笑って嗤う彼女と女神達   作:トゥーン

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なんかそれっぽい題名を目指してみましたw


疑問からsympathy

「あり得ない……そんな筈は無い……」

 

あり得ない、こんな事があってたまるか、あの人に限ってそんな筈があるものか──

 

「何故、どうして、姉さんがあの様な事を?姉さんがそんな、馬鹿な……」

 

こと感想に限っては真摯な姉さんが、何故あんな事を言ったんだ?僕には分からないよ、全くね。姉さんは嘘を好まない人だ。そんなあの人があんな、信じられない事を言うなんて……何をどうしたらそうなるのか。妹の僕でさえ理解が及ばない。おそらくは兄さんも分からないだろう。

もっとも、僕の理解しているジャンルではないからかもしれないね。さてそうなれば──!

 

 

「という訳でにこちゃん、僕がアイドルの魅力を理解する為のアドバイスをくれ。頼むよ、なんか雑誌でも貸してくれないかな」

「何がという訳でなのよ。雑誌貸すのはいいけど」

 

昼休みにアイドル研究部部室に突撃し、にこちゃんに頼み込む事にした。

 

「……それにしてもホントどうしたのよ。急に来たと思えばそれって、何?なんか疑問でもできたの?」

「まぁそんな所かな」

 

そこで終わらせれば良いものを、どうしてか僕は芝居がかった言い方で、彼女へと言葉を紡いでいた。

今思えば、ただの気まぐれなんだろうね。

 

「決してそんな事を言う筈が無い人間から、不可解な事を言われてね、どうしても気になって仕方ない。だからこうして、それを理解する為に視野を広げようとしてるのさ。『Disce libens』──座右の銘でね、僕は何事もそうするべきだと思うんだよ。まずはその第一歩を踏み出そう。同じ所に立たねばその感性を理解するなど不可能。ならばその場に立つ為に坂を駆け上がろう。例え不完全なものでもいい、いやこの世に完全など無いのだから、得れるだけ得て、その場へと立ち他者の考えを知ってみたい……まぁ、こんなものさ」

 

そして自分の目で確かめたものを、自分の中で、自分にとっての価値を付ける。美しかろうと醜かろうと関係ない、自分がどう思い、どう感じたかが重要なんだ。他人に影響され続けるだけの人生なんて糞食らえだ。

我は我、彼は彼、互いに人なれど、その感覚は全て異なる。そして同じものを受けてなお、それぞれ別の道を進む──それが真理だと僕は思うのさ。

しかしそう語った所で意味が通じていないのなら、それは無為な言葉と時間だ。

 

「語ってくれた所で、悪いんだけど、ディスケリーベンス……って何?」

 

にこちゃんには流石に馴染みがない言葉だったかな……まぁ、教えればいいか。

 

「ラテン語の格言だよ。喜んで学べって意味さ」

「ラテン語ねぇ、あんたにもそういう時期でもあったのかしら」

「ふふっ……僕は、はじめから"そういう"人間だったんだよ」

 

嗤う僕を見て、にこちゃんはさぞ不気味そうに顔を歪める。自分で言うのもなんだけど、こういう所が気色悪く見えるそうだ。共感する所があると、そうじゃないみたいだけどね。

 

「さて、オススメあるかい?」

 

この後彼女のオススメを一二冊借りて、部室から去った。

 

 

──ん?僕が姉さんから聞いた事は第一次ラブライブ開催の知らせが来るまで関係ないんじゃなかったのかって?

おいおい、急かさないでくれよ……でもこれは少しだけ関係があるんだ。内容じゃなくて、僕のとった行動の影響って奴がさ。まぁ聞いてくれよ──

 

 

部室から去ったが、まだ昼休みはたっぷりと時間が残っている。せっかくだから何処か心地良い場所で読もうと思った。やはり天気が良いと陽の光を浴びたくもなるさ。と、まぁ歩いていた訳なんだけど

 

「あ、あのっ」

 

ふと、そんな声に呼び止められた。聞き覚えのない、しかしそれでいて印象に残る声だ。例えるなら、そう……鈴の音、いや、風鈴の音色かな。さして特徴があるわけでもないのに、何故か印象に残る……そんな声だった。

