笑って嗤う彼女と女神達   作:トゥーン

10 / 12
今回は本編ではなく、名前はまだ無い♪さんの作品 『巻き込まれた図書委員』とのコラボ回になります。

ラブライブ二次の中では少ない女主同士のコラボ、ぜひ楽しんでいってください。



コラボ回 『大和撫子な彼女と歪んだ僕』

突然画集が見たくなった。

いや、本当は久しぶりに自宅に画集あった筈だと思って、それで探したんだけど、生憎というか当然だね。無かったよ。朝っぱらから色々と後悔しながら登校した僕は、今日これまた久しぶりに図書室を訪ねる事にした。図書室ね………二年前はえらい有様だったけど、どうなってるかな?

いざ入室してみるとガラリと様変わりしていた。驚きよりも先に来たのは落胆。これじゃお目当ての画集が見れないかもしれないなぁ………

あ、いい所に人がいるじゃないか。大和撫子風味な、そこの彼女に聞くとしよう。もし違ったら、まぁその時はその時って奴だね。

 

「ねぇ、君図書委員かい?だったら画集借りたいんだけど、ここにあるかな」

 

すると彼女はわざわざ顔を向けて答えてくれた。律儀だねぇ。僕なら顔上げないよ。

 

「画集ならあそこの角のコーナーに纏めて置いてますよ」

「おぉ、ありがとう」

 

ビンゴッ!最高のスタートだね!

お礼を言おうとして、はたと僕は彼女を知らない事を思い出した。それで言葉が詰まってしまった。なんと無様か。立て直せよ僕よ!

 

「…………図書委員ちゃん。しかしそうか、二年前はまばらだったのにあの角っこに纏められたんだ。委員長は仕事しないから、さぞ優秀な委員がやってくれたんだろうねぇ」

「あなたは遥さんをご存じなのですか?」

 

………あいつかぁ、あいつなのかぁ。あいつねぇ…………

 

「まぁね。あれだよ、シャー芯を貸しあう仲というか、そんな感じかな?」

「俗に言う知り合い以上、友達未満といった関係なんですね」

 

そう解釈してくれたから本当の事を言わなくて済みそうだ。苦手なんだよねぇ…………本当はさ。

しかしどっかで見た事あるなぁ、彼女。んー……何処だ?全くわからん。聞いてみるとしようかね、こういう場合はさ。

 

「……ん?君、どっかで見た事あるぞ……?有名人……ってワケじゃなさそうだけど、既視感あるな」

「あー……自己紹介が遅れました。私、東野友実(ひがしのゆみ)と言います。私を見たのは多分全校集会の時などでしょう。生徒会の役員として司会をよく任されますので」

「東野……あー!アレか!君が三大美女とかいう何を基準に判断してるか分からないアレの!それにしても君の名前だけやったら出回ってるから、不思議でさ」

 

そうか、彼女か!!思い出したぞ!!そうだよ、そうじゃないか。何処かで見た事あると思ったよ……あー、すっきりした。頭がスッとして気持ちいいなぁ、こういうのってさ。そうだろう?───って、何言ってるんだろう僕。

ヘーキヘーキ、大丈夫大丈夫…………。

 

「私も自分の事ながらなぜ三大美女と呼ばれているのか……他の二人の事を考えてみると、生徒会に所属しているのが原因なのですかね……?」

「さてね、僕は分からないよ。その美しさを羨み、それを超えてやろうという気があるからそう称していると思ってたけど、全く違って驚きさ。見えるけど触れられない、さながらアイドルみたいな扱いとは、女神達でもあるまいし……おっと失礼、自己紹介は返さなきゃ無礼だね。僕は蓮崎榛那(はすざきはるな)、まぁしがない女子生徒さ」

 

そう言って僕は一礼し、カウンターに背中をあずける。…………え?無礼?どうでもいいでしょっ!!

