ログインしたタケルが見たものは自分の横でスヤスヤと眠る半裸の美少女だった。
焦りはしないが疑問には思う。
「誰?」と。
対女性スキルがフィーネのお陰で上昇しているとは言え、タケルのリアクションにしては薄いと思うだろうが、所謂ラブコメ的、あるいはエロゲ的な意味での焦りが生じないのは当然なのだ。
なんせ「美少女」は2~3歳児並みの身長しかないのに少女のプロボーションをしているのだから……。
フィーネより少し大きい程度、人間とは完全にスケールが違う。
騒がしいコンプからフィーネとムルルを出す。
纏わりつくフィーネたちを左手であしらいつつ、右手でコンプを操作する。
「Analyze……妖精 ドリアード」
アナライズすると予想通り悪魔だ。
窓際の植木鉢を見る。
貰って来た時より若葉が増えている。
「たぶん、そうなんだろうな」と思うタケル。
「また、普通じゃないパターンってか? アキラとエリリにも連絡とってみるか?」
「おはよう! パパ!」
目を覚ましたドリアードが爆弾を落とす。
「タケル! どういうことかな!?」
「うわぁ、フィーネが怖いよ?」
「ダフネに貰った枝から俺のMAGを栄養に生まれたからってオチだろ、たぶん。フィーネのハイピクシー化と似たようなもんだ」
フィーネが「ゆらぁ」といった感じに瘴気じみたものを漂わせながら詰め寄るも、タケルはなんとも冷静なものである。
倉庫作業の在庫データが管理部門のデータ入力ミスで混乱し、残業した疲れで、フィーネとじゃれる余裕が無かっただけとも言う。
「ふ~ん」と言いながらタケルの返答内容よりもやり取りのテンションに不満そうなフィーネ。
「パパ、お水頂戴!」
「どっちにだ?」
「う~んとね、両方!」
元々、フィーネやムルルの世話に関しても周囲から「おかん」呼ばわりされていたタケルである。
「パパ」なら性別が一致してる分問題は少ないといった感じだろうか?
世話を焼くのも実に手馴れたものだ。
「フィーネとムルルはパンとご飯、どっちにするか?」
「うーん、ご飯がいいな、僕は」
「オムライス!」
「外で食べるのか? あ、じゃあ商店街の喫茶店に行ってみるか?」
「その前にその子に名前付けないと!」
「あー、どんな名前がいいかな」
「僕、僕がつけていい? キャロってどう?」
「ぶぅ、私がつけようと思ったのに!」
「いいんじゃないか? どうだ? キャロでいいか?」
「キャロ、私、キャロ? 嬉し~い! パパありがとう!」
緑の髪にオレンジ色の唇と瞳、その外見からニンジンを連想してのことだと思われる。
ムルルも色々と知識が増えてはいるものの、テレビか身の回りの情報が基本だ。
漫画や映画の知識はほとんど無いし、乗り物も自動車や電車といった大きな区分は理解しても車種だの形式だのは分かっていない。
コンビニで見かけた商品か、テレビのCMが名前の由来だろう。
キャロを仲魔に加えて、揃って商店街へ。
新規プレイヤーか、それとも引越し組か、たまにプレイヤーを見かける。
商店街をぶらついて、手書きのランチメニューがドアにぶら提げられた喫茶店に入る。
カウベルが「カラカラ」と音を立てる。
中に入るとマスターが一人でやっている如何にもな喫茶店。
コーヒーの香りが漂っている。
他に客はおらず貸しきり状態だ。
デザートは食後ということにしてまずは食事と飲み物を頼む。
「せっかく喫茶店なんだから」とタケルはブレンドのコーヒーとホットサンドを。
フィーネは食べたかったオムライスとタケルにどんなものか説明を聞いた上でミルクセーキを。
ムルルは悩んだ挙句にスパゲティミートソースとコーラフロートを。
外食どころか食事すら初めてのキャロはフレンチトーストと紅茶をそれぞれ頼んだ。
マスターがコーヒーを入れていた時とほとんど変わらないゆったりとした動きながら、その実良く見ていると手際良く調理を行っている。
調理時間が異なるものを、ほぼ同時にテーブルに並べるその手際は職人芸を通り越して名人芸である。
「パパ、これおいしいよ!」
キャロが自分のフレンチトーストをフォークで切り分けてタケルの口元に差し出してくる。
一口食べて「ありがとなー」と頭を撫でると嬉しそうに声を上げて笑う。
食事が終わりかけた頃にエリリから電話がかかってきた。
エリリの所でもドリアードが仲魔になったらしい。
喫茶店の場所を教えて電話を切り、飲み物とデザートをマスターに注文する。
フィーネがチーズケーキ、ムルルがプリンアラモード、キャロはストロベリーパフェを頼み、タケルはコーヒーをもう一杯頼んだ。
食べ終わった皿が下げられ、追加で頼んだものを待つ間にアキラにもメッセージを送っておく。
「お待たせ♪」
「フィーネちゃんの食べてるものおいしそうですぅ♪」
