一般人は毒を吐く。   作:百日紅 菫

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遅くなってすみません。本当にすみません。
まあ、そんなに楽しみにしている方がいるのかはわかりませんが…。

今後も、恐らくこのペースになるかもしれませんが、長い目で見てやってくださいお願いします!


お買い物は大変です。

「失礼します」

 

プシュッという軽い音とともに開いた扉をくぐると、中にいる織斑先生と山田先生がパソコンのモニターから顔を上げた。

 

「来たな、佐倉」

「朝早くからすみません」

 

現在の時刻は朝7時。朝から稽古をしていると、織斑先生がやってきて「お前の専用機を返すから第一整備室に来てくれ」と言われたのだ。四音がなくても別段困りはしないが、あいつと約束したのは俺だし、俺の専用機になった以上は常に持って責任を負うのが筋だろう。

稽古を切り上げた俺は軽くシャワーを浴びてから、第一整備室に来たのだ。

 

「いえ。それで、何か分かりましたか?」

「ああ。既存のISとは生まれた過程も、その存在も違うため『擬似IS』の四音と呼称するそれについて、大まかに二つ、お前に伝えなければならない」

「はぁ」

 

二つ。思ったより少ないな。

 

「まず一つ。この擬似ISはお前以外には起動することができない。その上、お前が持っているとき以外はISとしての反応すら示さない」

 

つまり、専用機以上に専用機、ということか。澵井たちが持っているような専用機はあいつらの手元を離れてもISとしての反応はあるが、四音は俺から離れたらただの鉄の塊、黒いヘアピンになる、と。

 

「紛失した場合を考えれば他のISより安全ですね」

「そういう言い方もできるが…、お前ならわかっているだろう」

「もし解析されて量産が可能になったら、ISコアを必要としないISが生まれることになる。そうなれば世界の軍事バランスが崩れる、ですよね」

「ああ。だから肌身離さず付けていろ。絶対に失くすな」

「了解です」

 

まあ、あの泥のようなものから作られたわけだから、そう簡単には量産できないだろう。

 

「そして二つ目。お前が一夏との試合で使った兵装とそれ以外の兵装についてだ」

「…よく解析できましたね。俺以外には起動できないんですよね?」

 

素直に驚いてしまった。

起動もできない、反応すらしない機械から、それだけの情報を抜け出せたなら収穫としては十分だろう。というか俺が起動して、そこで解析すればよかったんじゃ…。

 

「ああ」

「私たちが解析を始めたときに、兵装の情報だけが表示されたんです。その後、システムやあの泥の成分から生まれた金属について調べようとしたんですが、まったく反応も示さず、エラーばかり出てしまって…」

「で、だ。お前が試合で使った兵装の名前だが、音声認識型武装製造システム『言霊』というらしい」

「………」

 

言霊。そこから連想されるものはただ一つ。言霊使いであることはさんだ。

あの時は何となく感覚で使っていたが、名前がわかるとその使い方わかりやすくなるし、汎用性も高くなる。名前って大事だなぁ。

 

「どうした?」

「いえ、何も。それで、ほかにも武装があるんですよね?」

「ああ。言霊を含めて、四音には四つの兵装が積まれていた。『言霊』を含め、『広域読心(サテライト)』『調律(チューニング)』そして最後が…」

「最後が?」

 

何故溜めを作る。織斑先生、あなたにそういうのは求めてません。

しかも、そのラインナップからすれば最後の一つも予想がつく。ことはさんにアオさん、秋名さんとくれば、最後は…。

 

「表示されなかったんです」

 

………。

 

「は?」

 

どう考えても、流れ的に『龍槍』だろ。俺には過ぎた代物だが、なんていうかこう、流れとかそういうのってあるだろ。

 

「兵装は四つあったんだが、最後の名前の欄だけ文字化けしていてな。何か心当たりはあるか?」

 

…そういえば、龍槍そのものを見たのって、道場に通い始めた頃に数回だけだな。小学生のころにはもう無かったような気がする。

でも、ヒメさんたちの会話を思い出してみれば、存在しているのは確かだろう。どういうことだ…?

