「はあ!?あいつは先に行っちまったのかよ!」
「大声を急に出すなよラン。びっくりするだろ」
気絶した四人をキャンプへ運んで数時間が経っていた。
四人は目覚めたが、記憶がはっきりとしていなかったので、巨大なクリミナルを倒したことと、ミウが門の先にある階段を上って行ってしまったことを伝えて、現在に至る。
「先に進めるなら急ごうぜ!」
ランが意気揚々と立ち上がるとキサラギが、
「私、もういや。疲れた。行きたくない」
と言い出したのだ。
「どうしたんだよ急に?」
ランがキサラギに問いかける。
「急にじゃないわよ!私は元々こんな試練、やる気なんてなかったわよ!よく考えたら生き返っても何かしたいってわけでもないし……。ここで死んじゃったらそれこそ最悪じゃん?」
「アリスも……死ぬのは……嫌……」
キサラギに続き、アリスまで先に進むのに否定的な意見だった。
「そんなこと言ったって、このままここで暮らすわけにもいかねーだろ?」
そう。殺されなければ本当の地獄に堕ちることはない。しかし、このまま半罪人であり続けることは絶対によくない。
「そーだそーだ!ユコもこのさきでまってるんだぞ!」
ランに同調してサコも先に進みたいと意見を伝える。
動機はユコだが。
「そんなの私に関係ないし。行きたきゃ勝手に行けば?」
「お前らだけじゃまともに暮らせねーだろ。クリミナルと戦う時だってキサラギとアリスでどうにかできるのかよ?」
「それは……」
「お前ら、一回落ち着こうか」
俺の言葉でみんなの会話が止まり、注目が集まる。
「俺の意見としては皆で先に進みたい。誰か一人でも欠けるなんて許さねぇ」
「むーーー!じゃあどーすんだよ!」
「ランもサコも、キサラギとアリスの考えを少しでいいからわかってやれ。キサラギとアリスもそうだ。ランやサコの気持ちも少しは汲み取ってやれ」
「ハァ?なんで私があんたに説教されなきゃなんないのよ?」
「説教とかじゃなくてだな……。なあ、アリスお前はどうだ?……ん?アリス?」
キサラギでは話にならんので、アリスに問いかけてみる。
顔を向けてみると、アリスは虚空に目をさ迷わせていた。
「上……だれか……よんでる……行かなきゃ……!」
「呼んでる?ラン、どゆことだと思う?」
「いや、ちょっとわかんねーけど……先に行くってことだろ」
「だよな。……さて、キサラギ。このままじゃお前一人だぜ?」
「え?ちょ、私一人とかヤダヤダ!絶対ヤだから!!一人とかムリ!」
「クスクス…素直でよろしい!」
キサラギの手のひら返しが面白すぎて思わず笑ってしまう。
そんな俺を見てキサラギは「バカッ!」と叫んでそっぽ向いてしまった。
これで、皆で先に進むとなったわけですから……
「よし、さっさと先に行こうぜ!」
皆で次の階層に向かうため階段を上る。
まだ試練の前だと言うのにトラブルだらけだったものの、このフロアを突破。
しかし、ミウに逃げた生徒、多発するイレギュラー、問題は山積みだ。
「ちょっと!もう少しゆっくり上ってよ!速いのよ!」
「キサラギがおそいだけだろー!」
「コラッ!おぶってやってんだから悪戯すんな!」
「眼鏡……とったどー……なの♪」
もっとも、一番の問題はこいつらなんだが、先に進むしかないのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
階段を抜けた時、このフロアの特徴に俺は驚いた。
沢山の植物がそこらじゅうに生い茂っており、遺跡のような物体がちらほらと見える。
ここはまるで、ジャングル。
侵入者を生きて返さない地獄の森。
そして、前と同じく地面は浮いていて、落ちたら生きてはいられないだろう。
「変な植物に変な建物……日本じゃありえない。やっぱりここは地獄なんだなぁ……」
キサラギが文句を込めて呟く。
一体、誰に向けているのやら。
周りの様子を眺めていると突然、アリスが口を開いた。
「視える……女の子の影……サコに似てる……」
「ユコだ!ユコだ!!はやく!はやくたすけにいくぞ!!」
アリスの言葉にサコははしゃぎ出す。
「お、おい!そんなに慌てんなって!場所が変わったんだ注意しねーと、見たことないクリミナルに不意をつかれちまうぞ」
サコを落ち着かせようとランが宥める。
サコはランに任せておいて、俺は……
「アリス、どうして見えるんだ?俺には周りにそれらしい影を見つけられなかったんだが」
「アリスは……特別……だから……視えるの。……本当なの……」
不思議に思って聞いてみたが核心部分は聞けなかった。
