一般人は毒を吐く。   作:百日紅 菫

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禍根の残る話と残らない話です。

暗闇の中にいた。周囲は何も見えず、自分の体すら見えない暗闇の中。

目の前に、一つの画面が現れた。

 

「……これは」

 

エコーがかった声が暗闇に響く。

画面に映されたのは、何かと戦っている織斑とデュノア。そして、その背後で壁に背を預けて休んでいるボーデヴィッヒの姿。

あいつがISを纏ってるってことは、どうやら俺の目論みは失敗したらしい。

VTシステムが発動した時、戦わずして止めるにはどうすれば良いか。それを考えた時、思いついたのが、媒体となっているISを無理矢理にでも引き離す事だった。

だが、ボーデヴィッヒをISごと引き離しても俺がこんな暗闇にいるというこの現状からすれば、完全に失敗で、見当違いだったんだろう。

 

『汝…力を欲するか…?』

 

突然、頭の中に声が響く。

これがVTシステム発動条件の一つの、搭乗者の意思確認ってやつか?ISには意思があるって言ってたし、この程度なら天災じゃなくても可能だったようだ。

本来、発動するには力を求めることが必要らしい。俺じゃ発動できなかっただろうな。

 

「要らねぇよ」

 

自分が扱う力は、自分で手に入れる。

それが俺のルールだ。

手に入れた力を使いこなす事も必要だし、強さだと思う。でも俺は自分で扱えるまでは力を持たない。力のために器を作るんじゃなく、力を入れるために器を作る。それは、俺が弱いからだ。

 

昔、ことはさんの話を聞いた。

 

堕ちて、半妖の力を手に入れて、恭助さんを傷つけた話を。

 

その話を聞いた時、俺はただただ怖かった。自分も、行き過ぎた力を持った時、誰かを傷つけてしまうかもしれない、と。

ことはさんはその過去を乗り越え、力を飼い慣らしたが、大事なものがあの町と父親しかいなかった俺は、それらを傷つけたくないと、必要以上に怯えた。

だから俺は身の丈に合わない力はいらない。成長した今でもそれは変わらない。

 

 

 

 

______変わらない、筈だった。

 

 

 

 

『…力を…望め……私の………存在…意義を……』

 

 

そうか。こいつには意思がある。それは、生きていることに他ならない。

そして生きている以上、死にたくない、消えたくないと思うのは自然なことだ。

今、ISが無い状態でもシステムが動いている意味は分からないが、きっと俺が脱出してしまったら消えてしまうんだろう。

だったら。

 

「力は望まない。お前の存在意義も、俺には満たせない。だけど、一緒に戦う事はできる」

 

『一緒…に……?』

 

こいつは人が望んだ力で戦う事を存在意義としている。

俺はこいつの力を望まないし、身を任せる事もできない。

 

「そうだ。俺と一緒に戦おう。誰かを傷つける為じゃなく、誰かに認めてもらう為じゃなく、俺たち自身の為に」

『私た…ちの……為…』

 

感覚で利き腕を動かす。

 

りらさん曰く。

握手とは、敵意が無いという意思表示。利き手を開いて見せるのは武器を持っていないと相手に示す為。

 

「俺の才能も、お前と同じ、人真似なんだよ。偽物だ」

『…偽物……』

「だけどよ、偽物が本物に勝てないなんて、そんな道理はねぇよな」

 

開いた手のひらに何かが触れる感触。個体ではなく、液体でもなく、かといって気体でもなく。

何かは分からないが、そこからは確かに熱が伝わって来る。

 

 

 

『………私の力を…貴方に…託す……一緒に……』

 

「ああ、約束だ」

 

 

暗闇が晴れていく。動かなかった体に、何かが纏わり付いていく感覚。でも、不快じゃない。

いつの間にか画面が消え、本来の視界が戻って来る。

目の前にいるのは、驚いた顔の織斑とデュノア。視線を右に向ければ、俺が脱ぎ捨てた量産機とマフラー。そうだった。マフラーを脱ぎ捨てたんだった。ヒメさんから貰った大切なものなのに。