 

「……?」

 

振り向くといたのは何処かで見たような子。この子は……そうか、ポスターを食い入る様に見つめていたあの一年生か。また、こうして見る事になるなんてね。

しかし、彼女の視線は僕を見ていない……ムカつくねぇ。その視線の先は僕が右手に持っている雑誌。にこちゃんから借りた雑誌に、彼女は熱い視線を送っているじゃないか。全く、とんだアイドルオタクの様だね。

 

「この本かな?」

「えっ、えっとぉ……」

「どうなんだい?」

「そういうのじゃなくて……」

「……言いたい事があるならとっとと言ってくれないかい。互いに時間の無駄だよ」

 

引っ込み思案の子か、かなり苦手だね。どうも僕はこういう人間と致命的に相性が悪いらしくてね、仲良くはなれても、腹を割って話せる仲にはなれない。昔なら……多少は違ったろうけど。

 

「あの、アイドル研究部の方ですか?」

「いや、部外者さ。ただ部長とは少々の付き合いがあってね。コイツを借りただけだよ」

 

そういって雑誌をプラプラさせる。その後飛んできた言葉に僕は大層驚くんだけど。

 

「じゃあ、アイドルが好きなんですか?」

 

……あんだって?僕が、この僕が、アイドルを好きだって?おいおいおいおい、そりゃ早計ってもんだろーよ。

 

「いや全然。君はどうだい?」

「大好きですっ」

 

目を輝かせて彼女は僕にそう告げた。

なるほどね、引っ込み思案かと思えば存外、そうでもないみたいだ。これは多分、自分を表現するのが苦手なだけで、中身は硬い芯が通った人間なんだろう。

うん?待てよ?だったら、僕がことりちゃんに感じていた違和感は……あの感覚は……いや、関係ないな。

 

「ふぅん……まぁ、縁があったら君を頼る事とするよ。アイドルに興味は毛頭も無かったからね、そうやって好きだと誇れる人はこちらとしても有り難いしね。ところで、この雑誌……さっきからチラチラ見てるけど、なんか希少価値でも高いのかい?」

「別に希少価値って程でもないですけど、それはアイドルに触るには入門と薦められる位に良い雑誌でして」

「なるほどね、僕は当たりを引いたか。やはり彼女は本気で向き合ってるという訳だ」

 

……それにしても、何食ったらそんなに胸がデカくなるやら。のぞみんといい、絵里といい、彼女といい……全く。僕は貧相……という程でもないけど、いや貧相か、比べて見れば。

ちらりと横を見ると控え目に走りながら目の前の眼鏡の子に近寄ってくる一年生の姿が。オレンジの短髪の彼女は、前に見た事がある。まぁどうでもいいか。しっかし、あの走り方はまるでスカートに履き慣れてないかの様じゃないか。それどころかたまにスカートへ目線を落としている。苦手……忌避感かな。うむ、分からないなぁ。どーもこの手の複雑化した視線は理解し難い。

でもどうして、そんなに満たされない目をしてるのか……僕は興味を惹かれた。何か、何かが足りていない。彼女は何かを求めて、しかしそれを忌避する。おそらくは────Antinomie(二律背反)かな、これは。まぁ意味的には違うが、まぁ言葉的にはあってるだろう。気にしたら負け、という奴だよ。

 

「では僕はお暇するよ。縁があったら、また今度にでも」

「あっ、はい」

 

そしてオレンジ髪の子とすれ違って、僕は校舎へと戻っていった。

 

しかし二律背反かぁ……同族を見つけた気分だ。

求めているものがどうしても手に入らないと分かっているのに、次こそはという念を諦め切れない。口惜しくてたまらない。次こそは、今度こそと、求めて止まない……

 

形こそ違えど、彼女と僕は友達になれるかもしれないねぇ。久しぶりに自分から他人と仲良くなりたいと思ったよ。本当に、久しぶりだ……。




おかしいなぁ、榛那のキャラが安定しない……水銀汚染されたみたいな喋り方しないのに何故だ

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