もしかしたら、不思議ちゃんとかじゃなくて、本当に超能力をもってるんじゃ……
「オヤジ!なにボサっとしてんだよ!先導でもしたらどうなんだ」
「おお、悪い。すぐに出発しようか」
「けっ……しっかりしろよ。言っとくけど、変なことしたらぶっ殺すからな。あんま調子に乗んなよ」
「なんでそんな話に……アリスと話してたからか?」
事案発生かと思ったってことか。
まだまだ信用されてないな。ま、最初の話してくれなかった時よりかはましか。
「……三人……女の子……いるの……」
またまたアリスの超能力発言。
「さっきからあんた、何言ってんの?」
「もしかして……透視ってやつじゃねーの?」
「すげーー!!ちょーのーりょくか!」
他の三人もざわめきだす。
「アリス……視えるの……特別……だから……」
本当であると主張するよに言うアリス。
俺は嘘を言っているようにも見えない。まあ、どーでもいいか。
「三人っつーと……脱走したとか言う子達か」
「お前ら面識ないのか?」
「アタシ達はこの試練が始まるまであんま関わってこなかったし」
「サコはユコとよくいっしょだったぞ!」
「そーなのかー」
同じ部屋にいても牢屋が違うから交流がなかったのかな?地獄の事情はよくわからんな。
「行くならさっさと行こ。そいつらはどーでもいいけど、箱の中身は横取りされたくないし。どうせろくな物は入ってないでしょうけど」
「ろくでもなくないでしょ!回復薬代がうくぜ!」
キサラギの発言にツッコミ入れつつ、最初の意見には賛成なので、早速先に進むことにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
道中、早速敵と遭遇。
やはり新しいフロアだけあって、敵も見たことのない奴だった。
目のない蛙に角を生やした形のクリミナル『マーマン』と言うらしい。
「はぁッ!」
キサラギの気合いの入った斬撃が一匹のマーマンの体を切り裂く。
「あら……よっとッ」
マーマンの突進を盾で受け止め、そこを剣で叩き付けるラン。
「でりゃあーー!」
突進してくる前に有無を言わさずぶっ飛ばすサコ。
「……バイバイ……!」
近づく前に魔法で消し飛ばすアリス。
「圧倒的過ぎんだろおい」
初めての登場からぼろ雑巾のようにボロボロにやられていくマーマンに同情の念を抱き、小さなツッコミを入れる。
敵の肩を持つ発言だが、大丈夫、聞こえてない。
「ふぅ……終わったわよ~。さっさと先に進んじゃお」
「わかってるよ」
こんな感じで雑魚を一掃しつつ先に進む。
どうしてだ?前と比べてスムーズだ。願わくば、このスピードを維持できますように……!
順調に歩みを進んで行くと、こんな事態に遭遇した。
特に気にすることなく、通路に立っているアーチ型の物体を潜ると、バタンと言う音と共に先程はなにもなかった所に門が出現した。
「え?ちょっ!閉じ込められた!?」
今いる場所は今通って塞がれた道以外、繋がっている通路が見当たらない。
「おい!ボサっとしてないで手伝え!」
「お、おう!」
ランに言われ、一緒に扉を開けてみようと試みるがびくともしない。
鍵穴も見当たらず鍵が必要と言うわけではないはずだが……どうしようか?
と、二人でせっせと扉を引っ張っている間、その場所の中心でアリスが何かを見つけていた。
「…………」
アリスの目の前には石の柱にガラス製のボタン。
そう、ボタンである。服のボタンではなく、スイッチの方のボタンである。
アリスは今、このボタンを押すか押さないかで迷っていた。
「アリス?なにかみつけたのかー?」
そこにサコ乱入。
「……これ」
ボタンに指差すアリス。
どうすればいいと思う?と言いたげな表情をサコに向ける。
「おおーー!ボタンだーー!えいっ♪」
「……ッ!!」
サコ、アリスの気持ちに気付かずボタンをポチッと。
「うおっ!なんだなんだ!」
すると、閉まっていてびくともしなかった扉が開いた。
突然、扉が開いたので二人は驚く。
「おーーー!とびらがひらいた!」
「今のサコがやったのか?なるほど、ボタンを押すと開くのか。お手柄だな!」
「…………」
サコが賞賛され不満のアリス。ギリッと歯を食い縛り、ジトーッとユウを睨む。
「ちがうぞ!おてがらなのはアリスだ!アリスがボタンをみつけたんだ!サコはボタンを押しただけだぞ♪」
「そうなのか?」
「…………ッ!?」
手柄が自分に移ったのはいいが、突然注目が集まり、戸惑うアリス。
オロオロしていると、ユウが近づいて来た。
「お前のお陰で先に進めるよ。ありがとな、アリス」
