一般人は毒を吐く。   作:百日紅 菫

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音の喪失と六色の光です。

巧side

 

銀の福音の操縦者を抱えて海上を飛ぶ。生身の人間、しかも内側を痛めているかもしれないので大したスピードは出せないが、それでも影響がギリギリでない速度で、拠点である花月荘を目指す。

先生たちが包囲している戦域はとっくに脱出し、花月荘まではあと十分もかからないだろう。

それでも、俺の焦りは止まらない。

 

「真理…っ」

 

戦場に残してきた真理の左肩は完全に脱臼していた。無理やり入れたようだが、痛みで動かすどころではないはず。

それに真理の専用機がいくら低燃費だからといって、あれだけの戦闘を長時間続けているんだ、近いうちにエネルギーが切れる。そうなれば未来はただ一つ。

死あるのみ、だ。

その未来を実現させないためにも、早く花月荘に戻らねば。

そんな思いとは裏腹に、花月荘に到着したのは、それから十五分後だった。飛行中に操縦者が吐血したために、スピードをかなり落とすことになったのだ。

 

「織斑先生!」

 

花月荘裏手ににある砂浜に降り立ち、待機していた医療班の先生に操縦者の女性を預け、作戦会議をした部屋へと急ぎ、ノックも無しに扉を開け放った。

 

「真理からの通信は!?」

「…澵井か」

 

部屋の中には織斑先生を含め五人ほどの先生方が、それぞれのパソコンを使ってデータの精査を行っていた。その中の一人、部屋の中で最も大きなモニターの前に座っていた山田先生が話し始めた。

 

「戦闘データは送られてくるんですが、やはり苦戦を強いられているようで通信には応えてくれていません」

「じゃ、じゃあ作戦の立案はまだできていないんですか?」

 

山田先生の前にあるモニターには、一人称視点のゲームのように揺れながらも、ひたすらに福音が映っているウィンドウが開かれていた。どうやら真理の視界をそのまま表示しているようだが、なにか違和感を覚える。

そして、その疑問は苦渋に満ちた織斑先生の言葉ではっきりした。

 

「…お前が撤退した後、福音が第二次移行した。結果、今までの戦闘データはほとんど意味を成さず、現状佐倉から送られてくるデータを精査している。が、大幅な性能上昇と第二次移行に伴う単一能力の発現により、データ収集はほぼゼロから、ということになっている」

「なっ…!?」

 

第二次移行。

それは、ISが発表された時点まで遡っても五指で足りるほどしか見られていない、ISの進化だ。その条件は未だ解明されておらず、ISコアのブラックボックスと並んで研究者たちを悩ませる議題の一つだ。

そして、第二次移行にはその希少性に見合うだけの価値がある。

カタログスペックの五倍以上の性能を発揮するのは当然、過去に第二次移行をした機体のすべてが単一能力を発現させている。一夏の零落白夜は単一能力ではあるが、第一次移行の機体だ。

第二次移行した機体の単一能力は、まさしく一騎当千。

それほどの機体を相手に、真理はまだ生き残っていた。

 

「今、どれくらい解析できているんですか?」

「……衛星からの映像がジャミングされていて、情報源は佐倉だけ。福音のスペックの三割も解析できていない」

 

俺がここに戻ってくるまで三十分弱。福音のスペックを完全に把握するまで、少なくともあと一時間以上はかかるということになる。

だが、そんな時間は無い。

真理は怪我をしているし、それでなくとも福音が第二次移行しているのだ。むしろ、今ギリギリでも耐えていられる方がおかしい。

 

「じゃあ、三割でもいいので出撃許可をください!真理は満身創痍なんですよ!?」

 

鷹修羅は応急修理とエネルギー補充に出している。しかし、それもあと十分もあれば終わるだろう。その間に、解析されたデータと、俺の戦闘データを元に予測を立て、作戦をくみ上げる。そうすれば少しでも早く真理を助けられる。

しかしそれは、きっぱりと断られてしまう。

 

「ダメだ。許可できない」

「何故!?」

「ジャミングの正体も看破できていない。福音の情報も少ない。何より、お前を含め、専用機持ちは冷静ではない。そんな奴らを出撃させても、織斑のようになるのが関の山だ」

「でも!それじゃあ真理はどうなるんですか!?」

 

織斑先生に一歩詰め寄り、胸倉を掴み上げようとした瞬間。

モニターから掠れた真理の声が聞こえ、薄暗い部屋を照らすほどの光があふれた。

 