 

「…あるっちゃあるんですが、ほぼ無いに等しいですね」

「そうか。まあ、いい」

 

パソコンに繋いであった待機形態の四音を手渡され、それを桜のヘアピンと並んで頭につける。

 

「ひとまずお前に返す。今度の臨海学校で装着時のデータを取るかもしれんから覚えておけ。それまでに模擬戦するときは私に声を掛けろ」

「了解です」

 

模擬戦はしないと思うけどなぁ。

それよか、臨海学校か。何も準備して無いな。

 

「佐倉君は臨海学校の準備出来てますか?織斑君たちはレゾナンスに買い物に行くそうですが…」

 

げっ、マジか。

 

「まぁ、大丈夫です。じゃあ、用事があるんで失礼します」

 

一礼して整備室を出る。入った時と同様にプシュッという軽い音が鳴り、扉が閉まった。

にしても、織斑たち、ってのが何人くらいを示しているんだ?多分、グループが二、三個できてると思うんだけど。

 

「ま、いっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「真理くんや、その恰好は…?」

「これから行くのは道場じゃないよ?」

 

学園の最寄り駅。そこには、青いジャケットにミニスカートとブーツを合わせた楯無先輩と、へそ出しのシャツの上にパーカーを着て、デニムとスニーカーを合わせたティナ。

そして…。

 

「……私服、持ってなかった…」

 

ヒメさんたちに貰ったなんちゃって袴にパーカーを着た俺。

俺が制服以外の服を持っていたのは小学生の頃だけだ。中学の時には制服と学校指定のジャージ、ヒメさんたちに貰った袴と、秋名さんと恭介さんのおさがりのジャージと寝巻用浴衣。それしか持ってない。特に必要無かったし、今持ってるので十分だ。

だから、今日出かけると決まった時も、制服でいっかぁ、とか軽く考えていたが、当日になって私服で来てなんて言われて箪笥を開いてみれば、あら不思議。私服と呼べるものが一つもない。

仕方なく、袴におさがりのパーカーを着てきたのだが、場違い感が凄まじい。服に対して興味はないけれど、自分がズレていることくらいは理解できる。

 

「別に悪くはないんだけど、これから行くところって…」

「レゾナンスだからねぇ」

 

むっ。そこまで言われると言い返したくなるぞ。

 

「じゃあジャージか浴衣か選んでください」

「「ごめんなさい」」

 

自分で言っといてなんだけど、謝られるとちょっとへこむな。

そんなやり取りがあった後、俺たちはモノレールに乗り込み、大型ショッピングモール『レゾナンス』に向かった。

元々は楯無先輩との約束であったヘアピンのお礼を買いに行く予定だったのだが、臨海学校も近いということでその準備もついでにすることになった。そこで、楯無先輩からティナを誘って行こうという提案を受け、メールしてみれば、「行く行く行く!!」と眼を輝かせて承諾。そして、今に至る。

 

「さて、まずどこから見て回ろっか?」

 

出入り口に置いてあった案内図を片手に、楽しそうにティナと話し合う楯無先輩。しかし俺は、こういった大型施設に来たことがないので会話に参加できない。というか何がどこにあって何を売ってるのかすら分からない。

入り口のゲートをくぐった瞬間から目新しいものが多く、ついでに人も多くて酔いかけている。情報量が多すぎるぞ、ショッピングモール。

 

「真理、行こ」

 

俺が酔いかけてる間にどこに行くか決めたのか、ティナが俺の腕を引っ張る。軽くたたらを踏むが、足取りを戻すとティナが腕に絡みついてくる。

 

「…邪魔なんだけど」

「あ、ずるーい!私も私もー!」

 

そういって今度は楯無先輩が右腕に絡みつく。

柔らかいし、いい匂いだし、役得ではあると思うが、歩くとなるとすごい邪魔。

 

「はぁ、邪魔、ですっ」

 

両腕を勢いよく振り上げ、二人の拘束を外す。

 

「あー、もう」

「むー。まあしょうがない。早く行こっ!」

 

ティナと楯無先輩が手をつないで、俺がその後ろをついていく。その途中、何度か視線を向けられた。美少女二人と歩いていることへの妬みの視線だったり、残念なものを見る目だったり、基本的にはその二種類だ。居心地悪いなぁ。

 

「それで、最初はどこに行くんだ?」

 

 

 

 

 

 

そうして連れてこられて来たのは…。

 

「服屋?」

 

何故服屋なんだ。臨海学校は制服で行くし、寝る時も確か旅館の浴衣着用だった筈だ。服を買う必要はない筈なんだけど。

 

