「これを狙ってたわけか……」
「噂悪魔の出現ね」
「掲示板の巡回必須ってか?」
掲示板、そしてチャットルームの導入に続いて、『女神転生Ruina』のシステム面でのバージョンアップが行われ、チーム制と噂悪魔システムが導入された。
チーム制はRPGなどのパーティなのだが、表の職業として偽装の会社や学校内のサークルなどを作成することも出来る。
日本円の確保に四苦八苦している廃人組にとっては運用の仕方によっては救済措置ともなる仕組だ。
チャットルームはこのチーム制を前提として作成されており、チームメンバー専用のチャットルームの場合、面倒な認証などを行わずに自動的に認証出来る機能も備わっている。
噂悪魔は掲示板の「噂」を元にした悪魔が出現する様になるというシステムで、全体に大きな影響を与える様な上位の悪魔に関しては必要とされる注目度がルナティックレベルなので、プレイヤー間で根回しをしたとしてもまず出現しないが、近隣に出現しない傾向の悪魔が近いエリアに出現する様になったり、称号付きの仲魔の出現頻度が変わったりという形での利用は可能である。
ダフネの枝入手に関する情報拡散でタケルたちが利用したスレッドなどは、このシステム運用のために運営サイドも介入していたらしい。
プレイヤー側が意識的に望む結果をもたらす為の最大のネックは「仲魔も書き込みが可能である」という点にある。
仲魔も悪魔同士の噂や自分の考えを書き込むため「悪魔からするとこれは有り得ない」といった形でプレイヤーの書き込みがあっさりと否定されてしまうことも多いのだ。
運営も予想外の展開としては「あの辺いいよね」という水辺関連の悪魔の噂が元になって、皇居のお堀周りに実に様々な悪魔が出現する様になってしまった、などというものがある。
「ダフネの件は成功確率がだいたい10分の1くらいらしいな」
プレイヤーによって立てられた検証スレを見ていたタケルにアキラが話しかける。
アキラも検証スレをチェックしているようだ。
「混雑を心配してたけどイベントの時みたいな結界で一定人数以上は寺に入れなくなってるんだって」
「ダフネさんマジ有能」
「妖精か地霊を連れてる一定レベル以上のサマナー技能持ちって感じらしいな、枝をもらえてるの」
「アキラってその条件に当てはまって無いよな??」
「俺、もしかして特別扱い? うちのドリアードって育ててけばダフネになるってことかな?」
今日のタケルたちは浅草への遠征ということでタケルの車に乗って移動している。ピクシーやドリアードたちはルーフ下の就寝ルームで遊んでいるため、人間同士の会話がメインになっている。
最近では仲魔の持ち込んだ様々な物が転がっていて、人間の就寝ルームとしては使用不可能に近い。
「なんで『七福神』なのに九箇所あるんだ?」
「寿老人と福禄寿が二箇所あるんだってさ」
「一番マイナーなトコが複数って……『本家』と『元祖』で争ってるとか?」
「う~ん、どうなんだろ?」
「ま、ともかく浅草寺からスタートして一通り巡ってから浅草寺に戻っておみくじを引くと引いたおみくじによって色々と貰えるという話だよな」
「隅田川沿いの散策とかもしながら観光気分でいいんじゃないかな?」
「リアルスケールだと歩くのかなりキツいけど、ここでなら歩けるからまずは浅草寺に近めの駐車場探しだな」
「異界はどの辺?」
「大きめが隅田公園で花やしきとか寺や神社周りにも小さめの異界だって」
浅草近辺にリアルで行ったことは無いタケルだが、時代小説などではお馴染みの地名が多く、見知らぬ土地だと言う感じはしない。
駐車場に車を停めて雷門見物。
フィーネたちは大提灯の内側に入り込んで人間には出来ない見物をしている。
せっかくなんでサイズの小ささを優先して購入したデジカメを渡して、提灯の内側から上を見上げている自分たちの写真を撮ってもらう。
ムルルにあげた花瓶をフィーネが羨ましがっていたので買ったデジカメだが、その後、色々と他にしてあげていたのであげる機会を逸していたものだ。
「本日はフィーネをカメラマンに任命する!」
「了解!(ビシッ!)」
けっこう楽しそうに写真を撮っていたのでそのままカメラを渡して「好きなものを撮っていいよ」と言っておく。
七福神めぐりのスタートでありゴールである浅草寺。
ここは大黒天である。
「つまりはマハーカーラ、強キャラだな」
「マハーカーラ+オオクニヌシの合体って話だけど、この中で合体したら何になるんだ?」
「日本人って昔からそういうことしてるんだなぁ……」
外人観光客の姿も多いが、東京都内から出られないこの世界で見かけるとなんか違和感がある。
まだ、たまに見かける造魔プレイヤーの方が違和感が無いくらいだ。
「続いて浅草神社、えべっさんだね」
「蛭子神の別形態って話もあるけど、こっちはなんか景気いいよな」
「でもって待乳山聖天」
「ガネーシャだっけ?」
「七福神的には毘沙門天」
「毘沙門天って言うと上杉謙信が浮かぶなぁ」
「で、その先が今戸神社で福禄寿1号」
「1号言うなし……この辺までは割と近いよな」
ある程度近場にある4箇所を続けて回る。
