さて、記念すべきファーストライブの日だが。
悲しいかな、贔屓目付けようが付けまいが、ほぼ全員が興味を持っていないというのが現実だろう。僕のような物好きでなければ、これを見ようと思わないだろうねぇ。
「…………ねえ、どう見る? 蓮崎」
「まぁ、人が少ないんじゃない? 来ないという事はあり得ないとは思うけど、絶対的に少ないのは確かだろうね」
「………」
矢澤ちゃんは珍しく、その表情を何とも言えないものへと変えた。比較的感情的な彼女が、こう顔を変えるとはね。思うところがあるに違いない……
「心配かい?」
「別に」
「だろうね」
「アンタは?」
「さあ?」
そう答えてみれば、びっくりした様子の矢澤ちゃん。そんなに信じられない事かい?やれやれ、僕をなんだと思ってるんだか……
「どういうつもりよそれ」
「僕の基準は面白いか面白くないか、それだけさ。それから外れれば興味は失せるよ。だってそういう人間だもの」
「……サイッテー」
最低とは褒め言葉だねぇ。
さて、じゃあ僕は一足先に向かうとしようか。部活の客寄せに興味は無いし、そもそも────
この学校の全てにも、この学校にいる人間にも、興味が無いからね。
それぞれが持つものに、興味があるだけさ。
だが、悲しいかな。僕の思考とは裏腹に容赦無く先生はアレコレと頼みやがった。全く、誰が好き好んで媚びなんて売りたがると思うのかな。だってほぼ進路は決まってるも同然だし。
ああ、ホント下らない。教員って生き物には当たりハズレが多すぎるんだよ。まあでも、やってあげたけどさ。
はてさて、これでは時間間に合うかな?自分から約束に反することは主義じゃない。なんとしても見に行かなきゃね。
そうして走って行って、たどり着いたは講堂。はてさてどれだけの客がいるのか──!?
「……何やってんだい?」
「聞いてるんよ」
「……フンッ」
壁に寄りかかって聞いているのぞみん。そんなに奴の下らない答えに返すのは嘲笑でいい。
何か言いたそうにしているのは無視して、西木野ちゃんと目があった。なるほど、彼女としては気になる程度だろうから、これは納得が行く。何かかける言葉も無い。
やっと入って────僕は魅力された。
何故だろうか?
客のいないこの講堂で、誇らしげに歌い踊る彼女。それはあくまで素人のソレなのに、あらゆるスクールアイドルのソレを凌駕する、初めてが故の至高の美。永遠とも錯覚する刹那の美麗が、僕を掴んで離さない。
それは未完成の魅力。素晴らしく目を離せない、手に入ることない至高。
永遠にも続いて欲しい、しかし刹那しかないその至高の時。
僕が求めていたものを、彼女達は……実現した。正しく女神そのものだ。
「素晴らしい……っ!!」
思わず噛み締めていた。
口から溢れ出す歓喜は、僕の顔が歪んでいるのをよく示している。
「口じゃ表せない、言葉も足りない、目も耳も役に立たないっ!!僕が求めた永遠に続いて欲しいと願う最高の刹那だァッ!!君たちは最高だ!君たちは僕にとっての新たなる光だ!!さあ魅せろ!もっと僕を魅せろ!その果てを見届けて上げよう!!この僕の興味尽きるまで!!」
小さな叫びは僕だけに。
彼女たちは知るよしも無し。
気付けば終わってしまった、その舞台。
あまりにも惜しい。終わって欲しくなかった。永遠に続いて欲しかった。ああ、届かないこの願いは、やがていつか叶うと信じていよう。
……さて、帰ろうかな。絵里と三人が話してるけど、それには興味無いし。
クッ、クククク……楽しみだよ。愉しみだよぉ……僕の、僕だけの
矢澤ちゃんも、のぞみんも、西木野ちゃんも、他にいた誰かももう目に入らない。
そうさ、僕が望むのは、彼女たちμ’sの活躍だけだからね。さあ、久しぶりに熱を入れよう。肉に力を入れて立ち上がろう。
死者から生者に戻る時だ。
このファーストライブが彼女たちにどう影響するかは分からない。ただ一つ言えるのは、それが彼女たちにとっての始まりであったと、言えるんだろうさ。