二期は正直考えていません。
「ふあぁ〜あ……」
欠伸をしながらぷらぷらと歩く。正直言ってシンドイ。もちろん僕は風邪など引いていない。つまり、面倒臭いってワケさ。
「おはよう、はるちゃん」
「んにゃ?」
そんな事を考えている僕に話しかける物好きはもちろん少ない。そして僕をはるちゃんなんて呼ぶのはたった一人だけ。
「なぁんだ、のぞみんか」
東條希。
僕にとってはたった一年しか一緒にいられなかったけれど、幼少期の親友と呼べるくらい仲が良かった子だ。向こうは僕を忘れてたけどさ。名前を忘れる位ならともかく、仲の良い子がいた事も忘れちゃうのはねえ……割とショックだったよ。
「僕に何か用かな」
「友達に挨拶するのはダメなん?」
「そりゃ構わないけどね、いくら昔の事とは言え忘れてた奴に挨拶されるのも複雑って事さ」
「うっ……それは……」
と、バツの悪そうな顔をして目を背ける希。もう2年も前の話なのにしっかり反応してくれる。
「あぁでも勘違いしないで欲しいな。僕は君が嫌いでこんな事を言っているワケじゃない。根に持ってるのは好きだからさ。一種の悪ふざけだよ。それでも腹の立つ所はあったけどねぇ」
まぁもう過ぎた事だから話してもしょうがないんだけどね、それでも笑ってやりたい心があるから僕はこうして悪ふざけをする。いやガチ泣きされたら謝るよ?それ以外は知らないけど。
「面倒臭い人」
「君も同じだろ。僕も君も、みーんな面倒臭い生き物だよ」
そんな話をしながら二人で教室を目指して歩く。昨日廃校の知らせを受けたってのに、目に入る生徒達は普段通りで何一つ取り乱しやしない。僕が言うのもなんだけど、この学校が無くなろうと関係無いみたいだ。
「ん?……そういえば絵里は?」
「えりちは先に行ってるんよ」
「へぇー」
大方廃校阻止計画でも考える為に聞きに行ったってトコかな。ちなみにさっきから話しに出ている絵里ってのは我が校の生徒会長サマで希の親友(僕を差し置いて親友なんてねぇ)な女の子だよ。
「じゃあ精々振り回されてくれ。僕はそんな君らを笑ってるよ」
「近い内に笑えない事が起きるって、カードが告げてたんよ。その時になればきっとはるちゃんも驚くと思うよ?」
自信満々な希に対して僕は何も言い返さなかった。ヘンテコな関西弁もどきを喋っている彼女はどうもたまに理解出来ない事を言う。不思議系に変わっちゃったのぞみんはある意味、僕以上に変わったのかも知れない。中身は……知らないけどね。彼女の本心は分からない。だから僕は彼女の殻を抉ってやりたいのさ、本心を知る為に……フフフ……
「そろそろ教室だ、またね」
「うん、昼休みにでも」
まぁそれは後でだ。
僕が席に着くと同じくらいに、校門に駆け込んでくるオレンジ髪の子が見えた。あれは……あぁ、勝手に購買の名物認定してる子だ。しかしあの子、僕が知っているだけでも結構ギリギリで登校してる事多くないかな。惰眠を貪るのは悪くないけれど、貪り過ぎるってのも考えものだと思うんだ。もちろん僕も惰眠を貪るのは好きだよ。寝るのは気持ち良いからね。
適当な態度で授業を乗り切った僕は、珍しく中庭へ向かっていた。普段なら食べ終わったら準備をして寝てるけれど、そういう気分の日もあるって事だね。
「っと、何処へ行くんだい?」
ふと見かけた絵里を捕まえる。隣に希がいたけど今は絵里が優先。
「野暮用よ」
「つれないね絵里。教えてくれたっていいじゃないか」
「急いでるから、後で」
「理事長の娘さんに会いに行くのかい?どうせ無駄だと思うけどね」
