IS 白騎士と寥星跋扈   作:無頼漢

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第三話 起動

 早朝、まだ人通りの少ない道を二人の少年が歩いていた。

 一人は黒髪で整った顔立ちをした少年、織斑一夏。

 もう一人は全身を包帯で包み杖をつきながら歩く少年、大谷吉継。

 現在、二人は藍越学園の試験会場である多目的ホールへ向かっていた。

 

 「いよいよ受験かぁ…ちょっと緊張するな」

 

 「ぬしのような男はそれぐらいが丁度よい」

 

 「? どういう意味だよ刑部」

 

 「分からぬのか? ぬしはやはり間抜けな男よ…」

 

 「なっ!?」

 

 「よいか、ぬしはすぐに調子づく。その度に『無様』な姿をさらし、その尻拭いをわれがさせられているのを…よもや、『忘れた』とは言うまいな?」

 

 大谷は一夏を見据えて言った。

 

 「ははは…、もちろん覚えてるに決まってだろ…」

 

 一夏は顔を引きつらせて笑ったが目が泳いでいる。

 

 「なら、われの目を見て話したらどうだ」

 

 「うっ!?」

 

 「どうした? 何をそんなに狼狽えている」

 

 「うぅぅっ…」

 

 完全に動揺しきっている一夏は何も言い返せず、顔中汗まみれになっている。

 そんな一夏の様子を見た大谷はため息に後、一夏にだけ聞こえるように言った。

 

 「…ぬしの性分は童の頃より知っておる。ここ数年は金子稼ぎで学業もままならぬこともな。今更、多少のことで腹を立てたりなどせぬ」

 

 「…刑部」

 

 一夏は大谷の方を見つめた。

 汗は引いており、その顔はどこか嬉しそうに見える。

 

 「だが一夏、われの言葉にはしかと耳を傾けよ。ただでさえ、ぬしは考えていることが表にあらわれやすいからな、われの助言通りにすれば問題ない」

 

 「…ああ、分かってるよ。お前の言ってることは正しい。今までも、そしてこれからもお前の言うことを疑うつもりはないよ」

 

 「そう…それで良い、これも世のため、ぬしのため…」

 

 「でもさぁ…もう少し、言い方ってもんがあるんじゃないかな…なんて」

 

 一夏は少し苦笑まじり言った。

 

 「ほぅ、ぬしがそんなにいびられたがりだとは知らなんだ。良いだろう、ぬしの望み通り…」

 

 「すみません…今のままでいいです。これ以上は勘弁して下さい。」

 

 「分かればよいのだ」

 

 そんな会話をしているうちに目的地である多目的ホールに到着した。

 

 「そう言えば、IS学園の入試も此処でやってるんだっけ?」

 

 「左様」

 

 一夏の質問に大谷が答える。

 IS学園とは、アラスカ条約に基づいて日本に設置されたIS操縦者育成用の特殊国立高等学校。

 操縦者に限らず専門のメカニックなど、ISに関連する人材はほぼこの学園で育成される。

 

 「ふーん…ま、俺達には関係ないか」

 

 そう、ISは“女性にしか反応しない”兵器なので、男である一夏と大谷には関係ないことである。

 

 「今はそんなことより、受験会場に行くのが先決であろう」

 

 「そうだな、えーっと案内板は…あれか!」

 

 案内板を発見した一夏。

 だが、その案内板は複雑というより意味不明と呼べるものだった。

 

 「今いる場所が此処だろ? で、あそこをこう行って…そこをこっちに曲がって…うーん??」

 

 案内板を必死で解読しようと考え込む一夏。

 しかし、まったく解らない。

 

 「何をしている一夏? 会場の場所は分かったのか?」

 

 「あーっと、うん! 分かった!!」

 

 どうやら一夏は案内板を解読できた…らしい。

 

 「まことか? ぬしが斯様に理解が早いはずがない。どれ、われが確かめて…」

 

 大谷が案内板を見ようとしたその時、一夏が大谷の手を掴んだ。

 

 「!? 何の真似だ一夏!?」

 

 「大丈夫だって! 会場の場所は完璧に分かったから!」

 

 一夏は自信満々にそう言ったが、逆に大谷の不安は増した。

 この自信がどこから来るのか分からないがこのままだはまずいと思い、足を踏みしめ渾身の力で一夏の手を引っ張った。

 

 「待て一夏、われが案内板を確認する! それが一番確実だ! われの話を聞け!!」

 

 「聞いてるって、刑部は心配性だな。道順はバッチリ覚えたからさ! ほら、急ごうぜ!」

 

 足に傷を負い、病を患っている大谷がいくら踏ん張ろうとも腕力で一夏に適う筈もなく。大谷は一夏に引きずられる形でホールの中を進んで行った。

 

 -数分後―

 

 「迷った…」

 

 「それ見たことか…やはりこうなったか」

 

 数分間ホールの中を彷徨った挙句、二人は会場に辿り着けず今何処にいるかも分からなくなってしまった。

 

 「…一夏」

 

 「…はい」

 

 大谷はかなり不機嫌な様子で一夏を呼んだ。

 

 「ぬしの首の上に付いているそれは何だ?」

 

 「頭です…」

 

 「そうか、頭か…ならば脳味噌は入っているのか?」

 

 「…はい…一応…」

 

 「ほほう、左様かわれにはその中が空に思えて仕方ないのだが?」

 

 「ううぅ…」

 

 「一夏、その中身があるのかないのかわからぬ頭でよく思い出せ、先刻われはぬしに『われの言葉にはしかと耳を傾けよ』と申したな。だが、われが待てと申した時、ぬしはわれの言うとおりにしたか?」

 

 「しませんでした…」

 

 「そうよな、ぬしはわれの言うことを聞かず勝手に進んで行きおった。その結果がこの有様よ」

 

 「ううぅぅ…」

 

 一夏は大谷に好き放題言われているが警告を無視して進んでしまったため何も言い返せない。

 

 「!?」

 

 「どうした、一夏?」

 

 今まで大谷の言葉を項垂れながら聞いていた一夏が突然、頭を上げた。

 一夏の目線の先にはドアがあった。

 

 「あそこだ…なんとなく、そんな気がする…」

 

 一夏はドアを見つめながら呟いた。

 

 「ぬしはまたそのような世迷言を…」

 

 大谷は一笑に付したが、一夏はドアを見つめたまま歩き出した。

 

 「いや、此処だ…間違いない…と思う」

 

 一夏はドアの前に立ち、ドアノブに手をかけた。

 

 「待て! 一夏!!」

 

 大谷が声を上げ駆け寄ったが一夏には聞こえていないようだ。

 そして、一夏はドアを開いた。

 

 「…これって」

 

 部屋の中には鎧の様な物が置かれていた。

 

 「またぬしはわれの言うことを聞かず勝手に…」

 

 一夏を追って来た大谷も部屋の中におかれた物を見て沈黙する。

 

 「刑部…これってIS…だよな?」

 

 「ああ、だがわれらには関係のない物だ。出るぞ、此処に用は無い…一夏!?」

 

 大谷は部屋を出ようと一夏に話しかけた。

 その時、一夏はISに触れようと手を伸ばしていた。

 

 「止せ! 一夏!!」

 

 大谷は一夏に向かった叫ぶ。

 だが、部屋に入る時と同様に大谷の言葉は一夏には届いていない。

 一夏を止めるため、大谷も自らの手を伸ばし一夏の手を掴もうとする。

 しかし、大谷の手は一夏の手を掴むことはなく、結果二人の手がISに触れた。

 すると、ISは起動音を鳴らして反応した。




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