「じゅるり……エリリ、私もこの子の食べてるのとおんなじの!!」
シェーラとキャロと同サイズのドリアードを連れたエリリ。
「タケルのトコの子も可愛いね。うちの子も負けてないけど」
「ドリアードのアンだよ! 『アン』の綴りは最後に『e』を付けてね!」
エリリのところのドリアードはタケルのところのキャロに比べるとボーイッシュな感じで髪も短い。
「三つ編みにするとこじゃね?」と思うタケルだが、そもそもが赤毛じゃない。
互いの仲魔が食事を取りつつ交流する横でタケルはエリリと今回の事態について話し合う。
「ダフネから貰った枝からサマナーの生体MAGを取り込んで誕生したってのは分かるんだけど、枝をもらえる条件とか、月齢が関係してるかとか、属性が影響するかとかは分からないんだよな」
「掲示板に下手な書き方するとダフネに迷惑かかっちゃわないかな?」
「寺の墓場だからなぁ。ブロードウェイ並みに人が行くようになると流石にまずいだろ」
「かといってこの子たちのことを隠して過ごすのもねぇ」
「あ……、あのスレ利用すればいいかも?」
そういうとタケルはコンプを立ち上げ、エリリに該当スレを見せる。
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【ガセネタ?】都市伝説総合研究所 ver.1.3【バグ探し?】
1:錦糸町のペルソナ使い
ここは『女神転生Ruina』内外で流れる様々な噂について調査・検証を行うスレです。
スクショ・動画は歓迎ですが、リンク先へのアクセスは自己責任で!
煽り、荒らしは華麗にスルーしましょう
愛の無いコメント、貶しはNG
和気藹々、マターリ進行でいきましょう
過去スレ:都市伝説総合研究所 ver.0.1~1.2
______(中略)__________
46:新大久保のバスター
>>23
ターボばあさん自体は存在するって
要・検証はその出現地点、行動、速度などが月齢の影響を受けるかって点
47:本駒込の異能者
俺としては次の全体イベント、五色不動が絡むんじゃないかと予想
48:三軒茶屋のペルソナ使い
>>47
目黄(金)不動の特定に難あり
49:中目黒のサマナー
もう三色不動でいんじゃね?
50:府中の異能者
五色不動って魔人学園だっけ?
51:御徒町のバスター
偽典でも出てた筈
52:恵比寿のサマナー
次もライドウ出るんかね?
53:神田の異能者
会話アリならゲイリン、無しならキョウジ、大穴で人修羅?
54:秋葉原のサマナー
拙者としてはアリスたんにご降臨願いたい
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「このスレでさ、『中野の寺にダフネが出る』『ダフネと仲良くなると枝を分けて貰える』『貰った枝を大事にするとドリアードが生まれる』ってのを『噂』として書き込んでみたらいいんじゃないかな?」
「タケルは掲示板でちょっと有名だから私かアキラが書いた方がいいかもね?」
タケルとエリリの会話に仲魔も口を挟んでくる。
「私たちだから貰えたって可能性もあるからね! やっぱダフネから見ても私は有望株だし!」
「まあ、フィーネの言う事は置いといても、『タケルだから』『エリリだから』『アキラだから』って可能性はあるよね」
「むきー、最近ムルル生意気~!」
「パパのMAGは独特だからねぇ~♪」
「あー、それはあるよね、キャロは分かってるじゃない! タケルのMAGってね、木っていうか森っていうか、そんな感じなの!」
「エリリちゃんだって凄いですよ!」
途中から仲魔のサマナー自慢に変わってしまっているが……。
アキラからの電話を機に喫茶店を後にする。
「あ、あ、払いますよ、自分の分」
まとめて払おうとするタケルにエリリが慌てるが「中でも外でも社会人だからさ、ここは格好つけさせて」とそのままタケルが支払う。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまですぅ!」
「ありがとね!」
食後の軽い散歩といった感じで、そのままのんびりと時々お店を冷やかしたりしながらブロードウェイへ。
やはりアキラも同じ様にドリアードが仲魔になったようだ。
一番、ダフネに執着し、枝を貰った時にも喜んでいたアキラである。
これでアキラだけドリアードが誕生していなかったり、別の悪魔、例えばマンドレイクとかになっていたりしたら目も当てられない。
ただし、世話係をオカンに取り上げられたのか、オカンが外に出てドリアードを抱っこしている。
「アキラの光源氏計画は多難そうだなぁ」とアキラのうんざり顔を見ながら苦笑するタケルであった。
光源氏計画と紫の上計画、どっちが適切なんでしょうね?
あるいはプリメ父親エンドの方がいいのか?