僕をスルーして行こうとする絵里に対して、僕は推測を述べる。絵里の事だ。どうせ理事長の娘さんに何か知っているかとでも聞きに行く気なんだろう。僕程度でも容易に想像出来る。同時にそんな事しても無駄だという事も。
僕らだって昨日知らされたんだ。もし知っていたら噂くらい立つだろうし、何よりあの理事長が自分の娘だけに教える筈がない、と思うんだ。
「榛那には関係ないわ」
冷たい目で僕を見る絵里。そんな絵里は初めて見る絵里で……とても興味を惹かれた。もっと見たいと思ってしまう。人の心と表情が変わるその瞬間、それがたまらなく美しいと感じる──それが僕だ。
「おぉ怖い怖い。睨まないでくれよ、縮こまっちゃうじゃないか。ククッ、あの優しい笑顔の絵里ちゃんは何処へ行ったのやら……」
「黙って」
が、いくらそんな僕とて友達を想う気持ちはある。これ以上は本当に邪魔となるのでここらで退散しよう。
「じゃあ僕はお暇しよう。精々頑張ってね、生徒会長サマ」
歩き去る絵里を見送り、こっちをチラチラ見ながら歩く希にウインクをしてから、僕はふと思った。なんで絵里は廃校を気にするんだろう?理由があるんだろうけど検討付かないなぁ。
鼻歌を歌って帰る帰り道はもちろん一人。僕は学院の中でも浮いた人間だから近づく奴はあんまりいない。まぁ僕、友達も片手で数えられる程しかいないから然程気にならないけどね。
しかし何か和菓子が食べたいな……あぁ、昔よく母さんが買って来てた所があったっけ。確か……穂むらって店。場所も紹介されたな。よし、行こう。というワケで僕はふらりふらりとのんびり穂むらに向かうことにした。
まさか、自宅に結構近かったなんて思わなかったけど。
「いらっしゃいませー!」
あら可愛い声。店員さんは女の子って年かな?
「それ、オトノキの制服ですよね」
カウンターの奥にいる店員さんは、僕が知っている顔だった。勝手に名物認定している、今日ギリギリで駆け込んで来た子だ。
「そうだけど……君も音ノ木坂かい?」
「はい!」
太陽みたいに微笑むその子は、僕にしては珍しく初対面で好感が持てた。昔の僕に似てるってのもあるんだろうけど、それ抜きに好きになれそうだ。
「まさかこんな所で同校の子と会うなんて思いもしなかったよ。人生ってのは奇遇だねぇ、何年生?」
「二年生です。そっちは三年生ですよね」
「そうだよ。色々あるけどお互い頑張っていこうじゃないか、学校生活」
そこまで言ってはたと気がつく。名前、言ってないや。
「……あー、自己紹介がまだだったね。僕は蓮崎榛那。君は?」
「穂乃果、高坂穂乃果です」
高坂……母さんの友達と同じ苗字……もしかして、いや……気にしても仕方ない。
「高坂穂乃果──その名前、忘れないよ」
「大袈裟ですね、蓮崎先輩」
「大袈裟じゃないよ。君は好きなタイプの人間だから、僕としては覚えていたい。ずっとね」
「あはは……なんか照れますね」
本当に好きになれそうだ、高坂穂乃果ちゃん。ついつい深く知りたくなる……そんな子だ。楽しみが一つ増えたねぇ。
「さて、おすすめを教えてくれないかい?和菓子を買うのは初めてでね、さっぱり分からないんだ」
なんだかんだで初めてなのだ、和菓子屋で和菓子を買うのは。安物しか買った事のない僕は、大人しく高坂ちゃんのおすすめを選ぶ事にしたのだった。
その後一言二言話して帰ってから食べたけど、実に美味しかった。
それにしても、僕の喋り方はちょっとアレだな。直そうにもキャラがこれだし……まっ、これが僕だから変えなくていいか。
どうでもいいですけど榛那のコンセプトは中途半端に嫌な奴です。