虚・女神転生   作:春猫

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少しずつ読んでくださる方も増えているようで、ありがたい限りです


Battlefield

「あー、こうい方向性は居るかとは思ってたが……」

「まあ、現状、β勢以外はほとんど横並びだし、コスプレとおもえば……」

 

 タケルとアキラ、二人がサンプラザで出会ったプレイヤーはメシアン。

 それも背中を向けて見なかったことにしたくなるタイプであった。

 

「あー、はじめまして、バスター/神父でメシアンのアンデと言います」

「サマナー/SEのタケルです」

「バスター/学生のアキラだ、でもって悪魔人なんだけど、メシアンが話しとかして平気なの?」

「あー、その辺、ガチ勢は洒落にならないみたいですけど、本サービススタートの俺らみたいなのはそこまで行ってないですから」

 

 表の顔っぽく善良な感じでにっこりと笑うが、無茶苦茶時間かけて作り込まれたであろう、その外見で言われても説得力が無い。

「異教徒とカオス勢は皆殺しだ!」と口にする方がよっぽど似合っている。

 

「いやあ、こう見えて実は種族は先祖返り選んじゃってますからねぇ。しかも吸血鬼、気にする方がおかしいですねぇ」

「いや、その外見じゃダメだろ!」

「なんか色々と間違ってる気がする」

「女の子のメシアンプレイとか、結構いいですよ。初期にシスターの服とか貰える上に、その防御力高いんできちんと着ている人が多いですし」

「あー、シスターは確かにいいな!」

「『禁書』風にカスタマイズをするとか将来的にいそうだし」

「それに知り合いのサマナーに聞いた話だと、どうもメシアン御用達系の悪魔が仲魔になりやすい傾向があるらしいですよ?」

「あー、掲示板にそういうのあったな」

「ゲーム本編や二次でメシアンの評判悪いから挽回策?」

「あー、SW1.0のファリス神官より酷い扱いですよねぇメシアン」

「現実でもイスラムとか過激派イメージあるけど、日本で会うのは気のいいおっちゃんとか多いしなぁ」

「トンカツ好きなイスラム教徒とか、ビーフカレーが好物のヒンズー教徒とか居るし、『可愛いは正義!』とか言うメシアンが居てもおかしくはないか……」

 

 話せば結構俗っぽいのだが、外見で避けられてしまうことも多いのだとか。

 まあ、その外見では仕方がない。

 むしろフレンドリーに話しかけられている現状でも、違和感はぬぐえない。

 

「まあ、せっかくなんで、組んで中を回りますか?」

「いんじゃね? タケルは?」

「フィーネ次第……」

「じゃじゃ~ん、フィーネだよ! よろしく、おじさん!」

「おじさん……こう見えて中身まだ大学生なんですけどねぇ……」

 

 組んで中を回ることになった。

 

「良く銃剣なんか初期装備でゲット出来たなぁ」

「まあ、これで武器が金属バットとかだとガックリ感が半端無いけど」

「執念とリアルラックの賜物です! ……それより、ブロンズの花瓶って強いですねぇ」

「こいつは鈍器の申し子だからな!」

「鬼に金棒、タケルに花瓶だよ!」

「……お前ら」

 

 くだらない話をしながらもなんとかなる程度に余裕はある。

 タケルとアキラ、そしてフィーネだけでも危なげなく経験値稼ぎを出来ていたのだ。

 更に攻撃が出来る人間が加われば傷薬の出番すらない。

 

 

 

「なんだ、このあからさまに怪しい扉は」

「前に回った時には無かったよな?」

「一定人数かレベルで出現するとか、月齢が関係してるとかじゃないですか?」

「なんか、私の嫌いな臭いがする~!」

 

 順調に経験値稼ぎを続けていた彼らの前に、突如、といった形で現れる扉。

 周囲の建物の本来の扉と明らかに異なった様相を呈している。

 

「ここの悪魔の傾向からしてダーク系のちょっと強いのだろうけど、何が出てくるんだろうな?」

「さすがに序盤でギリメカラは出てこないと信じたい。ってかねえよな、流石に?」

「メガテンだから絶対に無いとは言い切れませんねぇ。入らずに引き返すのも手ですよ?」

「たのもう~!」

「「「あ!」」」

 

 ピクシーであるフィーネの手であっさりと重そうなドアが開き、呆気にとられる三人。

 

「ダ、ダレダ、オマエラハっ!」

 

 血まみれの室内には人に似た異形。

 

「analyze 邪鬼ウェンディゴ…ちっと格上?」

「一人増えてるのが救いって言えば救いだが」

「明らかにメシアンとは相容れない悪魔ですね。見て見ぬふりは出来ないでしょう!」

「こいつ臭ーい! やっちゃえ、タケル!」

 

 フィーネにけしかけられたからではないが、素早さでは敵も含めた中で一番早いタケルが花瓶で殴り掛かる。

 

「いつ見てもどっちが悪役かわからねえよな」

「敵じゃなくて良かったと本当に思います」

 アキラとアンデも続く。

 

 幸い、ウェンディゴはさほど素早くはないようだ。

 

 

「ソ、ソンナモノデナグリカカルナ!」

 花瓶で殴られるのは悪魔でも嫌らしい。

 かなり動揺している。

 

「いっくよー、下がって! ジオ!」

 動揺した隙にフィーネの魔法が飛ぶ。

 感電こそしなかったもののそれなりのダメージを与えた様だ。

 ウェンディゴの表情が怒りに歪む。

 

「キ、キサマラ! ブフ!」

 ウェンディゴから魔法が飛ぶ。

 何気に氷結魔法を見ること自体が初めてだ。

 攻撃をくらったアキラ以外の周辺にも冷気が飛ぶ。

 

