺に解決できると思わない。方法が全く浮かばないからな…」

 

「折木君、何を言ってるの?頭は大丈夫かしら?」

 

「思いついたのに方法が浮かばないって、何言ってるか意味わかんないよ?」

 

頭の悪い奴を見る様な顔をしてに二人が口を挟んでくる。雪ノ下はともかく、俺は由比ヶ浜よりも頭が良い筈だ…多分。

 

「話を最後まで聞け。俺には方法が全く浮かばない…解決できるのは比企谷だけだ。……だから方法は奴に任せて俺達はその手伝いをする」

 

「……でもそれって今までと変わらなくない?」

 

由比ヶ浜は不安そうに聞いてくる。

 

「いや、だいぶ違う。今までは比企谷が自分一人を犠牲にしてきたが、このやり方は俺たち全員が犠牲者……いや、共犯者だな。嘉悦の依頼を受けるところから始まって、その中で誰も比企谷の考えを否定しなかった……こうなった事は全員に責任がある。比企谷が解決しようとしているなら、手助けをするのが道理だろう」

 

自分の事を棚に上げて、だいぶ調子の良い事を言っている。こんな事を言う自分に腹が立つが、こうでも言わないと雪ノ下も由比ヶ浜もやるとは言わないだろう。

 

「でも…全員で責めるのは嘉悦さんにとって少し酷じゃないかしら」

 

雪ノ下が心配そうに言う。

 

「だがそれが比企谷のやり方だ。それにお前達の話を聞くと比企谷は、やり方はえげつないが相手の立場が悪くならない様にちゃんと考えているみたいだからな。そのあたりはお前たちが上手くフォローすれば多分大丈夫だろう。まぁ花井は怒るかもしれないが……どうしてもあいつらの気が収まらないならその時は………みんなで謝って許してもらおう」

 

俺が言うと二人はキョトンとしてこちらを見たが、やがて顔を合わせてプッと笑い出した。

 

「謝って許してもらおうって、どんな解決方法だしっ」

 

「あなたって少し変わってるって思ったけれど、やっぱり変な人だったのね」

 

呆れた様に言うが、否定的な感じはしない。どうやら方法は決まった様だ。

 

「さっきも言ったが、これで嘉悦の依頼は解決できると思うがお前達の問題は解決できない。このやり方は比企谷がお前達を巻き込むまいと避けようとしたやり方だ。少なからず禍根が残る…それをきっかけにできるかはお前達次第だが……大丈夫か?」

 

俺は二人の決意を確認しようと聞いてみたが、どうやらいらぬ世話だったらしい。

 

「大丈夫だよっ!私たちも立ち止まってばっかじゃいられないからね。みんなで前に進まなきゃ。ねっ、ゆきのん!」

 

雪ノ下も由比ヶ浜に言われて強く頷いた。その時、示し合わせたかのように俺のスマホがメールの着信を知らせて来た。直ぐに取り出して確認する。

 

「里志からだ。比企谷は花井を屋上に呼び出したらしい……俺達も行こう」

 

そして俺達は足速に部室を後にして、比企谷と…嘉悦がいる筈の屋上へと向かった。

 

 

※※※※※

 

 

ー比企谷八幡ー

 

 

俺たちが嘉悦の依頼を解決した後、嘉悦と花井は自分達のせいで随分迷惑を掛けたと言って謝ってきた。それに対し由比ヶ浜は、こっちも勝手な事をしてごめんねと謝り、お互い様だねと言って笑い合った。雰囲気は俺が予想していた様な悪いものに事はなく、結果としてうまく纏まったと思えなくも無い。みんな穏やかに話をしている姿を俺がぼーっと眺めていると、嘉悦はこちらに気付き由比ヶ浜に何か挨拶をして俺の方に近寄ってくる。

 

「比企谷君…ありがとうございます。さっきは色々ひどい事言ってごめんなさい。」

 

あろう事か嘉悦は先程まで散々自分を責めていた相手にお礼と謝罪の言葉を言った。

 

「…いや、俺の方こそ言い過ぎて悪かった…」

 