『戦域読心(サテライト)!!』

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水柱を上げて現れた福音は、先ほどまでと姿形が変わっていた。

俺が破壊した胸部のアーマーは修復され、完全に塞がっていた。そして、何より目を引くのが、背中の光の翼。さっきまでは機械でできていたはず。これが本来の姿なのか、何かしらの要因を以て変化した姿なのか分からないが、ただ一つ言えることは、死ぬかもしれないということだ。

 

「あー。死にたくねぇな…」

 

まだやりたいことがある。言いたいことがある。会いたい人がいる。

学園に来てからというもの、四六時中誰かが近くで騒いでいた。昔は、桜新町でしか得られなかった温もりが、学園では常に身近にあった。

いつの間にか俺は、ティナや楯無先輩だけじゃなく、あいつらにも心を許していたのかもしれない。

 

「……なんにしろ、生き残んなきゃ全部終わりだ」

 

無人の福音と目が合った気がした。

瞬間、眼と鼻の先に福音のフルフェイスがあった。

 

「っ!?」

 

咄嗟に距離を取り、言霊で槍を生み出すが、すでに目の前には、さっき散々弾いたエネルギー弾が壁のように迫っていた。

 

「ぐっ…!」

 

被弾しそうな弾だけを弾くが、弾そのものの威力も上がっているのか、五発ほど弾いたところで槍が壊れる。加えて、左肩を無理に動かしていることもあって、最大限力を発揮できない。

壁の隙間を抜けるように躱し、福音の全体像を再び捉える。光の翼が目を引くが、ところどころ変化している箇所もある。そして、先ほどの大量の光の弾丸。海に叩き落す前と比べて、弾の大きさや形状も変わっている。移動速度に関しては比べるべくもない。

そこから導き出される答えは、変化ではなく、『進化』。

 

「第二次移行か!」

 

機械音の悲鳴を聞きながら、エネルギー弾『銀の鐘』を回避し続ける。その最中に花月荘との通信を入れて、俺の視界を四音と共有して先生の元へと送る。これで、俺がやるよりもデータの解析が進むだろう。一応俺との戦闘データも一分ごとに送っているが、さっき澵井が送っていたデータのほとんどは無駄になっただろうな。スペックの予測を立てるだけならできなくもないだろうが、所詮は予測。戦闘データがあるに越したことはない。

言霊でひたすら槍と刀を生み出し、『銀の鐘』を回避し続ける。刀で裂き、槍で叩き落し、上へ下へと強烈なGを受けながらも、視界には必ず福音を捉える。

が、突然目の前に福音がいた。

 

「なっ……ゴハッ!」

 

いつ移動しやがった?いや、それより広域殲滅型の武装を持ったうえで、こんだけの威力のパンチを打てんのかよ…。

近・中・遠距離で隙なしの機体。第四世代機なんて目じゃねぇくらい完成されてんじゃねぇか。

殴られた衝撃をそのままに後ろに跳ぶ。格闘戦まで高レベルでこなすとなれば、もはや俺に勝ち目はない。だがそれは負けを意味するわけでもない。

勝てない以上、こちらから攻めるのは愚策だ。幸い、高レベルの格闘性能を有しているとは言っても、近接は俺の方が上。しかし問題は、福音の移動速度と銀の鐘の弾数だ。無限に思えるほどのエネルギーを持つ福音が放つ銀の鐘は、対処しきれる量じゃない。こちらは言霊で一々武器を出さなくてはいけないから、そのラグは身一つで躱さなければならないのだ。

まさしく、福音一機が『戦争』そのもの。

 

「ショートカットォ!」

 

戦争相手に、人間一人じゃ敵うはずもない。考えろ。生き残る術を。

 

「槍槍槍槍ぃ!」

 

出現した槍を振るい、銀の鐘を振り払い、時折攻め込んでくる福音の拳と槍を交える。

だが、このままではジリ貧だ。エネルギー切れで海に落ちるのもそう遠くない。

くそっ。

内心で毒づく。

福音が上空へと飛び上がる。距離が開けば、銀の鐘による嵐の苛烈さが増す。追従するように空を駆け、その間も言霊を使い続ける。しかし、言霊には致命的な欠陥が存在するのだ。

第三世代機はイメージインタフェースを用いた、つまり創造力で動かす兵器だ。その点、言霊は言葉により兵器を生み出すものだ。汎用性は言霊のほうが高いだろうが、その分、喉を酷使する。