 

「憧れの対象、とでも認識していれば良いんですかね。

そういえば蓮崎さんが図書室に来るのは久しいんですか?先程も『二年前は』と言っていましたけど」

「そう、実に二年ぶりだよ。あの時も画集借りに来たのはいいんだけど、画集と普通の本が混ざっててね、萎えてやめたんだ。それっきり来てなかった」

「それは失礼しました。一年生から図書委員をやっていたのに気付けなかったなんて……不覚です」

 

少し悔しそうにそう言う東野ちゃん。

おや、何故間が空くんだろうか…………?まるで言葉を選んでるかの様な……これは仮面……?いや、まぁ、なんでもいいか。そんなものはいつでも探れる。どうでもいい、気にするまでもないや。気にしてたら失礼だろうしね。

 

「いや、これ入学した直後の話だから気にしなくていいよ。委員の募集はまだ始まってなかった頃だし、あの図書委員よだれ垂らして寝てたしね」

 

あれ見て呆れたよホント。寝るくらいなら別の人を用意して欲しかったもんだ。まぁ今やどうでもいいさ。

 

「あの先輩か……結局卒業するまで碌に仕事しませんでしたね。よく考えれば遥さんはあの人の影響を受けたのでしょうか……あ、立ち話もなんですからよろしければ司書室でお話しします?」

「そうだね。時間も十分あるし、お邪魔するよ」

「ではこちらへどうぞ」

 

東野ちゃんに案内されて司書室へ。考えてみれば初めて入るなぁ。どんな感じだろうかな。気になるね。

入ってみれば案外普通だった。いや普通じゃない司書室って何だよってハナシだよね。そんな学校が変形するアニメでもあるまいし……

 

「それでは今何か淹れますので、お掛けになってて下さい」

「ありがとう、お言葉に甘えて座ってるよ」

 

この子優しい……っ!!

そんな事を思ってると更にその優しさに触れる事となった。

 

「お茶にコーヒー、紅茶とありますがどれになさいますか?」

「お茶でお願いするよ。出来れば濃いのを頼むよ」

 

濃い緑茶は好きなんだよね実は。美味しければ何でもいいけど、お茶は濃い方が好きだ。

しかしマジでいい子だねこの子。実にいい子だ。

 

「分かりました。少々お待ちを」

 

座って待つ事数分。注文通り素晴らしく濃いお茶を持ってきてくれた東野ちゃん。ついでに自分が飲むのであろう、紅茶も一緒に持ってきた。その佇まいは正に大和撫子。しかし、僕は奇妙なものを感じていた。

かつて兄と母は非常に感情の揺れ動きが分かりづらい、我が家族ながら途轍もなく面倒臭い人間だった。それ故に僕や姉さんはクソッタレな位に鍛え上げられ、外面と内面の違いが、本当にほんの少しだけ分かる……かどうかも微妙だけど、まぁそんなところかな。とにかく、何か変な物を感じたのさ。これだけは確実だよ。

 

「お待たせしました」

「ありがとう。……あら美味しい。久しぶりに人の淹れたお茶を飲んだなぁ」

 

基本一人だから他人の味に恋しくなるものかね?僕自身よくわからないけど、そういう事もあるらしいし。

 

「お口に合ってよかったです」

 

しかしこれでは会話が切れるね。

そうだ、聞いてみる事にしようか。とりあえず話の糸口は切っておきたいし。話さずに飲むだけとは、風情がないだろう?

 

「そういや、君は何で図書委員に?」

「何で、と聞かれましても本が好きだから。としか答えようがないですね」

 

……やはりなんか違う。

大和撫子とはよく言われているが、なんだろうこの違和感。この感覚はのぞみんと再会した時と同じだ。何かを被っている……

前言撤回する、カマをかけてみるか。

 

「そうか……君もまた自分に素直に生きている人間なのか。大和撫子といった容姿だけど、案外その内心は違った美しさがありそうだ」

 

ぶっちゃけデタラメである。カマをかけるにしてもクソみたいなカマだからはっきり言って使えないだろう。

当たればめっけもんかな。

 

「あ、あはは。まさかそんな事……」

 

いや待ってくれよ。なんでどもるんだよ。こっちが困惑だよ。

まぁ……いいか。気にされても困るし、適当になんか言っておこう。

 

「鏡は物しか映さない、しかし目は物と共に在り方を映すと知り合いがボヤいててね……まぁ仮面も在り方の一つ、仮面と素顔にはそれぞれの美しさがある。例え君が仮面を被っていたとしても、それは君だ。君以外の何者でもない。だから気にしないでくれよ」

 

が、どうやら逆効果だったようで。東野ちゃんはコッチが気付いているものだと思ったらしい。

 

「あはは〜……いつから分かったの?」

 

その面を外して素に戻ってしまった。しかし何時から分かったか……ねぇ。これでさっきだよーとか言ったら格好付かないから……そうだ!それっぽい事を言ってみよう!

