クリミナルガールズ ~時給3000円~   作:DAMUDO

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逃走者一人目『ユコ』

「あ"あ"ぁあああッ!!また閉じ込められた!」

「落ち着けよオヤジ!」

 

逃走中の子達を探していると、至る所で自動ドアに閉じ込められて足止めを受ける。

嫌がらせのような同じ罠の数々に俺のヘイトは溜まっていくばかり。

そして、キレ始めた。

 

「止めるなラン!この糞ドアが!ぶっ壊してやらあ!!」

 

そこら辺に落ちていた枝を拾い、物凄い速さでドアを乱打する。

 

「オラオラオラオラオラオラ、オラァアア!!」

「はぁ、らしくねーな……。なあキサラギ、スイッチは見つかったか?」

「全然みつかんない~」

 

ユウに呆れたランはスイッチを探し始めようと、キサラギに情報を求める。

キサラギの返答は、疲れたようなやる気のない返答だった。

何度も同じ作業を続けたら、誰だってそうなると思うから注意するわけにもいかない。

 

「話変わるけど、アイツの剣捌き凄いわね」

「ああ、オヤジにあんな特技があるなんてな」

 

二人の視線の先には、まだドアを殴り続けているユウの姿がある。

疲れを感じていないのか、スピードが落ちている気がしない。

 

"バキッ"

 

「「「あッ……!」」」

 

枝が折れた。

 

「うおおおおおお!」

 

どこから持ってきたのかユウは丸太を構えた。

 

「ちょっとあんた!なにする気よ!?」

「みんな丸太は持ったか!行くぞォッ!!」

 

そのまま突撃していった。

 

「・・・」

「……ラン……あっちに見つけたの……。どうしたの……?」

「いや、なんでもねー。アリス、スイッチの所まで案内してくれ」

「?」

 

ユウをキサラギに任せてアリスに付いていった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「みんな……悪かったな。取り乱したちゃって」

「いや、別にいいからさ。はやく行こうぜ?」

「ああ」

 

ユウはそう返答すると少し前を歩き始めた。

見送ったユウの背中にいつもの堂々とした活力がない。

 

「ねえ、あいつ大丈夫なの?」

「げんきないかんじだぞ?」

「オヤジのプライドの問題じゃねーか?ほら、前に引っ張ってくとか言ってただろ。それなのに、トラップごときであんだけ冷静さを欠いたんだ。ちょっと気不味いだろな」

「元気……出してほしいの……」

「そうね。あいつがあんなんだと、こっちも我儘言いにくてやりにくいし」

「でも、さくせんでもあるのか?」

「「「「・・・」」」」

 

四人は頭を捻った。

 

「しゃーねーなー。オヤジを元気付けるってのは癪だけど、アタシが取って置きの作戦を考えてやったよ」

「任せて大丈夫なの?」

「やるのはアタシじゃない」

 

ランの視線はアリスに移る。

 

「……アリス……なの?」

「ああ。やれるか?」

「……ユウが元気にならなら……頑張るの……!」

「よし。いいかアリス、こう言うんだ」

 

ランはアリスに作戦を伝えた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「あいつら何やってんだろ?」

 

後ろでコソコソと密談をしている四人。なんだか疎外感。

まあ、あんな醜態を見たら声掛けづらいよな。

と、反省しているとトコトコとアリスが走ってきて前に立ち塞がった。

 

「どした?」

「……ユウは……よくやってるの……だから、早く元気になるの……!」

「アリス……」

 

生徒からの応援に胸が熱くなる。

これぞ教師の役得ってやつだな。

俺が感動しているとアリスはポーズを取り始めた。

チアリーディングお決まりの両手を胸の前まで持ってきて揃えるポーズだ。その状態で俺を見詰める。

何をする気だ?

楽しみに待っていると次の瞬間、アリスは何時ものやる気のない表情から天真爛漫な笑顔に変わり、両手を上下に振り、序でに腰も横に振りながらこう言った。

 

「お兄ちゃん……頑張れ♪頑張れ♪……」

 

「うんッ!!!!!!!!!お兄ちゃん超がんばりゅううううう!!!!!!!!」

 

死んだ!今まで俺は死にました!!