つまるところ、喉を酷使する。ことはさんでさえ、使い過ぎれば声を枯らす。

その上全力で動きまくっているのだ。もはや喉は限界だ。言霊で生み出せる武器もそう多くない。

 

「……また捨て身になるとはな」

 

言霊を使えない以上、俺に身を守る術はない。ならば、攻撃手段があるうちに、福音を多少なりとも戦力低下させて、後に任せた方がいい。それに、賭けになるがデータ収集を大幅に進められる武装もある。問題はそれを俺が使いこなせるかどうかだが、どうにかするしかない。

そうなると、チャンスは福音が近づいてきた瞬間。作戦はいたってシンプル。

 

「その羽、もいでやるよ…!」

 

光の翼を片方でも欠損させれば、機動力も弾幕も薄れるだろう。そうなれば、後発組の作戦もやりやすくなるはずだ。

上空から放ってくる銀の鐘の収束砲を紙一重で躱し、持っていかれた籠手に目もくれずに福音を見つめる。

必ず存在するはずの隙を逃さないように、『眼』を凝らす。

先刻の澵井のように、多少の被弾は気にすることもなく、ひたすら福音との間合いを計り、時を待つ。

既に袴型のスカートアーマーは半分ほどが吹き飛び、右手の籠手は存在しない。黒いブーツもサンダルのように足裏の部分しか残っていないような惨状だ。

そして、左手の籠手が吹き飛ばされた瞬間、福音が動いた。

瞬間移動のような刹那での移動を、感覚と極限まで情報を削った視界で捉える。

痛む左肩を無視して、両手で握った槍を持って、膝が胸に付くくらいの低姿勢で突進する。すれ違いざまに振り上げた槍は福音の右翼を半分に切断し、高エネルギー体に触れたからか砕け散っていた。

しかし、十分な戦果だ。

だがもう一つ、やれることがある。

本家の生態電流を読み取るほどの力は無いが、機械を動かす命令系統を読み取るくらいの力はあるであろう、サトリの力。

劣化版の俺には、広域と呼べるほどの読心は無理だが、このくらいなら。

 

 

「戦域読心!」

 

 

頭部についている猫耳型のヘッドアーマーが立ち、そこから蒼い稲妻が空へと昇り、辺りが白く照らされる。

頭に流れる情報の奔流によって、脳が熱で溶かされるような苦しみに耐えながら、福音の命令を読み取る。

どう動くか、どこまで動けるのか。そして何より、どういう戦闘を行うのか。

機械である以上、必ず何かしらの行動パターンがあるはずだ。こうされたら、こう返す。だが、ISコアは進化する人工知能のようなものだ。意志を持っている。そのパターンは百や千じゃ利かないだろう。

だがそれでも、そのほんの一部でも読み取ることができれば、後から来る奴らが倒してくれるだろう。

 

「ぐ…ぎぎ…ぁあぁああああ!」

 

脳は破裂しそうなくらいの激痛に苛まれ、福音の情報を花月荘の作戦本部に送ってる最中にも銀の鐘による攻撃は続いている。

スカートアーマーや籠手、ブーツといった装甲はすでに消え失せ、足裏のAICも片足を失っている。そんな状態でISの攻撃を受ければ、無事ではいられない。

……ここまでか。

視界いっぱいに映る福音の光の翼。それが俺を包み込んだ。

エネルギーによる乱気流が全身を打ち、至る所が骨折し、筋肉は断裂、内臓も傷ついているだろう。

そんな状態だというのに、痛む体の力を抜き、背中から落下していく。

 

「…あとは、頼む」

 

風を受けて視界に入ってきたヒメさんと同じマフラーを見ながら掠れた声で呟く。

俺にやれることは全部やった。

あとはあいつらが、やってくれるだろう。

衝撃とともに、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

巧side

 

あれから、数時間経ち、太陽は水平線の向こうに消えていった。

モニターが白く光り、その光が収まった後、会議室にあるパソコン全てが一斉に福音のデータのダウンロードを始めた。第二次移行した後のカタログスペックから、実戦時の稼働データ。一部兵装のような機密、そして何より、単一能力の正体が分かった事が大きい。

しかし、それに喜べるはずがなかった。

何せ、福音のデータと引き換えに、俺たちは真理を失ったのだから。

いや、失ったのではない。俺が、真理を海に落としたのだ。

 

「…先生。出撃許可を」

 

