「あーっと! タケルくん吹っ飛ばされた~っ!!!」
「(アキラ、余裕だな、おい!)」
赤と白の金属の触手に吹っ飛ばされ、タケルが見上げた空。
月の中に刀を振り上げた男の姿が見えた。
月からそのまま飛び降りて来た様なその男が刀を振るうと、東京タワーは真っ二つになった。
「タケルー!」
玉石混交どころか砕け散ったガラスの破片の中からダイヤモンドを探す様な情報収集をしつつ、「あ、中野と父島の転移陣の位置は書き込んでおいた方がいいな!」と全体攻略と地域攻略のスレに書き込み、一息ついた猛の耳に入って来たのはフィーネの声。
「え、空耳?」
「タケル~、こっちこっち!」
VR端末に繋ぎっぱなしのスマホからフィーネの声がする。
「ヤッホー! へえ、こっちのタケルの部屋ってこんな感じなんだ!」
「フィーネなのか?」
「こんなに可愛いピクシーが私以外に居るわけないでしょ?」
「アプリが凄過ぎて現実感が無い!」
「凄いよねぇ、今まではお留守番するしか無かったけど、これでこっちでも一緒だよ!」
凄いの意味する場所が互いに違っているが、その点はお互いどうでもいいのだろう。
フィーネの反応は完全に猛のことを見て、聞いて行っているとしか思えない。
「ソフトウェアでどうにかなるレベルなんだろうか?」と思ったりもするが、メガテンからログアウトした後の味気ないモノクロの現実が、これで少しは色が付いた様な気がする猛である。
「こまけえことはいいんだよ!」と早々に疑問を投げ捨てる。
「きたない、さすがア○ラス、きたない」
フィーネと一緒にアプリについて色々と試してみたところ、課金でスマホ内の仲魔に強化アイテムや嗜好品を「プレゼント」出来ることが分かった。
スマホ内でチョコレートパフェを食べてご満悦のフィーネ。
単純にフィーネが食べておいしいというだけでなく、次の『女神転生Ruina』ログインからログアウトまでの間、フィーネに「破魔・呪殺無効、衝撃耐性」が付く。
食べたものによっては耐性だけでなく、ステータスが上がったり、攻撃力が上がったりするらしい。
きちんと攻略に役に立つところが、またなんともいやらしい。
課金をしなくても、スマホ内で仲魔が過ごした時間分、仲魔に経験値が入るし、ミニゲームでもアイテムが獲得出来たりもするが、課金した場合の見返りに比べるとどうしてもショボい。
「コンビニのバイト辞めなくて良かった」
コンビニのバイト分くらいは軽くこのアプリの課金に消えていくことが簡単に予想出来る猛。
「向こうのコンプでもこのパフェが食べられたらいいのにね~♪」
「喫茶店やファミレス入れば食べられるぞ? 今度入ってみるか?」
「いいの!? わーい! じゃ、すぐログインしよっ!」
「今、ログインしても店は開いてないぞ?」
「あ、そうだった……。早く終わらないかなぁ、イベント!」
「事前告知も無かったし、そんなに長くは引っ張らないだろ、たぶん」
それでも一通りは用事は済んだしと、スマホを繋ぎ直すとログインの準備を進める猛。
ログインアクセスの時、すぐ傍にフィーネが居るのを感じる。
思わず笑みを浮かべながらメガテンにログインする猛であった。
アキラたちとの約束の時間までまだ余裕はあるものの、早めに行く分には問題は無いだろうと、部屋を出るタケル。
パッと見て分かるほどではないが、夜空の星も減っているらしい。
途中、2回悪魔と遭遇するが、その内の一回はピクシーの集団で、戦闘にはならなかった。
しかし、戦闘を行うよりもよっぽど時間がかかってしまった。
フィーネのお喋りで……。
「おばちゃんの井戸端会議みてぇ」と頭に思い浮かんだタケルだが、「これは絶対に口にしたらヤバい!」と脳の奥底にその感想を封じ込める。年齢=彼女居ない歴であるタケルだが、ここのところ急速に対女性スキルが向上している。
到着したブロードウェイは一目で分かるほど人数が減っていた。
しかも居る人数の大半は、待ち合わせや情報交換の為に居るらしく、入れ替わりが激しい。
タロウも知り合ったフレと別の場所の攻略へと向かった、ということをタケルは同じ様に一回ログアウトして掲示板巡回をしてから戻って来たウシロから聞いた。
「タロウのネタを書き込みたくてしょうがなかったんだろう!?」
「あんなおいしいネタをスルー出来る訳がないでしょう? また『フォトショ加工乙』って言われましたけど」
「父島に引っ越すヤツ出そうだよな」
「ショタ好きホイホイですからねぇ。あれだけ鼻絆創膏が似合う顔もそうそうないです」
「絆創膏押し付けてないだろうな?」
「俺はやってないですけど、あげてた人間が居て、怪訝そうな顔されてましたねぇ」
「お待たせー! アキラはまだなんだ?」
「お、エリリか、あれ? エリリとウシロはそう言えばフレにはなってなかったよな?」
「う、ウシロです、よろしくっ!!」
「エリリだよ、よろしくね♪」
ウシロが思いっきり女性耐性の無さを露呈している間に「よ、早いな!」とアキラも合流。
互いに情報を交換、整理しながら次の目的地を検討する。
「取り敢えず、ここで回復系アイテムは補充しておこう」
