「んぁー……眩しいねぇ」
家から出た時、目がシパシパするよね。ゴミ出しの為に早起きした僕を待っていたのは、いつもと変わらず輝きを放つ太陽だった。18年生きているけれど未だに慣れやしないよ全く。
んっと……あれは高坂ちゃんかな?てことは練習──いや、基礎練だろうかな。顔出ししてみようかな?うーん、迷惑だろうからやめておこうか。流石に対して親しくない先輩だし僕。のぞみんだったらもうちょっと上手くやるんだろうけど、こんなのだし……ねぇ?
あぁ、今日も朝が辛い……人間って不便だね、ホント。不便故に楽しいけどさ。
昼休み。暇なので歩いていたら青髪の弓道部の子を見つけた。高坂ちゃんのお友達の子だ……多分。流石に昨日一眼見ただけじゃ確証が持てないからね。
「やっほぅ、ええーっと……そう、弓道部の子ちゃん!」
「なんですかそれ呼び名は…」
ごめんねぇ、君の名前を知らないからこうなったんだよ。まぁたとえ知っていたとしても忘れているだろうけどさ。本当にごめんね、フフッ。さてそんな事は捨て置いてテキトーに話してみようか。
「いやすまないね。僕は君の名前を知らないんだ。という事で教えてくれるとありがたいんだけど」
「園田です」
「園田……あぁ、あの舞踊の。なるほど、通りで。しかし綺麗だね君、まるで芸術品の様だ」
ケラケラ笑いながらそんな事を言ってみると向こうは怪訝な表情を浮かべて僕を見る。そりゃそうか。それが当たり前だよねぇ。
「おいおい、そんな顔はやめてくれないかな?僕は本心から褒めてるんだよ、他意はない。そこは信用してくれ」
「…………あなたは、自分に素直なんですね。まるで穂乃果の様です」
……へぇ、僕が分かるのか。これは嬉しい。彼女は僕を正しく理解している。僕がどんな人間かを、それも、正しく。
舞踊の家に生まれたが故かな?それも気になるけど、僕としては君の舞う姿も見てみたいものだね。
「わかるんだね、君は。けど僕は高坂ちゃんの様に良い方向に素直じゃないんだよ。タチが悪いって言うか、歪んでるって言うか、なんていうかね……ズレてるのさ。まぁ気にしても仕方ないと思うよ?だって僕もよく分かっていないし。それよりも……あー、余計なお世話かな。忘れてくれ」
「不思議な人ですね、蓮崎先輩は」
「いけ好かない奴と言ってもいいけれど?……まぁどうでもいいか」
おっと、そろそろ時間かな?昼休みは時間が短く感じるね。今日も今日とて廃校への道を進む……んー、なんとも言えなねぇ。
「では、私はこれで」
「あぁ、じゃあね」
園田ちゃん、面白そうで綺麗な子だ……ただそこまで面白い方面は期待できそうはないかな。多分、元がしっかりしている分そう感じるんだろう。そして、ブレない意思を持っている。どちらかと言えば僕の感性的には美しいって感じだね。
やはりブレずに己を強く持ち、そして貫く人間は美しいね。ブレブレは面白いけれど。
そして教室に帰る時に、あの名前募集箱に紙を入れているのぞみんを見かけた。なるほどね、君はハナから彼女達の味方だったのか……さて、絵里はどうなるかな……?色々と気になるね。
放課後なんてやることないから帰るのが定番だけど、今日はふと疑問に思った事を聞きに行くことにした。その疑問はアイドル研究部は彼女達と何らかの関係があるのか、という事だ。
もう部員が少ないとはいえ、かつてスクールアイドルを立ち上げたアイドル研究部が、あの三人に何かしらの関わりがある筈だ──そう僕は推測した。というわけで部室を尋ねる。ノックを二回……あれ?返事がない?いや、バカな……こんな筈が……いる筈だぞ、普段は。
と、無様に悩む僕の後ろから
「うちの部に何か用?」
と、突き放す様な……とても心惹かれる声が耳に入った。
「いやなに、ちょいと部員の方に聞きたい事があってね」
振り向かずそう答えると、後ろの子は僕の横を通って部屋の扉を開けてくれた。入って、と言ってくれたので遠慮なくお邪魔しようか。
「で、聞きたい事ってなに」
「ん……?あぁ、君は精力的に一年の時チラシを配っていた子じゃないか」
「そういうあんたは希の言ってた……確か、蓮崎だっけ」
「希が?──口の軽い」
相変わらず他人の事に関しては口が軽い癖に、自分の事は喋らないんだねぇ。どんな事情があるか知らないけど。
「さて君に聞きたい事と言えば、あの三人のスクールアイドルを知っているだろう?」
すると彼女は忌々しそうに顔を歪めながら……とても魅力的な表情で話してくれた。
「知ってるけど、あんな奴ら認めないわ。アイドルを舐めてる」
ククククッ、アハハハハハハハッ!!これはいい掘り出しモノだよ!最高だ!!君のその瞬間を記憶に刻んでおくよ。けどね……彼女気付いてるかな?その言葉から羨望の念も少し感じるよ。ただ答えとしてはつまらないか。
「はーん、そういう事情かい。しかしアイドルを舐めているって、不思議な事言うね。それは君の感性で舐めているんだろう?彼女達を断言するには些か横暴じゃないかい?」
そういうと更に顔を歪めて、
「アイドルってのは思い付きだけでやれるものじゃないのよ。それを分かっていない。だから舐めてるって言ってるわけ」
「あー、そうかい。ガチ勢サマの熱意は敬意に値するけど、ガチ勢サマの考えは凡人にゃ分からんね。あー……もしかして、それで部員いなくなったとか?」
ニヤニヤしながらそう言ってみれば、彼女はこちらを敵意を含んだ視線で睨み付ける。うんうん、いいねその顔。こういう変わる瞬間や、脳裏に刻んでしまう様なものが大好きな僕からするとご褒美でしかないね。
「言っていい冗談とそうでない状態がある事は知っているわね?次言ったらぶっ飛ばすから」
「分かったよ。けれど君はどうしてそこまで反応するんだい?凡夫とは世界が違うと、嗤えばよかったじゃないか」
「…………うるさい。出てって」
おっと、怒らせちゃったかな?こりゃ失敬失敬。まさかここまでシンプルに向かってくる人間だとは思っていなかった。こりゃ僕の見る目もまだまだだね。
「申し訳ない。今度詫びの品を持ってくるよ」
そう言ってアイドル研究部を後にする。
あっ、名前聞き忘れた。
まぁ疑問は晴れたし、それでいいか。
「もういなくても、共に駆け上がっていこうと約束した連中を、嗤えるわけないでしょうが……っ!!」
にこが真面目にアイドルを目指し過ぎたが故の失敗をニヤニヤ笑って抉る榛那は、自分で書いててウザくなってきましたw