アリスの笑顔に、今までの汚い俺はキレイさっぱり消滅しました!これからは、綺麗な俺が死ぬ気で頑張ります!

 

「よっしぁお前ら!しっかり俺に付いてこいよ!!」

 

俺は今までより軽い足取りで、舞踊るように歩き始めた。

 

アリスの所に三人が集まる。

 

「アリスよくやった。これで大丈夫だ」

「大丈夫じゃないわよ!なにあれ!?前より酷くなってんじゃん!あんな気持ち悪くなるなら、さっきの方がよかったわよ!」

「知らねーよ!アタシだって、ああなるなんて予想してなかったんだよ!」

「なんであわててるんだ?ユウ、げんきになってたからせいこうだろ?はなぢブーしてたからか?」

「……超頑張ったの……」

「はいはい、あんたはよくやったわ。でもラン、あんた男嫌いだったわよね?なんで、あんな変な台詞思い付いたのよ?」

「ああ。ちょっとな……」

「?」

 

キサラギは、ランのらしくない歯切れの悪い表情と物言いに引っ掛かりを覚えたが気にすることはしなかった。

 

「お前ら~♪はやく来いよ~♪」

「いまいくぞ!はやくユコをさがさなきゃ!」

 

ユウの呼び掛けにサコがいち早く行ってしまったので三人はそれを追いかける形で先に進んでいくことになった。

相変わらず、ユウのテンションが可笑しいままだ。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

逃げた子達の捜索の為、二階移動した一行。

ある程度、この階を歩いたところで突然サコが臭いを嗅ぎ始めた。

 

「くんくん……くんくんくん」

「な、何やってんの?」

 

その奇怪な行動に思わずツッコむキサラギ。

 

「ユコだ!ユコのにおいだ!ちかくにいるぞ!」

「本当か!?どっちだ?」

「あっち!あっちだ!!」

 

サコが指をさすと同時に、あの自動ドアの閉まる音がサコの指さす方から聞こえた。

ユコがいると思われる方角からドアの閉まる音……。

 

「あーあ。これはユコちゃん、やっちゃったな」

「冷静に分析してないで行くぞ!」

 

五人は急いで音の場所に向かった。

そこにはしまっているドア。お約束通り開けることができない。

スイッチがないか探してみることにした。

すると、サコが……

 

「ん!?あっちのほうからユコのにおいがするぞ!」

 

と言ったので、言われるがまま向かってみると……いた。

サコと良く似たシルエットをしている女の子が不安の表情で俯きながら座り込んでいた。

ただ、俺達がいる場所とユコの場所の間には床がない。

奈落を挟んで対面することになった。

 

「ユコだ!!おーーーい!!ユコーーー!!!」

 

それでも嬉しそうに大きな声でユコの名前を叫ぶサコ。

 

「あっ!!サコ!!」

 

ユコもサコに気が付き顔をあげる。先ほどまでの不安げな表情が徐々に明るくなっていった。

 

「ユコ!しんぱいしたんだぞ!なんでにげるんだよ~!」

「ごめんね、サコ……。おばけが襲ってきたとおもって……ユコ……怖くて……」

 

ユコが再びしょんぼりとし始める。

 

「そ、そか……こわかったのか。そうだよな!」

「なんだサコ?嫌われてるとでも思ったのか?」

「ゆ、ユウ!そ、そんなわけないだろ!」

「サコ……その人だれ?」

「申し遅れました。わたくしは橋間勇一、ユウとお呼びくださいませ」

「きもちわるいしゃべりかたやめろよー」

「気持ち悪くない。紳士的なしゃべり方だ。初対面の女の子にはこう話た方がいいと思って。それは置いといて、ユコちゃん!今助けてやるから安心しろよ」

「そうだ!サコがすぐに助けるからな!」

 

しかし、どうやって助けるか……。閉まったドア以外にあそこに続く道は無さそうだし。

救出方法に悩んでいると後ろからキサラギが話しかけてきた。

 

「ねえ!あの子の側にあるのってあのドアのスイッチじゃない?」

「お、それっぽいな!」

「なあ、ユコ!そこのスイッチ押してみてくんないか?」

 