 

「東野ちゃんの雰囲気だよ。僕が内面と外面の話をした後から凛々しかった雰囲気が崩れた気がしてね。カマをかけたってヤツかな」

 

まぁもっぱらデタラメとテキトーなセリフだけどね。これを知られてはいかんでしょ。確かに彼女に興味が湧いたのは事実。しかし当てる気なかったのに当たってしまっては、流石の僕も罪悪感の様なものがあるんだよね。

 

「雰囲気で分かるとか……蓮崎さん凄いね。それにしても見事にしてやられた感があるよ」

「母と兄に鍛えられてね……あの人たちよっぽど感情動かないと普段と全く変わらないから雰囲気探ってたら自然と覚えたんだ」

 

うう……まさか関心されるなんて……この僕が押されてるなんて予想外だよ。思わぬ強敵ってヤツかな。いや、単に僕が苦手……?そんな筈は無い。苦手なのは、あいつだけだ。

 

「それはまた、なんとも凄い家族だね」

「我ながら血が繋がってるのか疑問視するレベルでそれぞれ違う方面に突出してるから困ったもんだよ」

「ちなみに蓮崎さんは何か突出してる事とかってあるの?偶に変な子だって噂はチラホラ聞くけど」

 

はぁん、僕も有名になったもんだ。

 

「変な子ね、実に的を得ている。突出してる点……というよりも、人の感情が変わるその瞬間が好きで好きでたまらない、っていう……なんつーかな、尖った点はあるよ」

「人の感情が大きく……今まで経験した中だとどんなのがあるの?」

「……あれは……なんだったかな……あぁ、中学三年だ。修学旅行のご飯の時に水を零した子の表情の変わりっぷりったらもう最高でね……いやあれは実に良かった。怒り、悲しみ、羞恥、様々な感情が混ざりに混ざり合った何とも言えないあの顔……しかし所詮そこで止まってる。感情の変わる瞬間を好むとは言え、あまりそういう場面に接してないのは事実、言う程無いのさ」

 

自分の感情はつまらない。だから他人の感情がいい。我が儘じみたもんだよ我ながら。

今現在だと絵里の迷走っぷりなんだけど……生徒会関係者に対して絵里を嗤う真似をすればどうなるか分からない。

まぁなんにせよ、それはどうでもいい。

 

「なんか自分で聞いといてなんだけど、蓮崎さんって本当に変わってるんだね」

「クククッ、変わり者だからね。それを言うなら君も変わってるだろう?」

「まぁね。高校生活でここまで仮面被って過ごしてる人はいないだろうしね」

「とはいえ必要な物の一つだよ、仮面は。誰も彼もが共に深淵を覗く者じゃない、深淵に落とす者だっているからね。いや、流石に関係ないか」

 

うっわはっずかしっ!何言ってんだ僕ゥッ!?キモすぎるにも程あるだろ!?キモすぎて死にたくなってきた。

 

「まぁ誰も彼もに自分の内面見せる必要はないからね〜」

 

あぁ……さらっと流してくれた……ありがとう、本当にありがとう。

あっ、話題変えなきゃ!イジられたら僕がヤバい!!

 

「……しかしお茶美味しいな。習い事でも?」

「いやいや。遥さんがいる時とか、来訪者が来た時に振る舞う程度だよ」

「って事は誰かが淹れてくれるお茶だから美味しいのかな。そうだ、好きな本は何かな?」

「鈴木忍さんの『瞳の中で』かな」

「うっはぁ、東野ちゃん随分なマニアだねぇ。文学少女に違わぬ素晴らしいチョイスだ」

 

数量限定完全手渡し販売された本で、アレを知った時は時代錯誤もいいトコだとか考えてたっけ。しかし今僕の目の前にはそれを手に入れた人が、本気で夢中になっている人がいる。

とても素晴らしいじゃないか……!!