俺の責任だ。無理に作戦を変更し、真理をあの戦場に残してきた、俺の。

ならば、せめてもの償いとして、俺が福音を落とさねばなるまい。そんなことで真理が報われるなんて思わないし、ティナや更識先輩が救われるとも思っていない。

それでも、俺のせいで失った人と、その人を思う人たちの悲しみを背負うためにも、真理が残してくれたデータを無駄にしないためにも、俺は福音を落とす。

涙を流すのは、その後だ。

だが。

 

「……ダメだ」

 

ぶちっと、頭の中で何かが切れる音がした。

そして、全身に回ってきた熱をそのままに、織斑先生の胸倉を掴み上げる。

 

「いい加減にしろよ!データは十分揃った!これ以上何を待つってんだ!?」

「…解消されたのはデータ不足だけだ。それ以外、何も解決していない」

「っ……もういいっ!」

「さ、澵井くん!どこへ…」

「出ます。福音を落としてきます」

「待て。命令違反だぞ」

「別にいいです。例え専用機を剥奪されようと、今行かなきゃ、俺は俺を許せません」

 

誰もいない廊下を歩きながら考える。

会議室に送られてきたデータは、鷹修羅を使えば簡単に手に入る。その鷹修羅も、すでに応急修理とエネルギー補充は済んでいるだろう。それ以外に必要となるものといえば、福音の現在位置。そして何より、福音を落とすための作戦だ。

今は福音を落とすことだけを考えろ。全てはそれからだ。

鷹修羅の修理をしてくれた先生たちから、鷹修羅の待機形態であるペンダントを受け取り、砂浜に出る。そして、会議室のデータを覗き見て、福音のスペックを脳内に叩き込む。

真理がこれを一人で相手していたのかと思うと、ゾッとする。そして同時に理解する。俺の罪は、福音を落とした程度じゃ償えないということを。

そんな覚悟を決めていた俺の肩に、誰かが触れた。

 

「巧」

「…シャル。それに、みんなも」

 

振り向いた先には、シャルを先頭に、箒、鈴、セシリア、ラウラが立っていた。

 

「行くんでしょ?」

「ああ。二次移行した福音のデータはハッキングした。一夏と真理が残してくれたものを無駄にしないためにも、福音は絶対に潰す」

「そっか…真理も」

 

俺の言葉から、真理がどうなったか察したようだ。

場の空気が一瞬重くなり、皆の顔に影が差す。この悲しみも俺が齎したのだ。

ギリ、と奥歯が鳴る。

 

「じゃあ、行って、グエッ!?」

 

鷹修羅を起動させて、飛ぼうとしたその時、後ろから襟首を引かれて尻もちをつく。強化繊維でできたISスーツが喉を絞め、息どころか意識が飛びそうになった。

 

「福音の居場所、わかってるの?」

「いや、それは…」

「作戦っていうのはさ、一人でやったって大した効果は無いんだよ。皆でやるからこそ意味がある」

「そうよ。それに、はらわた煮えくり返ってんのは、アンタだけじゃないの」

「わたくし達だって、仲間がやられて黙ってはいられませんわ」

「それに加え、兄様まで落とされたと知って、私たちが大人しくしている訳がないだろう」

「……すまなかった、巧」

「箒?」

「私の不甲斐なさが、一夏を真理を、そして巧の心を傷つけた。それを知って、私はISを手放そうとした。でも、違うんだ。私がすべきことは、力を手放すことじゃなく、今度こそ力に溺れないで福音を倒すことなんだ」

 

その顔は、戦域から俺が連れ出た時とは打って変わって、覚悟を決めた者の顔をしていた。元々の雰囲気と相まって、まるで一本の刀のようだ。

シャルが差し伸べてくれた手に、俺自身の手を重ねて立ち上がる。

 

「みんな、気持ちは一緒なんだよ」

「ああ、みたいだな」

 

少しだけ気持ちが軽くなる。

 

「よし、じゃあ作戦会議だ。十分後には出るぞ!」

「「おお!」」

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴side

巧が作戦立案をし、ラウラがドイツ軍IS部隊からの報告で福音の位置を特定した。その間、セシリアはパッケージの最終調整、シャルも武装の確認をしていたのだが、アタシはといえば、携帯とにらめっこしていた。

画面にはティナの電話番号が表示され、通話ボタンが急かすように点滅している。

 

「……真理のやつ、勝手に落ちてんじゃないわよ」

 