「ううん、大丈夫。比企谷君が言ってくれなかったら、きっと今も花井君の事を信じられずにいた。だからありがとう。……比企谷君が学校一の嫌われ者って言われてた意味が分かったよ…でもホントは違ったんだね」

 

「…いや、違わねーよ。俺が酷い事したのに変わりは無いしな、周りの奴らの言う通りだ」

 

「良く知らないで言ってるだけでしょ。分かってる人には分かるんだよ……私もそうだし。比企谷君の事をちゃんと見てる人は居るよ」

 

俺は言われ慣れない事に恥ずかしくなり、頭を掻きながら顔を背けた。

 

「……だから結衣ちゃんの事もちゃんと見てあげてね…」

 

ぽそりと意味深な事を言われどういう事か聞こうと顔を向けなおすと、嘉悦はすでに花井達の方へ戻ってしまっていた。それから少しの雑談の後、花井と嘉悦は箏曲部に行くと言い頭を下げて屋上を去って行った。

俺達だけになった屋上は、一層広く感じた。二人いなくなっただけなのに空気が変わったように静かになり、校庭からは運動部の声がよく聞こえてきた。その中で俺は折木達を見る。嘉悦と花井の事は解決したが、まだ聞かなければいけない事があった。その事を分かっているのか、折木もこちらを見る。

 

「何で全員で来た?これはお前が考えた事か?」

 

「違いますっ!私が折木さんに頼んだんです、何とかして欲しいと思ったので…」

 

なぜか返事を返したのは千反田だったが、全員に聞いてる様なものなので俺は特に反応せず言葉を続けた。

 

「何とかってなんだ?俺一人でも解決出来た…お前達が来る必要は無かったんだ」

 

そう言うと、俺の言葉に反応する様に由比ヶ浜が一歩前へ踏み出してきた。

 

「違うよヒッキー。確かにヒッキーなら一人で何でも出来ちゃうのかも知れない……私知ってるの、ヒッキーが私やゆきのんが傷付かない様にしてくれてるんだって……でもそれじゃあ意味ないの。ヒッキーが嫌な思いしたら、私もゆきのんも傷付くんだよ」

 

「比企谷君のしてくれている事は、結果的に私達を傷付いけているわ。あなたが傷付いて私達が傷付いて……、それでは痛みがどんどん増すばかりだわ。それは無意味な事よ」

 

「だったらっ……」

 

だったらどうすればいいんだ…。俺は咄嗟に顔を背けた。由比ヶ浜と雪ノ下に言われた事に、俺は返す言葉が見つからなかい。本当は俺だって分かっていた…このやり方が二人にとって受け入れ難いものだという事は。一度は雪ノ下達の言う、自己犠牲なやり方はしないと決めた…だが、今回は俺が原因だ。自分のせいで二人が傷つく事は避けなければいけない、そう思うのは普通の事じゃないのか。………いや、結局は自分の為だったのかも知れない…。二人の気持ちに気付かないふりをして、これは二人のためだと思う事で少しでも罪悪感を感じない様にしていただけだ。そう気付いた俺は二人に顔を向ける事が出来なかった。

沈黙が続いたが、由比ヶ浜がそっと話し出す。

 

「…でもね、さっきみたいにみんな一緒なら、痛みは分け合えるんだよ。一人じゃ辛くて泣いちゃいそうでも、一人じゃないって思えたら辛くなくなる。私はみんなバラバラに傷つくより、みんなで一緒に傷つきたい……わがままかもしれないけど、私はそうしたいの」

 

「比企谷君、これはあなたの望まないやり方かも知れないけれど、私も由比ヶ浜さんもちゃんと考えてこうするべきだって…こうしたいって思ったの。だから比企谷君も真剣に考えて頂戴。あなたの事を…私達の事を」

 

雪ノ下は諭す様に言う。二人は自分たちの事をちゃんと考え、答えを見つけた。だが俺は自分の事しか考えていなかった。そんな俺が人を頼りにしていいのか?今まで一人でやってきた、それを嫌だとは思わなかったし、変えたいとも思わなかった……変えられると思った事すらなかった…。