VTシステムの泥に突っ込むときより重い体を動かしてマフラーを拾いにいく。

 

「もっと大事に扱わなきゃな」

 

マフラーを巻きなおして、自分の体を見る。

腕には籠手。足にはブーツ。腰には膝下までの、袴を模したスカートアーマー。上半身はISスーツのまま。頭には、見えないが何かが乗っていて、その全てが黒色で統一されていた。

これをあの泥から生み出したとしたら、明らかに質量が合ってない。

 

「ん、ああ。そういうことか」

 

突如目の前に現れた画面を見て、質量の疑問に納得する。画面には『言霊』と書かれていた。

確か、ことはさんは…。

 

「ショートカット、『刀』」

 

言葉通り、刀身から柄まで真っ黒な刀が現れた。

つまりはそういうことなんだろう。

 

「真理ぃいぃいい!」

 

低空飛行で突撃してきた織斑の剣を、黒い刀で受け止める。

 

「なんだよ」

「お前、それが何か分かってんのか!?」

「お前こそ、これが何か分かってんのかよ」

「それは千冬姉の偽物だ!今すぐに棄てろ!」

 

偽物、ね。

 

「嫌だね。俺はこいつと一緒に戦うって約束しちまった。それをお前にどうこう言われる筋合いは無い」

「うるせぇ!お前がなんと言おうと、それを叩っ斬る!」

 

それがお前の正義なんだな。自分の考えに賛同しないものを否定し、力で潰す。守りたいものを脅かす悪は倒す。悪かったな、澵井の部屋でお前の正義を正義じゃないなんて思っちまって。

そうだ。正義なんて曖昧なものは千差万別。人の数だけ正義があり、正義の数だけ悪がある。そんな簡単なことを失念していた。

そしてお前にとっての悪は、倒すべき悪は俺とこいつなんだろう。

でもな、お前が悪だと断ずるのは、俺の正義なんだ。それを否定されれば、俺だって腹が立つんだ。

 

 

「やってみろカスが。俺たちが偽物だって言うなら、その偽物で本物(テメェ)を潰してやる」

「っ!?」

 

 

黒い刀を振り切り、距離を取る。トーナメントの事も、もはや頭に無い。今考えているのは、目の前の正義を叩き潰す事だけだ。

 

「うぉおおぉおお!」

 

再度突進して来る織斑に向かって、同時に走り出す。

このISとも言えない偽物にはPICが搭載されていない。当然の事ながら飛行する事は出来ない。だが、トレースシステムの名に恥じぬ働きはしてくれていた。

ボーデヴィッヒの専用機の第三世代兵器『AIC』を僅かながらコピーする事に成功していた。まあ簡単に言えば、足裏が踏んだ空間を固める機能がついている。もっと分かり易く言うならば、空中でも踏ん張れるということだ。

だから、こんな動きも出来る。

 

「ショートカット、『鞘』」

 

織斑とすれ違った後、壁に足をついて停止するように空中に足を付ける。そして、生み出した鞘へ納刀し、振り返ったばかりの織斑へ最高速で接近する。

 

「くっ…!」

 

剣を持つ腕に狙いを定めて、脳内に浮かべた入鹿さんと同じ動きを再現する。一瞬でこぶし大の石を粉々にする、あの超速の剣技を。

 

またもや入れ違った俺は、刀に目をやる。刃が毀れ、刀身に罅が入ってしまっていた。

偽物だけに、大した耐久力じゃないらしい。今後はもっと考えて使わなければ。だが、それに見合う傷跡をあちらにも残せている。

 

「なっ…!?ISの腕が…」

 

織斑の専用機の右腕はボロボロだった。やはり俺じゃあ入鹿さんみたいにはいかないか。

 

「それが偽物の力だ。今度はもっとお前にも分かるような偽物を使ってやるよ」

「ちっ!なめんじゃねー!!」

 

