「パパっ!」
キャロがしがみついて来るのを片手であやしながら、タケルはテレビの電源を入れる。
「速報はまだ出ないか……」
フィーネもムルルもキョトンとした顔をしている。
色々とリアルで天候の変化も、空気の匂いすらあるこのVR内ではあるが、リアルの日本では当たり前の様に発生するある現象がこれまで無かった。
体感出来るほどの物は稀とは言え、気象庁の該当ページにいけばしょっちゅうその発生が確認出来る現象……地震である。
宙に浮かんでいるフィーネやムルルにはわからない程度の揺れではあったものの、現実で何度も経験しているタケルと違って、キャロにとっては恐ろしいことであったろう。
「どうしたの?」
「地面がね、ちょっと揺れたんだ、で、キャロがびっくりした」
「巨人でも暴れてるの? キャロを怖がらせるなんて許せないんだから!」
プリプリと怒りながら拳を握りしめるフィーネ。
ムルルも壺の中から花瓶を取り出して握りしめている。
現実はともかく、この中ではあり得ないとは言えないのが困る。
巨人どころか巨神まで居るのだ。
そうした大きな存在は今までほとんど(全体イベントの東京タワーや年末イベントの怪異・リア獣以外は)出現していなかったが、都庁でおそらく何かが起こるであろうと噂されている現在の場合、ふつうの地震で無い可能性もかなり高い。なんせ、運営が起こそうと思わない限り、地震なんか発生する訳がないのだ。
「お、速報だな……え? 震源地、新宿? 最大で震度3とはいえ、これ
シャレにならんよな?」
スマホでニュースを検索しつつ、パソコンを立ち上げ、掲示板サイトを検索する。
「スレ立てした奴、趣味悪過ぎだろ……」
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【ファイナル】新宿地震(魔震?)スレ【カウントダウン!?】
1:高輪ゲートウェイのバスター
ここは『女神転生Ruina』の新宿で今日、発生した地震についての情報交換、検証、確定情報の整理を行うことを目的としたスレです。
現状、気象庁から発表されている情報では
①規模マグニチュード3.7、震源地東京都新宿区西新宿
②最大震度3、物的、人的被害なし
目撃情報には時間、場所の明記を忘れずに!
他者の発言、発表に関してはソース必須!
リンク先へのアクセスは自己責任で!
煽り、荒らしは華麗にスルーしましょう
イベントとの関連の有無は確定していません
公式のアナウンスを待ちましょう
______(中略)__________
194:玉川上水の異能者
プレイヤー以外、当たり前のこととして特に大きな反応してないんだよなぁ。電車も影響受けなかったし
195:千歳烏山のサマナー
>>187 地震発生とほぼ同時に東京の東側だけ雲が無くなったのを無視してんじゃねーよ
【スクショ】【スクショ】
196:大泉学園のペルソナ使い
え? これ、どこで撮ったの? 気持ち悪っ!
綺麗に一直線じゃん……
197:八丁堀のバスター
予備自衛官に動き、召集はかかってないけど所在明確化義務
198:日の出のサマナー
消防はそういうの無いけど?
あ、いちおうサブが消防士ね、俺
199:大崎広小路のペルソナ使い
警備の連中は何か伝達あったぽい
公安は知り合いが居ない
俺は町のお巡りさん
200:下丸子の異能者
なんで、ゴトウさんが帰って来てんだよ!
PKF部隊まだ解散どころか帰国すらしてねえだろ!
