長い間何の連絡もせず申し訳ありません。
とりあえず、また投稿していきたいと思います。
あまり投稿速度は期待しないでくださいね。
「刑部……おい、しっかりしろ!?」
急いで刑部に駆け寄る。うつ伏せのままでは不味いと思い、仰向けに寝かせる。
「ハァ…ハァ……」
呼吸が荒い、目も焦点が定まらず泳いでいる。こんな時はどうすれば……。
「どんな様子だ?」
「大谷君っ! 大丈夫ですかっ!?」
千冬姉達も刑部に駆け寄る。山田先生、箒でさえ目に見えて動揺している。だけど千冬姉だけはこんなときでも冷静だ。
「千冬姉っ…刑部すげー苦しそうで、息をするのも辛いみたいなんだ…ど、どうすれば……」
「落ち着けバカ者が、お前が取り乱しても事態は好転しない」
「――っ! そ、そうだよな…」
この場で正確な判断が下せそうなのは千冬姉だけみたいだ。
「織斑、ひとまずは大谷を保健室へ運べ。できるだけ静かにな。それと、こいつに処方された薬は持っているな?」
「あ、ああ……ポケットの中に…」
動揺の所為か、つい素で答えてしまった。
「教師には『はい』と答えろ。馬鹿者」
「は、はい!」
俺の返事を聞いて、千冬姉は改めて刑部を見ながら言った。
「迅速かつ慎重に運ぶんだぞ。いいな?」
「はい! 刑部、動かすけど少しの間だけ我慢してくれよ」
俺は刑部を抱えて保健室に向かった。
「……」
場所は保健室。刑部がアリーナで倒れてから一時間ほどが経っていた。ベットの上では呼吸も元に戻り、瞼を閉じて静かに寝息を立てながら刑部が眠っている。
「もう二度と繰り返さないって誓ったのにな……」
二人しかいない保健室で呟く。そうだ、俺はあの時誓ったんだ。今度は俺が支えになるんだって、刑部が二度と倒れないように俺が支えになってやるんだって。それなのに―――
「お前はまた『忘れた』とか、『気にするな』って言うんだろうけどさ。納得できるかよ、お前の足を『そんな有様』にしたのは俺のせいなんだから……」
一生忘れる事の無いあの光景、自分の犯した過ちの結果自らの血で出来た血だまりの上に倒れる親友の姿。
今回のことだって、俺がもっと考えを巡らせていればこんなことにはならなかったかもしれない。
「それなのに…俺は…また……」
「い、一……夏……」
「! 刑部っ!?」
「……」
どうやら寝言だったみたいだな。まったく、こんな状態なのに俺の心配なんかして。
「刑部、俺考えたんだお前を支えるだけじゃダメなんじゃないかってさ。それでISを動かせるとわかった時に思ったんだ。支えるだけじゃなくて、今度は俺がお前を『守る』って。だから―――」
聞こえていないだろうけど、今ここでお前に言わなきゃいけない気がするんだ。
「俺、セシリアに勝つよ、絶対にっ!」
この新しい誓いは守ってみせる。
刑部の前で新しい誓いを立ててから数分後。俺はまだ保健室で刑部の様子を見ていた。
「……」
まだ目は覚まさないけど、危険な状態ではないはずだ。何気なく刑部の顔を見ると、また昔のことを思い出す。今度のは少し微笑ましく感じるような他愛のない日常の出来事だ。あれは、そうまだ俺たちが小学生だった時のこと―――
『すげーなぁ一夏。また勝ったんだってなぁ剣道の試合!』
この頃の俺は千冬姉の付き合いで箒の実家の道場に通うようになっていた。
『ああ、刑部』
この頃から俺達は無二の親友だった。
『試合に勝って『普通です』って顔してやがる』
『また表彰されるんじゃねえか? 嫌味な野郎だぜ』
『……』
そしてこの時のクラスメイトの俺たちに対する風当たりは、あまり良いとは言えなかった。そんな時でも刑部は俺の味方だった。
『一夏、あんな奴ら相手にすんな。あいつらお前に喧嘩じゃ敵わないもんだから僻んでるだけさっ!』
親が居なくて、何かと妬みの対象になりやすかった俺をあいつは励ましてくれた。喧嘩や愚痴をこぼす、何をするのも俺達は一緒だった。そして、あいつは嫌な顔一つ見せず俺の為に何でもしてくれた。
病気で俺が心身ともに参ってしまった時には、某無免許の黒い医者よろしく俺を診察してくれた。
『してねーよ』