残った左腕で刀を握った織斑が、思い切り振り下ろす。それをステップだけで躱し、次いで迫って来る下段からの逆袈裟斬りをバック転で回避。着地と同時に放たれた突きは、首を傾けるだけで避け、後ろ回し蹴りで剣を持つ手を弾きとばす。

 

「うあっ!」

「ショートカット『刀』。いくぞ」

 

刀を左手に持ち、思い切り振り下ろす。辛うじて避けた織斑に、今度は下段からの逆袈裟斬り、そして突き。

逆袈裟から躱しきれずに、最後の突きが織斑の胸に直撃する。

 

「うぐっ!……げほっ……お前…それは…」

 

流石に気づいたようだ。そりゃそうか。自分の剣を真似されれば、誰だって気づく。

 

「ほら、来いよ。叩っ斬るんだろ?」

「う、うおぉおおぉお!」

 

織斑が剣を振るう。全方位から迫る剣は、それこそ嵐のようで、織斑の天才性を伺わせる。いかに怒っていて、その剣が単調になっていても、力強さと鋭さだけは失われない。

だが、俺はその剣を真似し、織斑が放つ剣と真逆から黒い刀を叩き込み、相殺する。それが、俺の才能だ。相手が入鹿さんやヒメさんのように格上の相手じゃない限り、相手の動きを真似して、鏡のように動くことができる。

 

「ショートカット『刀』」

 

剣戟の応酬の中、砕け散った刀を手放し、新しい刀を出現させる。

今ので分かったが、この黒い刀は五回の剣戟で砕ける。まあ細いし、元はあの泥のようなものだろうし、しょうがないだろう。

 

「わかったぜ!お前のその刀、五回で砕けるみたいだな!」

 

織斑にも気づかれていた。だが、そこはさしたる問題ではない。バレているのなら、それに見合う罠を張れば良い。

問題は、生み出せるモノの量だ。

あの泥の一部が今俺が纏ってるIS擬きで、残りが『言霊』で生み出せる武器の量。刀一本にどれくらい使われているか分からない上に、パッと見た感じの元の質量から考えると、生み出せる刀の本数はそう多くない。砕けた刀分の泥が何処に行ってるかも分からないとなると、これ以上の無駄遣いは出来ない。

 

「ああ、そうみたいだな」

 

一気に決める。

最初の入鹿さんのコピーの時は刃が毀れて罅が入った程度だった。あのときの斬撃の回数は七回。つまり、織斑と打ち合わなければ、刀の耐久値は1.5倍になる。

ならば話は簡単だ。

近づいて斬る。それだけだ。

最速で近づき、最多の剣を放つ。

 

「行くぞ…『四音』」

 

新しく生まれ変わったVTシステムを呼ぶ。もはやこいつは只のシステムじゃない。ISと一緒だ。意思があり、操縦者と供に成長する。

俺はこいつと。

 

「強くなる!」

「くっそ…!お前等みたいな偽物に負けるかぁあぁあああぁあ!」

 

織斑が放つ上段からの最速の一撃を見る。

今日一番の速さで、今日一番のキレだ。

流石、天才。流石、本物。

その一撃に込められた重さは、偽物の剣を振るう俺には計り知れない。

俺だって本物を持っている。それでもなお、偽物の剣を振るうのは、織斑が偽物を悪だと言うからだ。

どんな本物だって、最初は偽物なのだ。それを否定する事は、全ての努力とそれに費やした時間を否定することだ。

 

 

 

 

 

それだけは赦せない。

 

 

 

 

 

 

「堕ちろ。自分のルーツも知らないカスが」

 

織斑の渾身の一撃を身を捩って躱し、刀を振るう。

入鹿さん程でないにしろ、真人間としては中々のスピードを誇る俺の最高速度の剣戟は、すれ違い様に十回斬りつけた。

 

「がはっ………!」

 

ISを強制解除された織斑が地に堕ち、俺はようやく周囲を見回した。

誰一人として声を発さない観客席。

こちらを見て驚愕しているデュノア。

辛うじて見える放送室でも、先生達が動いていない事がわかる。

 

 

 

 