「だってぇ、そのままの恰好だと流石に、ねぇ」

「だいじょーぶ!私たちがコーディネートしてあげるからさ」

 

ああ、要するにダサい服を今すぐに変えろってことね。

 

「じゃあ、任せるわ」

 

そう言うと二人そろって店の奥へと消えていった。

ため息を一つ吐いてから、店内にあるベンチに腰かける。軽く店内を見回してみると、客はかなり少なかった。というか俺と楯無先輩、ティナしかいない。これが女性用の店だったら単に人気がないと判断するところだが、向かいの女性客用の店は客で満員なところを見ると、やはり女尊男卑の弊害なのだろう。この店は大げさに反映されているようだが、レゾナンス内の他の店を見ても男性用の店は儲かってないように見えるし、そもそも店舗数が少ない。

やべぇな。ここで女尊男卑の奴らになんか言われたら騒ぎを起こさずにいられるかな、俺。

 

「真理ー!ちょっと来てー」

 

ま、あの二人がいれば大丈夫かね。

 

「はいはい」

 

思考を切り替えて、ティナと楯無先輩の元へと向かうと、既に更衣室に選んだ服をかけてあるらしく、おとなしく着替える。正直俺に服飾のセンスは無いので、着替えた自分がダサいのかどうか分からないが、二人が選んだセンスを信じて更衣室から出る。

 

「「おぉ~」」

「似合ってんのか、これ?」

「似合ってる似合ってる!」

「本当はもっと選び倒したいんだけど、今日の目的はそれじゃないからね」

 

そうだね。でもその言葉を聞くと、そのうち俺の服を買いに来るって聞こえるからやめようね。

あれ?そういや、この服って俺が買うの?

 

「あの、この服って俺が買うんです?」

「うん。私たちそんなお金持ってないし」

「俺も持ってねぇよ」

 

え、ちょっと待って。

一縷の望みをかけてティナと同時に楯無先輩へと顔を向ける。

 

「ふっふーん。私が払っておいたわ。貸し一よん、真理君」

「ありがとうございます。やっぱ国家代表ともなると服代くらい、はした金みたいなモンなんですか?」

「んー、お店にもよるけど、貯金に響くって程ではないわね」

「へー!凄いんですね、国家代表って!知り合いにも一人いるんですけど、生活の仕方が庶民と大して変わらなくて…」

 

ちょっと、この人の交友関係が凄いんですけど。楯無先輩も含めたら少なくとも国家代表二人と知り合いってことでしょ?ティナ、お前だけは普通だと信じていたのに。

とまぁ、予定外の荷物がいきなり増えたが、本来の目的を果たすために次なる目的地を目指して歩き始めた。

 

「臨海学校っていうと、やっぱり水着を買うのかしら?」

「そうですね。たっちゃん先輩は去年行ったんですよね。どんな感じでした?」

「そうねぇ。一日目は遊ぶだけだったから楽しかったけど、二日目以降は大変だったわ。専用機持ちは機体の整備やパッケージの導入に、稼働訓練。訓練機の方は確か、訓練機のパーツ整備、だったかしら」

 

面倒くせぇ…。

 

あれ、俺はどっちに振り分けられるんだ?

専用機を持ってはいるけど、パッケージとかは無いし。あれか、兵装の確認とかやるのかな。名前がわかってる兵装の中じゃ『言霊』しか使ってないわけだし、『広域読心(サテライト)』とか『調律(チューニング)』を実際に使ってデータ取り、みたいな。

正直、俺も使ってみたいし。

 

「あ、水着売り場ここだね」

「じゃあ、男女で売り場違うみたいだし、あの辺のベンチ集合でいいか?」

 

適当に指で示しているが、俺の話は一つも聞いてない。ついさっきも見たような光景で先が思いやられる。

どうせあれでしょ。俺の水着選ぶとか相談してるんでしょ?

