「表の職業ってフレーバーじゃ無かったんだ!?」
「どうやら、他のゲームだと補助職や生産職に当たるもんだってのが検証され始めて掲示板が阿鼻叫喚」
「そら、そうだわな。事前の情報にそういうの一切無かったからなぁ」
「βでも特にそういった要素は無かったみたいだから、本サービスでの導入ってこったろうな」
「俺のSEはコンプ系技能ってのは分かるけど、アキラの学生って何?」
「スキルである程度色々出来るけど、上限が低い。上位互換がフリーターだってさ。まあ、そっちもちゃんとした職業に比べれば上限低いけどね。あと他の職業に就くための必要ポイントが低いから、ある意味現状では有利かもしれない」
「あー、転職しやすいんだ」
「裏の方は転職無理っぽいけどな」
「メシアンやガイアーズは居るけど、クズノハとかファントム・ソサエティとかあるのかね?」
「どうだろうなぁ、あったとしても入れるかどうかは分からないしな」
いつもの狩り場であるサンプラザではなく、タケルとアキラは中野にいくつかある寺の一つの墓地に来ている。
月齢によって悪魔の出現頻度が変わる小規模な異界である。
ちょうど新月で悪魔が一番多く出現するタイミングであったことから「一度行ってみるか?」と意見が一致したのだ。
「うーん、ここってサンプラザに比べると悪い空気じゃないんだけど、なんかちょっと変」
「………」
雑談モードのタケルたちに対して、フィーネたち仲魔は周囲が気になるようだ。
「そういやプログラミング持ってるんだよねぇ。アプリの改造とか出来るのかな?」
「あー、どうなんだろ? 現状、料理とかは調理師や家事手伝いを選んでる人間が作ったりしてるみたいだけど『店の方が美味い』って話だし」
「スキル上げが必要ってことかね? 回数こなすとか難しいよな」
「タケル!」
フィーネが警告の声を上げる。
「分かってる! エネミーソナー反応無かったのに!」
「ホーリーゴースト、寺に天使系っておかしくね?」
「飛び道具欲しいなぁ……」
「ジオ!」
「…………!!」
「へっへ、俺も魔法覚えたんだよ! アギっ!」
「ちっくしょう、俺だけ鈍器かよ!」
「でも、タケルの鈍器が一番ダメージ大きいよ!」
「…………!」
「ホント、鈍器の申し子だよな! って寄ってきやがった! おらっ!」
その後もいくつか戦闘を行い、今はフィーネの牛乳タイム。
ムルルは飴を齧り、タケルとアキラはスポーツドリンクを飲んでいる。
「なんか、変な寺だな?」
「隠れキリシタンのカモフラージュ?」
寺なのに出てくる悪魔が天使系か堕天使系ばかりなのだ。
交渉に向いた新月なのだが、タケルはなんか交渉が成立しない気がしている。
比較的仲魔になりやすいらしい天使系で交渉失敗したら、タケルは立ち直れないかもしれない。
交渉スキルとはいったい何なのかと開発や運営に問いただしたい気もするが、それはピクシー相手に散々振り回された他のプレイヤーが言いたいことだろう。
メシアンのサマナーなら上手く交渉出来るのだろうか?
「メシアンでも連れて来るか、ここ?」
「アンデじゃ違和感ありまくりだけどな」
「もう少し回ってみるか?」
「うーん、なんか変なの。気になる~!」
「………、…………!」
更に墓地内を徘徊する。
お供えもののおはぎにフィーネがフラフラと近寄ろうとするのを引き止めたり、唐突に現れた猫に「ネコマタか?」と警戒するも普通の猫だったりとあまり盛り上がらない内に終了かと思われた時、唐突に強い悪魔の気配が生じる。
「あらあら、目覚めてはいないのね? もっとも必ず目覚めるとも言えない状態みたいだけど……」
「な、なんで、こんなトコに神樹……」
「神樹ダフネってギリシア神話の?」
「あー、そういうことだったんだ!」
警戒するも全く戦闘を仕掛けてくる気配が無い。
まあ、戦闘になったらタケルもアキラもパトる羽目になる相手だが。
「もっと強くなってから、またいらっしゃい。私はそれまで、また眠ることにするわ」
ダフネは傍の木に溶け込む様に消えていく。
「ふう~、初臨死になるかと思った!」
「もしかしてイベントフラグ立った?」
「なんか、意味深なこと言ってたな?」
「誰に対して言ってたのか分からないけどな」
「あー、俺らでなく仲魔に対してって可能性もあるか……」
「にしても天使や堕天使ばっか出るわ、神樹は居るわ、この寺何? 実は地下に邪教の館あるんじゃね?」
「どっと疲れた。下手に戦闘続けて機嫌損ねて敵対されたら軽く死ねる」
「だな、取り敢えずはここからは退散しよう」
寺の敷地から出るとフィーネたちも元の調子を取り戻す。