「…………ッ!!」
突如、ユウの手がアリスの頭に伸ばされ、撫でられる。
右へ左へと手を動かすことによって生み出される、くすぐったさと心地好さの暖かパワーに包まれる。
「よしよし♪」
「…………ッ///」
恥ずかしくはあるが、嫌ではない。と思うアリス。
別に
「おい!ロリコンオヤジ!さっさと先導しろよ!」
「おお、すまん!今行く!……って誰がロリコンだ!」
「ぁぁ…………」
離れていく手に心残りを感じ、少し声が出てしまうが、それ以上は何もしなかった。
何かする前にユウが行ってしまったのだ。
しかたないので後ろを歩き始めた。
「おいアリス。大丈夫だったか?オヤジに変なことされてねーか?」
先程ユウに先に進むように催促したランが隣に来た。
ランはアリスが心配で気を利かせたつもりだが、アリスとしては、先程の状況をもう少し堪能したかった訳で、まさにありがた迷惑だった。
「…………」
「あ、アリス?なんでアタシを睨むんだ?」
アリスは答えないままた、満足するまでランをジトーッと睨み続けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
暫く歩いているとランが何かに気が付いた。
「ん?……あれは……女の子?」
「なに?……本当だ」
ランの言う通り、今いる場所から少し離れたスペースに女の子らしい人影があった。
「ユコだっ!!おーーーい、ユコーーー!!」
その中の一人に向かって大声で叫ぶサコ。
あの中にサコ念願のユコとやらがいるみたいだな。誰だろうさっぱりわからん。
人影はサコの声に反応を示し、こちらを向いた。すると彼女らは俺達の姿を確認するや否や、走り去ってしまった。
「ゆ、ユコ?なんでにげるんだ!?」
「人違い、なわけがないよな」
「ってゆーかさ。逃げたのって三人じゃなかった?今、四人居たけど、どーゆこと?」
「ん?四人も居たか?アタシは三人だった気がするけど」
「そう言われると……四人か三人かわかんなくなっきた」
「うわーーーん!ユコーーー!」
「……サコがうるさい……はやく、行くの……」
「そうだぜオヤジ。男なら知ったこっちやないけど、こんな所に女の子を放って置くなんて絶対ヤバいよ」
「わかってる。はやく見つけるぞ」
一人多いと言う、不思議なことが起きたが気にすることなく、逃げた子達を追いかけることにした。
「しかし、一つ問題がある」
「なんだよ?」
「あの子たち、どこに行っちゃったんでしょう?」
木々や薄い霧などで、そんなに先は見渡せない。
こうやって話している最中に全力ダッシュしている人を目で追い続けるとか無理なわけで。
「お、おい!どーすんだよ!なんとかしろよオヤジ!」
「無茶言うな。俺は超能力者じゃないんだぞ?」
「超能力なら……アリスが変な能力なかったっけ?」
「アリスは変じゃないの……!……視えるだけなの……!」
「んじゃ、ユコがどこにいるのかわかるんだな!はやくみてくれよーー!」
「わかった……の……」
そう言うとアリスは虚空に目をさ迷せて何かを呟く。
「ひ……一人は……植物の……たくさんあるところ……」
「植物?そんなの、そこら中にあるじゃん。あーあ、使えないなぁ」
「キサラギ!そんな言い方ないだろ」
「あ……アリスには視えるもん!アリスは特別なんだから…!!」
「アリスも、その辺にしとけ」
「確かにオヤジの言う通りだな。探さなきゃ見つかんないんだから、とりあえず歩こうぜ」
と言うわけで、逃げた子達の捜索が始まった。
───────────────────
オマケ
システムをこんな感じに解釈してみた。
「ねぇねぇ、ユウ」
「どうした?キサラギ」
「私達がキャンプで食べてるご飯とか回服薬ってどーやって手にいれてるのよ?」
「キャンプのショップからだけど?」
「それってさ、お金ってどうしてるの?」
「ああ、お前らがクリミナルを倒すとこの端末にここの通貨と言うか電子マネーみたいなのが貯まるんだよ。それで食材やら薬やら買ってるぞ。最低限の物しか売ってないけどな」
「へ~……。変なことには使ってないわよね?」
「……ああ。ところで髪型変えた?」
「露骨に誤魔化したわね!吐きなさいよ!何に使ってるの!?」
「黙秘権!黙秘権!!」
(言えない!お仕置きルームに置いてあるコスプレ衣装代にあててるなんて言えない!)
オシマイ♪
どうもDAMUDOです。
最後みたいな感じで、たまにオマケ挟みます。
本編とはあんまり、関係ないかな?
御愛読ありがとうございました!
次回もお願いいたします!