笑って嗤う彼女と女神達   作:トゥーン

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隠れた本心

「……寝不足かな」

 

ちょっと寝るのが遅かったかな……?ううむ、夜更かしして一人で……おっとやめだ。しっかし僕とした事が、まさかこんな醜態を晒すとはねぇ。寝不足で目を細めて歩くなんて、不覚を取ったって感じ?いや違うか。

 

「スクールアイドルをやろうっ!」

 

うーわやめてよ、頭に響く……って、この声は高坂ちゃん?もしかすると──いや、まだ分からないか。

まぁでも期待させてもらうとしようかな?僕が心から望むものが見れるかどうかっていうのをさ。

 

 

 

 

「ん?ピアノの音……?」

 

そうこうしてれば時間なんてすぐに過ぎる。そろそろ帰ろうかと思っていた僕を引き止めたのは音楽室から漏れるピアノの音。こんな時間にピアノを弾くなんて聞いたことない。今日は音楽系の部は休みだし……つまりは勝手にか。

ちょろりと扉の窓から覗くと既視感のある赤毛が見えた。胸元のリボンは一年生の色だ。でも何処で見たんだ、この子を……?それにしても──

 

「まるで西木野先生みたいだな」

 

ん……?西木野先生って、確か娘さんいるんだっけ。って事は……まぁそれは気にしても仕方ないっか。僕にゃ関係無いしね。しかし上手だね、彼女。それぐらい出来るって事は習って何度かコンクールとか行った事があるんだろう。うん、確かに音楽もまた美しいけど、その美しさは僕の求めるものじゃない。兄さんは音楽の美の虜になったみたいだけど。

 

「あの、何してるんですか」

 

扉が開くと同時に中にいた女子生徒にそんな事を言われる。どうも怪訝な表情をしているのが気になるけど……隠す事もないので全て言う事にした。

 

「つい綺麗なピアノの音が聞こえたからね。演奏の邪魔になりたくないから扉越しに聞いていただけさ」

 

そう言うと彼女はその怪訝な表情をやめてコッチを見た。しかし見れば見みる程西木野先生そっくりだね。先生を幼くしたら彼女の様になるのかな?

 

「部か何かのスカウトかと思わせたのなら謝罪するよ。でもこの時期に部のスカウトは活動しない筈……」

 

そこまで言うと、彼女は疑問に答えてくれた。

 

「スクールアイドルをやらないかって、二年生の先輩から勧誘を受けたんです」

「スクールアイドルだって?……なるほど、それなら納得だ」

 

高坂ちゃんが朝方言っていたが、まさかもう行動に移っているなんてね、凄まじい行動力だよ。絵里と同じくらい、あるいはそれ以上の愛校心の持ち主と見た。

高坂ちゃんに関心したからかは分からないが、とにかく緩みが生まれた僕は思っていた事をそのまま口にした。

 

「やっぱり西木野先生そっくりだね君」

 

やっちゃったと思ってももう遅い。彼女の顔も驚愕に染まっている。僕の心も驚愕だ。まさかこんな緩みで迂闊に考えていた事を口にするなんて……!!

 

「……あー、その……あれだね」

「ママと、お知り合いで?」

 

ママ?ママって言ったねこの子。

 

「もしかして君は……娘さんかい?」

「そうですけど……」

「……探るつもりはなかったんだけどなぁ」

 

人生変なところで色々あるものだって父さんは言っていたけど、ホントそうだったよ。

 

「別に知り合いって程でもないさ。昔左腕に傷を負ってね、その時にお世話になったんだ。後は母さんが友人らしくてね」

 

そう言ってシャツの袖ボタンを外し、ブレザーとシャツの左袖を纏めて捲って左腕の肌を露わにする。腕の側面は亀裂の様に白くなっていて、傷を負った証拠が残っている。もう傷の原因がなんだったか思い出せないし忘れたけどね。

 

「まぁ、そんな程度でしかない。さて西木野ちゃん、自己紹介しようか。僕は蓮崎榛那だ」

「西木野真姫……です」

 

オーケー、真姫ちゃんだね。袖を直して自己紹介を終える。しかし西木野先生の娘さんがこんな廃校予定の学校にいるとは、思わず尋ねたくなるじゃないか。

あぁもう無理だ、ガマンできない。僕は感情の赴くままに口に開いていた。

 