「そだな、出先で不足すると怖い」
「フィーネちゃん、なんか嬉しそうだね?」
「タケルの向こうの家に行ったの! コンプからは出られなかったけどね、チョコレートパフェがおいしかった!」
「え? 向こうのってリアル?」
「連動アプリ。あのプログラム組んだ人、マジもんの天才だろ、こっちと同じ調子で会話出来たし」
「A・NAKAJIMAとかじゃないだろうな?」
「へえ~、サマナー以外でもお友達の仲魔とかが出来れば私もやりたいなぁ」
「…………!」
「そだな、ムルルも呼んでみたいよな」
「自分も!」と言うムルルの頭を撫でるタケル。
便乗してエリリもムルルの頭を撫でている。
「要求スペック高いんじゃね?」
「いや、俺のスマホ二年前のだけど問題無し」
「さらにサマナー技能取得目指すヤツが増えそうだな、な、ウシロ!」
横で掲示板を中から見ていたウシロに声をかけるアキラ。
ウシロもスマホの画面から顔を上げて会話に加わる。
「そうですね、そういうの聞くと我慢出来なくなりますよねぇ」
「ピクシースレの住人はまず間違いなく全員あのアプリ買うな」
「これやっといて、サマナー技能の取得必要ポイント引き上げたら運営鬼畜だな?」
「やめれ、本当にやりそうだから!」
イベント中でもまったりと会話。
その後、攻略救援の要請に応じる形で柴又へ。
「へえ、ここが柴又なんだ、映画でしか見たこと無かった」
「柴又で有名なのは帝釈天ってことで、嫌な予感がするなぁ……」
「インドラだっけ、流石に高位分霊は出ないだろ?」
「逆に変な劣化が出そうで怖い」
同じ様に声にこたえて集まったプレイヤーたちと会話しながら柴又帝釈天こと題経寺へ。
「たいしたもんだよ蛙のションベン…………」
「寅さんの恰好をしたインド人、これがもしかしてインドラ?」
「これで救援要請ってどういうこと?」
「『人が少な過ぎる!』とご立腹でして……」
「見た目は劣化なのにアナライズ出来ないくらい高位だよ……」
「これ、誰かが買えってこと?」
「…………買って頂戴よ。どう?」
また、東京大神宮では……。
「ほうほう、これがぴくしぃと申す者か、可愛いのう……」
100人のピクシーに囲まれてご満悦なアマテラス。
この為に既にピクシーを仲魔にしているサマナーに留まらず、このために新たにピクシーと契約をしたサマナーまで駆り集められ、その一人としてタケルが参加したり……。
「怨霊戦士マサカドマン! マサカドクラッシュッ!!!」
やられ役として後楽園遊園地にプレイヤーがかき集められたり……。
「運営、ちゃんとお参りしたんだろうな?」
「ダメージ無いけど、やられた瞬間首が!」
「し、知らんぞ、俺は」
「これ、ヤバくね?」
「将門公ノリノリじゃん」
……色々あって、二日目も終わろうかという時刻。
空の星も数える気が起きる程度に減っている。
『イベントポイント攻略率が規定値に達しました。今から三十分後からイベントボス戦が開始されます』
「これ、一応、ログアウト一回してセーブしときなさいよ、ってことだよな?」
「将門公に切られたのが一番経験値高かったのは笑ったけど……」
「経験値、ここでセーブしとかないとイベントボス戦でパトった時もったいないよね」
「おそらく『死ぬ可能性も十分にある』って設定の相手だろうしな」
「じゃ、いったん、解散ということで!」
部屋に戻りフィーネにアイスを、ムルルに飴とロックアイスをあげてからコンプに戻し、いったんログアウト。
「…………!!!!!」
「おっ、今度はムルルがこっちに来たのか、あんま時間無いけど何がいいかな? かき氷でも食べるか?」
ムルルに氷結・物理耐性が付いた状態で再度ログイン。
「ムルルに譲ってあげたんだな、えらいぞ、フィーネ」
「私ばっかりじゃね、可哀相だもんね」
「……♪」
外に出て、ブロードウェイまで歩き入り口で空を見上げているアキラたちに合流。
「どうした?」
「あれ!」
「なんだ、あれ?」
月に切れ目が入り、それが徐々に広がっている。
そして時間。
「目玉?」
プレイヤー全てが「見られた!?」と感じた瞬間に周囲が完全な闇に。
そして再び元の姿に戻った月が輝くとそこには……。
「東京タワー?」
「なんか歪んでね?」
「きゃっ!」
耳障りな金属がきしみ、こすれる音。
「二本足で立ってる……?」
「ヒトデ?」
「なに、これ!?」
「いやいやいや、サイズが違い過ぎるだろJK」
「パ○ラ人ですね、わかります」
「デカラビア化?」
「これと戦えってか!!??」
「俺たち、地球防衛軍だったんだ……」
バラバラの場所から一か所に集められたプレイヤーたちが呆然とするのも無理はない。
空から落ちて来た目玉と合体した東京タワーは、「悪魔」と呼んでいい歪みを見せて、星の無い夜空を背景にその威容を見せつけている。
「誰かライドウ呼んで来い!」
「お客様の中にウルトラ戦士の方はいらっしゃいませんかぁ!?」
「『こんなこともあろうかと!』って巨大ロボ出してくるヤツいねえのかよ!?」
どう手を付けていいやら分からない。
さらに混乱の中、上空から降ってくるものが!