 

「あの本を手に入れる為に学校に遅刻したからね……まぁ後で親にバレて怒られたけど」

「いいね、そういうの。僕好きだよ」

「そう言えば蓮崎さんは画集を見に来たんだよね。写真とか好きなの?」

 

好きだけど、うーん……まぁ、にわかだよね。

 

「本格的に好きな人に比べれば見劣りするけどね。姉に付き合わされ続けて、いつの間にやらって奴よ」

「お姉さんがいるんだ。どんな人なの?」

 

遙香姉さんがどんな人……か。

そうだねぇ……身内の僕からすると、あの人を正しく分析は出来ない。だから僕の主観で説明しようか。

 

「素直な人だよ。我が道を突き進む、厄介なね。姉貴ってのは恐ろしいよ……年が離れてるから、振り回される側としては涙が出るよ」

 

七つ離れてるんだから手加減してキャッチボールしてくれよ。小学生に中学生の感覚でやるのは本当にやめて欲しかった。

それ以外にも突然写真家になるとか言い出して人を巻き込むとか、大学のコンパで上級生が体育会系よろしく振り回して来たからってぶん殴ってウチ来て「なんか作って」ってさ……ひどいもんだ。

 

「振り回されてるんだ……姉は恐ろしい、か。私も恐がられてるのかな……」

「んにゃ?東野ちゃん妹いるのかい?」

「いるよ〜。三つ下に一人」

 

な っ … … … な ん だ っ て ! ?

 

「三つだって!?なんて羨ましい……!七つ離れた姉貴と兄貴を持つのとは大違いだ!」

 

つい羨ましくて大声になる。なんとはしたない。

 

「七つって、大分離れてるね。 でもそれだけ離れてると勉強とか教えて貰えるんじゃない?」

 

甘い、甘いよ東野ちゃん。世の女子が好むスイーツの様に甘過ぎるよ。

 

「小学生に中学生のやり方を教えられたよ。確かにありがたいけど、それぞれ教え方が違うしね。無茶な話だろ?ひどいものさ」

 

何を言ってもやめてくれなかった。

兄さんと姉さんも教え方が違うからえらいこっちゃえらいこっちゃ。

 

「それでも蓮崎さんは理解できたんでしょ?凄いよね。私なんて理数系が……うん。勉強の話は終わりにしよう!」

「理解させられたんだけど……まぁ、やめようか」

 

こんな不毛な話は終わりだ。お互いに害しか生まない。

それからしばらく彼女を眺めていると、何か彼女が誰かにダブって見えた。はて誰だろうかと思考を回す。少なくとも知り合いだ。しかし大和撫子な感じの知り合い……?家族とは違う。……まぁ、分からないならその程度なんだろうね。

どうてもいいさ。

 

「友実ー?今いるー?」

 

おやこの声は矢澤ちゃんじゃないか。

 

「いるよ〜。ちなみに今来客中だからね」

 

実に平凡な答え。それでも気にせず入ってた矢澤ちゃんは僕を見て顔を顰めやがった。

 

「来客……?げっ、蓮崎……」

「おやおや矢澤ちゃん、僕を見るなり『げっ』はないだろ『げっ』は」

 

全く不本意だ。何故僕がいるだけでそんなことを言われねばならないのか。僕でも不快に感じる事だってあるんだよ。

 

「にこ……蓮崎さんに何か弱味でも握られてるの?」

「単にあたしが苦手なだけよ」

「僕は好きだけどね、君のこと」

 

僕は好き、彼女は嫌い。そういう距離感でもいいと思わないかい?

別に僕はそっちの気は無い。けれど好きなものは好きなのさ。

 

「……いつもこんなのだから調子狂うの」

「でもにこ。私が言うのはアレだけど、いくら苦手でも出会い頭に『げっ』はないと思うよ?」

「ま、まぁそれは仕方ないでしょ?だって自分で『いつも教室の窓際にいる』って言ってる奴がコッチにいるなんて想像してなかったもの」

 

苦しい言い訳だね。単に僕がいたから驚いたとか、ついついとか言ったところで怒らないのに。中途半端では何も得れないよ、矢澤ちゃん。今は関係無いけれど、それはいつか自分に振りかかるものなんだよ。

 

「それなら仕方……ないのかな?でも蓮崎さんって窓際が好きなの?」

 

そう言って僕を見る東野ちゃん。いや見られても……ねぇ?