「あの中、神樹が姿を隠すのに魔法使ってるから、変な感じがしたんだよ。私くらいじゃないと気が付かないくらい凄い魔法だったんだけどね! まあ、神樹とか精霊とかは私たち妖精とは割と仲がいいし、嫌な感じでは無かったでしょ?」
「強さにはビビったけど、確かに嫌な感じはしなかったな」
「美人だったし!」
「ほー、アキラってああいうのがタイプなのか?」
「いや、客観的に見てもだな……」
「アキラ赤くなってる~!」
「…………♪!!」
「うっせえ、やっぱサマナー技能取って、強くなって仲魔にしてやる!」
「神樹ってL-LでC-Nのアキラにはキツくないか?」
「強くなればなんとかなる!」
「あー、そういやアキラのコンプもどき、レディキラー入ってたっけ」
「お、そうだ、俺のスマホ! これは天が俺に味方してるな!」
「アキラがサマナー技能取る頃までにはプログラミング鍛えて自作アプリとはいかなくてもアプリ改造くらいは出来るようにしとくわ。強化とか出来るかもしれんし」
そのまま解散ということで、アキラと別れたタケルはホームへと向かう。
フィーネは頭の上、ムルルは足元を歩いている。
今日は一瞬死を覚悟したこともあって、余計にこうした日常が大切に思える。
実際には全く危ないことは無かったのだが、悪魔は人とは異なる道理で生きている。
ニコニコと親しみを込めた口調で「死んでくれる?」と言ってくる者さえ居るのだ。
たまたま死ななかっただけ、これはこの世界の中でも外でも同じかもしれない。
むしろ、悪魔という分かりやすい脅威が存在する分、こちらの方がシンプルで、外はもっと訳の分からないものが溢れている気もする。
「今日はいつもとちょっと違った道を通って、別のコンビニに寄ってみようか?」
「売ってるものはあんまり変わらないんでしょ?」
「いや、弁当とかスイーツとかはチェーンごとにかなり違うぞ?」
「ホント!? じゃあ、食べたことないおいしいものあるかな?」
「あるある。俺だって美味い物を全部食べたなんてとてもじゃないけど言えないんだぜ? 一生かかっても食べつくせないな、きっと」
「……! …………!!」
「ムルルも今日は自分で選んでみるか?」
コンビニでいつもよりたくさん買い物をしたタケルたちはホームへと帰って来た。
いつもは気にしないポストを覗くとチラシしか入っていなかった。
姿は見えないが階段を下りていく足音が聞こえる。
自分以外の住人の気配を初めて感じたタケルである。
大きなうずまきのペロペロキャンディを手にご機嫌のムルルとエクレアに初挑戦のフィーネ。
共に満足してコンプに戻ったのを機にタケルもログアウトをする。
眠る前に掲示板の巡回。
表の職業に関しての情報を集めようと思ったのだが、気になるスレッドを見つけてしまう。
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【ワープするぞ!】スティーブンを探せ! その13【どこに行った?】
1:巣鴨のサマナー
ここは『女神転生Ruina』で神出鬼没、見かけはしても接触は出来ないスティーブンを追いかけるスレです。
スクショは歓迎ですが、リンク先へのアクセスは自己責任で!
煽り、荒らしは華麗にスルーしましょう
愛情の無いコメント、貶しはNG
和気藹々、マターリ進行でいきましょう
過去スレ:スティーブンを探せ! その1~12
______(中略)__________
283:半蔵門のバスター
地下鉄ホームで発見も降車客に紛れて見失った。
てか、エレベーターから離れてたし、ワープした?
284:笹塚のサマナー
新宿ダンジョンで発見!
ここでの追跡は無理wwwwwwww
285:信濃町のペルソナ使い
やっぱワープしてるよな
同時刻の複数目撃は無いからなぁ
286:九段下の異能者
何故にウチのマンションの廊下にwwwww
角曲がったら消えてた
287:神谷町のペルソナ使い
直接の目撃では無いんだが、テレビの天気予報の後ろを横切ってた!
意外と目立ちたがり?
288:国分寺のバスター
誰か接触出来ないのか?
ダッシュスキルとかでもダメなの?
289:原宿の異能者
アキレスと亀理論で追いつけない
どんなに速く動いてもその一歩先に移動してる
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「スティーブン居るのか! ターミナルとか出てくるのかな? 遠征しやすくなるんだけど」
Dr.スリルとかも居るかもしれない。
ヴィクトルとメアリはどうなんだろう?
パソコンを閉じてもそんな考えに頭を満たされながら、猛は眠りに落ちた。
猛は隠し属性があります(名前ネタ)
かなり分かり辛いです