虚・女神転生   作:春猫

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前半部は前回までのイベントの解説です
久々に地の文大量です


Hurry Up To Exit

 多くのプレイヤーが「やり遂げた」というより、「え、なにこれ?」と肩透かしの様な脱力感を感じた『女神転生Ruina』初の全体イベント。

 

 イベント終了後、公式ホームページでイベントについての情報が公開され、またイベントクリア報酬がかなりの大盤振る舞いであったことから、じわじわと「おお、やったぁ!」と成功を喜ぶ声が上がるようになっていった。

 

 イベントに関しての公式解説だが、まず最終ボス戦発生条件、これはその日の日付が変わる時点までに7割以上のイベントスポットがクリアされるか、開始から四日目が終了する時点で発生することになっていた。

 

 また、最終戦だが、10割クリアでのイベント戦の場合、最初からライドウが登場し、ゴウトの口からプレイヤーに共闘が呼びかけられる形に。

 9割以上の場合、戦闘開始10分でライドウが登場、と同時にミニチュアが増殖、プレイヤーがミニチュアと戦い、本体をライドウが相手取るという形に。

 8割以上の場合、今回のイベントではこれが適用されたが、戦闘開始、三十分後にライドウが登場、問答無用で東京タワーを真っ二つにする。

 7割以上の場合、開始から四十五分経過もしくはプレイヤー生存数が6割以下になった時点でライドウが登場し、やはり東京タワー真っ二つ。

 

 最終日まで突入し、5割以上の場合は前述の7割のケースと同じ。

 

 5割未満の場合は、倒される所までは一緒だが、散り際にまき散らされた呪詛により、一週間、スマホでの通話、メッセージが不可能となっていた。

 

 また最終日時点でスポットクリアゼロだった場合、東京タワーがスカイツリーまで歩き、スカイツリーを破壊、進路上の建物はプレイヤーのホームを含めて壊滅、中央線、山手線などは折り返し運転となり、復旧まで3か月かかることになっていたという話だが、流石にまだサービスが開始されたばかりのゲームのイベントで、超絶鬼畜難易度でも無い限りこれはあり得ない話なので与太話に近い。

 

 ともあれ、ライドウとの共闘という形になる9割以上、ピンチにライドウが現れる8割未満と比べるといまいち盛り上がらない8割以上になってしまったことは運営にとっても誤算だったかもしれない。

 ライドウの登場がイベントスポットの消化率によって変わるのは、プレイヤーの手が及ばなかった場所はライドウたちクズノハが対処に当たっていた為という設定なのだそうだ。要は酷い目にあっても、それはプレイヤーの自業自得だということだ。

 

 

 また、このイベントをきっかけに、ロウ、カオスの上位悪魔たちがこの世界の人間(=プレイヤー)に注目し、積極的な介入を始めた、という設定のもと、噂になっていたロウ、カオスプレイヤーへのガーディアン付与が導入されることになった。

 

 付与の条件は、アライメントがロウ、またはカオスに偏っていること。

 付与を行うためにはプレイヤーが自己のアライメントの宗教施設、ロウの教会やガイアの神殿などに直接赴き、そこで付与してもらうか、サマナーの仲魔勧誘と同じ様に直接悪魔と交渉を行う必要がある。

 

 ステイタス、魔法、スキルなどの修正が付与されたガーディアンによって変化する点はifと同じだが、倒された場合、自動的に別のガーディアンになって復活ではなく、ガーディアンを失った形で復活、言ってみればガーディアンとして付いた悪魔が身代わりになって死んだ形になる。

 

 新たな悪魔をガーディアンとして付ける場合は、最初の時と同じ様に手間をかける必要はあるが、即死系や耐性、弱点の関係で他の作品に比べると死亡リスクの高い女神転生の場合、たとえ一回でも死亡を完全に防げるというのは大きなメリットである。

 

 アンデやマロロの高笑いが聞こえた気がして、この情報に接した際、猛はうんざりとしてしまったくらいだ。

 

 また、このガーディアンもサマナーの仲魔と同様に連動アプリで強化、コミュニケーションが出来るという点も大きい。

 

 今回のイベントによるポイントの大盤振る舞いで、初期スキル以外のスキル獲得が可能になったプレイヤーは多く、バスター/サマナーや、原典ではあり得ないサマナー/ペルソナ使いなんて存在すら誕生しているようだが、このガーディアン導入で更にプレイヤーのスタイル選択に幅が広がっている。

 

 

 

「やっと、サマナー技能取れた! ついでに表の職業も変えて、自衛官にした! やっぱ、相手によっては銃が無いと厳しいし、剣を伸ばしつつ銃もって考えると表の職業も銃のスキルに関係しそうなのを選んだ方がいいしな! てなわけで、これからはバスター/サマナー/自衛官な!」

 

「マロロがこれ見よがしにガーディアン見せつけてくるの! クーちゃんだけでもズルいのに、そっちもモフモフなんだよ? 巫女服片手に『カオスはいいぞぉ!』って言われてもねぇ……」

 

 イベント後の初の異界入りでアキラやエリリの口から出る話題もやはりそうしたイベント後の風潮に影響を受けたものとなっている。

 