 

確かに服のセンスは無いが、ヤバいのとマシな服の違いくらいは判る。つーか黒とか青とか選んでおけば大体セーフだろ。

パッと見て、黒の生地に青いラインが入った半ズボンタイプの水着を手に取る。

 

「これでいいでしょ?先に買っておくからティナも買ってこい。ちょっと用事済ませたらあそこのベンチで待ってるから」

 

返事を聞かずにレジへと歩く。

店員がレジでコチャコチャしている間にチラッと背後を見てみると、二人の姿はなくなっていた。

包装された水着を受け取って、店のロゴが入った袋を片手にエスカレーター脇の案内図を見る。今いるのが西側だから、目的地とは逆方向だ。

 

 

先日、ことはさんと連絡を取っていた。元々は近況報告のようなものだったのだが、話の流れでレゾナンスへ行き、そこで臨海学校の準備や楯無先輩へのお礼の品を買うことを話すと、怒涛の勢いで喋りだした。

 

『え?先輩女子と同級生の女の子と買い物?水着とプレゼントを買う?お礼?そんなのプレゼントと一緒でしょ。ああ、ヘアピンのお礼ね。は?選んでもらってお金だけ真理が払う?なーに言ってんのよ!秋名みたいに鈍感じゃないんだからちゃんとアンタが選んで渡すのよ!センス?そんなんどうだっていいのよ!ちょ、アオー!真理が女子にプレゼント贈るんだって!』

『えー!?もひもひまりひゃん?…ゴクンッ、ぷはっ。女子へのプレゼントだって?安心していいよ!女子力の塊である私がちゃーんと教えてあげるからね!まずは相手の雰囲気と性格と特徴を教えてもらおうかな。え?やだなー、二人ともだよー。片方だけにあげてちゃ不公平でしょ?お礼ならちゃんと別で相談してあげるから。へ?そだよー。お礼はちゃんと二人きりになってから渡してあげてね!で、特徴は?ふんふん。青髪の美人で猫っぽい先輩と、金髪美人でさっぱりした性格で、ちょっとことはちゃんに似てる、と。先輩ちゃんの方からヘアピンを貰ったんだよね?じゃあ先輩ちゃんのプレゼントの方からアドバイス伝えてくね、ちゃんとメモして、最後は自分で決めるんだよ?まず________』

 

途中からアオさんに代わり、そのアドバイスは二時間にも及んだ。ことはさんもそうだが、ノンストップでしゃべり続けるアオさんには言霊使いであることはさんも真っ青だっただろう。いや、あの二人はあれで通常運転だっけか。

結局、二時間近くぶっ通しで話すアオさん相手にグロッキーになりつつも、楯無先輩とティナ宛てのプレゼントを決めた。レゾナンス内にある店舗を調べ、すでに予約もできている。

あとは受け取って、先ほどのベンチまで戻るだけなのだが、脳裏に山田先生の言葉がちらつく。もう悪い予感しかしないんだよなぁ。

その予感を裏付けるように、後ろから肩を叩かれる。

 

「真理、お前も来てたんだな」

 

振り返ると、そこにはパラメーターがカンストしてそうなほどオシャレな姿に身を包んでいる澵井とデュノアがいた。…オシャレとか言ってるから俺には服飾のセンスがないのだろうか。今度からシャレオツって言おう。ダメか。

 

「……ああ。じゃあな」

「待て待て。ちょっと話があるんだよ。俺も、シャルも」

 

さっさと二人から離れようとすると、澵井に腕を掴まれ止められる。何だよぉ。じゅりさんの助言通り、恋愛してる連中から離れようとしたのに。

澵井の後ろにいるデュノアに視線を向けると、こくんと小さく頷かれた。

 

「はぁ。俺も用事があるんだ。手短に頼む」

 

 

 

 

 

人が少ない通路へと移動する。

さて、話を聞くのはいいが、そもそもこいつらと話すことなんかあっただろうか。デュノアの顔を見る限り楽しそうな話ではないだろうし。

 

「んじゃあ、俺の方から」

 

デュノアが話しづらそうだったからか、元々そういう順番にしていたのか、澵井が話し始める。

 

「ありがとうな。真理が所々でヒントを出してなきゃ、シャルを助けられなかった。父さんと母さんと和解できた切っ掛けにもなったし、本当にありがとう」

 

なんだ、その話か。

確かに織斑の部屋で、俺や織斑のように今すぐに使える権力がなければデュノアは助けられない、といったような話をした。あれは、逆説的に言えば、すぐに使える権力があればデュノアを助けることも可能だということを澵井に伝えるためだった。

