IS 白騎士と寥星跋扈   作:無頼漢

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第十四話 勝利

 形勢は逆転し、試合の主導権は大谷へと移った。

 

 そしてアリーナ内は未だ巻き上げられた土煙が地面を覆っている。

 

 予想外の事態に観客席では、驚きのあまり声を失う者やわが目を疑う者、中には大谷に声援を送る者も出始めた。

 

 そんな中、一夏は先程から頻りに首を傾げている。

 

 (う~ん……何か変なんだよなぁ)

 

 一夏はある違和感を感じていた。

 

 (刑部の数珠……)

 

 大谷の数珠が自身の知っているものと何かが違っていることに―――

 

 「さて……そろり仕舞いにするか」

 

 大谷は数珠をセシリアに向けて一斉に放つ。

 

 しかし、セシリアはなぜか余裕の表情。

 

 「おあいにく様、ブルー・ティアーズは六機ありましてよ!」

 

 次の瞬間、腰部にあるスカート状の装甲が開き二機の砲台が現れた。

 

 「知っておるわ」

 

 ブルー・ティアーズが六機であることを事前に知っていた大谷は既に手を打っていた。

 

 ヒュンッ! ヒュンッ!

 

 突如セシリアの真下、土煙の中から二つの物体が飛び出した。

 

 ガンッ! ガンッ!

 

 土煙の中から現れた二つの物体はそのまま二機のブルー・ティアーズへと一直線に上昇し、砲身をへし折った。

 

 「ッ!?」

 

 突然のことにセシリアは何が起こったのか分からないでいる。

 

 セシリアのブルー・ティアーズを破壊した物体、それは―――

 

 「ならば……われの数珠は八つよ」

 

 大谷の数珠であった。

 

 「い、何時の間に……」

 

 ふとセシリアは数珠の現れた自分の足元を見た。

 

 「ぬしが派手に土煙を巻き上げてくれるのでな」

 

 セシリアの大谷に対する集中砲火―――

 

 しかしそれは大量の土煙を巻き上げることとなり、結果大谷に数珠を隠す機会を与えてしまった。

 

 (あ、そうだった! 刑部の後ろで回ってる珠はいつも八つだった!)

 

 一夏が感じていた違和感、それは大谷の背後にある数珠の数が自身の知っているものと違っていることであった。

 

 「くっ……まだですわ!」

 

 全てのブルー・ティアーズを破壊されても、セシリアは諦めずにスターライトmkⅢを構える。

 

 そんなセシリアを、大谷は一笑に付す。

 

 「ヒッヒッ……ぬしの羽虫は六つ、だがわれの数珠は―――」

 

 瞬間、大谷が天高く手を掲げたと同時にいくつもの数珠が土煙の中から出現し、さながら散弾をばら撒いたかの様に無数の数珠がセシリア目掛けて飛来する。

 

 「っ!?」

 

 絶え間ない衝撃にセシリアは為す術も無く数珠の雨を食らい、シールドエネルギーを一気に削られた。

 

 「八つだけでは無いぞ」

 

 さらに大谷が左右の手を大きく広げると、背後から土煙に潜ませていたものとは比べ物にならない数の数珠が出現。

 

 絶え間なく増え続ける数珠は次第にアリーナ内を埋め尽くし、セシリアを完全に包囲した。

 

 「そ、そんな……」

 

 セシリアは今起きていることが信じられずにいた。

 

 絶対の自信があった射撃は尽くかわされ、直撃でさえ傷一つつけられなかった。

 

 加えて、自分は今無数の数珠に包囲され、シールドエネルギーもほとんど残っていない。

 

 この状況で自分が勝てる見込みは一体どのくらいあるのだろうか。

 

 『あるはずがない……そんなもの―――』

 

 そんな諦めが頭をよぎった。

 

 その瞬間セシリアの両腕が垂れ下がり、力を無くした手からスターライトmkⅢが零れ落ちる。

 

 落下したスターライトmkⅢが地面に叩き付けられ金属特有の無骨な音を立てたと同時に、セシリアを先程と同じ衝撃が襲いシールドエネルギーが底をついた。

 

 『勝者、大谷』

 

 アナウンスと同時に観客席から歓声が上がった。

 

 所変わって観客席―――

 

 「ふぅ~~……」

 

 直撃を受けた時は流石に肝を冷やしたけど、やっぱり刑部はすごいな。

 