次いで隅田川沿いを北上し橋場不動院(布袋)、石浜神社(寿老人1号)、そこから西南へ折り返して吉原へ。
「吉原とかもなんかイベントとか発生しそうだよなぁ」
「吉原神社が弁天さまね」
「うる☆の弁天のイメージで上書きされちゃってるんだ、俺の場合」
「俺の場合は弁天様って言うと江ノ島って感じ」
「で、次の……ワシ神社?」
「鷲と書いてオオトリだって、酉の市の『お酉様』って行った方が通りがいいかもね?」
「あ、そっちはなんかニュースで見た記憶がある」
「ここが寿老人2号か……」
「でもって矢先稲荷でラスト!」
「福禄寿2号ね……まあ、全国に沢山あるんだから狭いトコでダブることもあるよな」
スケールが小さくなってはいるものの歩き通しで疲れは出ている。
「もう少し近接してれば楽なのに、特に橋場不動院と石浜神社!」と思うのも無理は無い。
この二箇所が飛び出した形になっているのだ、地図で見ると。
「タケル、タケル~! これの後、あそこの遊園地行こう!」
「民家に突っ込みそうなジェットコースターは乗ってみたいかも?」
「じゃ、浅草寺でおみくじ引いたら行くか!」
「賛成~♪」
「わーい♪」
「遊園地ですぅ♪」
みんなでわいわいと話しながら浅草寺に。
メインの目的のはずが花やしきの話で盛り上がってしまい、なんとなく気持ち的に盛り上がらなくなっているタケル。
それでも七福神めぐりをしてきた証拠の朱印入りの福絵を見せておみくじを引く。
現実のおみくじだと大吉が出る確率が一番高いが、ここは大吉は超レア、大凶だと傷薬一個である。
「浅草神社は可愛いキツネみくじがあるんだよねぇ……吉だからこれは『当たり』だよね、親戚のお婆ちゃんに聞くまで中吉の方が吉よりいいと思ってたよ」
「え? 中吉って大吉の次じゃないの? 俺、中吉で喜んでたのに……」
「なんでこうなる……意図的に入れない限り現実と違ってこんなおみくじ発生する訳ないよな?」
タケルの引いたおみくじは「末末末吉吉吉」というもの。
現実だと印刷のエラーで発生することがごく稀にあるパターンだが、VR内では誰かが作らない限りは有り得ない。
「へえ、吉は『こんなショボい本なの?』って思ったけど、好きなものを選べる結婚式のお返しパターンな訳ね……スクーターや自転車まである!」
「中吉は武器、防具、アイテムの大枠だけ選べるみてえだな、武器で刀欲しいトコだけど、銃が出ちゃうともったいないしなぁ……防具にしとくか」
「なんだ、このどう見ても堅気の人間がしそうも無いネクタイは! 提灯中心に七福神って! 浅草っぽいけどさ! 外人さん喜びそうだけどさ!」
エリリはさんざん悩んだがスクーターはスキルが必要なので諦めて電動アシスト自転車を、アキラは革ジャンを手に入れたが、共にタケルのアイテムを見て苦笑している。
金糸や銀糸をふんだんに使った色使いといい、その絵柄といい、社会人が会社に着けていったら上司から叱責を受けそうなネクタイなのだ。
「いやげもの」として十分に通用する逸品だ。
「タケルの変な運は相変わらずだなぁ……」
「どっちかって言うとリアルラック方の影響みたいだね……」
ムルルは「カッコイイ!」と目をキラキラさせているし、仲魔たちには割と好評である。
また、無効、反射、耐性と色々付いていて性能は高い。
見た目が「アレ」で高機能というのはタケルの定番になりつつある。
ともあれ無事(?)にメインの目的を果たした一行。
次は遊園地である。
ピクシーやドリアードでも楽しめる様な乗り物も花やしきの場合は存在している。
身長制限がある乗り物が四つしかない。
「なんか当時ですら既にレトロだったものだろ? 今なら博物館じゃね」
「いや、未だに修理と改修しつつ現役だとか……」
「VR時代になって遊園地は大変だよねぇ」
「エリリちゃん、次はあれに乗りたいですぅ!」
「タケル、タケル~! あれ買って!」
「パパ、あれに乗りたい~!」
てんでバラバラの所に行きたがる仲魔たちにタケルもてんやわんやである。
なんとか「あれに乗ると全体見て回れるから最初はあれにしよう」と言って船の形をしたモノレールといった感じの乗り物に誘導。
アキラのところはオカンがしっかりしているし、エリリのところは友達グループといった感じでどちらもタケルほどは苦労していない。
仲魔全員を抱きかかえる様な形でジェットコースターに乗ったり、「これくらい大したこと無いわよ!」と回転する乗り物に乗ったフィーネが目を回したり、パンダカーにムルルが大はしゃぎをしたり、キャロが最初の頃のフィーネを思い出させる様な感じでクレープを食べて顔をクリームまみれにしたりと楽しい時間を過ごしている内に空が赤くなってくる。
「じゃ、そろそろ帰ろうか?」
「「「はーい」」」
仲魔たちの同意を得たところでアキラとエリリにも連絡をいれ、駐車場で合流することにする。
「また来ようね♪」
頭に寝そべって言うフィーネに頷くタケル。
前転する形で頭からズリ落ち、プンスカするフィーネをなだめつつ車に乗り込むタケルであった。
浅草は大昔に鬼怒川温泉に行く際に少し周囲を散策して
神谷バーで電気ブラン飲んだくらいですね
浅草寺には行ってないという……