何で俺には両親が居ないんだと悩んでいた時には、割烹着を着て母親の代わりを買って出てくれた。
『出てねーよ』
俺が金に困っていた時には、鼠小僧の格好で何処からか大金を調達して大盤振る舞いを―――
『話し作るなよ』
そんな楽しい思い出が他にも―――
ポスッ。
「ん?」
何だ? 腹に何かが当たった感触が。目線を腹部まで下げると、ベットから腕が伸びていて俺の腹に当たっている。
「心覚えは総じて美化されるものだが、ぬしのそれは改ざんであろ……」
「刑部っ!」
よかった、目を覚ました。
「騒ぐでない…響く……」
「す、すみません……」
とりあえず皮肉を言うだけの気力はあるみたいだな。
「ときに、今は何時か?」
「ん? そうだな、もう夕飯時だな。何か食べるか? 持ってくるけど」
「要らん」
さいですか。
「われのことなどよりも、ぬし自身の戦いの事を考えよ」
「わかってるよ」
言われなくたって勝つさ、絶対……。
「じゃあ、俺部屋戻るよ。ああそうだ、千冬姉から伝言。『今日はもう休め』だってさ」
「そうせざるを得んであろ。『これ』では…」
「ははっ、確かにな」
ベットから出られないんじゃ休むことしかできないよな。
「じゃあな刑部、また明日」
「……ああ」
保健室を出て自室に向かおうとすると、保健室の前にセシリアがいた。
「セシリア……」
セシリアは何処か申し訳なさそうな顔をしている。
「あ、あの…大谷さんが倒れられたと山田先生から伺いましたので…その…大谷さんは大丈夫なんですか?」
一応心配してくれてるんだな。そりゃそうだ、相手が試合の後で倒れたって聞けば心配になるよな普通。
「刑部なら、一晩寝れば大丈夫なはずだぜ。」
「そうですか。よかった」
どうやらセシリアは、根は悪い奴じゃないみたいだな。
「次は、俺とだな…」
「ええ、負けませんわよ」
俺だって負ける気はないさ、刑部の前で立てた誓いもあるしな。
「ところで…」
「ん?」
「あなたは大谷さんの幼馴染だそうですね」
「ああ、そうだけど?」
「でしたら、訊きたいことがあるのですが…」
訊きたいこと、か。大体察しがつくけど。
「いいぜ、答えられる範囲のことなら」
「大谷さんは……その、いつも体中に包帯を巻かれて杖をついていらっしゃるようですけど。あれはどういう……」
やっぱりな。まあ、同年代の奴が全身に包帯巻いて杖ついて歩いてれば、普通気になるよな。
「包帯は病気の所為だ。生まれつきの、な」
「え!?」
明らかな動揺、というより『恐怖』と『不安』だな。
「……心配しなくても、人にうつる類の病気じゃねえよ」
未だに刑部の病気ことでこういう態度とられると、なんかムカつくな。本人が気にしなさ過ぎなのもあるけど。
「そ、そうですか……では杖もですか?」
「いや、杖……というか刑部の足をあんな風にしたのは……俺なんだ」
「―――え?」
セシリアの顔が驚愕に染まる。
「……あなたが?」
「……昔、俺が刑部の忠告を聞かないでバカやった所為で、あいつの足はボロボロになったんだ」
脳裏にあの時の、今と同じようにベットに横たわり、生と死の境を彷徨う親友の姿がよみがえる。
「……」
今度はどんな反応をしたらいいか分からないって顔だな。そんなセシリアの瞳を俺は真っすぐ見つめた。
「だから、償いってわけじゃないけど、今度は俺があいつを『守る』って決めたんだ」
「守る…大谷さんを?」
「ああ、俺は強くなる。強くなってまずはセシリア、お前に勝つ! そして証明するんだ、もう俺は守られるだけの存在じゃないってな!」
今の俺にはあの時には無かったISという『力』がある。それを使って、大切なものを全部守れるくらい強くなるんだ。そのために―――
「俺の糧になってもらうぜ、セシリア・オルコット!」
廊下に響き渡るくらいの大声で、俺の決意をセシリアに言い放つ。
「……ふっ」
すると、セシリアは微かな笑みを浮かべて―――
「いいでしょう。ですが、わたくしはそう簡単に倒されはしませんわよ!」
と答えた。
一夏が決意を示し、セシリアがそれに答えてから時は過ぎ、試合まで残り一日となった。
またしばらく間が空くかもしれませんが。
これからもよろしくお願いします。