続いてランも会話に参加する。

 

「スイッチ?わ、わかった……」

 

ユコはランの提案に頷くと立ち上がり、スイッチまで歩き始める。が、どうも足取りが重い。

数歩進んだ所で、ユコが足から崩れ落ち座り込んでしまった。

 

「ユコ!どーした!!?」

「はぁっ……はぁっ……」

「お、おい!あいつ様子が可笑しいぞ!?」

「もしかしてクリミナルの毒じゃないのか?道中に遭遇した『ブラスフロッグ』とか言うクリミナルにやられたんじゃ……」

「なに!?ユコ!ユコ!だいじょうか!?」

「ユコ……もう、ダメ……頑張ったけど、もう一歩も動けないよ」

「なんだ、疲れてただけか」

 

毒じゃなかったことに安堵する。

 

「ユコ……元気になれるおくすりでもあれば、すぐにスイッチ、押せる……のに」

「わかった!すぐとってくるからじっとしてるんだぞ!」

 

サコは任せろと宣言すると俺に向き直る。

 

「おい、ユウ!なんかげんきになれるくすりもってないか?」

「疲労回復の薬ねぇ。……回復薬は違うし……サプリメントなんてあるわけないし……エナジードリンクももっての他か。なら、薬草を探そう」

「やくそう?あーるぴーじーのあれか?」

「おう、こんだけ植物が生い茂ってんだ。疲労回復の薬草くらいあるだろ」

「よし!じゃあそれをさがすぞ!」

 

と言う訳で、俺達は薬草を探し始めた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「くんくん……くんくん……ッ!おい、ユウ!これなんでとうだ?」

「おう、ちょっと待ってろよ……お!どうやらビンゴみたいだ!」

 

ファイルの中にある植物の資料と照らし合わせながら薬草を探し始めて数分、サコの嗅覚が大いに仕事をして、早く薬草を発見することができた。

 

「じゃあこれでユコはげんきになるのか!」

「そうだ」

「よーし!んじゃ、はやくいくぞ!」

 

再びユコが見える場所へと戻る。

戻ってユコの姿を確認すと、変わらず元気なく座り込んでいて、クリミナルに襲われた様子はない。

 

「ユコ、おくすりだぞ!!」

 

サコは採ってきた薬草を石にくっつけて投げた。

みごと、ユコの手の届く場所に落ちる。

ユコはそれを拾うと、薬草から香る独特の臭いに顔をしかめる。

 

「これがおくすり……?ユコ、苦いおくすり苦手なのに……」

「そ、そーだよな!ごめん、ユコ……」

「ううん!大丈夫だよ、サコ。頑張って……飲む……から……」

 

嫌そうな顔をしながらも薬草を手に乗せる。

 

「渡しといてなんなんだが、薬草あのまま飲む気なのかな?」

「無理じゃねーか」

 

無理して飲もうとしているユコにサコがストップを出す。

 

「む、むりしなくていーんだぞ!すぐに、にがいくすりじゃないやつもってきてやるから!」

「……ホント?そしたらユコ、冷たい湿布が欲しいな」

 

そう言って自分の足を撫でるユコ。

 

「もう、足が棒みたいで動けないから……」

「しっぷだな!わかった!すぐにもってきてやる!そこでじっとしてるんだぞー!!」

 

再び任せろ宣言。

端からみたら、必死すぎるように感じる。どんだけ妹にいい格好したいんだよ。

そんなことを思いながら見ていると、サコと目が合う。

 

「おい、ユウ。きいてたとおり、なにかしっぷみたいにあしをひやせるものさがすぞ!」

 

と言う訳で次は湿布みたいなの探します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうもDAMUDOです。

なんとかして皆をバランス良く登場させてあげたいんだけど、使うタイミングが難しい。
今回はキサラギが少なかったね。
あと、サコとユコがごっちゃになることが多かった。誤植あったら教えてください。

勝手な妄想ですが、主人公みたいにアリスに「頑張れ♪頑張れ♪」言われたい。

それでは、また次回。お疲れ様でした~♪

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