201:祐天寺のバスター
大変キナ臭くなってまいりました……
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「うわぁ、これ、ほぼ確定じゃん」
新宿で悪魔がらみの「何か」が起こるのは、間違いなさそうである。
ガイア側が動いているのも確実。
メシア側の情報が全く出ていないのも不気味。
「これ、都庁はしばらく行かない方がいいかもな? 経験値稼ぎの終盤で何か発生したら、パトり必至だよな」
「タケル~、この間、エリリに聞いたんだけど、商店街にパン屋さんが出来たんだって! アンパンが美味しいらしいよ、行こう♪」
フィーネの声に日常に引き戻されるタケル。
「行くの?」と期待のこもった視線がしがみついたままのキャロから注がれる。
ムルルは先回りして部屋の灯りを消し始めている。
「行こうか」そう口にしてキャロに笑顔を返すと、部屋を後にするタケルであった。
商店街のパン屋でパンと飲み物を買ったタケルたちは、天気がいいこともあって散歩がてら氷川神社まで足を延ばし、その近くの公園のベンチに腰を下ろした。
フィーネはホイップクリームの入ったアンパン、ムルルは極辛カレーパン、キャロはカスタードと生クリームの入ったクリームパン、タケル自身はオーソドックスな桜の花の塩漬けが乗ったアンパンである。
一口目は微かに餡がかすった程度、ほぼパン自体の味であったが、なかなか美味しい。
頭の上ではフィーネがホイップクリームアンパンを凄い勢いで食べているようだ。
タケルの視点では見えないが、キャロが目を丸くして見ている。
そのキャロは上品に小さな口で食べているが、上品さの割に口の周りや頬にクリームが付いてしまっている。
ムルルは想像以上に辛かったのか、飲んで食べてと忙しい。
上空を自衛隊のヘリが通る。
いつもなら気にしない光景も掲示板の書き込みを見た後だと不安がかき立てられる。
そのまままったりと休んでいると以前一回だけ臨時で組んだ、若松河田のバスターが通りかかり声をかけて来た。
近場に異界があるとのことで、組んで軽く経験値稼ぎをする。
「また機会があれば」と別れ、徒歩で自宅方面へ。
フィーネの強い主張でブロードウェイに立ち寄り、上に上がってからダラダラと見て回りながら下に向かう。
「あ、タケルさん、ちわっす」
「ウシロ、装備変えた?」
「ムド怖いんで耐性付きのに変えました」
「あー、俺も一回パトったしなぁ、ムド怖いよね。スパロボほどじゃないけど、パーセンテージあんまあてにならんし」
「HPもアイテムも余裕ある時ほどおっかないですよね」
「そうそう、そういう時ほどムド乙しやすい気がする」
「なんか今、物騒そうですし、念のため……ねーちゃんのズラは無効付きなんですけど、流石に姉弟揃ってあの髪型は……」
「へえ、レプリカでもそうなんだ」
「ハマ、ムド系で乙るとやる気失せますし、特にメガテン慣れしてない人だとツラいでしょ? 直結厨避けだけじゃないんですよ、あれ」
3階でエンカウントしたウシロと少し駄弁り、地下まで下りてフィーネのお目当てのクレープを買って、ブロードウェイを後にすると外は夕焼け。
タケルの家に近づいた頃にはすでにクレープは食べ尽くされて、フィーネがコンビニ行きを声高に主張する。
少年野球の練習か、試合か、土で汚れたユニフォームを着て、バットやグローブを持った小学生の集団とすれ違う。
ムルルは高学年らしい少年の持つ金属バットに熱い視線を注いでいる。
コンビニに着くとムルルはオモチャ付きのお菓子のある場所へ、フィーネはアイスとスイーツ悩んだ挙句スイーツの棚に、キャロはタケルの手を引いてミネラルウォーターの並ぶ一角へと向かう。
タケルは水道水でも気にしないが、キャロは水に関してはこだわりがあるようで、新しいものが出ると試して居るがお気に入りはヨーロッパ産のミネラルウォーターである。
「ドリアードがあっちの悪魔だからかな?」などとタケルは考えているが、単なる好みの問題に過ぎないかもしれない。
会計を済ませ、自宅へ向かう。
既に日は落ちて、残照で気持ち空が明るい。
部屋に戻り、コンビニで買った弁当やおにぎりやサンドを食卓に並べる。
みんなで揃って「いただきます」をして食べる。
キャロの頬に付いたマヨネーズをウエットティッシュで拭いながら、「もう少し、こういう穏やかな日常が続いて欲しいな」と思うタケルであった。
イベントとそのオチに悩んでる内にズルズルと(;´Д`)
都庁のビジョン(奈落から突き出た尖塔と天国へと繋がる階)が頭に浮かんだので執筆再開です
タケルの願い虚しく、イベント後ゲーム内世界が少し変わります