「ところで一つ質問なんだけど」

「なんですか?」

「どうしてこんな廃校予定の学校に来たんだい?僕程度でも予想出来るそれを君の様な冴えた人が分からない筈がない」

「ここに望むものがあった、それだけです」

「なるほど……答えてくれてありがとう。初対面でこんな質問してごめんね」

「別に……」

「僕はお暇するよ。じゃあね」

 

ヒラヒラと手を振って西木野ちゃんから背を向けて歩き出す。さて何処へ行こうか……何か楽しそうな感じがする場所へ向かってみようかな。そう、例えば生徒会室とかねぇ。

 

「フフフフ……」

 

じゃあ行ってみようか。

 

 

生徒会室に行ってみると、三人程入室していくのが見えた。見えた髪の毛の中でオレンジのサイドポニーがあった。多分高坂ちゃんだろう。中には入らずに聞き耳を立てて中の様子を伺ってみる。

どうやら高坂さんとその友人二人でアイドル部の設立を要請しに来たらしい……あっ、絵里に却下された。適当な事を言って諦めさせようとしてるのかな?絵里の感情が読めない……敵視はしてないけど、何故拒絶しているのかが解せないね。絵里がスクールアイドルの有用性に気付かない筈が無い。確かに大きな賭けになるし、失敗は許されないけれど、それをやらねばならない程追い詰められているのは分かっていると思うんだけどなぁ。希が助け舟だしたけど……あぁ突っ返されちゃった。

 

「あっ、蓮崎先輩……」

「やぁ、高坂ちゃん。突っ返されたみたいだね」

 

生徒会室から出てきた高坂ちゃんと挨拶を交わす。

 

「知り合いですか?」

「うん、昨日来てくれたお客さん」

「昨日……あぁそうだ、お饅頭美味しかったよ。また買いに行くつもりだ」

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

大袈裟だなぁと思いつつ他の人も見る。理事長の娘さんと弓道部の子か。人選が謎だけど、まぁ親友とかその辺りだろうね。全くそんなつもりはなかったけど、理事長の娘さん……ああもう南ちゃんでいいか。彼女から感じた雰囲気が気になってついついマジマジと見てしまう。高坂ちゃんともう一人とも違う雰囲気、どうしても気になる。

 

「……?ことりに、何か?」

「いや、なんでもないよ」

 

しかし、もう二人も捕まえてるなんてね……驚きだ。

 

「それにしても、まさか二日そこらでスクールアイドルを立ち上げるとはね……感心するよ、全く。そこまでの愛校心の持ち主が絵里以外にいるとは思ってもみなかった。正直、他の奴らは廃校阻止なんてロクに考えちゃいなかったからね」

 

正直な感想だった。自分でも驚く程スラスラと言えるなんてね。

 

「あっ、そうだ!蓮崎先輩もスクールアイドルやりませんか?」

「穂乃果、いくらなんでも失礼ですよ」

「穂乃果ちゃん、それはちょっと……」

 

スクールアイドルかぁ。やってもいいけどねぇ、僕は愛校心なんて微塵も持ち合わせていないからなぁ……多分足手まといになるだろうからやめておこうか。

 

「僕は遠慮しておくよ。愛校心なんて微塵も持ち合わせてない人間が廃校阻止の為のスクールアイドルをやっては君たちに迷惑を掛けそうだ」

「そうですか。残念……」

「でも応援しているよ。君たちが廃校を阻止して学校を存続させる……生徒会長サマを認めさせる程の、成果をあげる事をね」

 

ファン一号になりたいくらいだよ、ホント。

 

「くぅ〜、応援だって!やる気出てきた〜!!よし行くよ海未ちゃん、ことりちゃん!そうと決まれば早速練習だぁ〜!!蓮崎先輩、また今度!」

「ちょっと、穂乃果!?」

「待ってよ穂乃果ちゃん!」

 

ぺこりと頭を下げて走り去る三人を見て、ヒラヒラと手を振る。まるで子犬みたいだ。

 

しかしのぞみん、何を考えているんだい?絵里の味方かと思ってたけど、案外そうでもないようだ。両方にいい顔をして、大変なことにならない様に友人として祈っておくよ。

しかしスクールアイドルか……一年の時にアイドル研究部が立ち上げてたような……黒髪の子のアイドルへの熱意は素敵だったけど、結局一年と持たなかったからねぇ。ステージ、見てみたかったもんだ。




左腕の傷跡はFM5のグレンみたいなのを想像していただければ。

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