 

「…俺は今までずっと一人でやってきた…そんな急に変えられるもんじゃ無い…」

 

俺は多分辛そうな…どうしようも無い顔をしていただろう。鏡が無いから分からないが、雪ノ下と由比ヶ浜をそっと見るとその表情から察しがついた。……だが、雪ノ下はそれでも俺に優しい微笑みを向けて来た。

 

「それなら比企谷君が変われるまで私達が見ていてあげるわ。それにもし…それでも私達を傷つけたくないと言うのなら、比企谷君自身も傷つかない方法を考えて頂戴」

 

「ちゃんと側に居るから安心してね」

 

由比ヶ浜も笑っている。

 

「女の子にここまで言われたんだから、覚悟決めなさいよね」

 

「大丈夫だよ摩耶花。千反田さんに逆らえないホータローと一緒で、八幡も雪ノ下さんと由比ヶ浜さんには逆らえないさ」

 

「酷いですよ福部さんっ。私折木さんにそんな事していませんっ」

 

「勝手な事を言うなよ里志……。まぁ人には出来る事と出来ない事がある。それを補う為に人に頼るのは悪い事ではないぞ……度合いにもよるけどな」

 

「折木、あんた一言余計よ」

 

折木たちも続いて言ってくる。好き放題言ってくる奴らだ。だが、何故かそうなのではと思えてしまう。俺の悩んでいる事なんてこいつらからしたら些細な事なんだろう…。俺が何を言おうとこいつらの考えは変わらない、それなら……。そう思うと、自然と笑みが溢れてきた。

 

「お前ら、ホント勝手な事ばっか言いやがって……」

 

そう言う俺の頬を、暖かい何かが流れて言った。これが俺の本当の気持ちなのだと思った。

 

「その…なんだ……悪かったな。迷惑掛けて…」

 

俺は袖で目元を擦りながら言った。その姿を見て雪ノ下も由比ヶ浜も、みんなホッとしたように微笑んでいる。その時、タイミングが良いのか悪いのかチャイムが最終下校時刻を告げた。時間に気付きみんな慌てたようだったが、俺としては自分の泣き顔など恥ずかしくて見せられないので丁度良かった。

 

「いけません皆さん、早く部室に戻りましょうっ」

 

千反田がそう言いみんな忙しなく出入り口へ向かう。少し後ろを歩いていた俺は足を止め折木に話しかけた。

 

「いろいろと悪かったな…」

 

そう言うと折木も足を止め振り返った。

 

「…もともとは俺とお前で解決するべきだったんだ。どうって事ないさ」

 

「そう言うなら全員巻き込んでんじゃねぇよ…」

 

「先に一人でどこか行ったのはお前だろ。それに千反田に頼まれたからな…仕方なかった」

 

「……やっぱりお前は尻に敷かれるタイプだな」

 

「うるさいっほっとけ」

 

バツの悪そうな顔をしてそっぽを向く。

 

「……まぁ結局は俺のやってた事は無意味だったって事だな…」

 

「…そんなことないさ。嘉悦たちの事が上手くいったのは偶々だ。普通なら全員悪者になるのが落ちだ。俺は嘉悦たちの謎を解く事はできたが解決策は浮かばなかった、解決できたのはお前のおかげだ。そして他のみんなが嘉悦を説得できたから良い結果が出た。……みんな自分にしか出来ない事がある、そうやって補い合えるのがこの部活なんじゃないか?」

 

「お前は自分にしか出来ない事があると思うのか?」

 

俺が聞くと、何か思う所があるのか空を見上げながら言う。

 

「良く分からんがな……今まで自分にしか出来ない事は無いと思っていた。俺より凄い閃きをする奴だって沢山いるだろうし、俺の代わりはいくらでも利く。だけど部活が併合して…お前らと一緒に部活をする様になって自分にも自分だけの役割があるんだと思う様になっていた。考え方が変わったんだ…。てっきりお前もそうだと思っていたんだが、なかなか難しいものだな」

 

