では、どうぞ!
勉強中に突然、金髪縦ロールの女生徒に声を掛けられた二人だったが―――
「今一度確認するが、全て…なのだな」
「そう! 全部だ!!」
「われとて決して暇ではない。さらに、ぬしの程度にあわせるとなるとそれなりに掛かるが…よいな?」
「おう!!」
一瞬だけ女生徒の方を向いた後、すぐ勉強に戻った。
「何ですの、貴方達は!? わたくしが話しかけていますのよ! それ相応の態度がありますでしょう!」
無視されたことが相当頭にきたのか、女生徒は声を荒げて怒り出した。
「いや、見て分からないのか? 俺達、今すごく忙しいんけど」
一夏はその怒声を軽く受け流す。
「まあ! まだそんな態度を! わたくしに声を掛けられることがどれだけ光栄なことか、分かっていますの!?」
女生徒は高飛車に話し続ける。
「悪いな。俺、君が誰か知らないし」
一夏の言葉に女生徒は唖然とする。
「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」
心底信じられないといった様子で一夏に詰め寄る。
「おう、知らん」
きっぱりと答える一夏。
セシリアはまだ信じられないようだ。
「あなたはどうなんですの!?」
今度は大谷に怒りの矛先を変えた。
「知らん」
これまたきっぱりと答える大谷。
「なっ…ななっ!?」
セシリアは地震のごとく身体を振るわせる。
もういつキレてもおかしくない状態、そんな時一夏はある疑問を大谷にぶつける。
「なあ刑部」
「何だ?」
「代表候補生ってなんだ?」
一夏の発言に三人のやり取りを見物していた生徒たちが一斉にずっこけた。
「はぁ…よいか一夏、代表候補生とはな……」
大谷はため息混じりに説明する。
代表候補生とは、字のごとく国家代表IS操縦者の候補のことである。
「へぇ、つまりエリートってことか、すごいんだな」
「・・・あなた、わたくしをバカにしてますの?」
率直な感想を言った一夏だったが、セシリアはそれが気に食わないようだ。
それからセシリアは二人を見下した態度で言った。
「ISのことでわからないことがあれば、まあ‥‥泣いて頼まれたら教えてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
唯一とエリートの部分を強調した明らかに高圧的な態度、しかし二人は平然とした態度で答えた。
「入試ってISで戦うやつだよな? だったら俺も倒したぞ、教官。 刑部もだよな?」
「左様、しかしあの程度のことでそこまで威張り散らせるとはな。ぬしはその高飛車なしゃべり方に似合う小さき器の持ち主ということか…」
「は……?」
セシリアは驚きの声を上げる。
「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
教官を倒したのは自分だけだと信じていた分、相当なショックを受けたようだ。
「女子だけってオチじゃないか?」
「だとしたら、なんとも間抜けな話よなぁ」
「なっ!? なんですっ…」
セシリアがまた何かを言い出そうとした時、三時間目開始のチャイムが鳴る。
「この話しはまた後でしますわ。逃げない事ね」
そう言って、セシリアは自分の席に戻って行った。
「なんとも…まるで三下のような捨て台詞よなぁ」
「ははっ! 確かに!」
すると、千冬が教室に入り授業が始まる。
「授業始めるが、その前に再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
クラス代表者とは、つまり級長のことである。クラス対抗戦の他に、生徒会の会議や委員会への出席などが仕事となる。
(クラス代表者か…生徒会に潜り込む好機ではあるが、われ自ら潜り込むのは危険過ぎる。何より、対抗戦になど出ようものなら余計に目立ってしまう…ならばここは…)
しばらく考え込んだ後、大谷は高く手を挙げた。
「織斑一夏を推薦する」
「ええっ!? ちょ、刑部!?」
一夏は驚きのあまり立ちあがった。
「ほう」
千冬は少し意外そうな目で大谷を見る。
(ちっくしょー。刑部の奴…だったらこっちだって!)
「大谷吉継を推薦します!」
一夏は手を挙げて叫ぶ。
(また悪足掻きを…無駄だというのに)
大谷は一夏が自分を推薦することは予測していた。
しかし、大谷は何もしない、する必要が無い、なぜなら―――
「はいっ。織斑くんを推薦します!」
「私もそれが良いと思いますー」
他の生徒たちが次々と挙手して一夏を推薦する。
大谷はこうなることも予測していた。
「え!? な、何で俺が!?」
「ではクラス代表者は織斑一夏……他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」
「ちょっ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな…」
「納得いきませんわ!!」
一夏が反論の声を甲高い声がかき消し、その声が教室中に響き渡る。
声の主はセシリアだった。
「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
ISの導入により女尊男卑の風潮が各国に定着しているが、その以前の男尊女卑の教訓から、言葉高々に男を卑下にするというのは暗黙の禁止となっている。
(まあ、他の女共も口に出さないだけなのだがな…)
だがセシリアはそんなことはお構いなしといった感じで続ける。
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気はございませんわ!」
大谷は何を言われても気にもしないが、一夏は徐々に怒りを増幅させていく。
それに比例して、セシリアのテンションも上がっていく。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないなんてこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」
ここに来て一夏の我慢も限界に達した。
「イギリスだって自慢の国じゃねえだろ。世界一不味い飯で何年覇者だよ」
「なっ!?」
セシリアは机を強く叩き、一夏を指差した。
「決闘ですわ!!」
「おう、いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」
大谷はただ静観していた、ここまでは全て大谷の予想通りに事が運んでた。
だが予想外の事態が起きる。
「あなたもですわ!!」
今度は大谷を指差した。
「何?」
「先程から、あなたのその人を小馬鹿にした態度が気に入りません!」
(この女は…また訳の分らぬことを…)
大谷は断ろうとしたが、今のセシリアに何を言っても無駄と判断した。
「それで、イギリス代表候補生のこのわたくしセシリア・オルコットに無謀にも挑む無知な極東のお猿さんには、どれくらいハンデをつければいいのかしら?」
「そんなもんいるか。なあ! 刑部!!」
余裕の笑みを浮かべるセシリアと、そのセシリアを真っ直ぐに睨み付ける一夏。
そして、気だるそうな顔の大谷。
「話はまとまったな。それでは勝負は、大谷は三日後の木曜、織斑は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。三人ともそれぞれ用意をしておくように。さあ、授業を始めるぞ」
こうして、二人はセシリアと決闘することとなった。
(やれ、面倒なことになった)
大谷は当初、一夏だけを戦わせるつもりだったが、セシリアの発言により自分も戦うはめになってしまった―――
(目立つわけにはゆかぬが、負けてあのオルコットとか言う女を調子付かせるのもまた癪よ)
が、大谷に焦りは無く冷静に考えを練る。
(ここは一つ、あの女を抑えるべきか?)
大谷はあることを考え付く。