「はぁ、事情聴取かな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巧side

 

「あいつら、初戦で当たるのか…」

 

歩いている最中に見つけたディスプレイに表示されたトーナメント表を見て呟く。どうやら一回戦目にして一夏とシャルルコンビとボーデヴィッヒ、真理コンビがぶつかるようだ。

あの二組は皆がみんな因縁染みたものを持っているからな。簡単には終わらないだろう。

それより、自分のやるべき事をやらなくては。

 

今俺は更識先輩が用意してくれたという来賓用のプライベートルームに向かっている。既に両親は来ているらしく、後は俺が話をつけるだけだ。

手が震える。足が竦みそうになる。それでも、止まろうとは思わない。

俺自身の為に、シャルルの為にこの勝負、絶対に勝たなくてはならない。

そうでなければ俺に気づかせてくれた真理に、場を整えてくれた更識先輩に顔向けできない。

 

「…………よし」

 

震える手を握りしめ、気合いを入れなおす。

両親がいる部屋の前に辿り着き、扉の前に立つ。

ここから、俺は生まれ変わる。過去は清算できないけれど、未来は作れる。俺の未来も、シャルルの未来も、自分たちで作る為に、俺は。

 

「絶対に、勝つ…!」

 

扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋は嫌になるほど静かで、同じくらい、怒気と殺気で溢れていた。

 

「…何故、トーナメントに出てないのかしら?」

 

この部屋に溢れる怒気の根源であろう、俺の母、澵井茜が静かに喋り出す。依然として視線はアリーナの中で向き合っている男子のタッグに向けられている。

 

「やる事が、しなければならない事が出来たから、です」

「やる事?それは私の命令を無視してでもやらなければいけない事?」

「はい」

 

やはり、怖いな。

真理に諭されてから、会社の事やそれにまつわる社員の不祥事なんかを調べて、更識先輩に貰ったファイルで裏をとったりして、戦闘態勢だけは整えた。

だが、いざその時になると、そんな準備等無意味だったと感じる程に恐怖でいっぱいになる。

しっかりしろ。ここでの結果が、俺とシャルルの未来に繋がるんだ。

 

 

 

「……貴女を、澵井コーポレーションから排除します」

 

 

 

言った。これで、もう二度と後戻りは出来ない。

俺の言葉を聞いた母が取った行動は、怒る事でも怒鳴り散らす事でもなく、ただため息を吐いただけだった。

 

「今までアンタが好き勝手生きて来れたのは誰のおかげ?私がアンタに全てを与えてきたからでしょ?」

「…感謝はしてます。でも、学園に入って、色んな人に出会って、俺は変わったんです」

「で、それが何?アンタが変わって、私が会社から排除されるのに、なんの関係があるの?」

「友達を救いたいんです。そのためには女権団に属している人を全て排除しなければなりません。貴女以外にも女権団に所属している人は知っています。その人達にも例外なく辞めて頂きます」

 

この言葉にも、ため息を吐くだけ。

なんだ?もっと焦ったり、怒鳴るもんだと思ってたが。いや、そもそも俺がこの人の性格を深く知らないから、どういうタイミングでどういう反応をするかが分からない。家族なのにな。

 

「ふーん。理由も、アンタがしようとしている事も分かったわ。でも、その後の事を考えたの?」

「後……?」

「アンタが、私や他の人を理不尽に解雇して、その人達のその後の人生、どうなると思ってるの」

「理不尽じゃ、ありません。貴女達が横領していることも、女権団に情報を流出させているのも知っています。全員、刑務所で暮らしてもらいます」

 

自分のすることが正しいなんて思っちゃいない。フィクションの中なら、悪人すらも善人に変える事が出来るが、現実じゃそんなの無理だ。ましてや、社員の半数に近い人数で、時間もないこの状況じゃあ、排除するしかない。

 

「…その中に女権団に無理矢理入れられて、無理矢理横領させられている人がいても、アンタは全員を刑務所に送り込むのね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんな事情があろうと、例外はない。例え恨まれようと、全員刑務所送りだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっと考えていた事だ。

