IS 白騎士と寥星跋扈   作:無頼漢

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第二話 朝食

 水を飲み終え、キッチンを後にした大谷は自室に戻り、受験のための荷物の準備を始めた。

 

 「確か…そう、藍越学園とか言ったか」

 

 受験票、筆記用具等の確認をしながら、大谷は自分が受験する高校の名前を呟いた。

 実は、大谷は藍越学園はおろか、高校受験にも興味がない。両親や教師達からはもっといい高校を受験するべきだ、と言われていた。実際、前の世界では知将として三成の補佐を務めていたこともあり、小・中学校ともに成績は常に上位であったため、当然と言えば当然である。

 では、なぜ藍越学園選んだのか、もちろん理由はある。

 

 「よし、必要な物はそろっているな…(彼奴(あやつ)は…いや、さすがにそこまで気に掛けることないか…)」

 

 大谷は荷物の確認を終えた後、ある人物のことを考えていた。

 その人物は大谷にとって、かつての三成と同じ盟友にして藍越学園を選んだ理由でもある。そして、その人物が受験の準備は出来ているのかと、少し心配した様子だったが、すぐにその必要はないと判断した。

 そんなことを考えていると、カーテンの隙間から光が差し込んでいる事に気付く。いつの間にか日が昇っていたようだ。時計を確認すると、もうすぐ朝食の時間になろうとしていた。

 

 (もう朝餉(あさげ)の時間か…)

 

 時刻を確認して、大谷はクローゼットを開け服を取り出し、寝間着から着替える準備をした。まず、寝間着を脱ぎ、次に全身に巻かれた包帯に手をかけた。大谷の身体は武将だった頃と同様に病に冒されており、全身に包帯を巻きつけた格好となっている。古い包帯を外し、新しい包帯を巻き始める、その動作も手慣れたもので、ものの十分もかからず包帯を巻き終え、取り出した服に着替えた。そして、朝食を摂るため荷物を持って一階のリビングに向かうことにした。

 

 「む…」

 

 「あ…兄さん…」

 

 部屋を出てすぐ、つい数時間前と同様に妹の竹姫と出くわした。だが、大して気にした様子もなく大谷は竹姫の横を通り過ぎる。

 

 「兄さん、おはよう…」

 

 「…ああ」

 

 すれ違いざまにかけられた挨拶にも、大谷は歩みを止めず素っ気なく返事をしただけだった。しかし、そんな大谷の態度はいつものことなのか竹姫は気にしていない、それどころか階段を下りようとする大谷を心配しているようだ。

 

 「兄さん…肩、貸そうか?」

 

 「無用だ、何度も言わせるでない」

 

 「…そう…だったね、ごめんなさい」

 

 大谷は患っている病とは別に、昔ある事件の際に負った怪我が原因で杖などの支えがないと満足に歩けなくなり、現在も足にはその時にできた傷が残っている。竹姫が大谷を必要以上に心配する理由の一つがこれである。だが実際、竹姫の助けがなくとも家の中であれば、大谷は自分だけでも歩くことができる。それは、病に冒され、さらに足に傷を負った大谷を不憫に思った両親が階段を含め家の至る所に手すりを設置してくれたおかげである。設置された手すりを使い大谷は一段ずつ下りて行き、竹姫もそのあとに続いて階段を下りて行った。

 

 「あら、吉継、竹姫おはよう」

 

 「……」

 

 「おはよう、母さん、父さん」

 

 リビングに着くと、両親が朝食の用意された食卓に着いていた。母、(ひがし)の挨拶にも返事をすることなく、大谷は黙って自分の席に着いた。

 

 「なんだ吉継、今日はいつもより早いな?」

 

 「お父さん、忘れたんですか? 今日はほら、受験の日じゃないですか」

 

 「ああ!! そういえば今日だったな」

 

 「もう!父さんったら、兄さんの受験の日を忘れるなんて…兄さんのことが心配じゃないの?」

 

 父、吉房(よしふさ)は大谷がいつもより早いことを不思議に思ったが、妻と娘に今日が受験の日だと教えられその事に気づく。

 

 「いやァすまんすまん、吉継のことだから心配ないだろうと思ってつい」

 

 「確かに、吉継が受験に失敗するなんて想像できないものね」

 

 「母さんの言うとおりだ、竹は相変わらず心配性だなぁ」

 

 「ううぅぅ…でも…」

 

 「大丈夫よ、学校の先生も吉継の成績なら問題ないって言ってるんだから」

 

 「…うん」

 

 東も吉房も大谷の成績が優秀なことはよく知っているので心配していなかったが、竹姫だけは大谷が心配でならないようだ。当の本人はというと、朝食を食べ終え食器を片づけていた。そして、片付けを終えた後、荷物を持って玄関に向かおうとした。

 

 「あ、吉継もう出かけるの? がんばってね!」

 

 「まあ、お前なら大丈夫さ! 自信持って行ってこい!!」

 

 「……」

 

 両親は声援を送ったが大谷は無反応のまま玄関へ向い、靴を履き壁に立てかけてた杖を手に取った。手すりなどの支えが少ない屋外では杖を使わなければならず、外出の際は必ず持ち歩く。こうして、出発の準備を全て終えドアノブに手をかけた。

 

 「よう、刑部。おはよう!」

 

 「…一夏か…」

 

 ドアを開くと、自宅の前で待っていた少年が話し掛けてきた。

 織斑一夏。大谷の幼馴染で大谷と共に藍越学園を受験する少年である。

 


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