「ううむ、神経弾は鉄板として、魔封じの弾とハッピーショット、どっちを多めに買うかなぁ……」
タケルたち3人は、アキラが「銃の弾、補充しときてえんだよなぁ」との言葉を受ける形で渋谷の銃砲火薬店に来ている。
猟銃や射撃競技などで使う表の銃器取扱店舗だが、裏ではバスターなどを対象とした対悪魔戦闘用銃火器の販売を行っている。
渋谷駅徒歩圏内と「え? こんなトコで銃を売ってるの?」とエリリが驚くのも無理はない。
なんせ近くにはタワレコやアップル渋谷がある辺りなのだ。
渋谷に限らず、都内にはけっこう「こんな所にこんなお店が?」と驚かされる店が多いが、このVR内でも、そうしたお店は東京4分の1縮小化で省かれて無くなってしまうことなく、残されていることが割と多い。
真剣に購入する銃弾を検討しているアキラとは違って、タケルもエリリも銃を所持していないため、初めての銃系ショップ訪問に猟銃やクレーショットガンの棚が回転し、裏の銃ショップの顔を見せるゲームを想わせる展開に目を輝かせている。
「ファマスとかスコーピオンとか、渋谷で見ると違和感ありまくりだなぁ」
「映画で見たことある銃がいっぱい。すぐ外、普通の人が歩いてるのにね」
ムルルは「カックィー!」とあっち行ったり、こっち行ったりしているが、フィーネもキャロも余り銃には関心が無いようで、銃に向いている関心を自分たちに向けようと、手を引っ張ったり、頭をつついたりしている。
一般人は無関心に通り過ぎているが、たまにプレイヤーらしき人間がチラッと見てからマジマジと中を凝視したり、ギョッとした顔をしたりしている。
他の街同様、渋谷にもプレイヤー御用達のお店はあるし、109の中にも何軒かショップが入っているのだが、街のイメージというものとのそぐわない、そうしたショップ、特に一目でヤバいと分かる銃の店に遭遇するとは思っても居なかったのだろう。
タケルたちにしても、アキラがこのお店を知っていて、そこを目的地としてやってきたから特に気にしていなかったが、予備知識無しに通りからこの店を見つけたら目をこすって真偽を確認していたに違いない。
結局、大量の銃弾を補充したアキラは「すっからかんになっちまった」と言いながらも満足そうだ。
新宿地下の射撃場の常連と化しているアキラは、かなり銃を撃ち込んでいて、その腕前も当初に比べるとかなり上がっている。
乱戦気味でも、タケルたちに恐怖感を与えず、銃を使用出来ているのだ。
他に渋谷での用事は無いので、毎度、こんな時にしか召喚されないウコバクに荷物持ちをさせつつ、当初の予定通り、徒歩で代々木公園を目指す。
神宮通りからファイヤー通りを抜け、特徴的な外見の代々木第一体育館を左手に見ながらのんびりと足を運ぶ。
歩道橋を渡り、代々木公園へ。
今日は代々木公園内に点在する異界でで経験値稼ぎを行うことになっている。
歩道橋を渡り、原宿門から公園内に。
「いや、いくらなんでも、これ依り代に出て来ねえよな?」
アキラが不安そうに眺める彫刻。
メキシコから贈られたケツァルコアトゥルの像である。
「これ、碑文や前知識無しにケツァルコアトゥルだって分かる人居ないでしょ?」
「レゴで作っても、もっとそれっぽい感じに作れそうだな?」
「羽毛のある蛇ってこったけど、いつの間にか恐竜って羽毛アリがデフォになっちゃってるのな? その内、ゴ◯ラとかまで羽毛生やされたりして?」
「ジェロ◯モンになっちゃう、それ!」
「なに、それ、ポケモンの一種?」
「あー、確かにポケモンに居そうな名前だなぁ」と初代ウルトラマンの知識が無いっぽい、エリリの返答に感心するタケル。
まあ、ポケモンのモンスターのネーミングは、ウルトラマンをはじめとする特撮の怪獣なんかの影響も受けているため(◯◯ラー、◯◯ゴン、◯◯ドンなど)、実のところそれほど的外れな感想ではない。
幸いケツァルコアトゥルは降臨しなかったが、バードサンクチュアリ近くに異界が存在し、そこで戦闘となる。
「通常弾でも鳥系多いから銃が活きるな!」
嬉しそうに補充したばかりの弾を早速撃ちまくるアキラ。
「アキラの銃があるからいいけど、レベル自体は都庁下層より上だろ、これ?」
「普通の鳥と違って、糞をしないのが救いよね」
タケルもエリリも仲魔たちも奮闘するが、ドリアード組が速さに対処しきれていないため、タケルやエリリはその防御への手助けの比重が高く、結局、アキラ無双であった。
「うしっ! イベント前駆け込みっぽいけど、レベルと銃のレベルが上がったぞ!」
「レベル上がった! ペルソナがタクシャカになった! なんかナーガっぽい?」
「レベル上がったのはいいんだけど、何故上がる鈍器レベル?」
ここのところの経験値稼ぎの成果が出て、今回の戦闘でそれぞれレベルや技能レベルがアップした。
技能アップを目指して自主訓練にも励んでいた銃のレベルが上がり喜ぶアキラ。
エリリもレベルアップと同時にペルソナが新しくなり、特に「マカラカーンが使える様になったの!」と魔法攻撃への対処手段を手に入れたことを喜んでいる。
タケルもレベルが上がったが、今回は鳥系メインということで余り呻ることが無かった鈍器のレベルが上がり、首を傾げている。
その後も公園内の異界を攻略しつつ進むが、流石に一日に2回目のレベルアップは無く、進むうちに明治神宮御苑に入り込んでしまった。
「この際だからお参りしてく?」
「この中で行くのは初めてだな」
「森と言ってもいいくらい木があるなぁ」
せっかくなので参拝していくことに。
「いいな!」
「いいねぇ……」
「なんで弓道の恰好した人いっぱい居るの?
チラホラとではあるが弓道着を来た人の姿を見かける。
「中に弓道連盟の中央道場があるからな」
「正月とかだともっといっぱい居るよな、確か」
弓道着に萌えを感じる男性はけっこう居るが、タケルもアキラもその範疇に入っているようだ。
デレっとしているのが気に食わないのか、フィーネが頭の上でタケルの頭をポコポコと叩いている。
手を繋いだキャロは木がいっぱいの場所が嬉しいのかニコニコしながら、タケルを見上げている。
参拝を済ませたタケルたちは、神社本庁の傍を通り御苑から出て、代々木駅に進み、地元へと電車に乗るのであった。
「停止信号?」
「そういや、この中じゃ人身無いから停止信号で止まるのって初めてかも?」
「今は大抵の駅にホームドアが出来たからそうそう人身ってないけど、中の当時はけっこう多かったらしいな」
「中央線のホーム構造自体に自殺誘発要因があるんじゃないかとか、学術的に研究してる人間も居たらしい」
動き出した電車が新宿に入り、新宿から乗って来た乗客同士の会話が耳に入って来たが、少し大き目の揺れがあったらしい。
車窓から見上げる都庁に、ちょっと不安を感じるタケルであった。