俺たちから見た女権団の恐ろしさは、組織の巨大さと、その過激さにある。電車で隣に立った男に痴漢の冤罪を被せたり、町ですれ違った男を恐喝するのは当たり前。それどころか女尊男卑の思想に染まってない女を、奴隷のような扱いを受けている男に襲わせ、無理矢理女権団に入れたりもする。

だから、当然の如く、無理矢理やらされている人間のことも考えた。

 

考えた末に、見捨てる事を選んだ。

 

一夏なら全員を救う方法を模索するだろうし、真理だったら考えるまでもなく割り切るだろう。

でも俺は一夏でもなければ真理でもない。一番助けたい人の次を考えてしまう。そんな人間なのだ。だからこそ、ギリギリまで考え、更識先輩から貰った情報を網羅し、そこからさらに考えた。

そして、決めたのなら曲げない。曲げてはならない。そこが曲がってしまえば、強さが、信念が、なにより目的がブレる。

 

 

 

 

 

「ふふ……」

 

「?何を笑ってるんですか?」

 

 

 

 

入室してから一度も顔を見ていないが、怒っているものだと雰囲気で察していたのだが、それが急に霧散した。

それどころか、和やかな雰囲気になった気がする。一度も喋ってなかった父さんも、なんか含み笑いしてるし。

な、なんなんだ?

 

 

 

「あっははははは!もう駄目!例え恨まれようと、全員刑務所送りだキリッ。だってさ!ぷぷ、あはははは!」

「おい、笑い過ぎっくく、だぞ、ふふふ」

 

 

 

膝を叩いて爆笑する母に、それを収めようとしつつ笑っている父を見て、俺は呆然としてしまった。

そもそもあの二人が笑みでなく、本当に笑っているのを今まで見た事が無い。いや、そうじゃなくて。

 

 

「ちょっと待て。は?アンタ今の状況分かってるのか?」

「ええ分かってるわよ。ぷぷ。アンタが私を解雇しようとしてるんでしょ。ま、やってる事は無意味だけど、それだけ成長してるってことだし、茶々は入れないようにしてたんだけど」

「長かったなぁ。何年だ?」

「んー、2、3年じゃないの?中学くらいからだし」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!何の話をしてるんだ!?」

 

話がまったく見えない。成長?2、3年?なんの話だ?

 

 

「簡単に言うとだな、巧」

 

 

ようやく振り返り、俺を見る父、澵井亮介と視線が合う。

 

「お前が独り立ちできるように、全部俺たちが仕込んだドッキリだった。ってことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁああぁあぁああああ!?」

 

長い人生の中で、一番驚き、叫んだ日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、一から説明してくれるんですよね?」

 

予備の椅子を引っ張りだし、両親の椅子の向きも変え、二人と俺で向き合う形で座っている。当然、説明の為だ。

ドッキリだかなんだか知らないが、説明してくれないと意味が分からない。ついでに言うと、更識先輩と真理も加担してた事になる。

 

「まぁ結論から言うとね、甘やかし過ぎたアンタを叩きなおす為に楯無ちゃんのお母さんとかにも協力してもらってたのよ。ついでに女権団の人間を辞めさせることができたら尚良し、って感じね」

「いやいや。その時点で聞きたい事が二つはあるんだけど」

「なによ?」

「更識先輩と結託してたんですか?そんで、母さんも女権団に所属してるんじゃないの?」

「あはは。楯無ちゃんのお母さんと同級生でね、楯無ちゃんは何も知らないわ。知ってるのは従者の虚ちゃん。今頃楯無ちゃんに謝ってるんじゃないかしら。で、私は女権団には所属してないわ」

「いや、でも、真理が言ってたし、『Only Once Fool』は?あれを使えって言ったのは母さんだって聞いてるけど」

「それに関しては完全に俺のミスだ。茜を責めないで欲しい」

「ミス?」

「ああ。俺が開発部門の主任をしているのは知ってるだろ?だが、俺の知らない所でお前の専用機に勝手に積まれていたんだ。武装を使えって言ったのも女権団の人間だ」

 