「ミニチュアサイズでも俺らよりデカいじゃねえか!」
ミニチュアサイズの東京タワーが、集まったプレイヤーに襲い掛かってくる。
本体の方も手で薙ぎ払い、足で蹴り飛ばし、時折電撃を降らせて来る。
「最初のイベントから『これ無理じゃね』感が凄いんですけど?」
「弱点でも無いと無理だよな、これ」
「ギリギリでペルソナの進化が済んでて助かったー!」
「お、電撃弱点じゃなくなったんだ!?」
「氷結耐性、疾風弱点、どっちもこの相手には関係ないけど、弱点無くなっただけ、マシ!」
「見た目ほどダメージが大きく無いみたいなのが救いだな。フィーネ、ムルル、一応、反魂香と宝玉渡しとくから必要に応じて使ってくれ!」
「オッケー! サイズの差なんて関係ない! 最強の私に任せといて!」
「…………!!!!!」
周囲のミニチュアを相手にしながら、本体の動きにも気を遣う。
「両方相手ってのは厳しいな。フィーネ! フィーネは周りの連中の相手はいいから、本体の動きを見て、俺たちに教えてくれ!」
「分かった、空飛べるから、その変なヤツの攻撃届かない位置から見てる!」
ミニチュアタワーの相手で手一杯で、周囲のプレイヤーたちも中々本体には攻撃出来ない。
異能者やサマナーの仲魔の中には、それでも本体に攻撃を仕掛ける者も居るが、少しでも効いているのか、それとも全く効いていないのかは見ている様子では全く分からない。
ミニチュアは時々倒されているが、その倒された分だけ、また上から降ってくる。
「キリがねえぞ、マジで!」
「本体に魔法撃ってみたけど効いてるとは思えないわね!」
「ミニチュアはともかく、本体にこの花瓶でどうしろと?」
本体からの攻撃がパターンを変え、地面の下を根っこの様に鉄骨を触手上にして無差別に攻撃を仕掛けてくる様になった。
そして、タケルがその一部の攻撃をくらい吹っ飛ばされる。
「あのモミアゲ……」
「誰だよ、本当に呼びに行った奴は!?」
「もうライドウ一人で全部いいんじゃないかな?」
「十四代目だよな? タイムボカンシリーズ並に時間の壁越え過ぎだろ?」
イベントボス撃破、イベントクリアという状況でも、呆然としている者やよく分かっていない者の方が多い。
『初の全体イベントが無事に終了いたしました。参加プレイヤーには経験値、魔貨、武器、防具等のアイテム、日本円が送られます。また後日集計の上、貢献度に応じたポイントが加算されます。楽しんでいただけましたでしょうか? それでは、また、次のイベントでお会いしましょう』
アナウンスと共に気が付けばタケルは自分のホームを出てすぐ、外が夜になったことに気が付いた場所に立っていた。
「はあ、訳わかんねぇ、あ、フィーネ、ムルル、お疲れさま」
「タケル、大丈夫だった? ディア!」
「…………?」
「部屋、戻ろっか?」
「コンビニ行ってからね!? イベント中は行けなかったんだから!」
「……!」
「ああ、はいはい。じゃ一番近いコンビニでいいよな?」
「うん! コンビニ、コンビニ、プリン、プリン、アイス、アイス~♪」
「……♪」
経験値だの入手アイテムだのは後回しにして、コンビニに向かうタケルたちであった。
イベントボス=東京タワーってのが最初に決まって、「どう終わらせたらいいか」→「派手なのがいいな」→「プレイヤーはまだまだ非力」→「全部ライドウでいんじゃね?」とこうなりました
次回でその辺詳しく書きますが、プレイヤーの攻略によってライドウが出現するまでの時間が変わり、制限時間までに一か所もクリア出来なかった場合(まあ、まずあり得ないことですが)には東京タワーがスカイツリーまで歩いて行ってスカイツリーをぶち壊し、その進路上にある建物はプレイヤーのホームも含め全破壊、山手線、中央線などの交通機関に大影響というプチカタストロフィが起きることになっていました