 

「んー……どうだろ?やること無いから窓際にいるだけだし、話す相手も少ないしねぇ。好きか嫌いかで言うと好きだけど」

「そんなにやる事ないの?」

「自分で言うのもアレだけど、変な感性持ってる人間なんてそんなものさ。部活も委員会も入ってないから、時間を潰す為に外を眺めるくらいしかないのさ」

「暇ならアイドル研究部の部室に行ってみれば?あそこ結構暇潰せるよ」

 

なるほど、盲点だった。用事無い時はいかないつもりだったが、これはこれで面白そうだ。

 

「ほほう、それは名案だ。というわけで矢澤ちゃん、明日から僕に構ってよー」

「子供じゃないんだから口尖らせるなっての!まぁ来るなら拒まないわ。どうせアイドル雑誌を片っ端から読むだろうから。友実も気を付けなさいよ?こいつってば猫みたいに寄ってくるクセにすぐ噛み付くからね」

 

やっぱり矢澤ちゃんは一匹狼にはなれない子だね。どう頑張っても面倒見がかなりいい事が災いして……いや、災いって程でもないか。とにかく、彼女自身が一匹狼に向いてない気質だってのは確かさ。

 

「大丈夫大丈夫。私も似た様な人(遥さん)を知ってるから。多分仲良くなれるよ」

「なら、いいんだけど」

「しかし君は不思議だね。なんだかんだで受け入れてくれる、母性が強いとでも言うのかな?のぞみんのエセ母性とは大違いだ」

 

あんなビビリのチキン女とは違ってかなり度胸も座ってるし、なんだっけ?友達が言ってた……ば、バブみ……?とかいうのありそうじゃない?つかバブみって何?僕にゃとても分からんね。

んな事を考えていると東野ちゃんは言ってはならぬ事を呟いてくれた。

 

「まぁそれに反して母性の塊はないけどね……」

「ゆ〜み〜ィ〜?今なんか言ったかしら?」

 

……おいおい、なんじゃこりゃ。プンスカと怒る矢澤ちゃんとあたふたしてる東野ちゃん。ねぇそーゆーのってさ、僕のキャラじゃない?

というかその手の話題は面倒に決まってるから口を慎むべきだというのに……

なんだかんだで許してくれそうではあるけどさ、僕だって言わないぜ……?

 

「べ、別に〜。ただもう少しで友香が抜きそうだな〜とか思ってなんかないよ〜?」

「隠す気あんの!?バレバレよ!!」

 

うっわあ……えっぐ……

 

「……思ったよりエグいかもね、彼女」

「あ、ゴメン。友香の方があるかも……」

 

こりゃひでぇや。あんまりでしょ。

 

「謝るなぁーっ!」

 

……宥めよう、そうしよう。このままではマズイ流れだ。

 

「まぁまぁ矢澤ちゃん、同い年の僕だって77だから気にしないの。デカイと前に貼ってデブの様に見えるらしいし、それにまだまだ見込みはあるよ。結婚でもして子を宿せばね」

 

言い終わって気付いた。これフォローになってねぇ。つーかこれ自滅じゃないか。というかこれってアイドルにはご法度の恋人作れって事だよね。唆してるよね。やばいよねこれ。

 

「やだ蓮崎さんたらはしたない」

 

東野ちゃん棒読じゃないか、全然そんな事思ってないだろ。実際には面白い事言ってるって思ってるだろ。

……実はこれ、僕が思ってる事じゃないんだよね。おじいちゃんが酒に酔って言ってた事なんだよね。

 

「胸デカくしたけりゃ夫見つけて子を宿せっておじいちゃんが冗談で言ってた」

 

とりあえず真実言って誤魔化そう。いや何を誤魔化すんだ、僕がテンパってどうする。僕は面白可笑しく引っ掻き回す人種だろおい!