ちょっと待って欲しい。頭が追いつかない。

というか、どこからがドッキリだったんだ?俺がISに乗れるって分かったのは一夏よりも前だし、その時に話を聞いていた人はいつの間にか会社から消えてて、真理の話を聞いて殺されたのかと思っていた。今回俺が戦おうとした理由にはそれも含まれていて、人を簡単に殺すような会社はあってはならないと思った。

いやいや、待て待て。まだ混乱してる。

 

「えっと、そもそも、いつからそのドッキリは始まってたんだ?」

「おっ、敬語が外れてきたね」

「こんなバカな事する人達に敬語なんか使ってられるか!」

「バカとは酷いな。で、いつからって言うと、お前がISに乗れると分かった時から、だな」

「ISに乗れることが世界にバレたら問答無用で学園に入学させられる。女子率99%を超える学園なら流石のアンタでも参っちゃうだろうし、何より寮に入ってもらえるからね。私たちの力に頼らず、生活してもらうにはうってつけだったのよ」

「じゃ、じゃあ、俺がISに乗れるって分かった時にいた人達は?会社からいなくなってたから殺されたのかと思ってたんだけど」

「ああ、その人達なら女権団の人間を除いて普通に働いてもらってるわ。当時は社宅で暮らして貰ってたの。流石にあの時期からバレちゃうと面倒な事になるしね」

 

殺されては無かったのか。良かった…。じゃなくて!

 

「ちょっと待って。整理させて」

「そんなのするまでもないわ。アンタがISに乗れる事が分かった時点でこのドッキリを思いついて、性格が変わったっていう話を聞いたから、今日私たちがこの場に来てる。で、私たちは問題ないと判断した。それが全てよ」

「俺の性格が変わってなかったら?そもそもなんで変わると思ったんだ?」

「まあ色々あるけど一番は、千冬ちゃんがいるから、かしらね」

 

その一言で全て納得してしまった。

口ぶりから察するに、織斑先生とも交流があるようだが、織斑先生はその程度で贔屓にするような性格ではない。普段の一夏を見てれば、むしろ身内にこそ厳しいことが分かる。

 

「まあ、何はともあれ」

 

 

 

「大きくなったな」

「大きくなったね」

 

「「巧」」

 

 

「……!」

 

 

いかん。不覚にも、うるっときてしまった。

今まで見た事も無い、いや、俺のせいで出せなかったであろう両親の満面の笑みを見て、俺自身も頬が緩む。

 

「うん。ありがとう」

 

初めて、心からのお礼を言った気がする。

こんな俺を見捨てないで、更生する機会をくれて、家族として愛してくれて。

 

でもまだ、やらなきゃいけない事が残ってる。

 

「…まだ、やらなきゃいけない事があるんだろ?」

「うん。友達を、助けたいんだ」

 

俺と違って、シャルルは家族に傷つけられてる。昔も、今も。真理が言うように、今助けなきゃ、未来だって家族に盗られてしまう。

 

「大丈夫。アンタなら出来るわ」

「俺たちも力を貸すよ」

「……でも…」

 

今まで借りてばかりだったのに、また、しかも自分が決めた事のために力を借りるのは気が引ける。今更、と言われればそれまでだけれど。

 

「遠慮すんなよ。今までとは違って、お前に好き勝手させる為じゃない。お前が決めた事を応援するために力を貸すんだ」

「それに、さっきのアンタの口ぶりから察するに、決めた事は曲げないって思ってるんでしょ?なら、目的の為に私たちを利用するくらいしてみなさい」

 

そうだった。そもそも、自分の目的の為に俺は母さんを辞めさせようとしていたんだった。

だったら、迷うな。使えるものは何でも使え。

 

 

 

「………力、貸してもらいます!」

 

 

「うん」

「良い顔だ」

 

 

 

「じゃあ、詳しく話していこう」

 

 

 




次回、真理の反省&楯無からの説教回

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