笑って嗤う彼女と女神達   作:トゥーン

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裏の裏は表の表

「僕に相談?」

「作詞の件で少し」

 

朝っぱらからこの僕に相談なんて一体何かと思えば作詞って……作詞だろう?難しくないかな、園田ちゃんや。

 

「何故僕なのかが分からないんだけど……確かに僕は君たちに興味を持っているし応援もしている。だけど味方とは一言も言ってないからね?だからお断りだ。もし受けたとしても僕は作詞なんかやった事ないんで力になれないと思うけど」

 

こういうのは見てる方が楽しいものさ。小説を大量に読んだ後に、いざ書いてみて頭を抱えるのはごめんだね。ものの例えだけど、僕は傍観者でありたいのさ。

 

「君たちが作る事に意味があると思うんだ。人に頼るのは、最終手段にしておくべきじゃないかな?」

「ちょっとそれ卑怯じゃないですか」

「卑怯だって?おいおい、しっかり言葉は飲み込まないとダメだぜ?こわーい狼が腹を空かせて待ってるかもしれないんだからさ」

「どうしても協力する気は無いと」

 

納得した様子でそう言う園田ちゃん。まぁ……どうしてもって訳では……一応ないんだけどさ。

手に持っていた安物の缶ミルクティーのフタを開けつつ、僕は園田ちゃんにどう返したものかと悩み、一口。

 

「うん、不味い」

「え?美味しくないのですか?」

 

……所詮自販機の安物なんだから不味いに決まってるじゃないか。専門店で売っているものに比べれば不味い不味い。

 

「美味しいものを知っていれば自然と不幸になるものでね。君も気を付けた方がいい。例えだけど、一杯700円のコーヒーを飲むと安物では違和感を感じる様になる。で、さっきの返答だけども、困りに困ったら僕以外の人間を頼るといい。自分で言うのもなんだけど、使い物にならないからね?だから僕に頼るのは極力避けて欲しい」

「そういう意味でしたか」

「そういう事さ」

 

ふふん、と鼻を鳴らしてみる。……ジト目で睨むなよ園田ちゃん。悪かったって。

 

「まぁ、頑張れ。僕は応援してるからね」

「無責任な」

「ごめんね。僕に狙われた不幸を呪ってくれ」

「なんか違いません?」

「そうかなぁ……?」

 

まぁなんでもいいさ。

 

 

 

「というワケで暇なんだ構ってくれよ西木野ちゃーん。僕寂しくて死んじゃいそうなんだよー」

「何がというワケでなんですか!ウサギじゃないんだからそんな法螺吹きやめてくださいよ!」

「ちぇっ、つれないヤツー」

 

昼休みが本当に暇で暇で仕方なくって、西木野ちゃんに突撃ラブハートしてみる。

つれないヤツ、とは言ったものの中々どうして面白い反応をしてくれる。彼女案外そっちのケあるんじゃない?けど絵里に比べれば……いや、アレは素でやってるから余計タチが悪いか。笑うに笑い辛いのは好きじゃない。

 

「……で、あれは先輩の入れ知恵ですか?」

「へ?待ってくれ。何の事だかさっぱりなんだけど」

 

何か僕と西木野ちゃんの間で勘違いが発生しているね。

 

「朝、高坂先輩に……その、抱き着かれて」

「なんだいいじゃないか羨ましいじゃないか。僕も見たかったな、悔しいな、悲しいなぁ」

 

なんと羨ましい。あんな子犬みたいに可愛い子に抱き着かれるだって?ちくしょう変わって欲しかったな。僕末っ子だからあぁいう可愛い子が好きなんだよ。

……男のタイプは別だけどね。

 

「え?本当に知らないんですか?」

「つーか、僕は今朝寝坊して普段より遅く来たんだよ。大体穂乃果ちゃんと同じくらいかな?」

 

全くなんでもかんでも僕の所為にすりゃいいってもんじゃないよ。

 

「まぁ彼女、人懐っこいみたいだし好かれたと取ればいいんじゃない?ところでこのコーンスープ、粒がデカくて飲み辛いんだけど、どう思う?」

「どうって言われても。というかさり気なく話題すり替えないでくれませんか」

「まぁまぁ聞いてくれよ。小さい粒が大量にあるのとデカい粒がちびちびあるのってどっちがお得感あるかな?缶に限定した場合だ」

「後輩イジメはよくないわよ」

 

ピシリと後頭部に痛み。誰だと思えば矢澤ちゃんじゃないか。

呆れ顔なのは僕への呆れか。全く失礼な。多少の反感に従い僕は遊ぶことにした。

 

「なぁんだぁい矢澤ちゃん。僕が、この僕がねぇ、後輩イジメなんてその辺の石塊以下の糞食らえな事をするワケないじゃあないか」

「あんたは自分の行動を見直しなさいよ」

「知らないよー、僕ちん知らなーい。しかし君が後輩を庇うとはねぇ、意外だよ」

「……はぁ。こんなヤツと絡んでると悪影響受けるわよ、あんた」

 

……無視かい。口を尖らせてみるも効果無し。

 

「まぁなんだっていいさ。君らがどう思っててもね。そろそろ時間だし、僕はここでお暇するよー」

 

さて帰りましょー。

 

 

結局その後は特に無く、しかし退屈なので僕は秋葉原へ行く事にした。行ったところで退屈なのは目に見えているが、だからと言って可能性から離れるのはいけない。ものは試しってヤツだね。

……それにしてもメイドさん多いねぇ。普段に比べればかなり、だ。春のバイト募集かな?メイド喫茶なんかよりもコンビニやスーパーの方が良さげかね。でもなぁ、メイド服ってのもなぁ。

 

「そこのあなた!メイド喫茶で働きませんか!」

 

とか考えてたら僕を目ざとく見つけたメイドさんが急接近してスカウトされた。予想外過ぎて流石に慌てて反応してしまった。

 

「うえっ!?あ、あぁっと、ぼ、僕もうバイト先決まってるんで!」

「あらそうなの……」

 

どうにか誤魔化せたものの、このザマとは不覚だね。それからしばらく歩き、スカウトタイプのメイドさんをのくらくらりと躱し、チラシはやんわりと断り、何か良いものはないかと探していた時だ。

 

「……ことりちゃん、か……?」

 

ある一件のメイド喫茶へ、ことりちゃんが入っていった。しかしその顔だ。緊張感した顔とでも言うべきかな、明らかに『飲食しに行く』表情ではなかったんだ。

……はて、メイド喫茶ってそんな顔して行く所だっけ?彼女、何かと間違えたとかじゃないよね?不思議な子だなぁ。ん?──あっ、そうか。分かったぞ。多分スカウトされたんだ。それならば納得が行く。

 

これは、面白そうな事になったね。

 

そういや、帰りにおでん缶と睨めっこしているやたらと綺麗な子がいたけど誰かに似てる気がしてならないんだよなぁ……誰だろう?

 

──メイド服、かぁ。

 

着たくない、と言えば嘘になるね。


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