 

「あんたのおじいちゃんよくそんなの言えたわね……」

「その後おばあちゃんに足踏まれてたけどね」

 

因果応報って奴かね。

 

「そこで踏まれるのが足なのが手加減を感じるよね。私だったらたぶん蹴飛ばすね」

「おばあちゃんも年だから流石に気を使ったらしいよ。父さん曰く若りし頃は腹を殴ったらしい。ナイチチだからかな」

 

そう言って矢澤ちゃんに目を向ける。もっとも深い意味は無く、精々君ならわかるかい?といったものだ。

 

「目を向けないでよ」

「そっか……まぁにこはこれからに期待、だね」

 

東野ちゃんは視線を胸に向けながらそう言った。なんで彼女が嘲笑している様に見えるんだろ。

そんな東野ちゃんに矢澤ちゃんはガーッと吼えた。

 

「友実だって言う程無いじゃん!」

「ありますーこれでも穂乃果や真姫より少し大きいんですぅ!」

 

なんて醜い争いだ……

 

「どんぐりの背比べ、かね」

 

こんな感想が出たとしても仕方ないよね。

あぁ、でもそれも綺麗だ。悪くない。むしろ素晴らしい。そう言い合い、下らないと分かっていてもあえてやめない。あぁ、なんて面倒な癖に綺麗なんだ……!!

 

「不毛と気付きながらもやめられない……その感情もまた美しい……ククククッ、変な話題もなかなかどうして」

 

抑えが効かない。完全にアウトだ。僕は二人がいるのにも関わらず、割と危険な事を呟いてしまった。それでも後悔は無い。それはそれで面白そうだしねぇ……

 

「そう言う蓮崎さんはどうなの?」

「さっきも言った通り、77。俗に言う貧相キャラさ」

「て事は……にこ。強く生きるんだよ」

 

……あれ?なんか思ってたのと違うぞ。僕はこんな展開知らない。僕はこうしたくてあんな事を言ったんじゃないんだ!もっとこう、なんだろう、僻みとかさ!そういうのが見たかったんだ!!

……でも悪くないね!こういう普通な感じって奴はさ。

 

「もう胸ネタやめてよ………疲れた」

 

ぐったりして僕の隣に座り込む矢澤ちゃん。本当に疲れているみたいだ。まぁ自分の嫌いなネタでイジられてはそうもなろうよ。当然といえば当然だね。

 

「仕方ない。それで?にこはどうして来たの?」

 

今聞くのかよ。中々に彼女、ひどい子だねぇ。

 

「暇だったから、たまにはコッチから来てみようかなって思ったのよ。まさかこんな状況になるとは思ってなかったけどね」

「あはは。慣れない事をするからじゃない?ほらよく慣れない事をすると雨が降るって騒ぐじゃん?」

「そういうものかしらねぇ。別に慣れない事ではないと思うけど」

「世の中そんなものだよ」

 

それで納得するのが一番だよ、と言外に言ってみても別に大して親しくもない矢澤ちゃんに伝わる筈も無く。普通にスルーされて終わってしまった。悲しいなぁ、全く。

 

「そうそう。慣れない事はするもんじゃないよ。ちょいと無理して動き過ぎると、翌日筋肉痛で碌に動けないとかしょっちゅうだし」

「そーそー。花を育てる人が木を育てても上手くいかないってのと同じよ」

 

……おや矢澤ちゃん。どうしてそんな、少しだけ微妙そうな顔をするんだい?

 

「友実に比べて蓮崎の例えはなんでこう、微妙なのよ……」

「まぁ例えは人それぞれだからね。それこそ十人十色、面白いじゃん」

「面白い事は面白い……それが真理さ」

 

沈黙の天使が舞い降りる。あっ、やっべぇ会話潰しちまったと後悔してももう遅い。東野ちゃんは続きに困り、矢澤ちゃんは呆れ返る。

……どうしよう、本当にどうしよう。なんとかこの状態を切り抜けなきゃ……!