真理が福音にやられて、海に落ち、行方不明であることは巧に聞いた。そして、それを聞いて真っ先に脳裏に浮かんだのが、ティナだった。

箒が落ち込んでいたのは、自身のせいで思い人がやられたという責任感。だから、アタシはその責任から逃さないために、向き合わせるために箒の頬を叩いた。多少私怨も混じっていたけれど、最終的に箒は立ち上がってくれた。

だが、ティナは違う。

アタシが言うのもなんだが、ティナは真理のことが好きだ。真理は気づいていないようだが、周りから見ればもう付き合ってるんじゃないかってくらい仲が良いし、ティナも隠す気がないようだった。

だからこそ、真理の行方不明をティナに伝えるべきか悩んでいた。

本来なら、伝えるべきではないだろう。

この作戦は軍事機密に触れるような極秘作戦で、それを一般人であるティナに伝えるのは代表候補生として絶対に間違っているし、まだ行方不明というだけで、生きているかもしれない真理を探してから伝える方が友達として正しいのかもしれない。あの真理のことだ、作戦が終わったらすました顔で旅館でお茶を啜っていても不思議じゃない。

だが、それでも、恋心を寄せている人が知らずのうちに消えていることは、伝えたほうが、いや、伝えるべきではないのだろうか。

それも、アタシ達のように自分の心を押し付けるだけの恋心ではなく、相手を尊重し、自分の幸せより相手の幸せを一番に願うティナには、伝えなくてはならないのでは。

その自問自答を繰り返し、時間経過でディスプレイが消えること五回。遂にアタシは、通話ボタンを押した。

数回のコール音の後に、つながる。

 

「もしもし、鈴?」

「…ティナ」

「どうしたの?」

 

捜索もしていない今、事実を伝えて、態々不安を煽るようなことを、親友に対してするべきなのだろうか。

 

「あ、あのね…」

 

通話状態でも言い淀むアタシの声を聴いて、ティナは何かを察したようだ。

 

「…真理に、何かあったの?」

 

正直、察しが良すぎると思う。

出会った頃はもっとのんびりしてたはずなのに、と内心で親友の謎の成長を感じる。

 

「…うん。詳しくは言えないんだけど、真理を探さなくちゃいけなくてね」

「そっか、うん……これから探しに行くの?」

「うん…」

 

もしかしたら、探すどころか、アタシ達まで落とされるかもしれないけれど。

流石に、そんなことは言えない。ただでさえ、好きな人がいないこと、もしかしたら帰ってこないかもしれないということを暗に伝えているのだ。これ以上、無意味に不安にさせるのは絶対に間違っている。

でも、ティナは、電話越しに言ってきた。今のアタシが失っている強さで。

 

「大丈夫だよ」

「!」

「真理は必ず帰ってくるよ。どんなにボロボロになっても、必ず。だって、鈴が、皆が探してくれるんでしょ?きっと、助けてもらうのを嫌がって、無事に戻ってくる。だから、私はここで待ってる」

 

ティナは信じている。

真理を、アタシ達を、そして、自分が信頼している人たちとの絆を。

だったら、その信頼と絆に応えなきゃ、親友なんて言えないじゃない!

 

「…任せなさい。絶対に、真理を連れて帰るわ!」

「うん、頼んだよ」

 

絶対に、福音を倒して一夏の仇を取り、真理を助ける。

再度心に刻み込み、ISを展開する。

 

「準備はいいか?」

「ああ」

「勿論ですわ」

「僕もいける」

「準備完了だ」

 

目前には、色の違う専用機を身に纏った仲間の姿。

昨日までだったら対抗心満載でこんなに落ち着いていられなかったのに、今はみんなが頼もしくてしょうがない。

機械腕と鷹のようなカスタム・ウィングが特徴的なISを纏う巧。

唯一の第四世代機である紅いISの箒。

パッケージによって薄くなった蒼い装甲のセシリア。

黄色の万能機であるシャルロット。

黒く、肩の巨大化したレールガンが目に付くラウラ。

そして、アタシの専用機『甲龍』

作戦も、福音の居場所も定めたアタシ達に唯一無いものといえば、織斑先生の出撃許可くらいのものだろう。

 

「帰ったら、織斑先生のお説教よ。覚悟しときなさい」

 

その言葉に、険しい顔をしていた皆の雰囲気が、僅かに和らぐ。

 

「さあ、行くわよ!」

 

親友のために。仲間のために。

アタシ達は、決戦へと挑む。

 

 


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