 でも、最後のあのえげつないやり方は刑部らしいというか何というか、数珠を壁状に並べて蚊を両手で叩くみたいにセシリアを左右から挟んで押し潰すなんて、普通思いつくかそんなこと。

 

 お、刑部がピットに戻っていくな。

 

 勝ったんだからもう少し嬉しそうにすればいいのに。

 

 さらに所変わってピット内―――

 

 すでに千冬姉、それに箒と山田先生がピット内で刑部を待っていた。

 

 そこへ刑部がいつもの仏頂面を引っ提げて戻ってきた。

 

 「やったな、刑部!」

 

 「……」

 

 あ、折角親友が一緒に勝利の喜びを分かち合おうっていうのに素通りしやがった。

 

 いや待て落ち着け俺、こんなのはいつもの事じゃないか。

 

 むしろ嫌味を言われないだけマシな方だ、うん。

 

 「良くやった……と言いたいところだが、遊びが過ぎるぞ大谷」

 

 うわ、千冬姉戻って来て早々にお説教かよ。

 

 やっぱり刑部が試合中手を抜いてた事バレてたか、確かに真面目にやってればすぐ終わってたかもな。

 

 「……」

 

 千冬姉のお説教も完全無視とは、こいつに怖いものは無いのかと常々思うよ。

 

 「まあまあ織斑先生、落ち着いてください」

 

 見かねた山田先生が仲裁に入って来た。

 

 実際あの二人は誰かが止めに入らない限り延々と喧嘩するからな、昔っからいつもそうだ。

 

 「えっと、ISは今待機状態になってますけど、大谷君が呼び出せばすぐに展開できます。ただし、規則があるのでちゃんと読んでおいてくださいね。はいこれ、織斑君も」

 

 ドサドサッ

 

 音を立てて置かれた分厚い本。

 

 おいおい勘弁してくれよ、参考書の他にアレも読まなきゃいけないのか。

 

 「はぁ~~……」

 

 思わず溜息が出ちまったよ。

 

 刑部の方は―――

 

 「ん?」

 

 何だ刑部の奴俯いて、ああ、いつもの『アレ』か。

 

 「? どうしたんですか、大谷君?」

 

 山田先生も刑部の様子が変な事に気が付いたか、『アレ』を見たら驚くぞ。

 

 「これしきでアレが呼べるのか?」

 

 「え?」

 

 始まったか。

 

 「いやまだよ……」

 

 「お、大谷君?」

 

 山田先生の呼び掛けに刑部は全く反応せず、独白を続ける。

 

 そして天井を仰ぎみて叫びだした。

 

 「滅びよォまだ来るなァ! われは人が苦しむ姿を見たい!」

 

 「ヒッ!?」

 

 突然の絶叫に山田先生は小さな悲鳴を上げた。

 

 まあ、普通はそうなるよな。

 

 「それまで…まちと待て……」

 

 叫び終わると、刑部はまた俯いた。

 

 俺も初めてこれを見たときは本当に驚いた。

 

 普段なら刑部が大声で叫ぶなんて事、まずあり得ないからな。

 

 「ど、どうしちゃったんですか、大谷君!? まさか、さっきの試合で頭に怪我を……」

 

 不味い山田先生が完全にパニック状態だ、とりあえず事情を説明して―――

 

 「山田先生、気にすることは無い」

 

 「へ?」

 

 千冬姉もこのままでは不味いと察したのか、動揺する山田先生を落ち着かせようとする。

 

 「こいつは感情が昂るとこうした奇行を取ることが多い。いちいち構っていては身が持たん、放っておけ」

 

 「は、はぁ……」

 

 言い方はあれだけどこの際仕方ないか、山田先生も落ち着いた様だし。

 

 「何にせよ今日はこれでおしまいだ。帰って休め」

 

 そう言って、千冬姉達はピットから出て行った。

 

 そうだな、特にやることもないしとっとと帰るか。

 

 「…………」

 

 試合は刑部が勝った、だけど―――

 

 いや大丈夫だ、最近は調子も良いし薬だってちゃんと飲んでる。

 

 心配し過ぎだよな、でも流石に試合の後で疲れているだろうから早く部屋に帰って休ませないと。

 

 「刑部、そろそろ帰ろう―――」

 

 俺が刑部の方を振り向いた瞬間。

 

 ドサッ

 

 「!?」

 

 刑部が、倒れた。


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