「くっ!」
大谷の不気味な雰囲気に当てられたのか、セシリアは一瞬、呆然とする。
しかし、すぐに巨大なレーザーライフル『スターライトmkⅢ』の銃口を大谷に向ける。
「お別れですわね!」
青白い閃光が銃口から放たれ、物凄い速さで大谷に迫る。
「ぬんっ!」
それを大谷は輿を回転させ、寸前で回避する。
外れたレーザーがアリーナを覆う遮断シールドに当たり、観客席から悲鳴が聞こえたが、大谷はセシリアから視線を逸らさない。
「あら、わたくしの初撃をかわすだなんて、中々良い反応をしますわね」
セシリアは大谷にに銃口を向けたまま余裕と自信に満ちた口調で言う。
「そうであろ、われよ良くやった。褒めてやる」
「随分と自尊心が強いようですわね?」
「いやぬしに比べれば。誠、慎ましやかなものよ」
「くっ! その減らず口、いつまで続くかしら?」
閃光の雨が大谷目掛けて降り注ぐ。
大谷は回避に専念し、避け続ける。
「ええい、ちょこまかと……!」
ここまで当てるどころか、掠らせることさえ出来ていないセシリアに焦りが出始める。
(荒れ狂え、それだけわれは遣り易い)
対して、大谷はとても落ち着いている。
それからも、大谷はセシリアの射撃を紙一重でかわし続け―――
試合開始から三十分近くが経過した。
「ここまで良く持った方ですわね。褒めて差し上げますわ」
攻撃こそ当たっていないが、全く反撃してこない大谷に、セシリアは余裕を見せながら笑う。
「やれ明日の空模様は槍が降るか」
しかし、それは大谷も同じだった。
「あなた、本当に失礼ですわね!」
「ならばどうする? いやと逃げ惑えば、ぬしの気が済むか?」
「それは悪くありませんわね……でも、逃げてばかりでは勝てないのは分かっていて?」
「無論よ」
「では、そろそろ閉幕と参りましょう」
再び銃口を大谷に向けて、レーザーを発射する。
だがこれも寸前でかわされる。
「往生際の悪い……!」
「まあ、そう言うな」
セシリアの焦りは増すばかり、ここで大谷は地面スレスレまで高度を下げ、急に俯き何やら呟きだした。
「われは困った……」
「?」
「これ以上、ぬしの勝手は好かぬゆえ」
「なら、大人しく撃ち落とされなさい!」
そして、セシリアは射撃を再開するが、焦りと苛立ちのせいで明らかに先程までの正確さを失っていた。
乱れの生じた射撃は避けずとも勝手に逸れ、レーザーは地面に当たり土煙を巻き上げる。
それでも幾つかのレーザーが大谷に迫る。
「……」
だが、大谷は避けない。
―――直撃。
轟音と共に土煙が吹き飛ばされる。
―――
「刑部!」
戦いを見守っていた一夏が声を上げる。
視界は未だに土煙に覆われている。
「何も見えない……くそ!」
大谷はまるで歯が立たずにセシリアの射撃から逃げ回るしかない一方的な戦い、一夏の目にはそう映っていた。
パァンッ!
「落ち着け、馬鹿者」
「ち、千冬姉……?」
思わず一夏はそう呼んでしまったが、二撃目は来なかった。
「あいつはあの時、お前に何と言った?」
「それは……」
『この戦いで見聞きし、感じたことを己の戦いに活かせ。よいな?』
「そうだ、ならば目を逸らすな。この戦いを一瞬たりとも逃さず目に焼き付けろ。それが今のお前の役目だ、一夏」
「……千冬姉」
そう言う千冬は視線を戻す。
それに続き一夏も視線を戻し、何一つ見逃さないよう感覚を研ぎ澄ます。
「ね~、さっきのぎょーぶ、なんか変じゃなかった~?」
「え……?」
「今までは避けられてたのに、何で避けなかったんだろ~?」
「!?」
本音の感じた疑問、確かに一夏も感じてた。
(刑部はセシリアの射撃を全部避けてた。それに、セシリアの射撃は乱れ始めてた。なのに何で……?)
それだけではなく、大谷は一切反撃していない、ただ避け続けるだけ。
まるで、何かを待つように。
(刑部、お前は一体、何を待ってるんだ?)
その時、土煙が晴れ大谷の姿が見えてくる。
「刑部!」
一夏の目に映った大谷の姿は―――
無傷。
大谷は、シールドエネルギーを全く削られていない無傷の状態だった。
(何で……確かにレーザーは直撃したはず、なのに……)
一体何が起きたのか、一夏には分からなかった、それはレーザーを放ったセシリアも同じだった。
「あなた、一体何を……」
「ヒッヒッ……」
「こ、このっ……!」
セシリアはスターライトmkⅢを構え、大谷に向けてレーザーを放つ。
そしてレーザーが大谷に届くまでの刹那―――
「ぬん!」
突如、大谷の背後に六つの球体が出現する。
「……喝っ!」
球体は大谷の前方に移動し、何かの図形の様な配置を取り、回転を始める。
すると、回転を続ける球体を中心に障壁が張られる。
バチィッ!
放たれたレーザーは大谷に届く前に障壁に衝突、ちりぢりに拡散して消え失せた。
恐らく、先程のレーザーも同様に防いだのだろう。
「なっ!?」
自分の攻撃がこうもあっさりと防がれた事にセシリアは驚く。
セシリアだけではなく、観客席からも驚きの声が。
大谷は球体を背後に戻し、やれやれと言った様子でセシリアと同じ高さまで上昇する。
「さて、参るか」
戦いはまだ、終わらない。