考え方が変わった……そう言われハッとする。今まで一人だった俺は他人からの評価など気にしなかったが、いつの間にか俺は雪ノ下と由比ヶ浜の事を気に掛けていた。自分の為だったかもしれないが、それでも人を想うという心はあった。気付かないでいても…変わらないと思っていた俺でも変わっていたんだ。変わる事も変わらない事も、どちらの方が良いという訳じゃない。ただ、自分が強くそれを望んだ時にきっと前に進めるんだと思う。それに気付いた今なら、ちゃんと話ができるかもしれない。花井も言っていた…壊れたら直せばいい、無くなってしまう訳じゃない…と。急には難しいかも知れないが、この部活で一緒に過ごしていればきっと……そう思うと、少し気が楽になった。

 

「折木のくせに、随分かっこいい事言うじゃねぇか」

 

「……花井達の空気に当てられただけだ。もう言わん」

 

俺が皮肉めいた言葉を言うと、折木の顔は夕陽のせいか赤く見えた。

 

「何してるんですかー?早く行きますよー」

 

屋上の出入り口で由比ヶ浜と千反田が手を振って呼んでいるのが聞こえる。

 

「怒んなって。……ほれ、行こうぜ」

 

俺たちは再び歩き出す。

 

 

「そういえば、結局嘉悦が言うのを拒んでいた理由は何だったんだろうな」

 

歩きながら折木はぽつりと呟いた。

 

「あぁ、それは嘉悦は初めから振られた理由なんて知る気じゃなかったんだよ」

 

「どういう事だ?」

 

首を傾げる折木に、俺は言葉を続ける。

 

「あいつは最初っから自分の恋を諦めてなかったんだよ。花井の性格も知ってたから、きっと何か間違っているんじゃねぇかって思っただろう。つまり、嘉悦の本当の依頼は振られた理由なんて知りたいじゃなくて、振られてない事を証明してほしい、だったって事だ」

 

「なるほど…」

 

「けど、そんな都合のいい依頼なんてできないからな…だから振られた理由を知りたいって事にしたんだ」

 

「そこで俺たちが振られたと決めつけてしまったのか…」

 

「まぁあの段階じゃそう捉えるのが普通だろう。しかしそれは嘉悦から依頼する意味そのものを奪った。最初から否定されたんだからあいつの望む答えが出る訳もない。だから依頼した事に後悔したんだろう」

 

「…難しいものだな…」

 

折木は悲しそうな、悔しそうな、怒りだしそうな、泣き出しそうな、何とも言いがたい表情をした。その気持ちはよく分かる。なぜなら、きっと俺と同じ気持ちだから。失敗して後悔しながらも、少しずつでもいいから本物に近づきたいという気持ち。

 

「早く行くぞホータロー、みんな待ってる」

 

「…お前何で急に名前で呼んでるんだ?気色悪い」

 

「……花井達の空気に当てられただけだ。もう言わん」

 

「そう怒るな。……ほら、行くぞ…八幡」

 

「……おう」

 

そうして俺たちは屋上を後にした。

 

 

 

 




以上で、やはり俺たちの高校生活は灰色である、は最終回とさせて頂きます。ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
勢いで始めてしまいましたが、自分の構成力の低さや感情表現の下手さなどあり、特に後半はグダグダの内容の薄いものになってしまいました。自分でも何を書いているか分かりませんでしたっ。読み辛かった方はすみませんでした。
ただ、氷菓の入須先輩の言葉を借りるなら、出来不出来は重要でない、致命的なのは完成しない事だという事でしょうか。自己満足とはいきませんでしたが、どんな形であれ完結させる事が出来たのは読んでくださった方やお気に入りに登録してくれた方、評価や感想をくださった方のおかげだと思います。自分一人ではきっと途中で終わっていました。

この話はこれで終わりですが、番外編という形でまた投稿するかもしれません。ただ別の話もやってみたいと思っているので先の事になると思います。今後投稿するときも、またみなさんに読んでもらえるように頑張りたいと思いますので、その時はまたよろしくお願いします。

ありがとうございました。

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