まあ、他にも手段はあっただろうし、あれが最善の手だったという訳じゃない。

そして何より、澵井が両親と和解したことに関して、俺は何一つ関与していない。それどころか、入学直後あたりに織斑を殺しかけた原因にした覚えがある。一度は不仲を深める原因になりかけた俺に感謝することなど一つもないのだ。

 

「別にデュノアを助けるためにヒントを出したわけじゃない。お前が両親と和解したことも、俺は何もしてない。俺に感謝するのは筋違いだ」

「お前ならそう言うと思ったよ。だから、真理は気にしなくていい。これは俺の自己満足のための感謝だ。ま、後から感謝求めてくれてもいいぜ。その時は澵井コーポレーションの総力を挙げて感謝を示してやる」

 

そういってニヤリと笑う澵井の顔は、あまりにも清々しく、腹立たしかった。

 

「いらんわ。で、お前は?」

 

ニヤケ面の澵井を無視してデュノアへと話を振る。こっちは楯無先輩とティナを待たせてるんだ。いや、水着選びに熱中して待ってないかもしれないが。

とりあえず、話はさっさと終わらせたい。最悪、二人と合流する前に織斑御一行にエンカウントする可能性がある。そうなったら、また聞きたくもない話を聞かされることになるだろう。

 

「僕も巧と一緒で、真理に感謝を伝えたくて。直接助けてくれたのは巧だけど、真理も僕のために動いてくれてたんだって聞いたから。何か、お礼をしたいなって」

「だから、お前のために動いたわけじゃない。お前が来たことで増えた仕事を処理しただけだ」

「それでも、助けてくれたことに変わりはないよ!僕にできることならなんでもする。だから、お礼させてくれないかな」

 

面倒くせぇな。こいつに頼むことなんかねぇよ。ISの訓練しようったって、代表候補性より優秀な国家代表が身近にいるし、生身の戦闘だったら負ける気がしない。勉強も先輩がいるし、英語もティナが…。あ。

 

「お前、フランス語できるんだよな?」

「え?う、うん」

「日本語もその分だと完璧だよな」

「完璧、って程じゃないけど、うん。問題は無いよ」

「じゃあ寮に戻ったら、ファイルと原作渡すから、フランス語の和訳が正しいか確認してくれ。礼ならそれで充分だ」

「真理がいいならそれでいいけど…」

「いいんだよシャル。それが真理なんだから」

 

なんでお前が俺を語るんだ。ぶっ飛ばすぞ。

 

「で、何の本を和訳したんだ?つーかフランス語できるんだな」

「レ・ミゼラブル。読みだけしか出来ないから合ってるかどうかわかんねぇんだよ」

「あ、それなら読んだことあるし、原作はいいよ」

「そうか。じゃあ頼むわ」

「ううん。むしろその程度じゃこっちがいいのかな、って気になっちゃうよ」

 

話は済んだようで、二人はもう一度「ありがとう」と言ってから去っていった。その後ろ姿を見ていると、途中から手をつなぎ始めた。おーおー、仲の良いことで。

ため息を一つ吐いてから、目的の店舗へと足を進める。案内図を確認すると、すぐそばまで来ていたらしい。

店内には女性客がちらほらといたが、どうやら女尊男卑ではないらしく、俺が入っても大した反応を見せない。まあ全ての女が女尊男卑って訳じゃないしな。学園を見ても、女尊男卑は割と少数派だ。

レジの店員へと声をかけ、予約しておいた商品を受け取る。楯無先輩へは二つあり、一つは寮に戻ってから渡すので、鞄へとしまっておく。

そして、来た道をそのまま引き返す。が、途中、見たことがあるような茶髪ツインテールと金髪縦ロールを見かけたが、関わりたくないし、話しかけられたくもないのでバレないように少しだけ回り道をした。

それがいけなかったのか、というかそれが原因だとしたら、あのバカ二人を殴りたくなる。

バカ二人が原因なのか、その前に話しかけてきたイチャイチャ美形アホカップルがいけないのか、そもそもそいつらと関わりを持ってしまった俺が悪いのか。

一体何が原因なのかはわからないが、ただ一つ。絶対に原因の一つであるのは、連れ二人が美人過ぎたことだろう。

 

 

集合場所にしておいたベンチへと戻ると、そこには数人の男に囲まれている、楯無先輩とティナの姿があった。

 

 

 

アオさん、あんだけ喋っておいて、こういう時の対処法は話してなかったな。

 

 


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