「アキラ!」

「だ、大丈夫ですか?」

「うわっ氷結使う相手初めてだから気が付かなかったけど、悪魔人のオオカミ要素、氷結耐性あるわ、助かった」

「じゃ、アキラ壁の俺とアンデが遊撃、フィーネ後衛ね!」

「お、おい!」

「分かりました! メシアンがやられ役でないところを見せましょう!」

「危なくなったら言ってね。ディアも覚えてるから!」

「ヘイト稼ぎとかねえんだぞ、これ!?」

「「「任せた!」」」

「おいっ!」

 即席のフォーメーションで敵に当たるタケルたち。

 

 アキラが咬みつかれた(安全靴で蹴って引きはがした)り、タケルが鋭い爪で引っ掛かれた(頬に爪のラインが入って「おお、ワイルド」などと何故かフィーネが喜んでいた)り、フィーネを狙った魔法をフィーネが躱したせいでアンデが直撃食らった(「この冷たさ、プールの腰洗いみたいに身がすくみますね」と氷結して行動不能にならなくても影響があるVRならではの戦闘を身をもって感じていた)りと色々とあったが、重大なダメージを食らうことも無く無事に戦闘終了。

 

「なんか、本当に『戦っている』って感じがしたな!」

「ちょっと冷や冷やした。魔法は意外と避けられるもんなんだな」

「気を付けないと、違う人を狙った魔法を食らいますけど……」

「大勝~利! ぶいっ!」

「経験値入ったなぁ、雑魚戦2~3戦分は入ってるんじゃねえか?」

「宝玉とブフストーンですか、割と実入りはいいですね」

「俺は宝玉とターコイズ、宝石も落とすんだな」

「俺は宝玉と……なんだ、これ? どう見ても食器洗い用のゴム手袋なんだが?」

「防御2、氷結、感電耐性、炎熱弱点……見てくれ以外は当りアイテムじゃね?」

「そうですね、見た目以外はいい装備だと思いますよ?」

「タケル~、似合ってるよ!」

「お前らこっち見て言え! フィーネもニマニマしながら言うな!」

「ドロップは基本手に入れた人のもんでいいよな?」

「ええ、問題ありません」

「おおーい!」

 和やかに戦利品の確認も進む。

 

 外に出るとドアごと部屋は消え、元の廊下に。

 その後は特に特殊な相手が出ることも無く、しかしながら夜の時間帯の相手の連戦はまだ難しいレベルということで、時間帯の変化前に切り上げることにする。

 

「じゃ、お疲れさま!」

「お疲れさまでした。あ、フレいいですか?」

「いいよ、拳でいいよな?」

 

「コツン」「コツン」「コツン」とフィーネまで拳を合わせて、フレ登録完了。

 その場で解散ということで、それぞれのホームへ向かう。

 

 既になじみ深くなっているサンプラザから東中野のホームまでの道。

「タケル、タケル! 大変、大変!」

 出しっぱなしの散歩気分で道路脇にフラフラと飛んでいたフィーネが慌ててタケルを呼びに来た。

 何やら道路脇に茶色いものがうずくまっている。

 猫か犬だろうか?

 そう思い、しゃがみこんで様子を見るタケル。

 

「……俺って普通のパターンじゃ仲間作れないのかな?」

 

 他の悪魔にやられたのか、それともサマナーやバスターにやられたのか、意識を無くしてうずくまっていたのはノッカーだった。

 

「まあ、見ちゃったからには放置は出来ないよな」

 傷薬を使っても意識をさまさないノッカーを抱えると、心配そうに見るフィーネに「大丈夫そうだよ」と声をかけ、ホームに向かう。

 片手でノッカーを抱えたまま、鍵を出してドアを開ける。

 先行したフィーネが部屋の灯りを着けている。

 テレビなどのリモコン操作や、部屋の灯りのon/offなどは部屋で過ごすうちに出来るようになっていたフィーネである。

 そのうちスマホも操作しだしそうだ。

 

「契約してないからコンプで休ませるって訳にもいかないんだよな」

「この子大丈夫そうね、寝てるだけみたい」

「ピクシーって他の悪魔と仲がいいのか?」

「別にそういうんじゃないけどね、弱ってる子は放ってはおけないじゃない! この子はサンプラザに出る連中と違って臭くないし」

「まあ、取りあえずは部屋で寝かせておくか」

 

 座布団の上に寝かせ、タオルケットをかける。

 

「フィーネはお風呂はいいのか?」

「あ、入る入る! この子もすぐには起きそうもないしね」

「じゃ、準備するから、待っててな!」

「あー、そう言えば、コンビニ寄らなかった!」

「まあ、この子を放置する訳にもいかなかったからなぁ、ちなみにこの子は何を食べるんだ?」

「良く知らないけど、地霊系の子は固い物が好きらしいよ?」

「そっか、あとで買い物に行かないとダメかもな?」

「そしたら、コンビニ行こ、コンビニ!」

「この子放置出来ないだろ? フィーネはお留守番」

「えー! 自分で選ぶのが楽しいのに!」

「さて、準備済んだぞ!? 風呂入っとけ」

「うー仕方ないか……風呂上がりの冷たいミルクもおいしいよね」

 

 風呂にフィーネが行っている間にタケルは軽くログアウトする。

 今の状況について掲示板で訊ねてみたい気もするが、フィーネが待っているし、ノッカーも目を覚ますかもしれない。

 すぐに再度ログインするタケルであった。

 

 

 




戦闘が難しいですねぇ……

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