笑って嗤う彼女と女神達   作:トゥーン

12 / 12
始まりの地

さて、記念すべきファーストライブの日だが。

 

悲しいかな、贔屓目付けようが付けまいが、ほぼ全員が興味を持っていないというのが現実だろう。僕のような物好きでなければ、これを見ようと思わないだろうねぇ。

 

「…………ねえ、どう見る? 蓮崎」

「まぁ、人が少ないんじゃない? 来ないという事はあり得ないとは思うけど、絶対的に少ないのは確かだろうね」

「………」

 

矢澤ちゃんは珍しく、その表情を何とも言えないものへと変えた。比較的感情的な彼女が、こう顔を変えるとはね。思うところがあるに違いない……

 

「心配かい?」

「別に」

「だろうね」

「アンタは?」

「さあ?」

 

そう答えてみれば、びっくりした様子の矢澤ちゃん。そんなに信じられない事かい?やれやれ、僕をなんだと思ってるんだか……

 

「どういうつもりよそれ」

「僕の基準は面白いか面白くないか、それだけさ。それから外れれば興味は失せるよ。だってそういう人間だもの」

「……サイッテー」

 

最低とは褒め言葉だねぇ。

さて、じゃあ僕は一足先に向かうとしようか。部活の客寄せに興味は無いし、そもそも────

 

この学校の全てにも、この学校にいる人間にも、興味が無いからね。

それぞれが持つものに、興味があるだけさ。

 

 

 

だが、悲しいかな。僕の思考とは裏腹に容赦無く先生はアレコレと頼みやがった。全く、誰が好き好んで媚びなんて売りたがると思うのかな。だってほぼ進路は決まってるも同然だし。

ああ、ホント下らない。教員って生き物には当たりハズレが多すぎるんだよ。まあでも、やってあげたけどさ。

 

はてさて、これでは時間間に合うかな?自分から約束に反することは主義じゃない。なんとしても見に行かなきゃね。

そうして走って行って、たどり着いたは講堂。はてさてどれだけの客がいるのか──!?

 

「……何やってんだい?」

「聞いてるんよ」

「……フンッ」

 

壁に寄りかかって聞いているのぞみん。そんなに奴の下らない答えに返すのは嘲笑でいい。

何か言いたそうにしているのは無視して、西木野ちゃんと目があった。なるほど、彼女としては気になる程度だろうから、これは納得が行く。何かかける言葉も無い。

やっと入って────僕は魅力された。

 

何故だろうか?

客のいないこの講堂で、誇らしげに歌い踊る彼女。それはあくまで素人のソレなのに、あらゆるスクールアイドルのソレを凌駕する、初めてが故の至高の美。永遠とも錯覚する刹那の美麗が、僕を掴んで離さない。

それは未完成の魅力。素晴らしく目を離せない、手に入ることない至高。

 

永遠にも続いて欲しい、しかし刹那しかないその至高の時。

 

僕が求めていたものを、彼女達は……実現した。正しく女神そのものだ。

 

「素晴らしい……っ!!」

 

思わず噛み締めていた。

口から溢れ出す歓喜は、僕の顔が歪んでいるのをよく示している。

 

「口じゃ表せない、言葉も足りない、目も耳も役に立たないっ!!僕が求めた永遠に続いて欲しいと願う最高の刹那だァッ!!君たちは最高だ!君たちは僕にとっての新たなる光だ!!さあ魅せろ!もっと僕を魅せろ!その果てを見届けて上げよう!!この僕の興味尽きるまで!!」

 

小さな叫びは僕だけに。

彼女たちは知るよしも無し。

気付けば終わってしまった、その舞台。

 

あまりにも惜しい。終わって欲しくなかった。永遠に続いて欲しかった。ああ、届かないこの願いは、やがていつか叶うと信じていよう。

……さて、帰ろうかな。絵里と三人が話してるけど、それには興味無いし。

 

クッ、クククク……楽しみだよ。愉しみだよぉ……僕の、僕だけの女神(マリア)

 

矢澤ちゃんも、のぞみんも、西木野ちゃんも、他にいた誰かももう目に入らない。

 

そうさ、僕が望むのは、彼女たちμ’sの活躍だけだからね。さあ、久しぶりに熱を入れよう。肉に力を入れて立ち上がろう。

 

死者から生者に戻る時だ。

 

このファーストライブが彼女たちにどう影響するかは分からない。ただ一つ言えるのは、それが彼女たちにとっての始まりであったと、言えるんだろうさ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:10文字~500文字)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。