 

「なんであんたはそう会話を潰したがるの」

 

矢澤ちゃんマジ天使。穂乃果ちゃん並みに天使だよ。キャラ作ってなければね。

 

「ごめんね、そういう人間だから」

 

しかし責められてもこう返すしか出来ない己の悲しさって奴ね。

 

「友実だって困ってるじゃないの……」

「まぁまぁ落ち着いてにこ。蓮崎さんは悪くないって。そこから話を発展させられない私の語彙不足も要因なんだから」

 

この場で悪いのは実際僕だと言ってしまってはいかんね。せっかくの気遣いを無駄にしてしまう。

 

「まぁ、そういうなら気にしないけど……」

「遠慮なく胸ネタ使ってきたから『なに言ってんだ』くらい返すと思ってたんだけどね」

 

だがこれも事実だ。もっと来ると思ってたよ。

 

「もっと人の事考えなさい」

「善処するよ」

「さて今更だけど、にこ。お茶と紅茶、コーヒーあるけど、何か飲む?」

「紅茶でお願いするわ」

「はいよ。今淹れるから待っててね〜。あ、蓮崎さんもおかわりいる?」

「うん、お願いするよ」

「では少々お待ちを」

 

数分も待てばほら来た。また美味いお茶が飲めると思うと顔が緩むね。だらしなく緩んでるんじゃないのかい?僕の事だけど。

 

「お待たせ〜。ほい紅茶と濃いめのお茶ね」

「ありがと」

「おっほ、来た来た。すまないね」

「いやいや客人に持て成さないでいつ持て成すんだ。てね」

「……にしても友実と蓮崎って珍しい組み合わせね」

 

珍しいどころか初めてあったカードだよ。

 

「そうだね。実際に蓮崎さんが図書室に来なかったら、こうして話す機会は無かったわけだし」

「ふーん。蓮崎は何しに来たの?」

「画集を見に来た」

「画集ねぇ、何の画集?ゴッホとか?」

 

うーん……わかるかなぁ……割とマイナーなんだよねぇ、実際。

とりあえず言って反応を伺ってみようか。

 

「……グスタフ・クリムト」

「あぁグスタフ・クリムトね。日本にあるのは『左を向いた少女』とか『女の胸像』とかだよね」

「実物を見た事はなくてね、画集があればと探しに来たんだ。偶然知ったけど、あれは不思議な魅力があってねぇ……」

「話についていけない……」

 

ごめんねぇ……でもやめない!

 

「まぁ作風が妖艶だったり死の香りが感じられるものが多いらしいから、にこにはまだ早いんじゃないかな?まぁ風景画もあるからそっちを見てみたら?」

 

いやそこで早いと言ってしまっては可能性を閉ざしてしまう。そこはまず例を示し、興味があるならどうぞと言うべきなんだよ。そうすればもしかしたら見てくれる可能性が高くなるからね。

芸術品を見るのに遅いも早いもない、本人の感性なのさ。

 

「おすすめは最も有名な『接吻』だよ。あれを見て合わなければ風景画に行くと良いね」

「へ、へぇー……風景画から見てみるわ」

「でも『接吻』て金箔とか使われてるから綺麗だよ?」

「……それ本当に絵画なの?金箔とか貼ってるならもう絵というより、ただの芸術品なんじゃないの?」

 

何を当たり前な事を。

 

「絵画もまた芸術品さ。それは十人十色、様々な描き方に加えて表現方法がある。それらは全て素晴らしい物ばかりだ。芸術品を見る時はただ見るか、調べた上で見るといい。また違った目線になるよ」

 

いらぬおせっかいと分かりつつもついつい矢澤ちゃんに熱く語ってしまった。彼女がアイドルに魅せられた様に、彼女がアイドルの魅力を多方向から理解している様に、芸術品もまた同じく、魅力が沢山あるんだ。アイドルもまた芸術。偶像(IDOLA)は芸術であると僕は思う。輝き、そして終焉を迎えたその時までの軌跡が、芸術となり人を魅せている。そうでなければ、魅せられる人が多い筈がない。

 

「あ、うん」

 

なんだい、人が教えてやってるのに気の抜けた返事だねぇ。僕プンプンだぞ。

 

「その際は是非また図書室においでよ。暇だったら友実が相手してくれると思うからさ」

 

──!?