「そういやさ、アイテムは何貰った? 俺の場合はベレッタだったのも表の職業変えた理由なんだけどさ?」

「私はこれ! 今着てるジャケット! 防刃、防弾、耐熱ってのも凄いけど、今まで着てたのより軽くて着心地がいいの!」

「おー、そう言えば新しくなってんな! 似合ってる似合ってる!」

「で、タケルは?」

「相手によって使い分けようか、それとも新しいのをメインにしようか悩んでるんだけどね」

「ってことは武器か、防具か!?」

「えー、花瓶やめちゃうの?」

「これなんだけどさ……」

 タケルが持ち替えた装備は燭台、それも銀の燭台であった。

 

「ジャン・バルジャン乙!」

「それも鈍器なの?」

「ジャン・バルジャンは売らずに取っといただけで、凶器にはしてねえよ! 攻撃の最大期待値は今の花瓶の方が高いんだけどな、こっちは10%で破魔追撃発動とか付いてんだよね」

「ポイント余ってたらスキルで二刀流取って、両手鈍器でいんじゃね?」

「二刀流は力必須だってば! どっちかって言えば素早さの人にはキツいわよ?」

「そう言えばさ、銀の天使像とかあったとして、それを武器にした場合、ロウに傾くのかカオスに傾くのかどっちなのかね?」

「どっちだろ? 持ち物として見ればロウだけど、使い方考えるとカオスな気もするね?」

「タケル~、なんか近付いてきてるみたい!」

 燭台装備のまま戦闘に突入。

 10%とはいえ、運のステータスを上げているせいもあるのか、いいタイミングで破魔発動。

 6体出た悪魔の内、2体はその効果で倒すことに成功する。

 

 

「そんなにリーチは変わらないか……」

「銀色は目立つなぁ……売ったら実は結構いい値段になるんじゃね?」

「破魔発動もいいタイミングだったし、そっちにしちゃえば?」

 

「…………!!」

「どうしたムルル? なに、花瓶? 渡してもいいけど、どうするんだ?」

 タケルから手渡された花瓶を意外に力強くブンブンと振り回すムルル。

 その外見と振り回している物のギャップが激しい。

 

「おおー、やるな~、ムルル、私も負けないから! タケル~! なんか頂戴!」

「いや、フィーネが持てそうな物持ってないって!」

「ええ~? なんか私にも頂戴よ~!」

「……てか、仲魔って装備出来るの? 偽典だけじゃないの、仲魔が装備って?」

 ムルルの得意げな顔と、フィーネのおねだりに困惑するタケル。

 

「親に似るっていうの? それとも飼い主……?」

「こうして見るとやっぱタケルん家の子だなぁ……」

 エリリもアキラもどこか遠い目をしている。

 

「……♪ …………♪」

 こうしてタケルの花瓶の二代目所有者も決まり、タケルの武器は銀の燭台へチェンジすることとなった。

 

 

 

「あれは痛い……」

「見てるだけでも痛い」

 背の高さの違いもあり、ムルルの振るう花瓶はゾンビコップの脛にガシガシと当たっている。

 足元のムルルに気を取られるとタケルの銀の燭台が顔面を直撃する。

 

「こわっ!」

「悪いっ! 初めて撃ったんだ、実は!」

「あー、試し撃ちとかする訳にもいかないしねぇ、町中じゃ……」

 アキラの撃った銃がタケルの耳元をかすめる。

 

 イベントが夜の状態であったことによる意識の変化もあって、異界での経験値稼ぎも夜の時間帯へ突入しても特に気にすることなく続けられる様になっている。

 もちろん、武器や防具が強化されたり、レベルアップでステータスが向上していることも影響している。

 

 

「親子で凶悪だなぁ」

「物騒な親子だねぇ」

「ムルルが子供なら私がお母さんだね! うんうん」

「……♪ ……!!」

 

「いや、大事な仲魔だけど親子じゃないからな!」

 

「あっ!? タケル~! ちょっとMAG頂戴!」

「どうした? コンプの貯蔵は十分なはずだぞ?」

「う~んとね、なんか今の経験値で進化出来そう!!」

「フィーネちゃんハイピクシーになるの?」

「他のピクシーより先行してる分早いな、たぶん一番乗りだぞ?」

 

 コンプからでなく、タケルから直接MAGを吸収するフィーネ。

 光に包まれ、丸くなり、そして……。

 

「じゃじゃ~ん! 私の才能にひれ伏せ~っ! 単なるハイピクシーに留まらないこの私! もはやハイパーピクシーと言ってもいいね、これは!」

 

 レオタードの様な服だったフィーネは、ドレスの様な、それでいて鎧の様な服装に変化し、髪の長さも伸びて羽も体のサイズも若干大きくなっている。

 

「フィーネちゃん可愛い~!!」

 エリリは手の上にフィーネを乗せると頬ずりしている。

 

「なんか、ヴィヴィアンとこで見たハイピクシーと違わね?」

「称号が付いてる……『ハイパーな』ハイピクシーだってさ……」

 

「うふふ、ねえ、タケル嬉しい? 私が強くなって!?」

「あー……進化したのも確かに嬉しいけど、進化しても中身が変わってないことの方がもっと嬉しいかな? 進化して急に上品な口調で喋る様になったら、ちょっと嫌だったかもしれない……」

 進化しても口調も行動も変わらず、いつもの定位置の頭に座るフィーネにほっとするタケル。

 ついつい本音が口から出てしまう。

 

 

「えへへ……そうだ! お祝いにファミレス行こう! ファミレス! パフェがあるんでしょ?」

 テンションまでハイなフィーネに引きずられる形で異界から引き揚げ、アキラやエリリも誘ってファミレスへと向かうタケルたちであった。

 

 

 




フィーネが進化しました
ムルルがブロンズの花瓶を装備しました

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