この声は……

 

「遥さん!また急に現れて。やめて下さいと何回も言ってますよね?」

 

あぁ、あいつだ。あいつが来た。あいつが来やがった。僕を私に戻す、唯一の例外。僕が苦手なあいつが──!!!

 

「…………」

「蓮崎?」

 

矢澤ちゃんが何か言ってる。けれど耳に入らない。それだけ僕は三条遙(天敵)に動揺していた。

 

「なんでさ」

「?」

 

が、僕がそんな事を思ってるとはいざ知らず。三条は無視してりゃいいのに僕に話かけてきた。

 

「おや、榛那じゃん。珍しいね君が図書室に来るなんて。さっきの会話からして大方画集を見に来たのかな?」

 

なんだかんだで、こうしてしっかり喋るのは久しぶりだ。今までは挨拶程度だったからね。いくら苦手な相手とはいえ、話かけられたなら応じるまでさ。

苦手だけどね……

 

「……久しいね三条。僕がここへ来たのは確かに画集を見に来たからだけど」

 

表情は大丈夫だろうか。いや大丈夫じゃないみたいだね。

そんな僕を見かねてか、東野ちゃんがフォローに回る様に三条へ声をかけた。

 

「遥さん。相手はお客様ですよ?そこら辺キチンと理解して話しましょ?」

「おいおい友実。私は何も変な事は言ってないよ?ただ榛那が来たのを珍しがってるだけなんだから」

 

本当にそれ以上の感情が無いのだろう。あっけからんと返す。

対照的な僕と三条の様子をおかしく思ってか、矢澤ちゃんは事態の説明を求めた。

 

「ねぇ、聞いていいかしら。なんで蓮崎がこんな状態なの?」

「う〜ん、なんででしょうら。考えられるのは遥さんが何かやったかしか無いのですけど、その場合遥さんがあんなフレンドリーに行くはず無いですし……」

「…………大した事じゃないんだよ、別にね」

 

……単に僕が苦手なだけだからね。

 

「ちょっとにこも友実も失礼だよ。私は何もしてないって」

「しかし遥さん。何もしてないにしては蓮崎さんは遥さんを避けてる様に見えますか……?」

 

しょうがない、言うか。

「"ハルカ"って名前で明るい性格だから苦手なんだよ……」

 

実際そう大それた事ではない。端的に、僕の姉の遙香姉さんと同じ名前なのに、性格が昔の僕よろしく明るいから調子が狂うから苦手なだけ。

彼女は悪くない。単に僕が悪いのだけれど、どうしてもツンケンした態度になってしまう。

 

それだけ遙香姉さんの悪行が刻まれてるんだろうね……トホホ。

 

「……へ?何それ、ちょっとよくわからない」

「成る程……」

「ほらね。私の言った通りだったでしょ?」

 

三者三様の反応ありがとうね。

しかしこのままではマズイ……僕のキャラが崩壊する様な事態は何としても避けなければならない。

三条には悪いけど……

 

「普段の行いが行いだから疑われるんですよ」

「サボりとかね、そういうのは良くないわよ」

 

「──逃げよ」

 

ついつい大きな独り言が出てしまうが仕方ない。

お茶は飲み干した、後は立ち上がるだけだ。

 

「悪いけど僕ここでお暇するから。お茶美味しかったし楽しかったよ!!」

 

夜逃げするみたいだけど許しておくれよ!!

早歩きで司書室を立ち去る。

 

「あ、待ってよ榛那。まだ私来たばっか……」

「遥さんは仕事しましょうね。折角来たばっかりなのですから」

「……はい」

「……何で逃げたのかしらねぇ……?」

「さぁ?やっぱり遥さんが苦手だった、とか?」

 

外野の声が聞こえてくるけど無視無視!!

 

僕は不思議系変人なんだよ。

 

こんなに乱されるのは静岡のあの、旅館の子だけでいいんだ。

 

…………明日三条には何か奢ろうかな。

 

なんとなく、捕まえられた三条が不憫に思えた。




巻き込まれた図書委員も面白いので、この回見て興味沸いたらぜひ読んでみて下さい(ダイマ)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。